東鳩王マルマイマー・第11話「希望の消えた日(Bパート(その4)) 投稿者: ARM(1475)
【承前】

「ち、近づけない!これではディバイジングクリーナーで核となった妹を助け出すコトが出来ませ〜〜ん!」
『諦めるな、みんなっ!』
「あっ!ご主人様ぁ!」

 ようやく現場に、浩之を拾ってきた機動整備巡航艇TH壱式が到着した。管制室には、浩之と一緒に長瀬主査が並んでいた。

「藤田君。EI−08の動きを封じんことには、どうにもならんぞ」
「しかし、マルチを主力にして闘わせたりすれば、その分ダメージが蓄積される!」
「それは私にも判っている。――しのぶ」
『――はい?』
「『風閂』で一時的にヤツの動きを封じられないか?」
『判りました』

 応答すると、主力として闘っていたしのぶは両腕の手甲から、百五十分の一ミクロンの細さまで延ばした特殊チタン綱が、EI−08と認定呼称されたばかりのOZB目がけて吐き出された。
 EI−08は全身を風閂で捉えられ、抵抗して暴れるが、そのほとんどの動きを封じられた。だがその代償として、しのぶもEI−08の動きを押さえつけているのが精一杯になってしまった。

『今や、マルマイマー!ディバイジングクリーナーで核の摘出を!超龍姫は摘出後、マルマイマーと核を直影に入れて、イレイザーヘッドで爆発を消去や!』
「「「了解!」」」

 TH弐式から届いた智子の指揮を受け、マルマイマーたちが行動に移った。


 それの動きを見て、ワイズマンは不敵そうにほくそ笑んだ。

「……甘いな」

 ワイズマンの呟きに呼応するかのように、それは起きた。動きを封じられているEI−08の足許から凄まじい電撃波が周囲に走り、風閂で押さえ込んでいたハズのしのぶをも吹き飛ばしてしまったのである。


「なにっ?!」

 唖然となる浩之の隣で、長瀬主査がコンソールパネルを叩きながら分析を開始した。

「……ばかな……いや、まて」
「何かあったのか主査?」

 戸惑う浩之に、長瀬主査は唸って見せた。

「……霧風丸との戦闘が鋼鉄触手攻撃のみだったので、パワー戦のマシンかと思っていたが……ここが新都心であったコトを忘れていた。フォロン、ここ数時間の新都心におけるエネルギーの流れをトレースし、通常誤差を含め、異常値が観測された流れを報告しろ」
『了解』

 長瀬の指示に、フォロンが計測状態にはいる。超並列処理演算機能を備えた、MMMの主力コンピューターは、僅か3秒でその結果をモニターに表示させた。

「やられたな。やはり新都心への電力供給ライン上に居座っていたか。大量の電力が送られているのを偽装に利用して、チャージしていたようだな」
「でもな、別に電力発電所を取り込まれたわけじゃないんだろ?ほら」

 と浩之が指したのは、現時点でのエネルギーの流れ方を示すマップだった。ARFによって外部からの電力供給を断たれたEI−08は、だいぶ出力が落ちたらしく、現時点の出力が10分前の計測値と比較して赤字でマイナス表示されていた。
 しかし長瀬主査は、その数値を当惑した面持ちで見つめていた。

「……一度で良いのだ」
「一度?」

 訊く浩之に、長瀬主査はARF内にいるマルチたちへアゴをしゃくってみせた。
 マルマイマーたちは、先ほどの電撃攻撃に吹き飛ばされて地面の上に伸びていたのだ。

『あっ!おい、みんな、早く起きろ!』
「く……そっ!ショートした回線の閉塞が……うわっ!」

 超龍姫が力を振り絞って立ち上がろうとしていたそこへ、EI−08の鋼鉄触手が振り下ろされようとしていた。

「うわっ――!」

 バキィン!間一髪のところで、鋼鉄触手は水平方向から空間を抉りながら飛来してきた弾丸によって粉々に粉砕された。

「――マルマイマー!?」

 慌てて超龍姫がマルマイマーをほうを見ると、右腕を突き出したまま、苦悶の相を浮かべているその姿に驚愕した。

「ダメよ!ブロゥクンマグナムだって、反動が大きいのに……くそっ!!」

 勢いよく起き上がった超龍姫は、続いて来た鋼鉄触手の第2波をモノともせず拳で打ち砕き、倒れ込もうとしていたマルマイマーの元へ跳躍した。
 ブロゥクンマグナムを発射したマルマイマーの全身から放電が迸っていた。想像以上に反動が大きかったらしい。ブーメラン作用で戻ってきたブロゥクンマグナムを回収できず、地面に落としてしまった程である。あわてて超龍姫がそれを拾い上げ、マルマイマーの右腕に装着させた。

