東鳩王マルマイマー:第8話「まごころを、君に」Bパート1/2 投稿者:ARM
【承前】(外套をまとうEI−01の映像が表示される。Bパート開始)

 当惑するマルチはしのぶに何か言おうとするが、上空より追って落下してきたEI−01の攻撃
をさけようとして、二人はその場から別れて飛び離れる。

(……お前たちに……邪魔はさせぬ……!)
「邪魔はお前だ!」

 両腕の武器を塞がれたしのぶは、EI−01目がけて飛び蹴りを仕掛けた。しかしEI−01は
それを回転しながら易々と避け、その反動で鞭のようにしなる外套の端でしのぶの胴体を激しく打
った。しのぶはあっけなく吹き飛ばされる。

「――狼王!翼丸!フォーメーション、『疾風迅雷』っ!」

 吹き飛ばされるしのぶと入れ替わるように、その身体に隠れて一直線上に飛んできた、ミラーコ
ーティング中の狼王と翼丸がEI−01に体当たりを仕掛けた。しのぶばかりに気を取られていた
EI−01は、カウンターでやってきた2体の体当たり攻撃をまともに受け、皮肉にもしのぶと1
80度反対のベクトルへ吹き飛ばされた。
 吹き飛ばされたしのぶはとんぼを切って何事もなかったかのように着地する。そして鏡で映した
ように、EI−01も平然と着地してみせた。

「スピードと機動力では引けを取らぬか」

 ミスタはしのぶとEI−01の闘いを観ながらそう言うが、決して感嘆のものではなかった。

「……しかし致命的な差がある。――EI−01のほうがパワーが上だ」

 両者のダメージ度を見比べてみれば自ずと判ろう。空中というもっとも物理攻撃の威力が半減す
る状況下で、破甲手裏剣ばかりかそれを装着しているしのぶの鉄腕を粉砕しているのである。しの
ぶが分析したとおり、電磁波――おそらくはオゾムパルスを利用したものであろう――で物体を破
砕する電磁式破砕方術の威力もあろうが、反作用のコトも忘れてはいけない。

「このままじゃ、マルチたちはEI−01しか相手にできないじゃないか!」
『『諦めるのはまだ早いっ!!』』

 TH参式の管制室に轟く、男女の声。

「「いい気になるのはそこまでだ、EI−01!!」」

 遠くより轟く爆音に気付いたEI−01が後ろを振り向いたその時、クルーザーモードのアルト
に乗ったレフィがEI−01に体当たりを仕掛けたのである。不意をつかれたEI−01はそのま
まはね飛ばされ、10メートルほど先の地面に叩き付けられた。

「――あっ!アルトくん!レフィ!!」
「二人とも、遅れてごめん!」

 EI−01をはね飛ばした反動を利用してアルトはフィギュアモードへシステムチェンジし、レ
フィの左肩に載せたままマルマイマーの正面に着地した。

「横浜周辺を捜索していた所為で、到着に時間がかかってしまいました」
「マルマイマー、しのぶ、あとはボクたちに任せて!」

「――アルト、レフィのシンパレード値、100パーセント!」
「――良くぞ来た!超龍姫、シンメトリカルドッキング、承認!」

 綾香の承認シグナルをキャッチしたアルトとレフィは空中へジャンプし、シンメトリカルドッキ
ングを開始する。胴体を展開するアルトの中へ吸い込まれるようにレフィがドッキングし、一気に
超龍姫へと変化した。

「速射破壊銃!!」

 アルトの頭部から分離した高熱液式徹甲銃を手にした超龍姫は、はね飛ばされた衝撃にまだよろ
めいているEI−01目がけて3連射した。しかしEI−01は驚異的な反応で攻撃をかわし、超
龍姫めざして突進した。

「なにくそぉっ!」

 バシィッ!!EI−01が繰り出した右の剛拳を、超龍姫は左平手で受け止めた。すかさずEI
−01は左拳を突き出すが、超龍姫はそれさえも今度は右手一本で受け止めて見せた。自慢の剛拳
を易々と受け止められたEI−01は、怒りに咆吼した。

