ToHeart If.”聖夜” 後編 投稿者:ARM


【承前】

『午後7時51分:保科智子の場合』

 今宵はクリスマスイブ。巷はいつもと違い浮かれ気分でいるというのに、しかし一部の者はそんな
ヒマさえなく、いつものように塾や予備校へ足を向け、来年の今はその巷のひとつになってやると意
気込んでいた。
 その一人である、保科智子は、いつもより人の往来の激しい路上を足早に進んでいた。

「……あかん、あかん。はよせんと遅刻や――――って、へ?」

 智子は思わずせかせか歩きを止めて立ち止まり、当惑した顔をしたまま、自分をいきなり呼び止め
た人物を見つめた。

「……なンや、その格好。何かのバイトかい、藤田クン?」
「ふぉっふぉっふぉっ、わしは藤田とかゆうものぢゃないよ」

 ここに来てようやく学習機能が働いたサンタクロースは、声色を変えてバルタン星人笑いをしてと
ぼけてみせた。
 しかし智子は両手を腰に当てて深い溜息を吐き、

「……アホくさ。バレバレやで」
「No、No、No」

 サンタクロースは今度は最後までシラを切るつもりらしい。立てた右人差し指をメトロノームのよ
うに振ってみせ、肩を震わせて笑った。

「……あのなぁ。うちが知っている限り、こんな往来で、クリスマスイブにこないな酔狂なカッコし
て、ましてやうちのコトを『委員長』呼ばわりするのは、宇宙広しと言えども、藤田浩之しかおらへんで」
「がぁ――――ん!し、しまったぁ、墓穴をほったぁ!?(BGM:「カッコ悪ぅ」)

 呆れ顔で指摘する智子の言葉に、サンタクロースは情けなさそうに頭を抱えてうずくまる。

「……ぷっ」

 そんなサンタクロースをみて、今まで憮然としていた智子は思わず吹き出した。

「……しかし、なンの用?」
「――おっと、そうだった」

 気を取り直して立ち上がったサンタクロースは、抱えていた大きな白い袋から、
これまた大きな箱を取り出した。

「はい、プレゼント」
「………………」

 サンタクロースから差し出されたプレゼントを前にして、
智子は暫し呆けたようにその場に立ち尽くす。

「……どうした?ほら、受け取りな」
「………………」
「?何、黙り込んで?」

 小首を傾げるサンタクロースに、智子は肩を竦めて見せた。

「……はぁ。藤田クン、あんたかなりのノンキものとは思っとったけど、ホンマもんとは思わなんだ」
「なんか、今の台詞、悪意を感じる」
「そう?」

 智子はようやくプレゼントを受け取った。

「開けても、ええ?」
「どうぞどうぞ」

 人の往来を避けて歩道の端に寄ると、智子は受け取ったプレゼントの包装を解いた。
 その中に収まっていたものは、クリーム色のコートだった。それを見た途端、智子は今まで堪えて
いたものが堰を切ったように、とても嬉しそうな顔をしてそのコートをぎゅっと抱きしめた

「……ありがとな、藤田クン」
「それとな、今夜、塾はもう良いんだろ?さっき塾に電話したら、今日はもう帰った、って聞いたか
ら慌てて委員長を捜したんだが、どうだい?9時にあかりがなにかパーティでも企んでいるみたいだ
から、うちに来いよ」

 サンタクロースがそう誘うと、智子はまたきょとんとした顔をした。

「……どうした?」
「――え?あ、あぁ、判った。9時ね。遠慮なく手ぶらで押し掛けたるわ」

 そう言って笑う智子に何となくぎこちなさを感じるサンタクロースだったが、まだ次に会わなけれ
ばならない人物の許へ行かなければならなかったので、ひとまずそこで別れた。
 一人残った智子は、彼の背を見てほくそ笑んでみせた。

