東鳩王マルマイマー:第8話「まごころを、君に」Aパート2/2 投稿者:ARM
【承前】
 怒鳴るテキィに、あかりは微笑む面を振ってみせた。

「……テキィ。どうしてあなたは人間が憎いの?」
「何度言わせる?!ご主人様を酷い目に遭わせるような心をもっているからだと言ったハズ!」
「その怒りは、ご主人様のためなんでしょ?――あなたが大好きな〈人間〉のためにテキィは怒っ
ているんでしょ?」
「――?!」

 まさにその通りであった。テキィは硬直してしまった。
 同時に、成り行きを見守っていたしのぶは瞼を閉じて頷いた。先刻、しのぶが抱いた疑念はまさ
にそれであった。
 皮肉にも、しのぶも同じ行動をとっていた。マルチを護りきれなかった後悔から、EI−03に
対して冷酷になろうとする自分。それゆえに、テキィの慟哭が痛いほど判るのである。
 だがしのぶは、あかりや理緒のように同情する気にはなれなかった。それは自分が人間ではなく、
プログラムされた偽りの心をもっているからだと解釈していた。
 そしてなにより、しのぶは、テキィとは根本的に異なっている点があると考えていた。

 ……おまえは、やさしいな。

 不意に、あの男の今際の台詞がしのぶの脳裏に甦った。
 しのぶを造り上げた技術者は、自らの胸を貫くしのぶの破甲手裏剣を包み込むように静かに掴み、
微笑みながら逝った。多重人格者たる己れをどうしても押さえきれなかった彼は、しのぶを利用し
て自害の道を選んだのだ。
 しのぶの胸に力無く倒れ込んだ彼を、しのぶはゆっくりと抱きしめながら、すすり泣く自分に気
付いた。後にも先にも、哀しい、と感じたのはあの時だけだった。
 あの日以来、しのぶは一度たりとも泣かなかった。いや、泣けないと言ったほうが良いだろう。
それ以前に、心OSの機能には異常は見当たらないというのに、喜怒哀楽といった感情がまったく
機能しなくなっていた。
 心OSを開発した長瀬はこの異常をあえて補正しようとはしなかった。

「心OSは人の心と同じ働きをする。心OSが傷ついた場合、プログラムを補正しても直るとは限
らない」

 人の心と、プログラムされた擬態の心を一緒にする長瀬の見解に、周囲は困惑したものだが、し
のぶは長瀬の真意を掴みあぐねつつ、何となくではあるが、自分の心は壊れてしまったのだな、と
理解し、あえて長瀬たちにプログラムの補正は要求せず、今に至っている。これからも、補正を要
求することもないだろうと思っている。
 二人とも、傷ついた心を持っている。
 しかし、テキィは自分と違い、怒れる感情を持ち合わせている。
 自分は、大切なものを失ったとき、すべてを失い、心は壊れてしまっていた。しのぶはその差が、
テキィを同情できない一番の理由なのだと考えていた。

「――――?!」

 しのぶが呆然としていた間に、現実では予想外な事態が起きていた。
 なんと、あかりが突然、愕然としているテキィの身体を抱きしめたのである。

「な――何を?!」

 あかりの突然の行動に、テキィは当惑した眼差しを宙に向けていた。

「……テキィ」

 あかりはテキィの耳元に囁くように言う。

「……好き、っていう感情はね……こころの働きでもっとも素敵なものなのよ」

 テキィに告げた言葉は、あかりにとって述懐そのものであった。
 幼い頃、かくれんぼで一人置いてきぼりにされたとき、ひとりだけ戻ってきてくれた少年がいた。
 その日以来、あかりはその少年の背中をずうっと追いかけてきた。
 自分に振り向いてくれるときもあった。だが振り向きもしないことのほうが多かったのも事実で、
たとえこの身を差し出しても置いてきぼりにされてしまったこともあった。
 それでも自分は彼の背中を追いかけていたかった。
 やがて彼は、心までも自分に振り向いてくれた。五月の心地よい朝、彼の鼓動が聞こえる胸の中
で微睡んだとき、あかりはこの人がずうっと好きでいた自分がとても嬉しかった。
 人を好きになる、というコトが、その人が好きな自分も好きになれるとあかりが知ったのは、そ
の時であった。

