What’s マルチュウ その六 投稿者:ARM


【承前】するよ、今回も。

 ポケモンにハマった長瀬ら来栖川電工の技術者たちが、伊達と酔狂で創り上げた究極のヴァ
ーチャルマシン、その名も「ヴァー……ヤバヤバ、「KVGB(クルスガワ・ヴァーチャル・
ゲームボーイ)」!考えたことが実現している世界と量子レベルで接続することで、究極の仮
想感を楽しめるウルテクマシンを使い、浩之とマルチュウは東鳩とポケモンワールドが融合し
たアレな世界へ向かった。そこであかりのお気に入りモンスター「フシギバナ」を見つけだし、
あかりにプレゼントしなければ浩之の命がなくなるのである(爆)(まてまてっ!どっからそー
ゆー話が?!<浩之)のだが、さてどうなる?

「……ってもなぁ、どこをどう行けばいいのか……?」

 鬱蒼と生い茂る森の中を進む、浩之とマルチュウ。来るときはさんざん嫌がったマルチュウ
であったが、流石はメイドロボットというべきか、意外と適応力は高いらしく、今ではハイキ
ング気分でスキップしている。

「ねぇねぇ、ご主人様。あかりさんも連れてくれば良かったのでは?」
「無茶ゆうな。今のあかりの機嫌をとるのは、約束通りフシギバナを差し出さなきゃならんの
だ。……それに口きいてくれないしぃ、トホホ」

 ほうぼうからザマァみろ、という悪意の込められた毒電波が浩之に注がれるが、とうの本人
はその事には気づいていない。ちぃ。
 落ち込む浩之を見て、口では何だかんだ言っても、あかりさんには弱いんだな、とマルチは
気取られぬよう微笑んだ。

 そんな二人を、遠くの茂みから伺っている者がいた。

「……何よ、ヒロのやつ!ポケモントレーナーなんてかっこ悪ぅ、なんて言ってたクセに、し
っかりピカチュウ連れているじゃないの!」
「志保ちゃん、あれはどーみてもピカチュウには見えないよ……(笑)」
「うるさいわねぇ、雅史!あの黄色い身体に独特の大きな耳と稲妻のような尻尾!誰がどう見
たってピカチュウでしょうが!」

 浩之たちの様子を伺っていたのは、浩之の友人である長岡志保と佐藤雅史であった。しかし
その出で立ちは何とも珍妙で、胸に双葉のマークが入った白色のつなぎに皮のブーツと手袋で
身を包んでいる。…………あ、志保がこっちに気づいた。

「――なによ、このカメラ?」

 済みません、今、「マルチュウ」を撮っているのですが(笑)

「何がマルチュウよ。丁度いいわ、我々の自己紹介と行きましょうか!『世界の破壊を救うため!』
…………ほら雅史、ゆいなさい!」
「……えー、ゆうの?」

 雅史は困ったような顔をしてみせた。

「男でしょ!それでも世界征服を企む秘密結社『リーフ団』の一員なの?!」
「うーん(^_^;……わかったよぉ、『世界の平和を守るため!』」
「『愛と真実の悪をつらぬく、ラブミーチャーミーなかたき役』」
「『雅史と』」
「『志保』!」
「『銀河をかける〈リーフ団〉には、ホワイトホール』」
「『白い明日が待っている!!』――やー、きまった、きまった」

 満足げに笑う志保とは対照的に、雅史はそばの木に片手を付いてうなだれ、はぁ、と困憊し
きった溜息を吐いていた。

「そーゆーわけなのよ、よ・ろ・し・く・!」

 はいはい、わかりましたよ。とりあえず、こっちのほうは無視して下さい。

「なによ、その言いかた?――って、何よ雅史ぃ?」
「志保ちゃん、そっちはほっといて本編に戻ろうよ。ほらほら、浩之が行っちゃう、行っちゃう!」
「え?あ〜〜っ!!雅史、ヒロを足止めしなさいよ!」
「そんなぁ……。別にあのまま行かせてもいいじゃない」
「なぁぁぁぁにぃっ、ゆーとるのぉっ!ヒロの行く手を阻むのがあたしたちの使命でしょうが!?」
「え?いつ?誰から?そんな使命を?」
「うるさいわねぇ!たった今、あたしが決めたのよ!ヒロの嫌がるコトをするのが
あたしたちの使命なのよ、お〜〜っほっほっほっほっ!!(゚▽゚)」
「……志保ちゃん、目が怖い(^_^;」