「……宮内サンがおったら、きっとこうゆうやろな。――『知らぬが仏』って」


 いつか、サンタさんはボクのうちにも来る。
 信じて待っていれば、きっと。


『午後8時17分:来栖川芹香・綾香姉妹の場合』

 今夜の難攻不落の双璧の一つ、来栖川邸の前にいよいよやってきたサンタクロース。
 サンタクロースを気取るためには、決して正門からアポイントをとって入るわけには行かなかった。
 しかし、前もって調べた、来栖川邸の防犯設備は尋常ならぬものであった。
 庭には、1メートル間隔で熱工学センサーが張り巡らされ、迂闊にセンサーに感知されようものなら、
途端に地面からせり上がってくる無数のゴムスタン砲が侵入者に牙を剥く。非殺傷武器とはいえ、そ
の量にも限度というものがあろう。以前、侵入した泥棒が僅か3メートル進んだところでゴムスタン
弾まみれになり、果たして全身複雑骨折のその姿を見て医師曰く「死んだほうがマシ」と思わず仰い
だという。……といってもこの話自体、例の如く「志保ちゃんニュース」から得たものなので、信憑
性は皆無だとサンタクロースは思っている。
 それでもその可能性を全く否定できないのは、その話を聞いた後、街で偶然会った綾香にタチの悪
い冗談だよな、と笑いながら振ってみた途端、真顔で、

「ああ、あの記録保持者のコトね。他の連中は1メートルも進めなかったから、なかなか骨のあるヤ
ツだったみたいだけど、もう折る骨も無くなったそうよ」

 と言ってケラケラ笑いだしたからである。
 サンタクロースは、本気で空を飛ぶトナカイとそりが欲しくなった。今の自分は、この身一つで勇
気を振り絞ってそれを突破する以外、あの二人に意表をついてプレゼントを届ける道はない、と覚悟
を決めた。
 そうサンタクロースは決意しながらも、身体は正直で、ふらふらと引かれるように歩いて、正門の
チャイムを鳴らしてちゃんと挨拶してから入ろうと、必至に理想に抗っていた。

「――なにやってんの、浩之」

 半ば無意識にチャイムのボタンを指先が触れようとした刹那、背後から聞き覚えのある声が届き、
サンタクロースは驚いて飛び上がった。

「あ、綾香!?しかも芹香さんまで!?ど――してここに?」
「それはこっちの台詞よ。何よその格好?」

 お揃いのコートを着ている美しき姉妹の妹が、苦笑しながら訊いた。

「まさかそれ、浩之の外出着?なかなかセンスいいわよ」
「……ンなわきゃないだろ」

 サンタクロースはそうぼやくが、二人の姿を見た途端、これ以上ない安心感から脱力を覚え、
とうとうその場にへたり込んだ。

「……え?姉さんが、どうしたのですか、だって」
「い……いやぁ……凄ぇ安心してさぁ…………。た、助かったぁ……」
「まさかうちに入り込むつもりだったの?――ちぇっ、それならしばらく放っておけば良かった。
あと一人で今年の記念すべき100人目が達成するのに」
「……ひゃ、100人目ぇ?」

 いったい何の100人なのだ?と思わず聞き返しそうになるサンタクロースだったが、
ニヤリ、と意地悪というより、悪魔がするような微笑を浮かべる綾香をみて、慌てて口をつぐんだ。

「やっぱり、ここって、防犯用にスタン弾を使っていたのか?」

 すると何故か芹香が、首を横に振った。そして、おもむろに両手を上げて、
それをポンポンと叩いた途端、

「喝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっ!!
お呼びですかぁ、芹香お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!」

 と、聞き覚えのある耳障りな叫び声が塀の向こうから聞こえてきた。

「長瀬さん、最近身体がなまっている、っていうから空いている時間使って防犯設備相手に
トレーニングしていてね。
99人とも、長瀬さんのトレーニングの巻き添え」

 その99人は、どちらにやられたのか、サンタクロースにはとても興味深い疑問だった。

「長瀬さん、姉さんはただ呼んでみただけなの。引き続き、トレーニングに励んでいいわ」
「御意ぃぃぃ!!それはさておき、綾香お嬢様、くどいようですが、わたしめをお呼びするときは、
セバスチャンとお呼びくださいませぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!」

 その声に続いて、鋼が激突するような凄まじい轟音が追随した。果たしてあの初老の執事は、いっ
たい何と、どんなトレーニングしているのであろうか。迂闊に想像すると怖い考えばかりが広がって
いきそうだったので、サンタクロースは直ぐにやめた。