「……テキィ。自分を信じよう。人が何より好きな本当の自分をもっと信じよう」
「わ……わたし……は……」

 テキィの目の焦点が合っていない。テキィの心OSが激しい葛藤に混乱しているのである。
 あかりはテキィを抱きしめながら、マルチのことを想い返していた。
 テキィや超龍姫を助けようと、その身を危険にさらした、あの緑色の髪の少女。

 ……自分でも信じられないくらい……です。――わたしは大好きな人たちが困っている姿を見て
いると放っておけないのを、ご主人様はご存じですよね。
 それでいつもマルチが損しているのもな。
 ……バカ……ですか?
 ……ああ、バカだとも。――俺やあかりが大好きになるくらいにな。

 マルチがマルマイマーとして初めて闘ったとき、EI−02に立ち向かう前に浩之と交わした会
話を、あかりは想い返していた。
 他人に尽くす自分に後悔しないマルチ。浩之はそれを誇らしげに誉めていた。
 あの時、あかりは初めこそマルチが闘うことに対して激しい嫌悪感を抱いたのだが、結局そんな
マルチにうたれて、マルチが闘うことを了承したのではなかったのか?

 わたし、ご主人様やあかりさんが大好きです!

 そういって微笑む酷く懐かしいマルチの顔が、見たことのないテキィの笑顔に変わってあかりの
脳裏に灯った。あかりは震えるテキィの身体をもっと強く抱きしめた。

「……正直言うとあたし……あなたたちメイドロボットを、好きだと思う反面、心のどこかで人間
の道具だと想っていた……。だから、マルチちゃんが進んで闘おうとする姿勢が、人間の身勝手な
プログラムに振り回されているものだとばかり想っていたの……。でも……本当は違うんだよね…
…人間が好きで、人間のために尽くしたいっていう言葉は、決してプログラムされたものじゃなく
……あたしたちと同じ心を持った、いのちあるものの言葉なんだって……。機械と生身の違いなん
て、心あるものには関係ない……!」

 不意に、テキィの頬に、あかりが零した涙が伝った。

「……ごめんね……ごめんね…………あたしなんかが謝ったって、あなたの優しい心を裏切り傷つ
けた愚かな人間に対する怒りが晴れるわけじゃないし、あなたのご主人様や赤ちゃんが甦るわけじ
ゃないけど…………ごめん……ね……!」

 メイドロボットの人工皮膚は、化学反応によって温度を体感出来る機能を備えていたが、微弱な
温度変化の判別は流石に難しい。
 しかしテキィにはあかりから届いた涙がとても暖かく、懐かしく感じた。
 そして、次第に怒りが静まっていく自分を、テキィは不思議に想わなかった。次第に広がる開放
感。とても心地よかった。

「……What’s?EI−03のTHライドの暴走反応が、次第に小さくなってくネ?」
「……どういうコト?」

 メインオーダールームから事の成り行きを見ていた綾香たちは、あかりに抱きしめられているテ
キィがまったく反応しなくなっただけでなく、衛星軌道上にあるTH伍号から観測されていた、テ
キィの暴走THライドが正常値に戻っていく不思議な現象に呆気にとられていた。

「……Oh?!長官、あかりも『ヘル・アンド・ヘヴン』が使えるのですか?」
「そんなわけないでしょ。――いわば」

「……奇跡、というやつか」

 TH参式の管制室で様子を見ていたミスタも、テキィの暴走THライドが沈静化していく事を示
すモニタのグラフを見つめながら、この男にしては珍しくどこか感慨深げに呟いた。

「科学を志すものとしては、マルチが昨夜決めた『ヘル・アンド・ヘヴン』の効果が今頃になって
ようやく効いてきたと言いたいところだが……」

 そこまで言うと浩之は目尻に浮かんだ涙を拭い、

「……偉いぞ、あかり」

 マルマイマーは、現場の上空に到着していた。この神々しい光景を見下ろし、満足そうな笑顔に
涙を浮かべながら、両手を組み合わせて祈るようにして滞空していた。

「……ありがとう、あかりさん」

 奇跡に多くのものが感動する中、ひとりだけ当惑する者がいた。

(……人の心……心OS……いのちあるもの……こころあるもの……あたしには……わからない……)

 しのぶは独り戸惑った。人間のこころと同じ働きをする心OSとて、所詮はデジタルなプログラ
ムのものではないのか?

