東鳩王マルマイマー:第8話「まごころを、君に」エピローグ 投稿者:ARM
【承前:Bパート】
「し、しのぶさん!?」
「スーパーモードの弱点です」

 テキィを抱きかかえたまま狼狽するマルマイマーに応えたのは、重水素を消費して空になったイ
レイザーヘッドを肩に抱える超龍姫だった。

「しのぶが霧風丸へとシステムチェンジすると、その戦闘能力はマルマイマーさえも凌ぎます。但
し、それに比例してエネルギーを急激に消費するため、長時間システムチェンジを行うコトが出来
ず、このようにオーバーロードで一時的に機能が停止するようセイフティが掛けられているのです。
――疲労困憊状態、というやつです。しばらくシステムダウンしていれば再起動しますよ」
「そう……ですか」

 マルマイマーは、ほっ、と胸をなで下ろし、倒れ込んでいるしのぶの寝顔を見下ろした。
 しのぶは、満足げに微笑んで眠っていた。初めてあったときのあの冷徹さなど、そこには微塵も
なかった。
 マルマイマーはそんなしのぶに、お疲れさま、と囁いた。

「――しかし」

 長瀬は険しい顔のままであった。

「レミィくん。EI−01の姿は何処にある?」
「What’s?」

 促され、レミィは不思議そうにコンソールパネルを操作した。

「――What’s Happen?!ブっ倒れていたハズのEI−01の姿が、Lostしてまス!?」

 レミィの悲鳴に、一同は騒然となった。



 EI−01は、生きていた。
 霧風丸がイレイザーヘッドの光の柱の中へ突入した瞬間、ARF内から離脱していたのだ。変貌
を解き、血塗れの身体を引きずりながら暗い路地裏を進むEI−01は、霧風丸に斬撃を許したあ
の全身がバラバラになるような奇怪な痺れを堪えながら、喘ぎ喘ぎ進んでいた。

(……くぉっ。再生が……再生が……出来ぬ…………くぉっ?)

 EI−01が顔を上げたその時、向こうから夕日を受けて長く伸びる影の端がその血塗れの顔に
掛かった。

「……ぶざまだな」
(……何も……の……?!)

 ぴしっ!!EI−01の脳髄に、電撃が走った。

(こ……これは……エルクゥ波動!?)

 EI−01は慌てて身構えた。――構えた瞬間、遠くにいたハズの声の主が、なんと目前にまで
瞬間移動していたのである。
 声の主は右手を振りかぶっていた。
 鬼の手と化した、右手を。
 ずうっん!岩盤を叩く轟音が、EI−01の背中を突き抜けた。

(――ぐばぁっ!……な……なにもの…………)
「……〈紛いモノ〉に訊く資格はない。……無論、生きる資格もな」

 エルクゥの腕をもつ男は、にぃ、と楽しそうに凄惨な言葉を吐いた。男が掛けているリムレスの
レンズに夕陽が映え、暗がりに隠れていたEI−01の顔を引きずり出した。幽鬼のような相貌は、
栄養失調で痩せこけた人間のそれであった。

「……やはり、血を受けてエルクゥと化した雨月山の次郎衛門と同様、〈エルクゥ細胞〉を植え付
けられただけか。適応の有無も確認せず植え付けられたものだから、拒絶反応が始まって苦しみだ
したらしいな。おおかた、どこぞの浮浪者を、『奴』が影武者代わりに仕立てたのであろう。――
言え。柏木耕一は、何処にいる?」
(かしわぎ……こう……いち…………?)
「そうだ」

 エルクゥの腕を持つ男の口元が、無惨そうにつり上がった。

「かつてこの俺を倒した、あのエルクゥの末裔……俺の甥に当たるあのエルクゥの戦士は、何処にいる?」
(し……しら……な…………い)

 喘ぎ喘ぎ答えたEI−01に、エルクゥの腕を持つ男は、ふう、と嘆息した。

「……所詮は傀儡か。――せめてもの情けだ」

 ずばっ!!エルクゥの腕を持つ男は、EI−01を刺し貫く鬼の腕を引き抜き、弧を描くような
動きでそれを振り回す。ゆっくりとした動きに見えるそれは、じつは超高速運動がもたらした残像
で、EI−01の身体を一瞬にして粉砕させたとはとても信じがたかった。
 肉片と化したEI−01のなれの果てを、エルクゥの腕を持つ男は何の感慨もなさそうに見下ろ
していた。