「凄まじい反動を伴う超空間振動ツール『イレイザーヘッド』を使いこなせる、あのパワーの持ち
主をなめたらあかんで」

 TH弐式の管制室から超龍姫の活躍を満足げに観ていた智子は、そういってほくそ笑んだ。

『今よ、マルマイマー!デバイジングクリーナーを仕掛けなさい!』
「で、でも、初音さん、まだ……」

 確かにEI−01は超龍姫が防いでくれているので問題ないのだが、一方のEI−03は周囲の
コンクリートや車を吸収しながら蠢いているのである。この動きを一時的に封じぬ限り、デバイジ
ングクリーナーによるあかりたちの救出は非常に難しかった。

「……あたしに任せて下さい」

 そう応えたのは、しのぶであった。しのぶはまだ稼働する肩を稼働させ、両腕を振り上げると、
手甲の中からEI−03めがけて『風閂』を放出したのである。発射時の衝撃でしのぶの両腕から
ショートによる一時的な火柱が上がるが、見事、風閂はEI−03の身体を絡め取ってその動きを
封じ込めることに成功した。

「し、しのぶさん!!」
「今です、マルマイマー!動きはそう長く封じることは出来ません!」

 そう言って苦悶の相を浮かべるしのぶをみて、マルマイマーは堪らず歯噛みする。

「外周装甲の厚さに変化はありませんが、先ほどより大きくなっています。出力は3.4パーセン
トに押さえて下さい!」
『わかったわ、しのぶ。――マルマイマー、「Gツール」用のプラグインを転送するわよ』
「『Gツール』?初音さん、何ですの?」
『空間湾曲エネルギーを制御する新装備用のシステムプラグインよ。本体に先行して開発された初
期バージョンだけど、デバイジングクリーナーの出力調整にも充分機能するわ』
「わかりました!――Gツール・バージョン1.08Aプラグイン、コネクト!デバイジングクリ
ーナー、アクティビティ・ミニマム!」

 マルマイマーは転送データをダウンロード完了後すぐデバイジングクリーナーを構え、あかりた
ちが閉じこめられていると思しき部位の外周装甲目がけて刷毛先を突き立てた。すると刷毛先を中
心に空間が渦を巻き始め、EI−03の外周装甲が削り取られていった。空間湾曲エネルギーによ
って生じた小規模の開放型位相空間が、外周装甲を排除しているのである。
 デバイジングクリーナーが造り出す開放型位相空間は、実際にはそれを目視することは非常に難
しいのだが、概念的に言うと、お椀のようなボール形状を構成する仕組みになっている。現在、E
I−03に突き立てられているDCが造り出しているそれは、EI−03内部に開放部を向けてい
るため、ゆっくりと内部から出現してきた昏睡しているあかりと理緒の身体を空間湾曲エネルギー
で歪め広げるコトはない。

「……それでも1パーセントの狂いで二人の身体を傷つける危険はあった。あのしのぶっていうメ
イドロボット、あんなに傷つきながら、正確に即座に適正な数値を算出するとは、凄ぇ……!」
「しのぶの本体はあれだけではない」

 感嘆する浩之に、ミスタが口元ににっと笑みを零した。

「しのぶの心OSを保有するTHライドはあの身体の中に収まっているが、AIはこのTH参式に
搭載されてあるメガ・コンピューターとも連係しており、即座に状況分析を可能にしている。いわ
ば、このTH参式はもうひとりのしのぶともいえよう」

 浩之は、思わず目を丸めて周囲を見回した。

「翼丸!狼王!フォーメーション、石破天驚!」

 戦場では、しのぶの命令を受けた狼王が、ミニマムARFに対してメルティング・ハウルを発した。
 すると丁度、あかりの顔がある位置の上にあったARFに穴が空いた。指向性をもつメルティン
グ・ハウルが、ARFの位相空間に侵食・干渉する特定の周波数帯音波を放出し、位相空間の開放
部を押し広げたのである。その穴から翼丸が突入して、あかりと理緒を爪で掴んでEI−03の体
内から救出した。

「取り込まれていた神岸さんと雛山さんの救出完了!両名とも異常なし!――マルマイマー、早く
Y−ゼロ座標へARFの展開を!!」
「まだです!このまま、核になっているメイドロボットを救出します!!」
「し……しかし……わ、わかりました――――あっ!?」

 突然、EI−03が激しく動き始め、風閂で押さえつけていたしのぶのボロボロの両腕がついに
限界に達し、爆発を起こしてその身体を吹き飛ばしてしまった。

「しのぶさん!!?」

 マルマイマーは慌ててEI−03のそばから離れ、倒れているしのぶの許まで飛んだ。肘から先
の部位が完全に爆散していたが、それ以外の箇所に損傷は見当たらず、健在を示すようにしのぶは
自分から起き上がってみせた。