 ……人間とて、似たようなものだ。人間の感情だって、脳内パルスの所業に過ぎぬ。けっして
『こころ』というものは特別なものではない。――いや、それだからこそ、「特別なもの」なのか
も知れないがな。

 MMMに配属されて間もない頃、直属の上司となった仮面の男、ミスタが、しのぶの感情機能が
正常に働かないことをきいて言った台詞である。別にこの台詞に感銘を受けたわけではない。単に、
仮面で表情を隠すこの男から唯一、感情が視覚的に伺える口元に浮かんだ微笑が、印象深かっただけである。
 しかし本当にそれだけだったのだろうか。テキィを抱きしめるあかりをみているうち、ミスタの
あの台詞が心の中で無性に重く感じる自分に戸惑っていた。

「……でも……何となく……判る気が……してきた――――?!」

 突然、しのぶの表情が強張った。

「――オゾムパルス反応、大!?これは――」

 コンソールパネルの前で涙を拭っていたレミィは、突然、オゾムパルスセンサーが反応しだした
ことに慄然となった。

「まさかEI−03――No!オゾムパルスだけじゃないわ!これは――」

「エルクゥ波動!!『奴』かっ?!」

 ミスタは思わず席を立って叫んだ。驚く浩之は、慌てて管制室の大モニタを目を凝らして見た。
 そして一同は、いつの間にかあかりたちの直ぐそばに現れた、あの恐るべき汚れた外套を見つけたのである。

「――バカな!?」

 咄嗟にしのぶがEI−01に飛びかかるが、EI−01は驚異の跳躍力をもって上空へ飛び上がった。

「翼丸!」

 しのぶに命じられた翼丸は瞬時にミラーコーティングを開始し、EI−01へ真下から垂直に攻
撃を仕掛ける。
 ところが、翼丸はEI−01の身体をすりぬけてしまう。残像であった。EI−01は超絶的な
加速で、なんとテキィの背後に舞い降りていたのである。
 必然的に、あかりはEI−01と顔を合わせることになった。外套の下に隠された薄汚れた男の
顔が、見る見るうちに鬼の形相へ変貌する様を見て、あかりは堪らず悲鳴をあげた。

「――神岸あかり、逃げなさい!」

 テキィは咄嗟にあかりを突き飛ばし、その反動を利用して背後のEI−01に回し蹴りをくれる。
 しかしEI−01はテキィの剛脚をものともせずに片腕で受け止め、それをはじき飛ばした。

(……所詮は、人が造りし、汚れしこころか)
「き、貴様!」
(……お前には、まだ働いてもらわねばならん――――URYYYYYYYY!!)

 EI−01とテキィの間に一瞬、凄まじい電撃が走った。途端にテキィはその場に倒れ込み、け
いれんを起こしたかのように激しく戦慄き始めた。

「「テキィ!?」」

 すぐ近くにEI−01が居るにもかかわらず、あかりと理緒は慌ててテキィの元に駆け寄った。

「「いけない、二人とも!」」

 しのぶはテキィに駆け寄る二人を制止させようとする。驚くマルマイマーも慌てて地上へ降下した。

(無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!!)