「……やれやれ。これで3体めか。本物のEI−01め、何処に潜んでいる?」

 腰に手を当てて、ふぅ、と溜息を吐くや、エルクゥの腕を持つ男は振り返った。

【……がわ】
「……呼んだのは、お前か」

 夕映えの中に立ち尽くす、白い外套に身を包んだ亜麻色の髪の美女がそこにいた。鬱蒼と茂る森
の奥に人の手に触れずに潜む湖の水面を想起するその美しい瞳は、人間を一瞬して肉塊へ変えたに
もかかわらず返り血一つ浴びていないスーツ姿の眼鏡を掛けた男を映していた。

「……やはり、きさまか。――〈ゲートキーパー〉」
【……何故、殺すの?】

 美女は、男に問いかけた。但し、声ではなく、精神感応――テレパシーである。

「……知れたこと。奴をこの手で倒すコト。それが今の俺の生き甲斐だ」
【……哀れな】
「哀れむか」

 男は、くくくっ、と嗤った。

「この生き方こそ、今の柳川祐也に与えられた至福の宿命なのだ。狩猟民族エルクゥの宿命は、そ
の血を受け継ぐ者には避けられぬ宿命。あの柏木初音とて、逃れられないではないか、はっはっはっ!」

 鬼の腕を持つ男――柳川。かつて、狩猟民族エルクゥの本能に従い、多くの人間を殺戮し、これ
以上の暴挙を阻止せんとした柏木千鶴を惨殺して、覚醒した柏木耕一の逆鱗に触れて倒された、柏
木姉妹にとって叔父にあたる人物。耕一のと闘いに敗れ水没したと思われていたこの男は、やはり
生きていた。

【……まだ、狩り続けるの?】
「無論だ。――きさまにも訊かねばなるまい。柏木耕一は何処にいる?」

 美女は何も応えない。
 しかし柳川にはその無反応が充分すぎるくらいの返答であった。

「――やはりきさまがすべての鍵を握っているようだな、月島瑠璃子よ!」

 柳川は月島瑠璃子と呼んだ美女との間を一瞬にして詰め、鬼の手の一閃を放った。
 鬼の手は、虚空を突き抜けた。

「……なるほど。この像さえもオゾムパルスで送り込んだものが。夕映えに影さえ落とす虚象を結
ぶとは、末恐ろしいな。いや、流石は〈ゲートキーパー〉。人類を導く者よ、オゾムパルスによる
人類の精神浄化で何を企む?」

 瑠璃子は何も応えなかった。その身体が、すぅ、と薄らぎ、やがて霧散するかのように消えていった。

「……化けものめ」

 柳川は肝心なコトを忘却しているかのように吐き捨てた。そしておもむろに懐から小型通信機を
取り出し、発信した。よく見ると、その小型通信機には「MMM」のマークが入っているではないか。

「……祐介か。俺だ。――そうだ、EI−01はまたも傀儡だった。場所は江戸川区臨海町………
……。あとは勝手にしろ。俺は、群れるのが嫌いだ」


 数日後。

「……あーん、もう!いったいこの段ボールの山、いつになったら片づくの!」

 とうとうレフィが切れた。MMMバリアリーフ・メインオーダールームの整頓作業は、体育会系
のお約束・ジャージ姿がよく似合う綾香が陣頭指揮を執っても未だに終わることなく、勢揃いした
勇者メイドロボ軍団の努力の甲斐もなく、今だ山積みになっていた。

「大体、保科参謀はどこに行ったのですか?」
「また、茶ぁしばく、とか言って、先ほど外に」
「に、逃げやがったなぁ、あのタコ!もう容赦せん、主査、『Gツール』を使用させて!」
「おいおい、長官。あれはまだ調整中で使用できないよ……って、あたた」
「あ、主査、大丈夫ですか?」

