東鳩王マルマイマー第5話「その名は超龍姫」Cパート 投稿者:ARM


【承前】(MMM諜報部チーフ、ミスタの映像が映る。Cパート開始)

「レフィ。残念だが、それでは何の解決にもならない」

 大モニタからのミスタの言葉に、レフィは何故?と聞き返した。

「EI−03は本日未明、横須賀にある宇宙資源開発センターを襲撃し、そこで小型酸素発生装置
を強奪している。その装置は、鉱物を化学分解して珪素と酸素を抽出する仕組みになっており、
EI−03は珪素を吸収して身体を増大させ、同時に、抽出した酸素を周囲に放出しているのだ」
「つまり……周囲にガラスや岩のような鉱物がある限り、EI−03は化学分解を続けて高濃度の
酸素を放出し続ける……と?」
「まず元を絶たねば、イタチゴッコになるだけだ。逆に、高濃度酸素による汚染地域を拡大させて
しまうばかりだ」
「なんてコト……!」
「保科さん!わたし、マルマイマーでEI−03を浄解します!」

 智子へ進言するマルチに、レフィは目を丸めてびっくりし、マルチの右肩を鷲掴みにした。

「――マルチ、なにバカなコト、言ってンのよ!さっきの話をちゃんと聞いてた?浄解させたとき、
核のメイドロボットを引き抜いたら、残ったボディがこのあいだの時みたいに大爆発を起こすのよ!
そんなコト、させられるわけないでしょ!?」

 レフィは今にも殴りかかりそうな勢いでマルチを叱咤する。
 処がマルチは全く臆している様子もなく、智子をじっと見つめて言葉を繋げた。

「ディバイジンク・クリーナーの使用で、被害半径ぎりぎりで済むのなら、そのほうがマシです」
「……マルチ……あなた……」

 凛とした表情で進言するマルチをみて、唖然としたままそう呟くレフィは、いつの間にかマルチ
の肩から手を離していた。

「……それが……どない意味か……あんた判ってンの?」
「プロテクト・シェイドも必ず効くかどうか判らない状況なのよ!」

 レフィは再びマルチの右肩を掴み直した。レフィのその手は激しく戦慄いている。

「そんなの、自殺行為よ!――アルト!?なにを!?」

 レフィはマルチの肩を掴む自分の手を引き剥がしたアルトを驚いた顔で見る。
 アルトは何も言わず首を横に振る。
 その空いたマルチの肩へ、レフィの手と入れ替わるように、智子は無表情のまま右手を降ろし、
マルチの顔を見つめていた。

「……わかった、マルチ。行って……くれるか?」
「保科参謀!!?」
「泣き言しか言わんあんたは黙っときっ!!」

 智子の罵倒がレフィを圧倒する。しかし、次第にレフィの顔が怒相に変わり、

「――泣き言いっているかどうか、見てもらおうじゃないか!ヤツはボクが倒す!」

 智子に怒鳴り返したレフィは踵を返し、管制室の右側にある右側内包甲板移動用リフトへ駆け込
んだ。

「レフィ!」

 驚くアルトも慌ててレフィの後を追う。おろおろするマルチは二人の背と智子の顔を行き来した。

「……ふぅ」
「……あ、あの……保科さん……」

 心配そうに見つめるマルチの頭を、智子は優しく撫でた。

「……ホンマ、あんたの妹たちには苦労させられる。――行ってくれるか?」
「あ?――あ、はい!」


「イークイップ!」

 右側内包甲板内へ向かうレフィがそう叫ぶと、リフト内に閃光が走る。その光の中で、レフィの
額に巨大なVの字のツノが現れ、その下から右目を覆い隠す緑色の透明カバーが出てくる。サイバ
ースコープと呼ばれるそれは、様々な情報をそこに表示させるモニタなのである。ホーンクラウン
と呼ばれるVの字のツノとサイバースコープが装備された状態が、イークイップとよばれるレフィ
の戦闘形態なのである。
 レフィを載せたリフトが右側内包甲板に到着し、その後を追ってアルトを載せたリフトも到着した。

「レフィ、無茶しすぎだぞ」
「あんたまでゆう?――あんたもマルチを戦闘に出したいわけ?」

 怒鳴るレフィの両手首をアルトは正面からいきなり掴んだ。

「……熱くなり過ぎだぞ、レフィ」
「熱くもなるわよ!保科参謀、身勝手すぎる!他の人間たちもそうよ!」
「それはお前も同じだ」
「アルト?!」
「――お前ばかりが姉さんを心配しているのではない。自分も、オーナーの藤田さんや神岸さん、
MMMのメンバーも同じ想いだ」
「しかし!」
「だからこそ、われわれが姉さんを護らなければならないのだ!」
「……!」