 陽炎の如くその身が消えゆくEI−01の嘲笑が轟いた。
 うずくまるテキィの身体が発光し、体内から無数の触手を放出したのである。

「「きゃああああああっっっ!!」」

 テキィに駆け寄ったあかりと理緒は、再び巨大なオゾムパルスブースターへと変貌したテキィか
ら放出された触手に全身を絡め取られ、なんとテキィの身体に取り込まれてしまったのだ。

「あかりさぁぁぁぁぁぁんん!!」

 着地したマルマイマーは、咄嗟にブロウクンマグナムを発射しようとする。しかしそれをしのぶ
が制止させた。

「マルチお姉さま、ブロウクンマグナムでは二人とも傷つけてしまいます!」
「――あ、あなたは……たしか……しのぶさん……」
「それよりもまず、ディバイジングクリーナーでアレスティング・レプリション・フィールドを形
成するほうが先です!」
「あ!わ、わかりました!初音さん!」
『了解したわ!長官!』

「デバイジングクリーナーのメンテナンスは大丈夫なの、主査?」

 綾香が長官席から身を乗り出して、正面の席で現場を映す大モニタをじっと観ている長瀬に訊いた。

「修理は完了済みだよ。昨夜のようなコトはない。二度と、な」
「わかったわ!デバイジングクリーナー、起動承認!」
「I See You!デバイジングクリーナー、Fire!」

 レミィがコンソールパネルのスイッチを叩くと、来栖川邸の噴水から黄金色の閃光が噴出し、青
空を貫くように翔ていった。
 マルマイマーはデバイジングクリーナーの接近を感知すると、スラスターに火を入れて一気に上昇した。
 マルマイマーが上昇したのと同時に、しのぶは狼王を指し、

「狼王!『メルティング・ハウル』!!」

 しのぶがそう命令すると、狼王はEI−03に向いて口を開けて遠吠えし始めた。すると、あか
りと理緒を飲み込んで再び巨大化し始めたEI−03の体表に放電が生じ、巨大化が停止してしま
ったのである。狼王の遠吠えは、指向性を持った特定の周波数帯を発する音波兵器であり、暴走す
るTHライドの機能を鈍化させる特定の高周波を放ったのだ。

「ミスタ!今です、オゾムパルスキャンセラーネットワークを稼働させて下さい!」

 しのぶからの通信を受けたミスタは無言で頷くと、手元のボタンを押した。これで、TH参式か
ら現場の周囲で活動している来栖川電工製のメイドロボットに向けて発信された緊急信号が、メイ
ドロボットに組み込まれているオゾムパルスキャンセラーを発動させ、人体に対するオゾムパルス
の影響を無効化にするのである。

「翼丸!『ホークウィンドゥ』!」

 次にしのぶは、上空で待機していた翼丸に指令を発信した。すると翼丸に内蔵されている透視ス
コープが、EI−03に取り込まれてしまったあかりと理緒をその体温からどこにいるのか探し出した。

「――左舷外周に人体反応を確認。お二方とも無事のようです。救出します!!」

 言うが早いか、しのぶは両手をつきだし、EI−03目がけて飛び出した。しのぶの両腕にある
破甲手裏剣がスライドしてL字型のブーメラン『シルバームーン』へと変形した。しのぶは両方の
シルバームーンを腕から分離させ、さながら鎌を持つが如くその端を掴んで構えた。

「狼王!翼丸!フォーメーション『疾風怒濤』!」

 しのぶの命令を受けた2体の従者も、全身にミラーコーティングを貼り、しのぶの後を追ってE
I−03目がけて猛スピードで突進した。
 ガキィィィン!!三位一体の衝撃がEI−03の身体を同時に貫き、EI−03の装甲が弾け飛んだ。

『――ミスタ。思ったより装甲は薄いです。しかしそれが逆に、取り込まれている神岸さんたちに
対する影響が大きいことを意味します』
「……通常攻撃では、衝撃がそのまま二人に届いてしまうか」

 しのぶの報告を受けて、ミスタはシートに座ったまま腕を組んで唸る。

「あかりたちがはまっている箇所を切除できないか?本体から切断されたEIメカが分離増殖出来
るようには見えないが」

 浩之がそういうとミスタは、ふむ、と頷き、

「藤田君の指示通りにすると、何パーセントの切除になる?」
『現段階では35パーセント。切除するには大きすぎて困難です。20パーセントにまでならない
と危険です』
「20パーセント……。現段階で高さ10メートルはあるから」
『高さ18メートルぐらいの大きさになります』
「ましてや相手は、あの小型酸素発生装置を搭載している奴だ。そこまでは待てぬ」
「ちょっとまて!あの高濃度の酸素をまた発生させられたら、あかりたちが――」
『高濃度酸素は発生しておりません』
「え?」
『翼丸のホークウィンドゥでサーチしても、高濃度酸素反応はおろか、小型酸素発生装置の稼働反
応は認められません』