「くそぅ……なんでマルチ姉さんがこんな苦しい目に遭ってまで闘わなければならないのよ……!」

 悔しそうにいう超龍姫の右肩を、マルマイマーは、にこり、と笑って掴み、頭を振ってみせた。

「マルチ姉さん……」
「……超龍姫。……大好きな人が……護りたい人たちがいっぱいいる、ってコトはとても素敵なことなのよ…………」
「――でもね、姉さん!姉さんが傷つけば哀しむ人たちもいっぱいいるのよ!」
「…………これは私たちにしかできない仕事だから……とても誇らしい仕事だから――」

 言い合っている二人の元へ、EI−08が放った鋼鉄触手が襲いかかる。
 それを一瞬にして切り裂いたのは、しのぶの破甲手裏剣だった。

「……だから、あたしたちがマルチ姉さまの盾となる」

 EI−08を見据えたまま二人に一瞥もくれず、しのぶは厳しい口調で言う。

「……超龍姫。あたし達がどう頑張っても、マルチ姉さまの痛みを共有するコトは出来ない。でも、その痛みを減らしてあげるコトは出来ないコトではない。――あたしたちにはそれが出来ることを、決して忘れないで」

 厳しくも、しかし何と優しい叱咤であろうか。
 超龍姫は姉妹の叱咤に応えるように立ち上がり、マルマイマーの盾となるように前へ進んだ。

「しのぶ。今日はヤケにおしゃべりじゃない?」
「……だらしないのはマルチ姉さんだけで充分です」

 しのぶの皮肉に、マルマイマーもつられて破顔した。
 こんなに強く、そして優しい妹たちが居るコトが、とても嬉しかった。
 そして、その笑顔の下で、マルチは決意した。

 二人も、わたしにとっては掛け替えのない、大切な姉妹。
 そして、オゾムパルスブースターに変えられてしまったメイドロボットも、大切な姉妹のひとりだから。――――闘える。

「「マルマイマー!!?」」

 しのぶと超龍姫が驚いて背後を振り返った。
 なんと、マルマイマーがヘルアンドヘブンの起動体勢を取っていたからである。


『――初音さん!ヘルアンドヘブンを止めさせてくれっ!!』
「判ってます!」

 メインオーダールームにあるTHコネクターから、電脳連結によって戦闘管制を行っていた初音は、浩之の悲鳴のような声に怒鳴り返してしまった。

「――でも、マルチが次々と回線をカットしていて……ええぃ、マルチ、お願いだから止めて!」
『……ダメです』
「マルチ?!」
『……それに、必ずわたしの身体が破壊されるとは限らないでしよう?――足りないところは勇気で補います!』
「無茶言わないでよ、マルチ!」

 蒼白する綾香が、自分の口癖を真似るマルチに怒鳴ってみせた。困却するその顔は、マルチを追いつめてしまったのが、戦闘の責任者であるMMM長官の自分にあるようなの、そんな辛そうな面持ちをしていた。

『大丈夫です。……それに』

 THライドの出力が臨界点に達しつつある証拠に全身がエメラルド色に煌めきだしたマルチが、ARF上空に浮かぶTH壱式のほうを見上げた。

「浩之さんや主査が……わたしを護ってくれます」
「マルチ姉さんっ!?」
「マルチ姉さまっ?!」

 超龍姫としのぶは慌ててマルマイマーを止めようとした。

「――どいて下さい!!」

 マルマイマーの一喝と共に、二人はマルマイマーから放出された緑色の超電磁竜巻に弾き飛ばされてしまう。マルマイマーから放たれた荷電粒子の竜巻は、暴れ回っていたEI−08の全身を一瞬にして補足し押さえ込んでしまった。