 段ボールを抱え上げた瞬間、腰に鈍い痛みを覚えて呻く長瀬に気付いたエプロン姿のマルチが慌
ててその身体を支えた。

「すまんな、マルチ。もうトシか」
「……運動不足を年齢で誤魔化すのは中年の悪い癖です」

 ときつい一言を放って横切ったのは、なんとしのぶであった。あまりのコトに長瀬とマルチは、
段ボールを抱えて進み行くしのぶの背を見つめたまま唖然となってしまう。

「……いかんな。口数が多くなったのは良いのだが、毒舌家に仕上がっていたとは」
「……主査の教育の賜物じゃないんですか」
「……何か言ったか?」

 ムスッとする長瀬に、マルチは意地悪そうにクスクス笑った。
 不意に、長瀬の腹が鳴った。そう言えばもう昼である。

「――お待たせしました!」

 元気のいい声とともにメインオーダールームに入ってきたのは、理緒であった。

「ご注文のお弁当、お持ちしました!」

 理緒は弁当を入れたケースを背負っていた。EI−03事件の事後処理実務のさなか、綾香がた
またま事情聴取で訪れていた理緒が勤める弁当屋に昼食を注文し、その巧い味が気に入ったのがき
っかけで、理緒の弁当屋もヤクルトやダスキン同様、メインオーダールームへの出入り業者に認定
されたのだ。綾香の見立ては間違いが無く、今まで弁当持参で出勤していたレミィや智子も、理緒
の弁当屋に注文するようになっていた。
 理緒がゲートをくぐると、その後ろに続く、理緒よりも長身の人影が居た。

「あ、テキィ!」

 最初にテキィの姿に気付いたマルチが手を振ってみせた。あの事件後、修理の終えたテキィは、
THライドの暴走が二度と無いことを確認され、晴れて理緒が勤める弁当屋で働くことになったの
だ。今日も理緒を手伝い、納品弁当を半分抱えて現れた。
 テキィはまだ罪の負い目を感じているらしく、前より口数が減ったと理緒はいうが、それを補っ
て余るものを手に入れていた。

「……今日もご苦労様です、テキィ」

 理緒に続いて前を横切るテキィに、しのぶが微笑んで見せた。思えばあの事件以来、しのぶも良
く微笑むようになった。

「ええ」

 テキィも微笑んで応えた。
 もう哀しみはない。とても気持ちのいい、彼女によく似合う笑顔で。

(画面フェードアウト。ED:「あたらしい予感」が流れ出す)

          第8話 了
                 第2部:勇者集結編 完

【次回予告】

「君たちに最新情報を公開しよう!

 心が壊れてしまった親友、太田香奈子を治そうと医学の道を行く藍原瑞穂が偶然知り合った、仮面
の男ミスタ。瑞穂がどこか懐かしく感じるその男の姿をみて、逆に激しく戦く香奈子に、瑞穂はミス
タに香奈子が壊れた秘密があると疑う。
 そんなとき、死んだハズのEI−01が再び出現し、香奈子を狙う。EI−01が狙う〈素粒子O
Z(オズ)〉の適合者とはいったい何か?オゾムパルスに翻弄される香奈子を救うべく、瑞穂が命を
賭ける!

 東鳩王マルマイマー!ネクスト!
 第3部・激闘編 第9話「素粒子OZ」!

 次回も、『ふぁいなる・ふゅうぢょん』承認!

 勝利の鍵は、これだ!

 「ミスタのOPCマスク」

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 ……ARMです。今回、疲れました(苦笑)
 今後の構成の変更から、登場予定外の人物やら、まだ登場しないはずの人物やら
がぞろぞろと顔を出し、さてどうしようかと思案中(汗)テキィもどうやらまた登
場させたいキャラになってしまったし(やはりあの役はこの娘が相応しいか)、LF
97の所為で、出ないはずの柳川がマママにしゃしゃり出てくるし、もーどーしよ(笑)
 なによりも、上の9話がちゃんと完成するのか不安不安(大汗)構成変えて物語
の展開のスピードを早めてみたものの、これから個人的に色々忙しくなりそうなの
で、いつになることやら。他にも描きたい話もあるし、気長にお待ち下さい(激汗)


http://www.kt.rim.or.jp/~arm/