What’sマルチュウ?第11話(祝・ポケモン復活記念(注:特に意味なし)) 投稿者: ARM

 ==あばけ!エスパーポケモンのしょうたい!の巻==

【承前】

「滅っっっっっっっっ殺ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっっっっっ!!!!!」」

 やばいぞ、やばいぞ!次はやはりあいつなのか?

「ご主人様ぁ、ちなみに琴音さんの滅殺ネタはデモ版ぢゃなくっておまけ版のほうですううう!」
「しー!う、うるさい、そんなの黙っていれば誰も気づかないって(汗)」

 それはそれとして。(笑)
 強敵、綾香&セリチュウをデタラメな防御力(笑)で下した、浩之&マルチュウ。その結果、綾香と葵、さらには芹香にまで求愛された浩之だったが、そんなウハウハ状態を忘れさせてしまう緊迫した事態が待ち構えていた。

「……ヒメカワジムの特徴は、主力がエスパー系のポケモンで、浩之が心配するようなパワー系は不在って話のハズよ」

 向かい合ったまま持て余して唸っている浩之とマルチュウに、綾香は、心配ないって、と言ってみせた。ワールドリーグ第一戦で浩之に負けた綾香は、すっかり浩之たちの参謀気取りである。

「でもなぁ、エスパー系とゆうのが余計に気になる。なにせ、ベガを袋叩きにするわ、Xメンと平気でわたりあっちゃうくらいの野郎だからなぁ。アレをエスパーと言わずして何と言おう(汗)」
「いづれにせよ、エスパー系となると、通常攻撃はほとんどキャンセルされてしまうわ。おそらくピカチュウでは太刀打ち出来ないわよ」
「うーむ……」

 浩之は唇を噛みしめ、困ったふうに小首を傾げて唸った。
 そんな浩之に、綾香は、ふふん、とほくそ笑んでみせた。

「でも心配することはないわよ。うちのセリチュウは、対エスパーポケモン用武器も備えているの。この娘、使いなさい」
「え?でも、セリチュウは……」

 そういって浩之は綾香の後ろのほうを見る。そこでは、ポケモンの葵が、びしょぬれになっているセリチュウの身体をタオルでごしごしと拭いていた。セリチュウをびしょびしょにしたのはマルチュウのアレだが、一応、「ただの水ですから……ただの。(C)ごとPさん(笑)」なので、別に汚くはない。

「それに、あたしのポケモンもどんどん使っちゃっていいのよ。だって浩之はあたしのダ・ン・ナ・サマなんだもんねぇ」

 そういって綾香は、浩之の右腕に抱きついてじゃれつく。それを見た芹香と葵はムッとなり、

「抜け駆けはずるいです!」(無論、芹香は無言で)

 と怒って浩之に抱きつく。くそう、世の中何か間違っているぞ、何かが(笑)


 さて、翌日。いよいよ第2回戦スタートである。第1回戦の勝者は半数の32名になっていた。浩之と琴音の試合はBブロックの第2試合目である。
 Bブロック第1試合目。あっという間に終わってしまった。誰が闘ったのかはどうでも良いだろう。観客たちの関心も、第1試合が始まる前からすでに次の試合、つまり浩之と琴音の対戦の行方にあった。

「いよいよ注目のカードのひとつ、クルスガワジムVSヒメカワジムの対戦が始まります!クルスガワジムは毎年優勝候補として挙がりますが、今年はひと味違います!今年の代表選手である藤田浩之ポケモントレーナーが繰り出します新種のピカチュウ、マルチュウの常勝無敗振りはいまや他のジムからも注目されるほどに。あの昨年のクルスガワジムの代表でもあった、来栖川綾香ポケモントレーナーが繰り出した格闘ポケモンのアオイ、類を見ない圧倒的な戦闘力を誇る電気ポケモンのセリチュウを苦もなく下すその実力は、今年の優勝候補筆頭と言えましょう!
 しかしです!対するヒメカワジムの代表、姫川琴音ポケモントレーナーのエスパーポケモン軍団も決して劣ってはおりません!いや、むしろこの強敵を凌ぐ実力さえ秘めていると言っても過言ではないでしょう!手元にあります資料によりますと、ウエストリーフシティでの予選大会では、こちらもまた無敗で勝ち抜いております!エスパーポケモンは体力的に難があると言われていますが、しかし戦闘力にはまったく関係がないようです!それを証明するかのように、いづれの試合も秒殺!秒殺の連続です!昨日の第1回戦でも、なんと対戦相手を14秒で下しております!」

