What’s マルチュウ?四だけどまた番外(笑) 投稿者:ARM


【承前】しない。(笑)今回も、番外。

 遙か過去より綿々と連なる狩猟民族「エルクゥ」の血は、
その末裔たちに厳しい試練を与え続けていた。
 試練に破れた者たちの末期は、いづれも悲惨な運命が待ち受けていた。
柏木耕一の父もまた、その一人であった。血の宿命に破れた彼は、
その呪わしき運命を周りに及ぼすことを怖れて自らの命を絶った。
 しかし、その悲壮な覚悟が、彼を愛した者たちに深い哀しみと、
新たな試練を生み出すことになるとは、なんともやりきれぬ宿命であろうか。

「柏木の男たちが背負う鬼の血の試練からは、決して逃れることは出来ないのです」
「待ってくれ、千鶴さん!この俺の胸に付いている痕は、俺がつけられたものじゃなくって、つまり――」
「いいえ。それは間違いなく、昨夜私が暴走したあなたに負わせた痕に相違ありません」

 夜更け、従姉妹の柏木千鶴とその妹、楓に呼び出されて、家の近くを流れる川の上流にある水門に
やってきた柏木耕一は、昨夜起こった事件に対する身の潔白を必死になって二人に説明するが、
千鶴はただ悲しげな顔を横に振るばかりであった。

「――楓ちゃん!君なら!君なら、信じてくれるはずだろぅ!?」

 耕一は今度は、千鶴の横に立つ楓に訴えた。
 だが、楓は面を横に振り、

「……私だって、あなたを信じたい。……でも……」

 楓は耕一を信じたかった。しかし、昨夜、警官や通行人を襲った怪物が耕一ではないという
証拠が無いのである。逆に、千鶴が負わせた痕がある以上、今の楓には弁論する道が
どうしても見つからないのだ。

「楓ちゃん!」

 困惑するばかりの楓を遮るように、千鶴が一歩前に出た。

「……判りました。耕一さん。あの鬼があなたでないとしても、
あなたが柏木の男子であることには変わりありません。いづれにせよ、
このまま耕一さんが不安定のままでいるコトは危険です。
――決着を着ける良い機会なのでしょう。わたしが、あなたの中にある鬼の血を覚醒させてみせます」
「えっ?」
「血の共鳴によって、耕一さんの中に眠る鬼の血を覚醒させることが出来るのです。
――しかし決して制御できないわけではありません。祖たる次郎衛門がそうであったように、
そして私たちの祖父のように鬼の血を制御出来た柏木の男もいるのも事実。
可能性に賭けてみましょう。しかし――」

 自分を見据える千鶴の悲壮な眼差しに、耕一はようやく覚悟を決めた。

「……わかったよ。もし、俺が鬼の血を制御できなかった時は、二人で……俺を……」

 わななきながら必死に言う耕一の姿に、楓は堪らなくなって耕一に抱きついてきた。

「――耕一さん!ダメです!もっと強く自分を信じて下さい!
そうでなければ、あなたは鬼の血に負けてしまいます!
――勝ってください、血の試練に!あたしたちの為に!
――もうこれ以上、大切な人を……失いたく……ない……から…!」

 自分の胸の中で愛する者に泣かれることがこれほど辛いこととは。耕一は失いかけてた自分を
必死に維持しようと、唇を強くかみしめた。これは絶対勝たねばならぬ試練なのだ。

「……楓、離れて。……耕一さん。いきます」

 千鶴に促され、耕一は泣きじゃくる楓から離れて千鶴の正面に立ち、ゆっくりと頷いた。

 しばし闇の中に静寂が流れた。

 シュゥゥ!突然周囲の気温が下がりはじめた。千鶴が鬼の血を発動させたときに生じさせる、
大気中の分子運動の一時的低下によるものである。白い珠を紡ぐ三人を取り巻く世界は、
昏き碧色を増していった。
 パシィン!突然、耕一は仰け反った。頭部に弾丸を受けたようなその反応は、
鬼の血を覚醒させた千鶴の脳波が一種の電磁波となって、耕一の脳に干渉した証拠である。
 鬼の血を継ぐ者同士の干渉は一度で充分だった。
見よ、仰け反った耕一の身体からは電撃がほとばしり、世界を青白き白色に塗り替えていく様を。
そのあまりの凄まじい反応に、千鶴と楓は思わず眩んでいた。
 やがて耕一の身体に劇的な変化が始まった。白色に包まれた耕一の体表は波打ち、
その姿を大きく変えていった。
 変貌は激しく、そしてゆっくりと行われた。
 まもなく、巨大な二本のツノを持つ獣が、その身を包む白光を引き剥がしながら闇の中に現れた。
果たしてそこにいるモノこそ、耕一の変化した姿であった。
これこそ、鬼、いや、エルクゥなのか?

「……耕一……さん……?」

 千鶴は耕一だったモノに問いかけた。
 だが、それは何も返事しなかった。
 否、たった一言だけ。

「――ピッカァ!」

 絶妙な間を置き、

「「いやぁぁぁぁぁんん!!か、可愛いぃ過ぎるぅぅぅぃぃぃぃぃ!!\(*^_^*)/」」

 エルクゥの末裔の女たちは、さっきのあの悲壮な貌が大嘘であったかのように、
この世の至福を独り占めにしたような笑顔で黄色い歓声を上げた。

「やっぱり、そうよ!見間違いないわ!このラヴリィな姿、見間違えるハズもないわよ!
昨夜、警官隊や通行人を電撃で襲ったポケモンこそ、耕一さんだわ!」
「ピカピカピカァ!
(意:待て待て待て!俺だ耕一だ!見てくれよ、エルクゥの血を制御出来ているって!
昨夜の電撃ポケモンはやっぱり俺じゃないって!)」

