東鳩王マルマイマー:第10話「約束はメロディの彼方に」Aパート3/3 投稿者: ARM
【承前】

 洞窟を出てきた私たちの頭上を横切った、巨大な光球体。
 ダリエリが警告した、『奴』がついにやってきたのだ!

 梓姉さんが死んだ。心臓を一突き。

 楓姉さんも殺された。壁に叩き付けられて、首が在らぬ方向に折れ曲がっている。

 わたしは、血塗れの耕一お兄ちゃんといっしょに洞窟の岩の陰に隠れていた。
 勝てない。強い、強すぎる。勝ち目はもう無い。
 でも耕一お兄ちゃんは私に笑いかけた。

「初音ちゃんは俺が絶対護ってやる。……約束、したもんな」

 わたしは泣き叫びそうになるのをこらえて、自分の首に掛けていたお守りを、耕一お兄ちゃんの首に掛けてあげた。

「……きっと……おじさんが護ってくれるよ……だから……だから!!」

 わたしは耕一お兄ちゃんの胸に飛び込んだ。
 優しい息づかい。耕一お兄ちゃんはわたしの身体をぎゅっと、抱きしめた。
 わたしの身体は震えていた。怖かった。

「……安心しな、初音ちゃん」

 わたしはゆっくりと顔を上げた。
 耕一お兄ちゃんは、笑っていた。いつもの明るい、頼もしい笑顔。
 だから、わたしも笑顔で応えた。
 しばらく見つめ合うわたしたち。
 どちらからともなく、互いの顔が引き合い、いつしか唇が重なった。
 欲しかった。どうしようもなく欲しかった。
 わたしの胸の上に、耕一お兄ちゃんの掌が被さった。隠しきれない高鳴る鼓動が、耕一お兄ちゃんの掌に伝わる。
 未熟な身体。でも、女としてのこころが、はげしく男を求めていた。
 死の危機に直面した生命が、種族保存行為を本能的に求めるのは当然なのかも知れない。
 それ以前に、わたしは耕一お兄ちゃんが欲しかった。
 耕一お兄ちゃんの息づかいが荒くなってきた。興奮しているんだ。かくいうわたしも、鼓動が激しくなっているのが自覚していた。
 上着を引き上げられ、剥き出しになったわたしの胸を耕一お兄ちゃんが貪る。まるで赤ちゃんのよう。とてもおかしい。そしてとても気持ちいい……!
 ダメだ。頭の中が真っ白になっていく。白く、白く白く、白く。……白く。
 ――いけない、そこは!…………ダメ、抵抗できない。いい、いい、いひぃ。
 わたしの身体は隅々まで、耕一お兄ちゃんのなま暖かい唾液にまみれていた。頭ではとても気持ち悪いと思っているのに、全身がひくひくいっている。本当は気持ちよすぎるのだ。
 耕一お兄ちゃんも裸になっていた。そそり立つ耕一お兄ちゃん。あれがわたしの未熟な女に入り込んでくるのだ。
 怖い――早く――怖い――早く早く、早く頂戴!!わたしの中の「女」が、啼いている。もう止められない。
 耕一お兄ちゃんは、わたしのこころの準備もできないうちに、一気に入ってきた。
ひどいなぁ。別に良いけど、やっぱり痛い。でも痛みは一瞬で、直ぐに背筋をぞくりとさせる快感が襲ってきた。
 蠢く男と女。これが営みなのか。
 まるで獣。向き合っていたのに飽きた耕一お兄ちゃんが、わたしをひっくり返して再び入ってきた。
 止まらない快楽。――止まった。耕一お兄ちゃんが、わたしの中で果てたのだ。凄い。わたしの「女」が、喉が水を嚥下するように、震えながら耕一お兄ちゃんの白濁した雫を呑み込んでいるのがわかる。でもわたしの未熟な身体は飲み干せず、耕一お兄ちゃんとの隙間からドロドロ溢れ出ていた。耕一お兄ちゃんは指先でそれをぬぐい取り、にやにや笑いながらわたしのお腹にこすりつけていた。ひどいなぁと思いつつ、そんな淫靡な行為がいっそう快感を呼んでいた。いつしか耕一お兄ちゃんは堅く熱く元気になり、再びわたしの中を貪るように蠢いた。知らぬ間にわたしも自分から進んで蠢いていた。わたしも獣なんだ、やっぱり。
 耕一お兄ちゃんは何度もわたしの中で果て、そのたびにわたしは耕一お兄ちゃんの声に合わせて絶叫する。獣だ。獣だ。獣だ。獣だ。獣だ獣………………。


「――おい、落ち着け、柏木さん!」

 THコネクター内で紅潮した顔で淫靡にもがき蠢く初音に、浩之がTHコネクターを叩いて呼びかけていた。

「レミィ!?いったいこれは?」
「物凄い量のオゾムパルスが、クラスGサーキットからTHコネクターに侵食中!」
「?!回線を至急閉塞して!」
「ラジャ!」

 騒然となる綾香たちに目もくれず、浩之はTHコネクターを叩き続けた。

「柏木さん!しっかりしてくれ!このままではマルチは無防備のままやられちまう!起きろ!――起きてくれっ!!」


 起きろ!

 力強い声が、わたしの脳に突き刺さった。……大好きな、あの人の声だ。
 身体の芯まで快楽に痺れていたわたしを、彼が起こそうとしているコトに、やっとそこで気づいた。
 ぼとり。何かがわたしの頬に落ちた。
 溢れ出た耕一お兄ちゃんの雫か。
 違った。もっと、とても生臭いモノ。その匂いが妙にこころを高ぶらせる。
 ――血だった。
 そこでようやくわたしは理解した。
 これは、無かったハズの現実。――すべては夢幻。
 そう思った瞬間、わたしの中を貪る耕一お兄ちゃんの身体の至る所が爆ぜ割れ、血塗れになっていた。――――


『「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!』」

 初音の絶叫と共に、THコネクターに放電現象が生じる。その衝撃波に浩之は吹き飛ばされてしまった。

「浩之ちゃん?!」

 あわてふためくあかりが、仰向けに倒れている浩之のそばに駆け寄った。幸い、浩之は軽い脳震盪程度で済み、あかりに支えられながらゆっくりと立ち上がった。

「Oh!?Sクラスサーキットからもパルス逆流開始!!No!初音が危険ヨ!!」
「レミィ、コネクターの全回線を緊急遮断して!!」
「What’s Happen!?こちらから制御できない!!」
「初音!!?」

 蒼白する綾香は、放電を放っているTHコネクターの中で苦しみもがく初音を見て狼狽した。

「電脳連結を利用してオゾムパルスを送り込むなんて!!このままじゃ、初音の精神が持たないわ!!」

(Aパート終了:MMM特戦隊所属、マグナム弾に酷似した形態の「戦術砲艇弾丸TH六号(ブリッド・カモフラージュ形態)」の映像とスペックが表示される。Bパートへつづく)