 と、二人がバカな会話をしているうちにも、浩之とマルチュウは森の道を進んで行く。
 志保が慌てて雅史の首根っこを捕まえ、後を追うと言うが、雅史は困ったふうな顔をしてみせた。

「でも、浩之、ポケモンもっているよ」
「ピカチュウぐらいなによ!あたしたちもポケモンで対抗するのよ!」
「僕らのポケモン?――ダメダメ、この間あの4姉妹に負けたとき、全部巻き上げられたじゃないか」
「あ゛?」

 志保はつい一週間前、ツルギシティで、ある4姉妹と些細なことからポケモンバトルでの喧
嘩となってしまい、長女が繰り出した鬼のように強いピカチュウにボコボコにされ、手持ちの
ポケモンを全部巻き上げられていたことをようやく思い出した。

「その場の勢いだけで勝負したのが敗因だったでしょ?もう少し計画性ってものを考えないと……」
「あ〜〜っ!うっさいうっさいうっさい!!ポケモンが無いならとっとと見つけだしてくるっ
てのが男でしようがっ!!きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!」

 ヒステリーを起こした志保は、雅史の頭をポコポコ叩きはじめた。佐藤雅史、不幸な男である。(笑)

 カメラは再び浩之とマルチュウに戻る。

「……あれ?ご主人様、あれ」
「なんだ?――って、あれ?こんな森の中に家があるぞ」

 二人の行く手を阻むかのように、道の突き当たりには高い塀に囲まれた大きな洋館が佇んで
いた。道は門の鉄柵の向こう、洋館の玄関まで延びていた。

「こんな森の中に住むなんて酔狂な」
「お金持ちの別荘……でしょうか?」

 二人が戸惑っていると、突然、洋館の門が開かれた。

「どうします?いかにも入って下さいと言わんばかりの展開ですが」
「どうするもこうするも、道はここで止まっているんだ。とりあえず行くしかないだろ」
「運が良ければ、森の抜けかたを教えてもらえるかもしれませんね。
ここはひとつ、腹をくくりましよう」

 珍しく肝の据わったマルチュウに感心しつつ、浩之は洋館の玄関のほうへ足を進めた。
 玄関の扉の前に立った浩之が、扉を開けようと手を伸ばした瞬間、いきなり扉が開いた。

「先ほどの門といい、自動扉ですかね」
「少なくとも、幽霊の仕業とは思いたくないね」

 浩之は息をのみ、軽く舌打ちすると室内へ一歩足を踏み入れた。
 正面に広がる大広間は、まだ昼間だというのに真っ暗闇であった。洋館の中はひっそりと静
まり返り、息づく者ひとつない死の世界のようである。 

「留守、でしょうか」

 と、マルチュウが浩之にきいた途端、大広間の奥から物音が聞こえる。驚いたマルチュウは
浩之の身体に飛びつき、ガタガタとふるえ出す。

「おいおい、ロボットがお化け怖がってどうする?」
「だってだってだってだってだってなんだもん!!ご、ご主人様は怖くないのですか!?」
「芹香先輩の部活で馴れちまったよ」

 オカルト研究会の幽霊部員……(笑)

「それに、幽霊じゃなさそうだ」

 といって浩之が指した大広間の奥に、火の点いた燭台を持った人影が立っていた。
 ゆっくりと近づいてくるその人影の姿がやがてはっきりとしてくると、浩之は思わず目を瞠った。

「――芹香先輩!?」

 闇より現れた人物こそ、浩之の通っていた高校の先輩、来栖川芹香であった。白いドレスを
まとう芹香は突然のちん入者にも動じることなく相変わらず無言のままであった。
 やがて浩之は、芹香がマルチュウをじっと見つめていることに気づいた。

「もしかしてここは芹香さんの部活の場ですか?」
「バカ言ってンじゃないよ、ここは俺たちの世界じゃないだろ!――そうか、ここはこの世界
の来栖川家の別荘だったのか!」

 浩之が両手をぽんと叩いて納得すると、まだ闇に半分呑まれている芹香が、こくん、と頷いた。

「……え?ようこそ?あ、失礼しました、勝手に上がり込んでしまって……え?正確には、来
栖川の別荘ではない、って?」

 芹香は頷くと、きびすを返してもと来た闇の中へ進みはじめた。どうやらついてこい、とい
っているらしい。浩之とマルチュウは慌てて芹香の後ろをついていった。
 芹香が持っている燭台の僅かな灯びを頼りに浩之とマルチュウが闇の中を進んでいると、い
きなり正面が爆発したかのように白く包まれた。