「……その14秒間、対戦相手は3匹のポケモンを使ったんだって。同時じゃなく、連続で。持ち駒を倒された度に繰り出して、3匹目が潰されたところで諦めたそうよ」
「……マヂで秒殺だな、おい(汗)。やはりヤツなのだろうか?」

 浩之は問題のヤツを想像して、額に浮かんだ冷や汗を手の甲で拭った。

「ちょんまげを結っていたそうですから……間違いないと思います。浩之さん、セリチュウさんだけで大丈夫でしょうか?」

 葵が隣にいるセリチュウを横目で見ながら心配そうに訊くと、浩之は困ったふうな顔をして見せた。

「……いまのところ、なぁ。ヤツに対抗できるのはセリチュウしかいないみたいだし……え、何、先輩?いざとなったら、わたしのポケモンを使って下さい、って?」

 芹香が、こくん、と頷く。ところが、それを隣で聞いていた綾香の顔が、みるみるうちに青ざめていった。

「――ま、まってよ、姉さん!?エスパー相手……ってコトは!あ、アレ、使う気なの?」
「?何、アレって?」

 珍しい綾香の狼狽に戸惑いつつ、浩之は訊いた。しかし綾香は青ざめた顔をしたまま黙り込んでしまった。綾香をして、こんなに畏怖させる芹香のポケモンとはいったい何者か。浩之は不安で一杯になった。
 そんなときだった。コロシアムの反対側にぽつんと立っていたハズの琴音が、浩之たちのもとへやって来た。

「……?な、なんの用?」

 そうは訊いてみたものの、実に間抜けな質問であったと浩之は後悔する。勝負前に対戦相手の元へやってくるのは、大抵これしかない。

「……忠告します。わたしに関わると、あなた、不幸になります」

 って、をぃをぃ凄い挑発。流石に浩之も、これには面食らった。

「お――っと、出ました、姫川トレーナーの宣戦布告!巷では、『不幸を呼ぶ疫病神』とまで言われている姫川琴音選手のこの挑発に、大抵の対戦相手は恐れおののく!過去、周りの人々の不幸を予知して煙たがられているこの疫病神はやっかいだぞ!」

 アナウンサーは調子こいて言いたい放題ゆう。琴音はいまのアナウンサーのセリフがシャクに障ったらしく、きっ、とアナウンサーを睨み付けた。そして、急に、はっ、と青ざめる。

「……見えます。アナウンサーさんがひどい目に遭う光景が、わたしにはみえます」
「へ?」

 琴音の言葉に思わずポカンとなるアナウンサーが、へっ?、と洩らしたその時である。突然、セリチュウが、ひっく、としゃっくりし、その衝動で右肩のミサイルポッドカバーが開いてしまった。そして突然、静電気によって内蔵ミサイルが誤動作し、3発ほど発射してしまったのである。

「そんな?!ショートしていた回線がまだ直りきっていなかったの?」

 唖然とする浩之たちをよそに、ミサイルは真っ直ぐ――予想通り、呆然としていたアナウンサーを直撃した。凄まじい爆発音が会場内に響きわたり、爆煙が晴れたあとには、あわれアナウンサーはその場から跡形もなく消失していた。

「あ〜〜あ、やっちまった(汗)どーしよっか?」
「あれじゃ骨も残らないわね。知ぃぃぃらなっいと」
「事故ですよ、事故。セリチュウさんに責任はありませんよ、綾香さん」
 こくこく。×2(セリチュウと芹香が無言で頷いている)
「……わたし、何も見ていませんんんんん!(汗)」

 どいつもこいつも。(笑)

「……さて。試合、始めましょうか」
「……妙にすっきりした顔で言ってゆうね、琴音ちゃん」

 浩之は冷や汗をかきながら苦笑する。

「……馴れ馴れしいですね。あなたとは初めて会ったのに」
「うっ――しまった、ここは別の世界だったんだっけ。……でも、そら、まぁ、疫病神呼ばわりされちゃあ怒るわな。琴音ちゃんの力って、不幸を予知する能力じゃなくって、本当は無自覚の念動力能力者なんだもんな」
「……え?」

