東鳩王マルマイマー・第11話「希望の消えた日(Bパート(その5・ED)) 投稿者: ARM(1475)
【承前】

「――マルチ姉さまっ?!」

 しのぶの悲鳴がARF内に轟いた。EI−08の核となっていたメイドロボットを抱きかかえて着地したマルマイマーが、その途端、各パーツが次々と爆発を起こしたのだ。


「「「「「「「――マルチぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!???」」」」」」」

 それを目撃していた一同が声を揃えて絶叫する。

「――くぅっ!」

 初音はTHコネクター内で、マルチから電脳連結によってリバースされた爆発の衝撃によるダメージをまともに受け、全身を襲う激痛に耐えていた。常人ならば発狂しかねないダメージを耐えられたのは、エルクゥ化による精神面・肉体面の強化もあったが、咄嗟にマルチがすべての回線を切断したためであった。回線の強制切断もそれなりのダメージを与えることになるが、爆発によるそれに比べれば遙かに小さい。初音は次第に激痛が収まるなか、メインオーダールームの大モニタに映し出されている、煙を上げて倒れているマルマイマーを見て、まだ犬歯が鋭さを帯びているその口で辛そうに歯噛みした。

「……千鶴お姉ちゃん…………死なないで!!」


 唯一、マルマイマーの崩れ落ちる姿を見届けて笑っていたのは、ARFの外壁で高みの見物をしゃれ込んでいたワイズマンだけだった。

「――すべては揃った。後は貴様が王手を仕掛けるのだ、いけっ!」

 ワイズマンがそういうと、EI−01ウォーリアーは無言で頷いて、ARFの中へ飛び込んでいった。


「――エルクゥ反応を感知!」

 爆発しながら崩れ落ちるマルマイマーの元へ血相を変えて近づこうとしたしのぶと超龍姫がその異変に気づいて外壁のほうへ振り返ると、自分たちの元へ物凄い勢いで突進してくる汚れたフードに気づいた。

「「――EI−01だと――うわぁっ?!」」

 二人が驚くまもなく、EI−01ウォーリアーが広げた両腕が二人の身体を軽々と遠くまで吹き飛ばした。
 だが、奇妙なことに、EI−01は倒れているマルマイマーや核となったメイドロボットには目もくれず、爆発しなかったEI−08の残骸目指して突進していった。マルマイマーから引き離されて慌てた超龍姫としのぶは、しかしその奇妙な行動に暫し呆気にとられて立ち尽くしていた。
 やがてEI−01ウォーリアーはEI−08の上に飛び乗ると、その刀のような爪をEI−08の残骸に突き立てた。

「……何をして……なんだと?」

 EI−01ウォーリアーがえぐり出したそれに真っ先に気づいたのはしのぶだった。

「……どうして……もう一基……THライドが内部に?!」

 EI−08の残骸から、微かに光り輝いているTHライドを見つけだしたEI−01ウォーリアーは、にやり、と不気味な笑みを浮かべた。


「いくぞ」

 そう言うや、ワイズマンは右腕をEI−08の残骸に向けて突き出し、バチン、と軽く指を鳴らした。

 それに呼応して、もう一基のTHライドを抱えたEI−01ウォーリアーの頭が吹き飛んだ。そして追うように噴出したおびただしい血の雨が、EI−01ウォーリアーが抱えていたTHライドに降り注いだ。その因果関係すら知らない浩之たちは、何が起こっているのかまったく判らないまま現場を見つめていた。


「――いかんっ!ヤツらの狙いは!!」

 最初に気づいたのは、浩之の背後で棒立ちになっていた長瀬主査であった。

「あのTHライドを再起動させる気だっ!!」


 長瀬主査の絶叫に呼応するように、おびただしい量の血を被ったTHライドが、まるでその戦慄すべき色が染み込んだように真っ赤に光り始めて再暴走を開始したのである。

「なにが……なにがおこったのよっ!?」

 唖然とする超龍姫たちの目の前で、破壊されたハズのEI−08が再生を開始した。しかもその速度は凄まじく、そしてヘルアンドヘブンを受ける前以上に大きくなったのである。

「「そんな……ばかなっ――うわっ!!」」

 再生を完了したEI−08が、再び鋼鉄触手攻撃を開始する。今度の触手は、凄まじい電圧を帯びたヒートロッド(高熱鞭)と化し、増大した攻撃力をもって呆気にとられていた超龍姫としのぶをARFの外周まで吹き飛ばしてしまったのである。


「……その2体には、アズエルとエディフェルのTHライドが使用されているから、リズエルとリネットと一緒に次元の底へ落とすわけにはいかないのでな。――あとは、”穴”を開けるだけだ」