「わっわっわっ!!??」
「えーい、いちいち驚いて抱きつくな!どうやら外に通じる扉が開かれたようだぞ」

 眩む二人の視界に、ゆっくりと光にとけ込んでいく芹香の背中があった。二人は慌ててその
後を追い、外に飛び出した。

「「――ここわ?」」

 驚く二人が目にしたもの。外に出たものだと思った二人は、実は沢山のカクテルライトの灯
りが注がれている巨大な室内闘技場だったからである。

「一体これは……って、え?ようこそ、クルスガワ・ポケモンジムへ、――だと?」

 大きく瞠る浩之に、芹香は頷いて見せた。

「え?ここへ来た理由はわかっています、ポケモン勝負に来たのでしょう?ちょ、ちょっと待
ってよ、先輩!俺は別に……って、え?では横にいるピカチュウは何ですか、だって?」

 驚いたままの浩之は、傍らできょとんとしているマルチュウに一瞥をくれ、

「ちょっと待ってよ!こいつは別にポケモンじゃなくって、ただのメイドロボットだって!―
―へ?メイドロボットを知らない?だって、これは先輩ンちが作ったメイドロボット――」
「ご主人様、ご主人様。おそらくこの世界では、私みたいなメイドロボットはいないのでは?」
「……うむ、なるほどそうなのかもしれない。案外、こちらの世界じゃ、メイドロボットじゃ
なく、メイドポケモンなのかも……って、そーなるとマルチュウ!ヤバいぞ!」
「へ?」
「だって、そうなると、この世界ではお前はポケモンになるんだから、他の連中から闘いを挑
まれることになるんだぞ!」
「あ゛!?もしかして、芹香さん、私にポケモン勝負を挑んでいるのでは……?」

 そこまで言って口をぱくぱくさせるマルチュウが指した先には、芹香と、そして芹香の背丈
より一回り大きい巨大なポケモンボールがあったのである。

「……な?なんだ、あのあからさまにあやしいポケモンボールは?」
「あ、あんなでかいものが“ポケット”モンスターといえるのですか?」

 思わず唖然となる二人の目の前で、巨大なポケモンボールが突然震えだした。

「……ご主人様。何となく、わたし、“オチ”が見えてきました」
「……奇遇だな。俺も、中に〈誰〉が入っているか、目で見ているようにはっきりと想像できる」

 次第に震えが激しくなっていくポケモンボールの中から、

「喝ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!」

 と奇怪な、そして良く知っている叫び声が聞こえ始めてきた。お約束通り。(笑)

「ご主人様……(汗)もしかすると、あの中の〈お方〉、電撃大王10月号の、安永航一郎先
生が描いたアの……ぴ……ぴ、ぴかちゅぅ(大汗)のコスプレなんかしてそうで……」
「き、き……奇遇だな……!お、俺もそれを想像してしまった。し、しかしな、あれはぴかち
ゅうではなく、デカチュウとゆう……とても……うぇ(大汗)」

 見る見るうちに青ざめていく二人を余所に、芹香はポケモンボールの中央にあるボタンを押
して中からポケモンを出そうとしていた。

「「ちょ、ちょ、ちょっとまったぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!(号泣)」」

 芹香を静止させようとする二人の制止の声はまさに魂の慟哭であった。〈彼〉のデカチュウ
のコスプレ姿を想像し得たものならば、全く同じ反応をするであろう。

「せ、先輩ひ!な、なかにどんな災厄(爆)が入っているのか、ご存じなんですか?」

 芹香は、こくん、と頷いた。その仕草はどこかためらいがちであった。

「な、なら!そ、その中に入っているヤツの姿をよく想像して下さひ!」

 浩之の切実な願いを素直に聞き入れた芹香は、ボタンから手を離し、俯き加減に沈黙する。
 やがて、はじめは不思議そうにしていた芹香の顔色が青ざめ始め、遠くからでも全身がわな
ないているのがはっきりとわかった。どうやらまともにあのコスプレ姿を想像してしまったら
しい。(激爆)そのうち、芹香は半べそを掻き、その場にうずくまってしまった。不断の姿なら
なんともないが、やはり彼のデカチュウのコスプレは、非常識慣れした芹香にも相当、精神的
に参るものであったようだ。(笑)
 浩之はなんとか最悪の危機を免れたと安堵の息を吐いた。そして両手を広げて、

