東鳩王マルマイマー:第4話「碧と紅」Bパート 投稿者:ARM


【承前】(MMM基地「バリアリーフ」の全体映像とスペックが表示される。Bパート開始)

「さて」

 憮然とするマルチが見たものは、梱包された段ボール箱が幾重にも重なっている大広間であった。

「とても掃除のし甲斐がある部屋ですね」
「……まぁ、ね」

 初音は頬を人差し指で掻きながら照れくさそうに答えた。

「……本当にここが、人類の存亡を握る超秘密防衛組織の司令室なのですか?」
「『えるくぅ』の出現が予想より早かったのよ。実働に必要最低限な設置しか終わっていないの。
このあいだの闘いだって、蛍光灯すら設営されていない状態だったし。
あたしが上の総務の倉庫から蛍光灯を持ってくる途中にオゾムブースターが出現したものだから、
慌てた慌てた(笑)」
「……あのぅ、もしかして……?」
「え?」
「今日、呼ばれたのって、MMMの紹介だけでなく、もしかしてここの掃除を手伝うためですか?」

 どきっ!はっとなる初音を見て、マルチは図星をついたコトに気づいた。

「あ、あ、そ、そうよ、いえ、そうぢゃなくって、
――そ、そうだ、そうだ、早速ここのメンバーを紹介するわね」

 冷や汗の初音は話題を逸らそうと、部屋の奥で梱包を解いている数名の男女のもとへマルチの腕を
強引に引っ張っていった。

「長官、マルチが到着しました」
「あぁ、初音、お迎えご苦労さん。いま出るわね」

 そう言いながら机の下から出てきたジャージ姿の女性こそ、来栖川綾香であった。
大富豪のお嬢様と呼ばれるなかで、これほど親父くさいスポーティスタイルが
美しく見栄えする女性は居るまい。

「あ、綾香さん!?」
「お久しぶりね、マルチ。姉さんの成人パーティ以来かしらね」
「MMMの長官って綾香さんだったのですか!びっくりしました……!
長官というから、てっきり男性だと……」

 瞠るマルチに、綾香は少し埃の掛かった前髪をたくし上げて微笑み、

「こう見えてもあたし、表向きは来栖川警備保障の重役でね。MIT(米マサチューセッツ工科大学)
卒業後すぐ今のポストに収まって、それからここへ出向。我ながらインチキみたいな人生よ」
「よくゆうわねぇ。身分不相応だなんて言わせないわよ。子供の頃からの英才教育の賜物でしょ」

 初音が意地悪そうに言うと、綾香は苦笑いしてみせた。どうやら初音と綾香は古い友人なのか、
あるいは幼なじみのようであった。
 ややあって、綾香はマルチのほうへ右手を差し出した。

「では、改めて。MMM長官、来栖川綾香です。これからよろしく頼むわね」
「はい」

 マルチはにこり微笑んで握手した。

「では早速」

 そういって差し出された綾香の左手には、モップが握られていた。

「とりあえず、空いている床をこれで掃いてくれる?」
「……やっぱり(^_^; 
  ……まぁ、この有り様を見れば、メイドロボットのオイルが騒ぐので構いませんが」
「ごめん!本当、人手が足りなくって!アルトも梱包解きを手伝って!(^人^;」

 苦笑する綾香は両手をあわせてすまなそうに頭を垂れた。なんともぶざまな正義の味方の大将だが、
不思議とこんな仕草も似合う可愛らしい女性である。
大財閥のお嬢様らしからぬところが、綾香の魅力であった。

「ところで綾香、レミィの姿は見えるけど、智子はどうしたの?」
「ああ、ハツネ!」

 名前を呼ばれた事に気づいたレミィが、段ボールの山からひょっこり顔を出した。

「そーだ、シバク、ってナニ?」
「?しばく?」

 きょとんとする綾香たちを見て、レミィは小首を傾げた。

「Why?Don’t You Know?トモコ、チャーシバク、っていってさっき出ていったヨ」
「ちゃーしばく……茶をしばく……一服する――智子めぇ、この忙しい時に、掃除サボる気だなぁ!
どっち行った、レミィ?」
「Westゲート」
「――あの極楽トンボめ!アルト、あのタコを連れ戻して!言うこと訊かないなら、
速射破壊砲で脅してでも連れてきなさい!承認するわ!(笑)」

 苦笑するレミィをひと睨みした綾香は、アルトのほうへ向いて智子を連れ戻すよう命令した。
アルトはやれやれ、と後頭部をマニュピレーターで掻きながら、
Westゲートと書かれた出入り口をローラーダッシュで走り抜けていった。