 アルトの真摯な叱咤に、レフィは顔を俯き加減に背けた。

「……我々にはその『力』がある。今こそ我々が心をひとつにしなければ――」

 アルトの説得に耐えきれなくなったレフィは強引にアルトの手を振り払い、甲板のカタパルトの
上へ駆け出した。

「『ミラーコーティング』!!」

 レフィのかけ声と同時に、レフィの全身に銀色の粒子が噴霧蒸着される。まるで鏡で女神像を想
像したかのようなそれは、レフィの全身を電磁材粒子でコーティングしてTH弐式の右側内包甲板
から、電磁反発によるレールガン式カタパルトで物体を射出するための準備なのである。

「発進!」

 レフィが言うな否や、レフィの身体かふわりと宙に浮き、凄まじい勢いで外へ飛んで行った。そ
の後を追うように、アルトも全身をミラーコーティングし、カタパルトから発射された。
 先行して宙を飛ぶレフィの全身から、ミラーコーティング用電磁材粒子が剥離されていく。後か
ら追ってきたアルトは粒子剥離後、クルーザーモードに変形し、さらに前輪と後輪を90度スライ
ドさせ、飛行可能なホバーモードへ変形し、ブースターを使ってレフィの下方に回り込む。飛行中
のレフィは腰のアポジモーターを吹かして接近し、アルトに颯爽とまたがった。

「アルト……」
「もう何も言うな。――今は、敵を倒すことのみに専念しよう。我々には浄解が出来ない以上、狙
うはただ一つ」
「――酸素発生装置の破壊!」

 撃ち出されたアルトとレフィは、寝そべっているEI−03が固着している地点より400メー
トル手前の道路に着地した。アルトは着地寸前で再びクルーザーモードに変形し、着地のリバウン
ドで一回宙に浮いて絶妙なバランスで無事着地し、EI−03目がけて一気に突き進んだ。

「レフィ!このあたりの酸素濃度が43パーセントを越えている!火器はいっさい使えないぞ!」
「有効なのは、アルトのチェーンナックルと、あたしの――」

 滝のような勢いで後方へ流れていく景色の発信源にEI−03の姿を認めたとき、レフィはアル
トの上から飛び出した。

「『ライトニング・コレダー』!!」

 高速走行状態でフィギュアモードに変更ながら、両手を突き出してチェーンナックルを仕掛ける
アルトのその上に飛ぶレフィの両腕から、龍のツノを想起させる2本の放電用シリンダが突き出る。
EI−O3の上から仕掛けるレフィの拳に10万ボルトの電撃が走り、その拳がEI−03に叩き
付けられた。
 次の瞬間、めり込んだレフィの拳から電撃が走り、EI−03の身体が無数の電撃波に包まれる。
追ってアルトのチェーンナックルも叩き込まれ、その衝撃でEI−03の胴体が仰け反りかけた。
しかしEI−03は直ぐに体勢を戻し、背中から無数の金属の触手を吹き出して二人の身体を吹き
飛ばした。

「くうっ!なんてパワーだ!」
「しかし位相空間バリアーを張っていないから、接近戦で叩けるわよ!」

 立ち上がったレフィは両手を背中に回し、そこから2本の金属棒を取り出し、接合して1本の長
棍にした。

「『ホイール・ロッド』!!」

 長棍の先端には超高速振動ホイールが内蔵されており、ホイール稼働時の先端に触れた物体は分
子レベルで粉砕を可能とする、レフィ専用の格闘戦用武器なのである。加えて、中世において、琉
球唐手と並んで琉球王朝を庇護した無双の棍闘術『九鬼(くかみ)流棒術』の動きを完璧にトレー
スしたデータがレフィのデータベースに組み込まれている。その戦闘力の高さは、次々とEI−0
3から繰り出されてくる触手がホイールロッドの超高速振動波による打撃によって粉砕され、あっ
という間にレフィを無傷で本体に辿り着かせたことから判るだろう。

「『龍牙突き』!」

 レフィは棍の先端をEI−03に突き立てる。棍との接触面からEI−03の装甲が霧状になっ
て粉砕され始め、一気に内部に貫通し突き刺さる。内部からの破壊にEI−03はまた仰け反り腹
を見せると、レフィは再び電撃を伴った両拳をその腹に叩き付けた。超振動波と電撃の二段攻撃に、
EI−03は今度は間違いなく仰向けに倒れた。

「レフィ!腹の下!」

 アルトが指したのは、まるで妊婦のように膨れているEI−03の下腹部だった。

「そこねっ!!」

 レフィとアルトは、酸素発生装置が内蔵されていると見抜いたEI−03の膨れた腹目がけて拳
打の攻撃を仕掛けた。
 ところが、その膨れた箇所が突然幾重に割れ、その中から鋼鉄の触手が飛び出して二人を吹き飛
ばしたのである。2度目のダメージはかなり効いたらしく、二人とも直ぐには起きあがるコトが出
来なかった。