「先輩!こっちこっち!いつまでもそんなバッチイもの(笑)のソバにいると精神的に良くない!」

 浩之のやさしくいう声を聞いた芹香はおもむろに面を上げ、やがて立ち上がって駆け出し、
浩之の胸に飛び込んだ。

「おー、よしよし。辛かっただろうね、よくがんばったねぇ……(笑)」

 浩之は泣きじゃくる芹香の頭を優しく撫でながらなだめ、そして拳を作った右腕を振り上げて、

「へっへっへっ、芹香先輩、ゲットだぜ!(激爆)」

 おいおい。(笑)

「……ご主人様。あのとてもいやーんなポケモンボール、ますます暴れているのですが(汗)」

 マルチュウが心配そうに見つめていると、浩之に抱かれている芹香が、手に持っていたコン
トローラーのスイッチを入れた。
 すると、巨大ポケモンボールがある床が抜け落ち、その下に広がる深い闇へ、
「お、おぢょうさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!????」
と悲痛な叫び声を引きながら真っ逆さまへ落ちていった。あわれよのぅ(笑)

「……ところで先輩。先輩が持っているポケモンの中に、フシギバナっていうポケモンはいませんか?」

 浩之の質問に、しかし芹香は済まなそうに面を横に振った。

「そうですか……。って、え?この先にあるツキシマシティにいけば、何か手がかりが得られ
るかも知れない、って?そうか、ならツキシマシティへ向かうぞ!ありがとう、先輩!」

 大喜びの浩之は芹香を強く抱きしめる。

「……え?先輩もついていく、って?さっきのゲット?ああ、あれは勢いで……って、マヂ?
本当にゲットでいいの?大ラッキィィィィィィィ!!」
「ご主人様、目が危ない……(苦笑)」

 新たなる発せられた呪いの毒電波を受けながら、浩之はまったく気にもせず、芹香をゲット
……もとい、仲間に出来たことを大喜びした。こ、このぉ(以下数文字、不穏当な発言により削除)
野郎が!いい気になるんじゃないぞ!(爆)


 一方、謎の秘密結社『リーフ団』のメンバーである志保と雅史は、いまだ森の中でポケモン
を探し続けていた。
 やがて志保は、近くの川の上流からぷかぷかと流れてくる、非常識なまでに大きいポケモン
ボールに気づいた。

「雅史!あれ、ポケモンボールじゃない!とってとって!」
「……アレ?あんな怪しいという言葉を物質化させて組み合わせたような、あからさまに怪し
いポケモンボールは、ちよっとやめたほうが…………(大汗)」
「がたがた言わない!さっさと獲りなさい!!きぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」
「あーん、もうわかったからそんなに叩かないでよぉ」

 雅史は泣く泣く、川に入って問題の巨大ポケモンボールを取り上げる。予想よりかなり重い
それをひとりでひいこら言って担ぎ上げ、何とか志保の前に置くコトが出来た。

「さぁて。(笑)このポケモンボールに入っているポケモンちゃんは、いったい何かしらねぇ、
楽しみ、楽しみ」
「志保ちゃぁん……ボク、これ以上は嫌だよぉ……(泣)」
「あー、もー、男ががたがた言わない!こんな見るからに嫌そーなものなら、ヒロも死ぬほど
嫌がるに決まっているでしょうが!あたしはヒロが嫌がることなら、喜んで悪魔にでも魂を売
るわよ!(邪笑)」

 志保の魂など、悪魔だって願い下げだ――、と雅史は心の中でぼやいた。それを浩之のよう
に口に出来ればどれだけ楽なことか。自分の心の弱さを、雅史は嘆いた。

 やがて、喜悦する志保は巨大ポケモンボールの開放スイッチを両手で勢い良く叩いた。
 プシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!中から勢い良く煙が吹き出し、ポケモンボールはまっぷたつに分
かれ、その中にいたモノを白日のものにした。

「「――やなかんぢぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」

「え?」

 クルスガワポケモンジムを背にした浩之は、遠くから聞き覚えのある絶叫を耳にするが、気
のせいだろう、と直ぐに忘れた。

                         あー、まだ続く

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