「人手不足……って、そんなにここ、人が居ないのですか……」

 そう言ってマルチが指したその先に、見慣れた人物が段ボールの梱包をカッターで解いている
姿を目にした。

「――ご、ご主人さま!」
「やあ、マルチ」

 と、浩之はとぼけた挨拶をしてみせた。

「ど・ど・ど、どーしてご主人さまがここに?朝早くから外出されたご用ってまさか?」
「いやぁ、前々から綾香に引っ越しの手伝いを頼まれていてな、
まさかここの引っ越しだったとは思わなかったが」

 マルチが当惑するのも無理もない。ここは人類の存亡をかけた超秘密防衛組織の拠点。
浩之は部外者であった。

「あらマルチちゃん、早かったわね」

 今度は、聞き慣れた声が背後から届いた。

「あ゛あ゛っ゛?あかりさん!」

 振り向いた先には、エプロン姿のあかりがはたきを持って段ボールの埃を払っていた。
無論、あかりも部外者である。マルチはあんぐりと口を開けたままになった。

「智子から引っ越しの手伝いを頼まれてね。まさかこことは思わなかったし、
浩之ちゃんまでいるとは思わなかったわ」

 そう言って苦笑するあかりを暫く見つめていたマルチは、やがてつむじ風を起こすような勢いで
綾香のほうへ振り向いた。

「綾香さん!ここって、ここって、人類の存亡をかけた超秘密防衛組織の拠点なんですよね?
そうなんですよね?\(;_;)」
「ええ、そうよ。――藤田君にあかりさん、あともうちょっとしたら、
砂場(注:都内で有名なそば屋の名前です)に出前を頼んだ引っ越しそばが”ここ”に来る頃だから、
がんばってね」                                          
「あいよ」
「はぁい」

 マルチは激しい脱力感に見舞われ、その場にへたり込んだ。
ここは人類の存亡をかけた超秘密防衛組織の拠点……。超秘密防衛……。
そこに部外者のみならず、あまつさえそば屋の出前まで来るとは……。

「ちわー、三河屋ですが、今日はなンかありますか?」

 南ゲートから聞こえてきた威勢のいい声に、マルチは前のめりに突っ伏した。

「あー、丁度よかった。あとで実家のほうに醤油とみりん、2ダースほど入れてくださるかしら」

 この秘密基地に酒屋が来ようが、その後ヤクルト販売のヤクルトレディやダスキンの営業マンが
ぞろぞろとやってきて営業しようが、マルチはもう怖くはなかった。
ただ、マルチにとどめを刺したのは、三河屋に答えた綾香の庶民臭さであった。
流石は日本の経済の命運を握る大資本、来栖川グループを率いる一族。ただ者ではない。
 しばらくのあいだ、厭世観にも似た激しい脱力感に突っ伏すマルチの後頭部を、突然、
何者かがしっかりと踏みつけた。

「邪魔よ」

 にべもない声が後頭部に降りかかる。踏みつけられた足が離れた途端、半べそをか
くマルチは勢いよく起きあがった。

「だ、誰ですかぁ〜〜〜〜!?痛いですぅ〜〜〜〜〜!」
「そこで突っ伏しているあなたが悪い」

 マルチの後頭部を踏みつけた人物はそういってマルチを睨んだ。どうやらわざと踏んだらしい。
よくみると、大きな段ボール箱を抱えていたので、その分、ダメージは大きい。
かなり意地悪な人物である。
 だがマルチは、その人物を見た途端、思わず目を丸める。

「あ!沙織さぁん?!どうしてここに?」

 マルチはその人物を知っていた。独立した浩之が住んでいるマンションの隣室に住んでいる
水無月さんという新婚夫婦の若奥さんだったからである。
 しかし、どこか様子が違う。
腰まである長く綺麗な栗毛を冠するその美貌は確かに彼女のものであった。
だが、マルチの知る沙織は、高校時代バレーボールに熱中していたことがあるという、
体育会系特有のあのあっけらかんとした明るさはなく、落ち着きの払ったその仕草には、
裏打ちされた計算通りに動くような冷徹ささえ伺えた。
 雰囲気だけでない。沙織はこんな派手な紅いメイド服を着るタイプではない。いやそれ以前に――

「……あ。その耳は……!」

 沙織の両耳には、見慣れたものがあった。
 メイドロボットに必ず装着されている、イヤーカバーがついていたのだ。

「驚いたか、マルチ」

 浩之が苦笑しながら言う。

「本当、隣の奥さんに似ているだろ?でもな、彼女もマルチと同じ、メイドロボットなのさ」
「メイド……ロボット!」
「正式コードナンバー、『MMM−SDQ−L02』。コードネームは『レフィ』」
「え゛?う、うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」

 漫画の神様、手塚治虫の技法なら、顔面の目鼻が上空へ飛び上がってしまうだろう、
そんな驚き方をしてマルチは絶句する。無理もない。想像では女装したアルトであったからだ。
レフィと名乗ったメイドロボットは、しばらくマルチを睨み続け、ぷい、とそっぽを向いて、
段ボールを抱えたまま、また進んでいった。
 あまりにも素っ気なさ過ぎて唖然としかけたマルチであったが、
すぐに我に返り、慌ててレフィを呼び止める。