「ご、ごめんなさい!!わたしが無茶を言わなければ……!」
「……この程度の損傷なら問題ありません。あたしの命はあなたの為にある――」
「そんなコト言わないで下さい!!」

 マルマイマーはボロボロに泣きながらしのぶを叱咤した。しのぶは何故マルマイマーが怒ってい
るのか判らず、きょとんとする。

「……えっく。そんなに自分の命を軽んじないでください!わたしたちの闘いがいったい何のため
にあるのか、もっとよく考えて!!」
「私たちの……闘い……?」

 しのぶがそう訊いたとき、EI−03はまだ身体を縛り付けていた風閂を吹き飛ばして暴れ始め
た。マルマイマーはしのぶの身体を抱きかかえ、すでに翼丸によって離れた場所へ移されていたあ
かりたちの許へ飛び移った。

「しのぶさんはここにいて下さい!――」

 そういうとマルマイマーはEI−03のほうを見た。そして悔しそうな顔をしてみせ、

「――残量空間湾曲エネルギーでARF全開稼働します!」

 マルマイマーはデバイジングクリーナーを両手で握りしめ、スラスターに火を入れてホバリングを開始した。

「行きます!テバイジング・クリーナ――――――っ!!」

 ホバリングしながら急発進したマルマイマーは、鞭のように振り回されている金属触手をくぐり
抜け、EI−03の手前の地面にデバイジングクリーナーの刷毛先を叩き付けた。その地点から地
面がへこみ始め、一気に大規模ARFが完成した。

「……ところで、昼間ッからこんな巨大な位相空間作って、報道管制は大丈夫なのかい?」

 浩之がミスタに質問した。

「大規模ARFの開放部には、高さ500メートルの重力レンズ現象が生じる。ARFの縁部より
500メートル以上離れた地点からは、成層圏から垂直直視しない限り、高層ビルの上から見ても、
重力レンズの外からは光の屈折で内部を覗くことは叶わないようになっている。しかも、その50
0メートルの外部から車両で突入してもTHライドで位相空間を侵食しない限り、何ごともなく反
対側の縁部へ移動できる」
「位相空間は在って無きがごとし、か」
「まぁ、近いうちに非常事態が起きていることは公表する運びになっている。現在、政府と時期と
内容の件で調整中だ」
「……てことは、いま、国家機密に関わっているんだな、俺とあかりは」
「そのあたりはあまり気にしないで良い。とくに藤田君、君の場合はな」
「……どういうコトだ?」
「それは君の――ん?」

 ミスタの言葉を遮ったのは、高濃度酸素測定器であった。現在、濃度測定器が示す数値は26パ
ーセントをカウントしたばかりであった。

「いかん!?酸素発生装置が発動したのか?!」
「何で今頃……いや、まさか?」

「URYYYYYYYYYY!!」

 パワーの拮抗を崩してしまったのは超龍姫だった。ARFの展開に気を取られた超龍姫の隙を突
き、組み合っていたEI−01が超龍姫の身体を持ち上げ、穴の中へ放り投げ落とした。

「し、しまった!!」

 慌てて起き上がろうとする超龍姫目がけて、EI−01が跳び蹴りを仕掛ける。間一髪、腰のタ
イヤスレイブアームを突き出してEI−01を弾き返す。

「いけない!あのままじゃ超龍姫が!――うわっ!」

 超龍姫の苦戦に気を取られたマルマイマーに、EI−03の鋼鉄触手の群が襲いかかる。慌てて
左手を突き出し、プロテクトシェイドの歪曲空間でそれを粉砕する。

「酸素濃度、32パーセント突破!このままだとまた大爆発の恐れがありまス!」
「かといってEI−01がいる以上、EI−03ばかりを相手には出来ないし……くそっ!」
「いや、まだ諦めるのは早い」

 舌打ちする綾香に、長瀬が不敵そうに微笑みながら頷いたのと同時に、しのぶが狼王に支えられながら立ち上がった。

「あなた、まさかその身体で闘うつもりじゃ?!無茶よ!!」

 意識を取り戻していたあかりが仰天し、しのぶを止めようとする。しかししのぶは無視して翼丸
とアクセスし、現在の自分の状態をチェックする。

「……両腕部大破なるも、『スーパーモード』移行に影響ゼロ」
「ねぇ、聞いてるの?」
「聞こえています、神岸さん」
「なら!」
「それでもあたしは闘わなければなりません」
「莫迦!あなた、マルチちゃんが何のために闘っているのか、わかっているの?!」