「そ、それはそれとして、――そうそう、これから帰るところ?」

 サンタクロースがそう訊くと、この姉妹は顔を見合わせ、合わせ鏡に含みのある微笑を映した。 
先に芹香が首を横に振って応えた。

「いいえ。これから用があって丁度出たところ。本当、運がいいわね」

 九死に一生を得たサンタクロースは、はぁ、と深い溜息を吐くと、背負っていた白い大きな袋に手
を入れ、二人のために用意したプレゼントを取り出した。

「もしかして、それプレゼント?」
「ピンポーン!……つーても、二人にはあまり珍しくない品かもしれないが」

 サンタクロースか゜苦笑混じりにそう訊くと、二人はとても嬉しそうな顔をして面を横に振った。

「そんなコト無い!まさか浩之がこんな酔狂なコトをしてまでプレゼントを用意してくれるなんて!」
「……それは誉め言葉ととってよろしいのでしようか、お嬢様がた」
「男が細かいコト、気にしない気にしない!!」

 豪放な喜び方をする綾香とは対照的に、姉の芹香はしばらくプレゼントの入った箱をじっと見つめ、
やがて、こくん、と頷いて嬉しそうに箱を抱きしめた。

「ねぇ、開けて良い?開けて良い?」

 綾香の喜び方も、次第に子供じみてきた。まるで初めてサンタクロースのプレゼントをもらった子
供のようである。
サンタクロースはこういう反応はとても好きだった。サンタクロースが頷くと、綾香と芹香は挙って
包装を解き始めた。
 二人のプレゼントは全く同じ、オルゴールと香水セットであった。

「……済まねぇ。二人にピッタリな品がなかなか思い浮かばなくって……」
「……そんなこと、ありません」

 そう言ったのは、なんとあの芹香であった。これには綾香すら驚かされた。

「――ね、姉さんがはっきり口にしてしゃべるなんて、これわ奇跡に近いわよ!?」
「実のお姉さん相手にそこまで言うか綾香(笑)」

 苦笑するサンタクロースと綾香に挟まれ、芹香は照れくさそうに俯いた。

「……ふふっ。今夜は面白い夜になりそうね。なにせ姉さんが久しぶりに声に出したんだから、これ
は今夜、もっと他にも奇跡が起きるわよ」
「奇跡――か」

 そう呟いたサンタクロースの胸に、ふと、緑の髪の少女の顔が去来した。サンタクロースにはそれ
が妙に切なく感じた。


『午後8時32分:HMX−12型の場合』

 サンタクロースが最後に訪れたところは、来栖川電工研究所であった。
 ここに、あの優しい娘が眠っているのだ。
 しかし、彼女がその眠りからいつ醒めるのか、誰にも判らなかった。
 サンタクロースは限りなくゼロに近い可能性を信じて、この場に立った。
 しばらくして研究所の前にいた壮年の警備員がサンタクロースの前に現れた。サンタクロースが慌
てて素顔を出すと、警備員はその正体がここ最近、この研究所の前で何度か会ったことのある学生で
あるコトに気付いた。警備員はその学生と初めてあったときは、互いに面識はなかったハズだったが、
警備員のほうはある人物からその親切な学生の話を聞かされていたので、直ぐに彼だとピンときたそ
うだ。

「……研究室に問い合わせたけど、あの娘を管理している責任者の長瀬主任は、もう帰ってしまわれ
たらしいそうだよ」
「……そうですか。――無理ですよね、やっぱり」
「うーん。テストが終わったあの娘の身体はもう保管室で厳重に封印されているし、社内機密に煩い
ところだしねぇ
……」
「……判りました。なら仕方がない、――申し訳ないんですけど、これ、預かってくれます?明日、
その責任者の人に渡してくれませんか?」

 警備員はサンタクロースが差し出したプレゼントの箱をしばらく見つめた。

「あ、警備員さん、いつもごくろうさまです!」

「……こんな世知辛い世の中でも、こういうヤツもまだいるんだねぇ。よぉし、わかった。俺も男だ、
何とかしてあの娘に渡してあげるよ」

 ふっ、と優しそうな笑みを零す警備員に、サンタクロースは深々と頭を下げた。


 ……うっそぉ?あんた、サンタなんてまだ信じていたの?だっさぁ!
 ……うるせぇな。そんなの、人の勝手だろ?
 でもなぁ、サンタクロースは絶対いないワケじゃないんだぜ、志保!
 誰だって、サンタクロースになれるんだぜ!