「あ、あ、あ、れ、レフィさん!ごめんなさい、わたし失礼なコトしちゃったようで……!
わ、わたし、HMX−12……じゃない、今はKHEMM−12SPX型、マルチ、っていいます!
よろしく!」

 そういってマルチは手を差しだし。握手を求める。
 しかしレフィは応じない。

「……これ」

 どこかうんざりした物憂げな表情をするレフィは、両手で抱えている段ボール箱を
マルチのほうへ突き出してみせた。確かに無理だった。

「あっ?!ご、ごめんなさぁぁぁぁい!!」

 マルチは愚行に気づいて狼狽する。
 レフィはそんなマルチを無言で冷ややかに見下ろしていたが、やがて、ふぅ、と気怠げに溜息を吐き、
踵を返して仕事に徹し始めた。

「え゛え゛え゛〜〜〜ん゛!怒らせてしまいましたぁぁぁぁ!」
「もう、相変わらずドジなんだから。――レフィもそんなに冷たくしないでね。これでも一応、
マルチはあなたのお姉さんなんだから」

 苦笑しながらマルチをなだめる綾香に、レフィは一瞥をくれた。

「――ボクはあなたみたいな『出来損ない』を姉とは認めない!」

 がーん。泣きじゃくるマルチの背後に稲妻が走る。
無論、漫画の技法における「大ショックを受けた時」の表現のそれである。

「出来損ない……出来損ない……出……来……損……な……い……!び・えぇぇぇぇ
ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんんんんんんんんんんんんんんんんんっっっっっっ
っっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 とうとうマルチは火が点いたように大声で泣き出してしまった。

「おいおい。そんな言いぐさはないだろ?」

 堪りかねて、身を乗り出した浩之が、レフィを睨みつけた。

「確かにマルチは鈍くさくって、ドジで、マヌケで、しょっちゅう皿は割るし、
不燃物と可燃物の区別は出来ないし、布団をベランダに干しても地面に落としてしまうし、
相変わらず『ミートせんべい』しか作れないし………………。うーむ /(_ _;」

 浩之は深刻そうな顔をして、頭を抱えてうずくまってしまう。
結局、マルチを余計に泣かせるだけであった。

「……浩之ちゃん、フォローする気あるの?!(^_^;」

 あかりは頭を抱えて呆れてしまった。
 かたわらで苦笑する綾香は頬を指先で掻きながら助け船を出す。

「まぁまぁ、二人とも。レフィ(あのこ)は実直な性格だから歯に衣着せられないのよ」
「……歯に衣着せないってことは……あーん!綾香さんまでそんなことゆーんですかぁあぁぁぁあっ!
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんんんんんんんんんっっっ!!」

 綾香の助け船はカチカチ山の泥船であった。マルチはさらに大泣きした。

「Well〜〜、『正直者は莫迦を見る』ネ」
「「「違う!」」」

 レミィのボケにすかさず浩之たちがつっこむ。
 しかし、

「やっぱり、みんなあたしのコト、バカだと思っているんですねぇぇぇぇ!
ひーどーいーでーすぅぅぅぅ!び・ええぇぇぇぇぇぇっっっっっっんんんんんんんん!!」

 声を張り上げて泣きわめくマルチをみて、初音はどこで覚えたのか、
「ろぼっこピートン」の主題歌を小声で口ずさんでいた。
「出来損ない」がキーワードとなって触発されたらしい。
まったく、どいつもこいつも、のんき者ぞろいである。

「……バカばっか」

 マルチを囲んで大弱りする一同を無視して、レフィは自分に与えられた仕事に徹することに決めた。
 だが、マルチたちは気づいていない。

 一同に背を向け、口惜しそうに唇をかみしめるレフィの寂しげな顔に。

                        #4 了

 【次回予告】

 キミたちに最新情報を公開しよう!

 MMMに所属する事となったマルチの前に現れた、マルチの妹、レフィ。
 マルチに辛く当たるレフィの本当の「想い」とは一体なんだ?
 大爆発を起こしかねない暴走EI−03との闘いに、死を覚悟したマルマイマーを救うべく、
碧と紅の兄妹ロボットは奇跡のシンパレード100%を実現する!
 立ち上がれ、『超龍姫』!うなれ、メガトンツール『イレイザーヘッド』!

 東鳩王マルマイマー!ネクスト!
 第5話「その名は超龍姫」

 次回もこの伝言板で、『ふぁいなる・ふゅうぢょん』承認!

 勝利の鍵は、これだ!

 「MMM−SDQ−LR77『超龍姫』」
 「超空間振動メガトンツールMMM−EH『イレイザーヘッド』」
                                    

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