 浩之の言葉に、琴音は困惑の相を浮かべた。

「……どうゆう、意味です?」
「あ(汗)。そ、そうか、この世界の琴音ちゃん、自分の力の正体をまだ知らないんだ。丁度イイや、キミの力は決して不幸予知ではなく、ネガティブな考えを浮かべたら、何故か念動力が発動してその予知を実現させてしまうんだよ。キミがもっとポジティブな考えを持つようになれば、性悪な念動力は発動しなくなって、疫病神などと呼ばれなくなるんだよ」
「……え?え?え?」

 琴音は、浩之が何故、自分さえ知らない自分の能力の秘密を知っているのか判らないらしく、口元に両手を寄せて狼狽する。

「――そ、その話、ほ、ホント、本当ですか?」

 と浩之に聞いた途端、無情にも、みぃぃぃぃぃ!と試合開始を告げるブザーが鳴った。

「浩之!余計なこと言っていないの!セリチュウ、行きなさい!」

 せっかちな綾香が、セリチュウをコロシアムに上げてしまった。琴音はまだ狼狽していたが、ほとんど反射的にポケモンボールをコロシアムに向けて投げていた。

「さぁ、ご自慢のエスパーポケモン、どんなヤツか拝ませてもらうわよぉ!」
「……綾香ぁ、俺の試合なんだけど。(苦笑)とかいいつつ、俺も本当にヤツなのか、気になっているのだが」

 琴音が放ったポケモンボールが炸裂する。そして放送禁止御法度のフリッカー処理の演出を施された透過光のシルエットを持つポケモンが中からついに現れた。
 浩之たちは眩みながらも、なんとかその正体を見きわめんと目を細めてコロシアムのほうをみた。
 やがて、透過光にフィルターがかけられ輝度が落ちると、問題のポケモンの姿が見えるようになってきた。

「――やっぱり胴着を着ていやがる。ちぃ、本当に豪鬼なのか?」
「URYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 浩之が舌打ちした途端、問題のポケモンが絶叫した。一同、その雄叫びを耳にして、ごくり、と息を呑んで、挙がるであろう例のセリフを待った。

「――――やったぜおやぢぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!」

 次の瞬間、浩之のフライングドロップキックが、問題のポケモンの顔面をヒットしていた。

「……痛ったぁいっ(泣)ナニすんのぉ?」
「な――なんで貴様、ここにいる、橋本ぉっ!!」

 浩之は、ピンクの胴着を着込んでいる、あの「東鳩界のダン」こと、志保シナリオの名物へっぽこ男、橋本の胸ぐらを掴み上げ、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「おーっと!藤田トレーナー、暴走して自分で対戦ポケモンを攻撃している!これはいけない!踊り子さんには手を触れない、手を触れない」
「あ゛(笑)ご主人さま、アナウンサーさん、生きていましたよ」

 マルチがほっとした様子でアナウンサーの無事を告げるが、浩之はそれ無視して橋本をぶんぶん振り回す。

「藤田トレーナー!ポケモン勝負でオーナーが闘っちゃダメですよ!ゆうこと聞かないとクルスガワジムの不戦敗になっちゃいますよ」
「ちぃ」

 レフリーに警告され、浩之は忌々しそうに舌打ちすると、へろへろになっている橋本の胸ぐらから手を離す。橋本はそのまま仰向けに倒れて、ぜいぜいと息を荒げていた。

「……ところで、いつの間に復活したんだ、あのアナウンサー……ん?」

 浩之はふと、アナウンサーをみて胸をなで下ろしている琴音に気づいた。

「……本当だ。アナウンサーさんが無事だと思ったら、あの人、本当に生き返ったわ」

 そうぽつりもらすと、今度は浩之のほうへ向いた。
 熱く潤んだ眼差し。そして、疫病神とは到底無縁であろうハズの神秘なる美貌。そんな美少女の眼差しに見つめられてしまっては、男なら、ぐっ、と熱い血潮と劣情がたぎらずにはいられない。
 しかし女はそうはいかない。ましてや自分の男に、こんな眼差しを注がれているコトに気づけば、男とは正反対の感情が吹き上がるものである。

