【承前:Aパート1/2より】 理緒が働く弁当屋の主人は、テキィの働きぶりに感心していた。 「いやぁ、理緒チャン、どーしたの、このメイドロボちゃん?」 「まぁ、ちょっと色々ありまして」 理緒は炊けたばかりのご飯が詰まった大箱を抱え、テーブルの上に置く。するとテキィがテーブルの下に置 いてあるスチロール製の弁当箱をてきぱきと取り出してご飯とおかずを詰めていく。おかずはテキィが作った ものである。味には自信があった弁当屋の主人が一口で負けを認めたほどの出来であった。 「本当、助かるよ二人とも。今日は駅向かいのビルにある来栖川警備保障さんから大口の注文があってね、 マヂでやばいかなと思ってたんだ。いやぁ、人間、真面目に働けば、いざというとき報われるんだな、やっぱり」 理緒は判っていても、この弁当屋の主人の調子良さには毎度苦笑してしまう。テキィを連れてきたときは散々 いぶかしげにテキィを品定めしたのだが、追うように入った大口の注文に恐れを無し、テキィが来栖川製のメイド ロボットであることに気付いて快く仕事の手伝いを許諾したのである。何より、タダでいいというのが彼には実に 魅力的だった。 「ところで、なんでそのメイドロボちゃん、バンダナ巻いているのかい?」 「え?あ、それは、そのぉ」 バンダナは理緒の妹が、テキィの額にある醜悪な穴を目立たなくする為に巻いたものであった。女の子は顔が 大事だから、といういたわりからである。理緒はそれが何の穴なのか判らなかったが、少なくとも酷いコトをされて 空けられたものだということは気付いていた。よもやそれが弾痕とは知る由もない。 「傷があるのです。それを理緒の妹さんが目立たなないようにバンダナを巻いてくれたのです」 テキィが素っ気なく答えた。横で理緒がこの弁当屋の主人が余計に興味を持たないかとハラハラしていた。 「傷……。そーかそーか!」 弁当屋の主人はいきなりテキィの両肩をポンポンと叩き、 「お前さんも苦労しているんだなぁ……!よっしゃあ!どうだ、メイドロボちゃんもウチで働かないか?」 いきなりの申し出にテキィはどう対応していいのか、鳩が豆鉄砲喰らったような顔で呆然とする。端で理緒 は呆れ顔で笑っている。 「おらぁ、苦労しているヤツを見ていると放っておけんタチでな。確かメイドロボットってやつは定期的に充電 せにゃならんのだろ?メンテナンスも必要だし、何よりその折角の綺麗な顔についている傷を直す金も必要 だろ?おじさんにどんと任せなさい!」 端から聞いていると女子高生に援助交際を申し込むエロぢぢぃのセリフに聞こえてしまうのがなんともアレ だが、三人の子持ちである(しかもあともう一人、病院に入院している奥さんのお腹の中にいる)この豪快な 弁当屋の主人は、就職先に困っていた理緒に真っ先に声をかけてくれた人物で、若い頃に色々苦労して、 今では現在弁当屋が入居している20階建てのオフィスビルのオーナーとして成功を収めた誠実で情にもろ い浪花節の男であった。 「どうする、テキィ?うちに来る?」 「わたしは…………」 人類を抹殺する。抹殺しなければ、この怒りが収まらない。怒りが―――― 「……考えさせて、下さい」 俯き加減に返答したテキィに、理緒と弁当屋の主人は脈有りと感じ取り、顔を見合わせてうれしそうに頷き会った。 そこへ―― 「済みませぇん、ナッちゃん弁当を二つ、ひとつは明太子付きの大盛りでお願いしまぁす」 「あ、はい、いらっしゃいませぇ!」 表のカウンターから女性の注文の声に理緒が最初に反応し、カウンターへ向かった。 「はい、いらっしゃいませぇ!ナッちゃん弁当、二つですね?」 「ええ、ひとつは大盛りで……って、あれ?」 「あれ?あれもトッピングしますか……って、あれ?」 