『9時40分』

 浩之は、閉店したデパートの前で呆然としていた。
 手に持っている大きな白い袋の底には、穴が空いていた。

「……かぁぁぁぁぁっ!一番肝心なプレゼントを途中で落としてしまうとは!」

 袋に穴が空いたのは、恐らくハンターモードのレミィに襲われたあの時だろう。袋の底が斬られた
後、気付かずにいろいろとうろつき回っているうちに、袋の一番底に入れて置いたクマのぬいぐるみ
と指輪を入れた小箱が、次第に大きく開いていった穴から落ちてしまったらしいのだ。
 異変に気付いたのは、来栖川電工研究所の正門で警備員にマルチへのプレゼントを手渡した直後で
あった。どこで落としたかは、皆目見当がつかなかった。
 仕方なく浩之は、もう一度デパートへ行って同じものを買おうと慌ててやってきたのだが、無情に
も、デパートは10分前に閉まってしまった。

「ちぃぃぃっ!もともとあの商品券はもあかりの買い物につき合わなければもらえなかった代物なん
だぜ!一番の恩人に何もプレゼントしてやれないなんて、なんて最低なヤツなんだ、俺は!」


 いるよ。サンタクロースは。
 そうだよね、浩之ちゃん。


『10時11分:藤田浩之と神岸あかりの場合』

 失意とあかりとの約束に遅刻してしまったコトに対する後悔から昏い顔で自宅に戻ってきた浩之は、
ふと、家の中が妙に騒がしいことに気付いた。

「……あっれぇ?親父もお袋も、仕事が忙しくって今夜も戻ってこない、って言ってたのに?」

 灯りがついている自宅を不審がり、恐る恐る玄関のドアノブに手をかけようとしたその時、不意に、
聞き覚えのある歌声が聞こえてきた。

「……志保の歌声だ。そうか、あかりだな!あかりのやつ、志保を呼んで俺ン家でクリスマスパーティ
を開いているんだな。そーかそーか、それで必ず帰ってこいと…………はぁ」

 あかりの計画に気付いた浩之は、余計に落ち込んでしまった。せっかく自分を待ってくれていると
いうのに、自分はあかりに何もしてやれない、後ろめたさ。自分の家だというのに、とても入る気に
なれなかった。
 浩之はドアノブに延ばした右手を下げ、踵を返して自分の家にいたたまれなくなって背を向けた――その時。

「――――こらぁっ!!」

 突然、玄関のドアが開き、火薬の発火音が連続して聞こえる中、クラッカーの紙テープが思わず身
を竦めてしまった浩之の身体にたっぷりと覆い被さる。

「な、なんだ!?」

 驚く浩之が振り向くと、玄関の中にはなんと、あかりを中心にして、理緒、レミィ、葵、ひとりだ
けそっぽを向いている坂下、志保、琴音、智子、芹香、綾香が集まり、浩之に紙テープを吐き出した
クラッカーを向けて微笑んでいた。

「遅いぞ、ヒロぉ!おかげであたしが作った料理が冷めたじゃないの!」

 志保が意地悪そうに言った。

「ナニゆうてんねん、長岡さん!自分、ナンもしてないクセに」
「なによぅ!あたしだってちゃんとシャンパンの栓、開けたじゃない!」
「それのドコが料理やねん!」
「ちょ、ちょっ、ちょっと二人とも、やめて下さい!」

 にらみ合う志保と智子をみて、慌てて理緒が割って入る。騒がしい周囲を気にしつつ、穏やかな
表情のあかりが、ゆっくりと浩之に近づいてきた。

「……浩之ちゃん」

 後ろめたい思いの浩之は、思わずあかりから目をそらしてしまう。
 しかしあかりは、約束を破って遅刻してきた浩之をとがめるどころか、
満面の笑みさえ零してみせた。

「……別に遅刻してきたコト、あたし、怒っていないよ。…………お疲れさま」
「…………あかり!」

 恐らくあかりは、今夜の浩之の行動をみんなから聞いているのであろう。ゆっくりとあかりのほう
へ向いた浩之は、半ば衝動的にその場に土下座した。

「済まねぇ、あかり!!」
「……浩之ちゃん?」
「……俺ぁ最低な男だ。他のみんなにはプレゼントを渡せたのに、肝心なお前のプレゼントを途中で落
としてきちまうなんて…………あぁっ!なんて甲斐性なしなんだ俺は!!」