「……な、なによ、そのうるうる目――なに、もの欲しそうな目であたしの浩之を見てるのよ、この疫病神!!」

 ぶぢん!決して聞こえぬハズの堪忍袋の緒が切れる音が、何故かその場にいた者たちすべての耳に聞こえていた。

「……疫病神……疫病神………………URYYYYYYYYYYYY!!!!」

 ついに、琴音がキレてしまったらしい。しかし綾香は怯むことなく、にやり、と不敵そうに笑いながら浩之に耳打ちした。

「ねぇ、あんなヤツ、のさばらしておいていいの?」

 そう言って綾香は琴音を指した。
 しかし、冷や汗をかく浩之の目には、綾香が指すベクトルの先にいる者はあの橋本しか映っていなかった。とてもあの切なさ爆発中の琴音を正視できないようである。哀しいな、男って(笑)

「う、……うん、ゆわれてみれば……」

 浩之の心の底から、次第にどす黒い感情が沸き上がってきた。その黒さが頭頂にまで達したとき、浩之の口元が邪に歪んだ。

「――ああ。やっぱり、このままにしておいてはいけないな、人として(にやり)」

 そういうと、浩之はセリチュウを手招きした。

「……セリチュウ先生」
「……なんでしょうか、浩之さん」

 セリチュウが訊くと、にぃ、と笑う浩之は、握った右拳の親指を立て、首を親指の先でかっ切るような仕草で、喉元で水平に勢いよく引いてみせる。隣では綾香が、同じように親指だけを立てた右拳を逆さにし、親指の先で地面のほうを何度もつついてみせた。いづれも俗に言う「GO To Hell(殺っちまえ)」のサインである。

「わかりました」

 そう応えた、無表情なハズのセリチュウに、感情らしきものが伺えたのは実に不思議だが、何もそんな嬉しそうに頷くことはなかろう(笑)

「――Fight!!」

 まるっきり目立たないレフリーが、大戦を促した。前代未聞、ダン=橋本vs鋼鉄武装セリチュウの対戦、始まり始まりぃ。

「よぉし、セリチュウ、ミサイル攻撃だ!」
「待った!」

 と止めたのは綾香。

「さっきも居たけど、曲がりなりにもアレはエスパーポケモン。通常攻撃では太刀打ち出来ないわよ」
「?なら、どうするんだよ」
「言ったでしょ?対エスパーポケモン兵器を使うわよ!!マルチュウ!ちょっとこっち来て背中を向けなさい!」
「え?わたしですか?は、はい!」

 マルチは言われたとおり綾香の前にやってきて、背中を見せた。
 マルチの背中をみて、よし、と言うなり、綾香は懐からカードサイズのキーケースを取り出した。そしてケースの角にあるボタンをプッシュすると、その中から純金製の鍵が飛び出してきた。

「……内閣総理大臣承認……って、まさか?」
「――ゴルディオン・フライバーン、発動承認!」

 綾香は鍵を引き抜き、それをかざして絶叫する。そしておもむろにマルチのうなじを睨むと、そこへめがけて鍵を突き立てたのである。
 がしゃん!なんとマルチのうなじに、いつの間にか鍵穴があるではないか。うなじに突き刺さった起動キーは難なく180度回転した。


 遠く離れた、異世界。そこでは、来栖川グループが結成したMMMが、人類の威信をかけてEI−01率いるエルクゥ鬼界四天王との闘いを繰り広げられていた。

「……はぁ。レミィったら、本当ひとりでこのオペレーターを勤めていたの?あたし、自信なくしそう…………ってうわっ!?」

 メインオーダールームでひとり、新米オペレーターが熊の顔マークが入ったマグカップに注がれていたココアを飲んで休憩していた時、突然、正面にあるコンソールパネルがけたたましく鳴り出したコトに驚く。

「こ……これは…………まさか、ゴルディオンフライバーンの起動要求信号?どうして?綾香も居ないのに……で、でも、この信号は確かに……!」

 新米オペレーターが唖然としている中、コンソールパネルのディスプレイが収納され、カードリーダーが横についた、ゴルディオンフライバーン専用管制ディスプレイが入れ替わるように現れた。

「ううう……。どーしよ、どーしよ……、浩之ちゃあん!――待った。そうか、これはきっと、みんなしてあたしのパニック管理能力を試しているのね!わかったわ。――了解!」

 気を取り直し、あまつさえ不敵な笑みを浮かべる新米オペレーターは、着ているジャケットの内ポケットからゴルディオンフライバーン発動用セィフティゴールドカードを取り出し、カードリーダーに突き刺した。

「ゴルディオンフライバーン、セーフティデバイス、リリース!!」

 キンコン!