 ワイズマンの呟きに指揮されるように、EI−08は、マルマイマーの近くに無造作に転がっていたディバイジングクリーナーを、触手で掴み取った。


「……まさか」

 その様子を見ていた長瀬主査の顔が、みるみるうちに蒼白していく。

「――拙い!ARF内にDCをつかって湾曲空間の水平面にもうひとつのARFを創り出す気だっ!」
「何っ――――?!」

 長瀬主査の絶叫に、浩之は慄然となった。
 我々が存在する、相対性理論に基づくアインシュタイン空間に、重力の歪みを持ち入らず、反発空間と固縛空間の力の均衡によって空間を擬縮移動させ、膨大な戦闘空間を創り出すディバイジングクリーナー。しかしそれが創り出す位相空間は、微妙な力の均衡によってのみ存在するコトを忘れてはならない。
 その均衡は、瞬間的でも強烈な重力の歪みにも影響されやすいほど脆弱なものであった。さながら、膨張した風船に、髪の毛の先ほどしかない刺すがごとく、それを、湾曲空間の水平面に与えたとき、恐るべき事態を招く事実を、長瀬主査や物理学で博士号を取った浩之は知っていた。

「「――ARF内に、並列空間へ落ちる穴が空いてしまう!!」」

 その事実を二人が叫んだのと同時に、EI−08はARFの水平面に、自らが出力したエネルギーを使って再起動した、まだディバイジングエネルギーが2割も残っているDCの刷毛先を叩き付けた。


「……あら。また、ヒロたち、イレイザーヘッドを使ったのかしら…………いえ…………これは……違う……」

 新都庁舎の手前に愛車を止めて様子を見届けていた、内閣調査室の若きエース、長岡志保は、ARF出現ポイントから立ち上った巨大な光の柱に、得も知れぬ不安感激を覚えた。

「……嫌な予感がする…………ヒロ」


 すべては一瞬だった。
 EI−08が創り出した次元の穴は、イレイザーヘッドがもたらす核殺しの光以上に巨大な光の柱を吐き出し、垂直面に存在していた物をその穴の中へ一瞬にして呑み込んでしまったのである。
 DCを使ってもうひとつのARFを創り出したEI−08。
 浩之たちが載っていたTH壱式。
 ボロボロになって倒れていたマルマイマーと、黙示の愛機ミク。
 すべて、次元の穴の中へ落ちていってしまった。

「「……あ……あ……」」

 あれほど鷹揚に空いていたARFは、その水平面にもうひとつARFが形成された途端、巨大な光を吐き出して瞬く間に閉じていった。その一瞬の出来事を目撃していた超龍姫としのぶは、焦燥しきった顔で地に膝をついた。

「……ンな……あほ……なぁ……誰か……ウソやゆうてくれ……!」

 ARFの外周にいたTH弐式の管制室では、智子が顔をくしゃくしゃにして泣き崩れていた。

「ヒロユキ……マルチ……No……Nohoooooo………………!」

 メインオーダールームでは、レミィがコンソールに突っ伏して大声で泣いていた。

「お姉ちゃん……藤田クン……主査ぁ……観月さぁん……いやだよ……みんな…………みんなぁ………………!」

 THコネクター内にいた初音は、まるで怯える子供のように身体を丸めて震え、涙を流し続けていた。

 長官席にいた綾香だけが、ぽかんと立ち尽くしていた。
 やがて綾香は、ゆっくりと唇を噛みしめると、両拳を強く握りしめ、それを正面の机の上に勢いよく叩き付けてようやく嗚咽した。

「ち…………っく……しょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅぅ!!」

             #11 了

               To be continued

【次回予告】

 君たちに最新情報を公開しよう!

 ワイズマンが仕掛けた超次元の罠に秘められた恐るべき計画とはいったい何か?
並列空間に落ちた浩之たちの前に襲い来る、パワーアップしたEI−08を圧倒する、あのオレンジ色の勇者はいったい誰だ?
 そして次元の底で、己が運命を待ちわびていた、大いなる二つの力。光と闇、希望と絶望が眠る無明の世界から、浩之たちは無事帰還できるか?
 今こそ発進の時だ、人類最強の機動戦艦、キングヨーク!お前の力で、浩之たちを救い出せっ!

 東鳩王マルマイマー!ネクスト!
  第12話「鬼神の方舟」!

 次回も、『ファイナル・フュージョン』承認!

 勝利の鍵は、これだ!

 「シーツをまとったメイドロボット、ミクと、コネクタースーツに身を包んだ浩之」


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