 それは先ほど、マルマイマーがしのぶに泣きながら投げかけた問いと同じものであった。

「……それは……人間を守るため……」
「違うわ!」

 あかりは頭を横に振った。

「……マルチちゃんやテキィが闘いの中で何のために怒り、哀しみ、傷ついたのか、あなた、判っ
ているの?」
「何のため……?」

 あかりは先ほど、人を守るためではない、と否定していた。ではいったい何なのか。瞬時に状況
を分析できるしのぶをして、どうしても判らなかった。

「……わからない。あたしには、わかりません」

 しのぶがそう答えると、あかりは困った風な顔で溜息を吐いた。

「……あなた、マルチちゃんをどうして守っているの?」

 訊かれて、しのぶは返答に窮した。
 すると、あかりはふっと微笑み、

「……あなた、マルチちゃんのコト、好き?」
「……好き?………………………………」
「……好き、なんでしょう?」
「…………………………………………………………………………………」

 しのぶの沈黙は、返答を躊躇っているわけではなかった。自分をやさしく見つめるあかりの微笑
を前にした途端、もやもやとした何かが、自分の心の中で広がりつつあることに戸惑ってしまった
からなのであった。

 マルチを守ること。それは、いまのしのぶにとって使命であり、自分の存在理由の全てであった。
 では単純に、使命抜きで、個人的にマルチをどう想っているのか。
 わからなかった。

 第一印象は、不器用なロボットだと想った。
 料理はろくに出来ない。お使いも時々間違ったものを買ってきてしまう。得意といっている掃除
さえ手際が悪く、その上とろい。闘いしかできないしのぶも似たようなものだが、かつて、来栖川
電工がシェアを不動のものとするために試作され、今なお名機と呼ばれているセリオタイプと競っ
た優秀なメイドロボットなのかと疑ってしまったくらいである。
 しかし、そんなマルチを見守ってきたしのぶは、そんな姉に一度たりとも嫌悪感を抱かなかった。
むしろ、こんな不器用なマルチをみていて、逆に安堵感さえ覚えてしまった。別に見慣れたわけで
もないのに、まるでこんな不器用な姿が当然のように思えてならなかった。

「……やはり、あたしにはマルチお姉さまを守ることは、使命、だとしか答えられません」

 しのぶは頭を横に振って応えた。

「……だって。お姉さまは自分のコトより他人の気遣いばかりしている方ですから。誰かがお姉さ
まの面倒を見てやらなければいけないと想えるのです」

 しのぶがそう答えると、あかりは妙にくすぐったそうな笑顔で頷いた。

「……やっと笑ってくれたね」
「……え?」
「今のあなた――マルチちゃんのコトを言っていたあなた、笑っていた。とても嬉しそうに」

 あかりに言われて、しのぶは思わず頬に二の腕を当てた。久しく忘れていた顔の変化を、他人に
言われて触れてみるまで気付かなかった。

「……でもあなた、その壊れた腕で闘えるの?」
「あたしにはまだ『奥の手』が在ります。――――えっ?」

 しのぶはあかりのさり気ない質問の真意に気付き、驚く。

「……判ったわ。今のあなたなら、マルチちゃんの力になれそうだしね」
「神岸さん……!」
「マルチちゃんやテキィが闘う理由。きっと、あなたもこの闘いで見つけられると想うわ。――い
ってらっしゃい」

 あかりはそういって、こくん、と笑顔を縦に振った。
 しのぶは暫しその笑顔を呆けた顔で見つめた。決してあかりが安易な変節者だと想ったからでは
ないのは確かであった。

 これが人のこころか。厳しくもあり、優しくもあり、なにより強い。哀しみに耐えようとする、
強い意志の源。
 そして、自分のこころは、そんな人間たちのそれを模倣して創られたもの。
 哀しいくらい、誇らしかった。
 そして、素敵だった。