 その鐘の音は、遙か上空より聞こえてきた。

「……上って、ここ、屋内だろ――うわっ!?」

 天井を仰ぎ見ていた浩之は、突然天井が炸裂したコトに驚いて尻餅をついた。
 ずしぃぃぃん!浩之が尻餅をついたのと同時に、地面が激しく揺れた。俺じゃねぇ、と慌てて浩之は飛び起きると、ようやく今の衝撃が、天井を突き破ってコロシアムの中央に突き刺さっている巨大な物体の仕業であるコトに気づいた。

「……なんだぁ?あの巨大なピコピコハンマーは?」
「あれがセリチュウの対エスパーポケモン用の切り札、ゴルディオンフライバーンよ!」

 えっへん、と胸を張って自慢げにゆう綾香であったが、しかし浩之はセリチュウの正面で床に柄の先が突き刺さっている巨大ピコピコハンマーをみて唖然としていた。

「……マルチにいつの間にあんな鍵穴をセットしたのか知りたい気分だが……それ以上に……フライパン?……どうみてもあれはガオ○イガーに出てくるゴルディオンハンマーまんまだと思うが……(汗)」
「あら?浩之の世界じゃ、あれで卵焼きや野菜炒めを作らないの?」
「……って、あのトンカチでどうやってそんなモン作るんだよ?」

 浩之が当惑した顔で訊くと、綾香は怪訝そうな顔をした。

「……あら。本ン当ぉにフライパンの使い方、知らないの?」

 真顔で聞き返すものだから、浩之は一層戸惑った。そしてようやく、この世界が浩之が居た世界とは違うコトを実感した。ここの世界では、トンカチで野菜炒めや卵焼きを作るらしい。そのうち眼鏡で尻を拭くとか言い出しそうだ。

「んもう、そんなコトはあとで説明するわ!セリチュウ、一気にキメなさい!」
「ま゛」

 セリチュウはGFの柄を掴んで引き抜き、頭上にかざして右手で軽々と振り回す。

「エスパーポケモン、光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 セリチュウの絶叫とともに、黄金色に輝くGFが橋本の頭頂めがけて振り下ろされた。
 呆気にとられていた橋本は――というより、まるでセリチュウの攻撃に動じていないような雰囲気さえあったが、何も反撃せず、GLから放出された究極の衝撃波の直撃を受けた。
 究極の衝撃波。それは、惑星の重力場中に高重力場を出現させて、重力場変動による重力波を発生させ、かつ、横波の性質を持つ重力波の波面を、縦波のようにほぼ垂直に立ち上せるコトで衝撃波に変質させるのだが、それは慣性力と等価な重力のポテンシャルの傾きを狂わすコトになり、無限に加速する衝撃波になってしまうのである。無限に加速する衝撃波を受けて無事な物質など、この世には存在しない。物質は自らの構成を維持できず、すべてフォトン(光の粒子)レベルにまで分解されてしまうのである。橋本の身体は一瞬にして光となり、大気中に散ってしまった。

「……ご主人様、容赦なしですね、このシリーズ(汗)」
「なにせこの作者、その昔、某雑誌の付録で宇宙刑事に核ミサイル使わせた男だからな(汗)漫画のキャラの死に様に、あーだこーだゆうけど、本質は外道鬼畜、既知外なんだよ、既知外」
「何を呆れているのよ、二人とも。ポケモンは一匹限りじゃ無いんだから、ほら、次が来るわよ」