「……ふ、フェイク――――?!」

 ふらふらと起きあがろうとするレフィ目がけて、EI−03の触手が襲いかかった。
 だがそれを受け止めたものがいた。

「ま、マルチ――いえ、マルマイマー!!」

 倒れ込んでいるレフィをかばって触手を両手で受け止めたのはファイナルフュージョンを完了し
たマルマイマーであった。

「早く!」

 マルマイマーに促され、慌ててレフィは起きあがって後退する。見届けたマルマイマーはフルパ
ワーで触手の先を押し潰し、それを掴んで本体に投げ返してレフィの隣まで後退した。

「マルチ!あなた、なんでここに来たのよ!」
「えーと、ミラーコーティングに撃ち出されて、です。なにせ、スラスターだと必要以上に燃焼す
るから危なくって」
「そうじゃなくって!そんなしらじらしいボケでごまかさないで!」
「え、そう言う意味じゃなかったのですかぁ?」

 真顔で聞き返すマルマイマーをみて、レフィは激しい脱力感に見舞われる。

「レフィさん。今はどうこう言っている場合じゃありません。3人で力を合わせて、一刻も早く酸
素発生装置を破壊しないと、被害が増大しますよ!」
「そんなことは!――」

 思わず拳を握りしめて怒鳴るレフィだったが、何故かそこで複雑そうな顔をして絶句してしまう。

「……判って……る……わよ」

 レフィは堪らずそっぽを向く。
 しかしマルマイマーはレフィの頬を両手で押さえ、強引に自分の方へ向けさせた。

「――判ってない」

 レフィはマルマイマーのこの突然の行動に目を剥くが、自分を見るマルマイマーの真摯な眼差し
に何も言い返せなかった。

「レフィさん、判ってない」
「何が……判っていない……ってゆうの……よ」
「いま、私たちがやらなければならないことです」
「やらなければならないこと?」

 レフィの頬を押さえたままマルマイマーはゆっくりと頷いた。

「……わたしには、なぜレフィさんがわたしをこんなに嫌うのかよくわかりません。正直言って、
わたし、レフィさんのような人、苦手です」

 マルマイマーはそこまで言った途端、急にレフィが唇をかみしめたコトに気付く。その顔には何
故か怒りが感じられなかった。むしろ、哀しげであった。

「……だけど、自分一人で『済む』なんてこと、考えないで下さい」

(この人――?!まさか気付いて――??)

 レフィの目に驚愕の光が宿る。
 動揺するレフィに、マルマイマーは優しく、それでいてどこか淋しげに微笑む。

「……レフィさん。今はお互いのわだかまりは忘れましょう。わたしたちがなすべきコト、それは
酸素発生装置の破壊と、核となっている私たちのメイドロボット(いもうと)を助け出すコト。―
―そしてなにより、みんな無事に帰るコト」

 マルマイマーがレフィの顔を見据えていう言葉を聞きながら、レフィは驚きの顔をゆっくりと崩
し、やがてどこか照れくさそうな笑みを零した。

「……わかったわよ。――そうよね。今回は共同戦線としゃれこみましょう」
「なんかイヤな言い回しですね――うわっ!」

 二人が話し込んでいるスキを狙い、EI−03が二人目がけて触手を撃ちはなってきた。二人は
咄嗟にその場から離れて攻撃をかわす。

「えぇい!ブロウクンマグナム!」
「あ、ダメ!」

 レフィが驚いて制止するが、マルマイマーの右腕のブースターに火が点る。その途端、右腕の側
面にある回転用ブースターから爆炎が噴き出し、あわれマルマイマーは黒こげになる。

「このドジ!ここじゃ火器は厳禁なのよ、もう……ぷぷっ」

 レフィはマルマイマーのドジを叱るが、あまりにもトホホな姿につい吹き出してしまった。

「あーん、笑いますかぁぁぁ、トホホホホホ」
「だって……ねぇ……ぷぷっ」

 レフィが口元とお腹を押さえて笑い出そうとした時、再びEI−03が触手攻撃を仕掛けてくる。
咄嗟のことに防御が遅れたレフィがダメージを覚悟するが、横から飛んできたアルトのチェーンナ
ックルが飛来する触手を粉砕した。

「自分だけ仲間外れですか?」
「「そんなことない!」」

 マルマイマーとレフィは笑い声で応え、わざとらしくふてくされているアルトの側まで飛んだ。

「アルト!ボクとアルトでヤツをもう一度ひっくり返すわよ!マルマイマーはひっくり返っている
うちに、酸素発生装置をサーチして!」
「判った!」
「二人とも、気をつけてください!初音さん、サーチお願いします!」
『判ったわ!』

(Cパート終了:白いコネクタースーツを装着した柏木初音の映像と3サイズの上が白マジックで
塗りつぶされているスペック表がリストされる。Dパートへ続く)