「……テキィやマルチお姉さまがうらやましい」
「……え?」

 きょとんとするあかりに、しのぶは、くすっ、と笑った。今度は、自分でも笑っているのが判った。

「……いえ、何でもありません。翼丸、狼王、行きます!!」

 しのぶは翼丸と狼王を引き連れ、ARFの穴の中へ飛んでいった。あかりはしのぶの背を見送り
ながら両手を合わせ、しのぶたちの無事を祈った。

「……神岸さん」
「あ、雛山さん!大丈夫?」

 あかりはようやく目を覚ました理緒を抱き起こした。

「……今の娘……腕が壊れていたのに……大丈夫なの」
「……本当言うと、行かせたくなかった」
「え?」
「……でも、ね。やっぱりあの娘もマルチちゃんの妹。不器用なくらい――こころの優しい娘。あ
の娘ならマルチちゃんやテキィを、きっと助けてくれると想う」
「テキィを…………」

 理緒は小さくなっていくしのぶの後ろ姿をじっと見つめた。しのぶたちが無事着地するのを見届
けると、あかりのほうへ向いた。

「……神岸さんがそういうのだから……大丈夫だよね、うん」

 理緒の笑顔に、あかりも笑顔で応えた。


「えーい、なんて奴!?」

 EI−01と交戦中の超龍姫は、敵の超スピードに翻弄されていた。ARFの中心では、火器を
使用すれば大爆発の恐れがあるEI−03の鋼鉄触手を払いのけるのが精一杯のマルマイマーがい
る。EI−01の狙いがマルマイマーと超龍姫の分断であることは明白であった。

「このままではマルマイマーが危険だ……!EI−01を退けなければ『イレイザーヘッド』が使
えないし……どうすれば――――」

 超龍姫が砲身冷却が完了した速射破壊銃をEI−01に向けようとした刹那、視界に3本の銀色
が駆け抜けた。

「フォーメーション、疾風怒濤!!」

 銀色の閃光の正体は、ミラーコーティングで全身を包んだしのぶ、翼丸、そして狼王であった。
全身くまなくマイクロサイズの超展性ハイメタル粒子を超電磁蒸着したその姿は、さながら白銀の
女闘神(ワルキューレ)か。三筋の閃光は妖刀と化し、EI−01の身体を一瞬にして切り裂いた。

「しのぶ!大丈夫なの?!」
「心配は要りません、超龍姫。早く、マルマイマーのサポートに向かって下さい」

 着地したしのぶはミラーコーティングを解きながら、ARFの中心のほうへあごをしゃくってみせた。

「イレイザーヘッドが無くては、マルマイマーは闘えません。EI−01はあたしが相手をします。
超龍姫、一刻も早く、姉さんとテキィを助けて下さい」

 わかった、と頷いた超龍姫は、マルマイマーの許へ駆け出そうとした処で、ふと、思いとどまった。

「……しのぶ。あなた……」
「どうしたのですか?早く!」

 超龍姫は暫ししのぶの横顔を見つめ、ふっ、と笑みを零した。

「…………あなたらしくない台詞だけど……好きだよ、そういうの」
「早く!!」
「はいはい」

 超龍姫は微笑を翻し、マルマイマーの許へ駆け寄っていった。
 その背を、集結したしのぶたちの身体がEI−01の視界から隠した。

(……壊れたがらくたが、悪あがきか?)

 肩を震わせて嗤うEI−01だったが、しかし挑発にまったく動じないしのぶに舌打ちした。そ
して、対峙するこのメイドロボットたちからただならぬプレッシャーが放出されているコトによう
やく気付き、EI−01は嘲笑するのをやめた。

(……なんだ?この人形から発せられる凄まじい闘気は?)
「――お前はあたしを本気にさせた。その報い、その身で味わうがいい」
(何をっ!!)
 EI−01はしのぶに飛びかかった。しかししのぶと翼丸、狼王は瞬時に上空へ飛び退けていた。

(逃しは――――なにっ?!)
「スーパーモード発動!――――三位一体(さんみ・いったい)!!」

 それは上空で起こった。大きく反るしのぶの両脇で舞う狼王と翼丸がなんと変形し始めたのである。
 狼王の胴体が前後に分かれ、上半身部が首の根本から開いて狼王の首が左腕になった胸鎧と、二
つに離れた下半身部が後ろ足を変形させながら脚部装甲へと変形した。
 翼丸も胴体を展開させ、肩に鋼鉄の鷹の首を持つ右腕へと変形した。
 そしてしのぶは、狼王と翼丸が変形した鎧を瞬時に装着し、鎧武者を想起させる戦闘用ロボット
へと変化したのだ。その姿こそ――

「『霧風丸(きりかぜまる)』、見参!!」
           Bパート 2/2へ つづく