 勝手に殺っておいてなんてコトを、と浩之はぼやきながら琴音を見た。
 ところが、琴音は新たなポケモンを繰り出そうともせず、ぽつん、と立っていた。

「……おーい、琴音ちゃん。まさか、キミのポケモンって、今のヘッポコ一匹だけなの?」

 浩之が訊くと、琴音は首を横に振った。

「……まだ、終わってませんよ」
「?」

 浩之がきょとんとしていると、琴音はおもむろに右掌をコロシアムのほうへ、ちょうど橋本が立っていたあたりへ差し向けた。

「――おぉっと!これはウエストリーフシティ予選大会決勝と同じ展開だ!」
「同じ?」

 興奮するアナウンサーの声に、浩之は眉をひそめた。

「……あなたたちの実力を試させてもらいました。なるほど、優勝候補が二人も相手では一筋縄ではいかないみたいですね。よかった、彼のままで相手をさせなくて」
「何ですって……?」

 訝る綾香を見て、琴音は、ふっ、と不敵に微笑んだ。

「――原子、再結合」

 突然、琴音の右掌が光り輝く。すると、コロシアムの中央で、激しく発光し始めた粒子が渦を巻き始め、やがて何かの形を構成し始めたのである。
 渦が巻き始めて、5秒も経たずに浩之たちは、その渦が成そうとする形の正体に気づいた。
 それは人間であった。だが、光の粒子に変換された橋本のそれとは、形も大きさも異なっている。二周りも大きいのだ。

「……おい、待てよ。そういえば、さっきの橋本にはちょんまげはなかったな」
「あ……!?」

 葵は思わず両手で、開いた口を塞いで絶句した。確かに、あの橋本にはなかった、問題のちょんまげが、その光の人間の頭部にはちゃんと存在していたのだ。

「……あなたたちの実力を試すため、一時、彼の原子を分解して身体構成を変質させていました。再び本来の姿に戻った彼の実力は、あんなヘッポコとはレベルが違います」
「な……?い、いや、そ、そんなこといって、本当の姿はダンだった、なんてパターンだろ、琴音ちゃん?」

 狼狽する浩之は、引きつった笑顔で訊いてみるが、琴音は表を横に振った。

「……そんなベタネタは不許可です。これからが本当の勝負ですよ」

 白色の光が鮮やかな色を取り戻した。
 褐色の肌から放出される、凄まじい闘気。角があればまさに鬼そのものの姿を持つ、地上最凶最悪の修羅。

「滅っ殺ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!!!」

 勝負は一瞬だった。実体を取り戻した修羅は、セリチュウに応戦体制をとらせる時間さえも与えず、ほぼ瞬間移動に近い速度でセリチュウとの間合いを縮めた。
 そして突然、奴は懐から天狗の面を取り出して被ると、身体を落として身を縮めた。
 身を縮めてから1秒もかからず、奴は吹き上がるように身を起こした。
 こんなコトがあって良いのだろうか。天狗の仮面を被った奴は、残像さえも破壊力を秘めていそうなくらいの猛スピードの拳打と蹴りをセリチュウの全身に叩き込み、吹き飛ばしてしまったのである。その間、わずか3秒コンマ11。瞬殺である。
 唖然となる浩之の横へ、煙を吐きながらセリチュウが墜落してきた。見る影もないくらいズタボロである。戦闘不能状態にあることは明白だった。

「あ……あれは……龍虎乱舞(笑)?!」
「……なんで豪鬼が、SNKのあのサカザキ一家の超必殺技を体得しているのだ?」

 ついに出るべくして出た最凶の敵、豪鬼。しかも他のゲームのキャラの技を体得している破廉恥ぶりに、浩之たちはどう言って良いのか判らず、絶句してしまった。
 しかし、そんな異常事態にまったく動じていない人物が居た。

「――姉さん?」

 相変わらず悠然とした面持ちの芹香が、右手にポケモンボールを握りしめ、ゆっくりとコロシアムのほうへ歩き出していた。

「――ま、まさか、そのポケモンボールに入っている奴は?!」

 みるみるうちに蒼白する綾香を見て、浩之とマルチは戦慄する。剛胆な綾香がここまで恐れ戦く、禁断のポケモンとはいったい何者なのか?
 芹香が右手を振りかぶり、ついに問題のポケモンボールをコロシアムに投入した。果たしてこの闘いの行方や、いかに?

                    つづく