 土下座して懺悔する浩之のそばに、あかりがゆっくりと近寄って屈んだ。

「……いいの。あたし、浩之ちゃんがそばにいてくれるだけで……幸せなんだから」
「――?!」

 浩之は、がばっ、と顔を上げてあかりの顔を見る。出し抜けに浩之に顔を覗かれて戸惑うあかりを、
浩之はいきなり抱きしめた。

「あかりぃぃぃぃぃ、あかりぃぃぃぃぃぃぃ!」
「ちょ、ちょっと、浩之ちゃん!み、みんなが見ているわよ……(汗)」
「ひゅー、ひゅー、男ならそのまま一気に押し倒せ!」
「綾香さん、なんか下品ですぅ(苦笑)」
「葵、ほっとけ。男日照りの綾香なんか相手にするな」
「なによ好恵!あんたになんか言われたくないわね」
「…………」
「……何よ姉さん、何かいいたそうね」
「来栖川家のものがはしたないコトをいうものじゃありません、だそうです」
「あらあら。琴音ちゃん、姉さんの味方するのぉ、ひっく」
「……あれ?凄い酒臭いと思ったら、綾香さん、あんた、あたしが買ったビール飲んじゃったのわ!」
「長岡サン。未成年は飲酒厳禁ヨ」
「宮内さん、堅いこと言わない言わない、ひっく!きゃはははははははははっ!」


 藤田家の玄関から聞こえる浮かれ騒ぎは、少し離れた道路にまで届いていた。

「……あれ?みんな、何で外にいるのかな?そうか、浩之がやっと戻ってきたんだな」

 今夜のパーティの為に、姉にお願いして作ってもらった大きなケーキを抱えてやってきた佐藤雅史が、
遠くまで聞こえるあの騒ぎに思わず苦笑する。

「あそこですか」
「ええ。すみませんね、みんな騒がしくって」
「いやいや。今宵はクリスマスイブ。あれぐらい浮かれて当然でしょう。お前もそうは思わないか?」
「はい」

 雅史の後ろについて歩いていた、どこか胡散臭そうな顔の背広姿の中年の隣に並んで歩いていた少女
は、嬉しそうに微笑んだ。

「……ふむ」
「?長瀬主任、どうかされました?」
「……こうしてみると、彼が選んだ服のセンス、なかなかのものだよ。とても似合うよ」
「……ぽっ」

 頬をほんのりと赤らめる少女は、自分が着ている、先刻、サンタクロースからプレゼントされた可
愛いドレスを満足げに見回した。

「……ありがとうございます、長瀬主任。今夜だけこうして元の身体に戻して下さって」
「いやいや。折角、彼が粋なプレゼントを用意してくれたんだ。多少なりともお返しをしなければ、
我々来栖川電工研究所の沽券(こけん)にかかわるというもの。……もう少しわたしに力があれば、
今宵限りのシンデレラにならずに済んだのだが」
「……それでも構いません。もういちど、ご主人さまのお顔が見られるだけで、
わたし……幸せです……ううっ」
「こらこら。折角のイブに泣くな。泣き顔を彼に見せたくないだろう?」
「あ、は、はい!」
「よし、いー子だ、いー子だ」

 そういって長瀬は、少女が冠する緑色の髪を優しく撫でてやった。
 少女は心地よさそうに赤面すると、サンタクロースが研究所の途中に落としたらしい、あかりへ、
と書かれたポストカードが張ってあった、クマのぬいぐるみとエメラルドの指輪が入ったプレゼント
の包みを誇らしげにぎゅっと抱きかかえ、一歩前に進んだ。

 あと数十秒後に訪れるであろう、聖夜の奇跡を期待しながら。


            みんなに、メリークリスマス。

                            Fin

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 
 えー、ARMです。

 悪だくみ、実行しました。(笑)こんなに長い文章を載せるなんて、本当悪党やね(苦笑)
 今回のネタを思いついたばかりに、マルマイマー第2部最終回はすっかりほったら
かし(汗)期待されている方たち、ごめんなさい。年内完成、ムズイっす(大汗)。奇跡
でも起きない限り、年明けぐらいになると思います。

 それはそれとして((C)はれブタ)、今回の話をシノプスを思いついたは良いが、仕
事が忙しくって意外と描く時間がなく、苦労しました。出来るだけ各キャラの話は平均的
にしようと思ったのですが、読み返してみると話が進むたびバランスが悪くなっていく…
…うーむ、やはり話の構想は時間をかけてゆっくりとやるべきですね。(^_^;

 それではみなさん、よいクリスマスイブを!ヲレは仕事だ!(号泣)


http://www.kt.rim.or.jp/~arm/