 TH参式の管制室にある大モニタの角に表示されている「酸素濃度率」の分析ウィンドウも、先
ほどからまったく無反応のままだった。

「……故障しているのか?――いや、まさか」

 浩之は不意に過ぎったある考えに戸惑い、俯き加減に口に手を当てた。

「……EI−03、わざと使用していないのか?――あかりたちを傷つけないために?」

 その時、突然、鐘を突くような激しい轟音が天より降ってきた。思わず浩之とミスタが上空を映
すモニタのほうを観ると、またもや顔面にデバイジングクリーナーの刷毛先が顔面にめり込んでい
るマルマイマーの無様な姿を認めた。

「……何故ぇまたぁ?」
『……わたしたち、そーとー、これと相性が悪いみたい』

「……またかい」

 浩之は思わず頭を抱えて苦笑する。――苦笑した途端、その顔が閃いた。

「――そうだ、それだ、デバイジングクリーナーだ!ミスタさん!」
「?どうした?」

 不思議そうに訊くミスタに、浩之は不敵そうに笑って見せた。

「デバイジングクリーナーの出力はコントロールできるものかい?」
「ああ。ARFの出力は初音君のほうで制御出来る。――ん?!」

 ミスタは浩之が言おうとしていることに気付いたらしく、思わず席から立ち上がった。

「――なるほど!初音君、DCの出力を4パーセントに下げたまえ」
『4パーセント?それでは満足なARFは――』
「小規模ARFの発現点は、EI−03の左舷。開放型位相空間のベクトルをEI−03に向けるのだ」

 ミスタがそう言うと、初音は暫し沈黙し、

『――あっ?!そうか!!マルマイマー、EI−03の左舷――あかりさんたちが閉じこめられて
いる箇所の上にDCを叩き付けるのよ!!制御はわたしがやります!』
「え?あ、わ、わかりましたぁぁぁぁぁぁ――――きゃあぁっ?!」

 悲鳴を上げたマルマイマーの正面に、姿を消していたはずのEI−01が突如出現していた。

(……貴様らの狙い、判っている。……そうはさせぬぞ!)

 飛びかかるEI−01に、マルマイマーは反撃しようとするが、あまりにも突然すぎるその出現
に間合いがまったく取れず、EI−01の先手はどうしても避けられなかった。
 べきぃぃぃぃっっ!!堅い物が激しく砕け散る鈍い音が轟いた。
 砕けたのは、マルマイマーの盾となっていたしのぶの両腕に装備されている破甲手裏剣であった。
EI−01の剛拳を、無防備になっていたマルマイマーに対する攻撃の可能性を警戒して飛び上が
ったしのぶが、交差した両腕でそれを受け止めたのである。粉砕された破甲手裏剣と腕に亀裂が入
っただけで済んだのは、空中での攻撃であったからで、しかし威力をすべて霧散させることは叶わ
ず、しのぶの身体は吹き飛ばされ、あわててマルマイマーが抱き留めなければそのまま地上に落下
していたところであった。

「……この破壊力は、電磁式破砕方術も併用していたようね」
「しのぶさん!なんて無茶を?!」

 ダメージを受けながらも冷静に分析しているしのぶとは対照的に、マルマイマーは慌てて地上に
降りながら、しのぶの破損している両腕をみて狼狽していた。
 マルマイマーがしのぶを抱きかかえて着地すると、しのぶは不思議そうにマルマイマーの顔を見た。

「……無茶?」
「そうです!なにもあなたがわたしの盾になる必要は――」
「いいんです。それが、いまのあたしの存在理由なのですから」
「……存在……理由……?」
「……あたしのいのちは、マルチお姉さまを守るためだけにある。……それだけ」
「――そんなっ?!」

(Aパート終了:鷹型アニマボット「MMM−SNB−G17『翼丸』」の映像とスペックリスト
が表示される。Bパート 1/2へ つづく)