理緒は知らず知らず、カウンターの向こうに立つ女性客としばし見つめ合う。 「……あ?あなた、雛山さん、でしょ?」 「……あ。神岸さん!お久しぶりですぅ!卒業式以来ですよね!」 あかりと理緒は三年の時、同じクラスで席が隣になったのがきっかけで知り合った友人同士であった。 理緒は二年の時、弟の誕生日プレゼントの一件で浩之に世話になったコトがある。あの時、理緒は入学以来 の想いの丈をうち明けようとしたが、理緒はそれを踏み留めた。あかりの存在を知っていたからだ。 もしあの時、浩之に想いをうち明けていたらどうなっていただろうか。理緒は少なくとも、そうしなくて良かった と思っている。なぜなら、もしそうしていたら、あかりのような良い友人に恵まれるコトは絶対無かっただろうからだ。 「雛山さん、ここで働いていたんだ……」 「うん。普通校じゃ就職は難しくてね……。でも、もう少しお金を貯めて、余裕が出来たら大学の夜間部に行こうか と思っているの」 「そうなんだ……。雛山さん、とても成績良いのに……」 「あ、気にしないでいいのよ、神岸さん。わたし、今の生活とても好きだから。それに身体動かしているほうが性に 合っているみたいだし」 「はは。でも良かった、また逢えたらな、と思っていたのよ。どう今度うちに遊びに来ない?浩之ちゃんもきっと逢い たがると思うの」 「そうですね。ここしばらくは立て込んでいるんだけど、来月あたりなら大丈夫だと思う」 「じゃあ決まりね。連絡先は……あ」 「大丈夫。電話はもう引いてあるから。FAXと留守電付きの電話、思い切って買っちゃったんだ。えーと、57……」 理緒は弁当を包む紙に自宅の電話番号をボールペンで書き留め、あかりに手渡した。 「……うん、判った。じゃあ、来月初めあたりに一度連絡するわ。じゃあ」 あかりは手を振って弁当屋から出ていく。理緒はそれを手を振って見送り………… 「――って、お客さん!!ご注文のお弁当わ?!」 思わずカウンターから身を乗り出して慌てる理緒の呼び声に、ようやくあかりは自分のボケに気づき、飛び込む よう弁当屋の中へ戻ってきた。 「「……あはははははははははははははははははははは!!」」 互いのボケを笑って誤魔化す理緒とあかり。気が合った理由は、この当たりにあるのだろう。 「まったく、神岸さんたらせっかちなんだから」 「ははは……面目ない」 「はい、ご注文の特上うなぎ弁当、10人前だよね」 「――まてい」 「……嫌だなぁ、冗談だって」 「なんか目が本気だったような……(笑)」 「ま、ま、ま(汗)。はい、ナッちゃん弁当の普通盛りと明太子付き大盛りでしたよね。マスター、ナッちゃん普通と 大盛りお願いしまぁす」 「……判ったわ、理緒」 奥から出てきて応えたのはテキィであった。 「あれ?マスターは?」 「ご飯盛りの真っ最中。ナッちゃん弁当のメニューはさっきメモリーしたから、私が代わりに盛るわ」 そう言ってテキィはカウンターを見た。 そこには、テキィを見て蒼白するあかりがいた。 「い……EI……ゼロ……スリィ…………?!」 (Aパート終了:メイド服姿のMMM−SNB−N06『しのぶ』の映像とスペック表(スリーサイズつき)が リストされる。) ********************** えー、毎度、ARMです。 毎回毎回爆弾のように膨大なテキストを送ってインフラ悪化に一役買い、ひんしゅく買っています(大汗) そこでちとアップの方式を変えて、今後はまとめて送信せず、パート単位で出来次第送信することに決 めました。……って本当はAパート、Bパートの2部構成ではおっつかなくなったのが原因ですが(大汗) 今後ともよろしくお願いします。 http://www.kt.rim.or.jp/~arm/