「くっ!こうなったら、必要以上に暴走しないよう、こちらからもシンクロして制御するしかない!――」

 覚悟を決めた初音は、無意識に胸元に右手を寄せ、何かを掴もうとする仕草を取った。

 おじさんが遺した、大切なお守り。

 耕一お兄ちゃんに託した、お守り。

「……ちぃ」

 あるべきところに無いそれを頼ろうとした自分の愚かさに舌打ちしたのか。
 あるいは、誰も護ってくれなかった、役立たずなモノを身体が想い出した苛立ちへか。

「……わたしの中の鬼の力よ……マルチを……千鶴お姉ちゃんを……タスケテアゲテ!」

 複雑そうな顔から次第に鬼の顔へと変貌する初音の身体が、マルマイマーと同じようにエメラルド色に輝き始めた。


「『ゲル・ギル・ガン・ゴー・グフォ……!』――EI−08!差し違えてでも、あなたを――みんなを救うっ!」

 緑色の渦の中で、マルマイマーは両手を突き出し、ゆっくりと重ね合わせる。すると、背部のステルスマルーにある12基の放熱口から放出された、THライドの全力稼働による余剰熱が緑色の翼となり、そのあまりにも膨大なエネルギーに衝き押されてマルマイマーのボディが足場を削り滑りながら前進し始めた。ブースター出力に匹敵する放熱エネルギーはマルマイマーのボディに加速を与え、ついに高速度のままEI−08の許へ跳躍させた。

「うおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」


「ま――マルチっ!!」

 管制室のガラスに張り付いたまま慄然となっている浩之の背後では、長瀬が他のスタッフ達と共にマルチのボディの換装準備に入っていた。


 核と思しきEI−08の装甲の上に、重ねられたマルマイマーの両拳が叩き付けられる。凄まじい衝撃波がEI−08の表面を波紋のごとく走り抜け、ミサイルの直撃にすら耐えうるその装甲をすべて一瞬にして剥ぎ取った。
 マルマイマーは全身から放出する放電の激痛に耐えながら、内部の機械を自らの両拳から放出される衝撃波によって吹き飛ばしつつ、ついにその中心に眠っていた、核となっていたメイドロボットを見つけだす。

「いっけぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっっっっっ!!!」

 マルマイマーはその勢いのまま、暴走して血の色のように朱く輝いているTHライドが埋め込まれている左胸に、両拳を叩き付けた。強固な装甲を粉砕する衝撃波を放つ拳は、しかしそのメイドロボットの胸に突き刺さるだけで、そのボディを破壊するコトはなかった。

 ――マルチ、ね。

「……えっ?」

 マルマイマーはヘルアンドヘブンを仕掛ける中、突如自分の頭にアクセスしてきた女性の声に驚いた。

「だれ――い、いえっ?!この声は、まさか――――」

 動揺しつつ、しかしマルマイマーは浄解に成功し赤みが消えたメイドロボットのボディを内部から一気に引き抜いた。そしてスラスターを全開にして、核を無くして後は自爆するしかないEI−08のボディの元から飛び退いた。

「超龍姫、今です!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!イレイザーヘッド――――えっ?」

 荷電粒子の竜巻が霧散し、一気に爆発するかと思われたEI−08のボディが、あろうことか爆発せず、ぽっ、と軽く煙を吹き上げただけで、なんと沈黙してしまったのである。

「……不発?」
「トレースでもEI−08内部にエネルギーの暴走反応無し」


「レミィ?わかる?」
「うーん。もしかして、さっきマルチたちを痺れさせたトキに、エネルギーの大半を消費しちゃった所為かもネ」


「……無いことでもないな」

 予想外のコトに、長瀬主査はマルチのボディ換装準備を取っていたその手を止めて呆気にとられていた。その正面で、浩之は腰砕けになってへたりこみ、半べそをかいて大きく安堵の息を洩らしていた。

「……バカやろう……心配かけやがって……バカヤロ……あ?」

 笑いかけていた浩之の顔が、突然凍り付いた。

           Bパート(その5・ED)へ つづく