 しかし、ピカチュウ=耕一の台詞は「ピカピカ」ばっかりで、
相好を崩しっぱなしの千鶴と楓には全く通じていなかった。

「ね、姉さん!い、急いで!これはもう辛抱出来ないわ!(笑)」
「そ、そうね、楓!――耕一さん」

 耕一のほうに向いた千鶴は慄然たる鬼の相貌に戻る。

「……耕一さん。

    ――――あなたを、『ゲット』します」

「ピィカァァァピカァァァ!?(意:わー!?おいコラ待て、何だそのうれしそーな顔わ!?
千鶴さん、楓ちゃん、落ち着いて、おーちーつーいーてーぇ!!)」

 どかーん!千鶴は慌ててポケットから取り出したポケモンボールをピカチュウ=耕一に投げつけたが、
土壇場に弱い千鶴らしく、ピカチュウ=耕一には当たらず手前に落ち、
その衝撃でポケモンボールが大爆発してしまったのである。
その衝撃で、ピカチュウ=耕一は背後にあった水門の下へと落ちてしまった。

「ああっ!ピカチュウ、いえ、耕一さんが!」
「大変!ピカチュウのような電気系ポケモンは水に弱いのよ!あのままでは、ピカチュウ
……もとい、耕一さんが死んでしまうわ!」

 暗い澱みの底へ沈んでいったピカチュウ=耕一の姿を二人は追うが、
闇の帳は水面に浮かぶ泡さえも覆い隠してしまった。

「「ピカチュウぅ!いえ、耕一さぁん!」」

 水面の奥底を周章狼狽して探し回る千鶴と楓を、離れた闇の中からじっと見据える、
一対の獣の瞳があった。効果音は「きゅぴーん!」が似合いそうである。
 獣はこの成り行きを、血塗れのような紅い瞳でじっと見守っていた。
そして、事態が予想通りに運んたコトに気をよくし、ついに二人の前に出現した。

「――ライ・ライ・ライ・ライ・ライ・ライ・ライ・ライ・ラァイ!!」
「「ピ、ピカチュウ?!どうして――」」

 ここに来て、千鶴はようやく真実に気づいた。

「ち、違う!お前は…………『ライチュウ』!!」
「ラァイ」

 ピカチュウが進化した電気系ポケモン。
あの愛くるしい容姿から戦闘性を強調させたこの強力電気系ポケモンこそ、真犯人だったのだ。

「あぁ……なんてことを……うわぁぁ!」

 失意のあまり立ち眩んだ楓めがけて、ライチュウは10万ボルトの電撃を放った。
哀れ、楓は電撃によって黒こげとなり、お約束ともゆうべきアフロヘアと
黒い煙の吐息を吐いて卒倒した。

「楓!?――この電撃はまさしく昨夜の!?」
「へっへっへっ!次はお前だ、ライラァイ!お前もアフロヘアにしてやるライ!」
「やっぱりお前なのね!警官隊をみんな『小柳トム』にしたのは!(笑)」
「……古いライ。バブルガムブラザーズのブラザートムの昔の芸名を覚えている人いるのかライ?(笑)
――年の功、ってやつかライ?」

 そう言った途端、殺気に包まれた千鶴の右手は閃光と化し、けらけら笑うライチュウに襲いかかる。
慌ててライチュウはそれを何とかかわしてみせる。冷や汗をかくその顔は、
ゆーてはならんことに触れてしまった自分の迂闊さを後悔している様子であった。

「ライチュウ……お前は……絶対殺すっ!!」
「ライライライ!でっきるっかな、でっきるっかな、はてはてふむー?」
「そんな歌唄うあんただって、そーとー年寄りでしようが!(笑)
そんなネタ、読者に通じるとおもってるのっ!?」
「いーんだよ、どーせこのHPは18歳以下は覗いていないんだから(笑)なぁ、おばはん?」
(……あぁ、なんて心にも無い台詞を……>俺(笑))
「うきぃ――!い、いったわねぇぇぇぇぇぇ!!!まだあたしは四捨五入すれば
二十歳なのよぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!(爆)」

 根本的なところで低レベルの喧嘩となっている千鶴とライチュウの死闘が繰り広げられている
水門の底で、ピカチュウ=耕一は昏い澱みに漂っていた。次第に全身から力が抜けていく感覚に、
ピカチュウ=耕一は死を覚悟していた。

(……あぁ……このまま死んでしまうのか……俺はまだ……千鶴さんと(自主規制)していないし、
無論、楓ちゃんや梓とも(自主規制)していないし……初音ちゃんとはアレするのは
この時勢ちょっとやばいなあぁ(笑)、こんな阿呆なSSじゃなく、
小説版のようにやりたい放題な世界(爆)に出たかった……なにもこんなアレな……
あぁ……寒い……なんだかもう……どうでもいーや……)

〈諦めるのはまだ早いですぅ〉

 突然、ピカチュウ=耕一の脳に強力な電波が届いた。
あまりの衝撃にピカチュウ=耕一は薄れかけていた意識を取り戻した。

(――な、なんだなんだ!?誰だ、今の声は?)
〈わたしですぅ。こっちこっち〉

 電波の促すほうへ振り向いたピカチュウ=耕一は、
そこに、水中にもかかわらず緑色の光に包まれた人影を認めた。

(誰、あんた?)
〈わたしは、マルチュウ。あなたに命を届けに……もとい、救いにやってきました!〉
(マルチュウ?……救いに?)

 はい、と来栖川電工製HMX−12型改PKC仕様、通称マルチュウが頷いてみせた。

〈ピカチュウのような電気系が水に弱いのはご存じのハズ。しかし、わたしはその弱点を克服した、
電気系兼水系のポケモンなのです〉
(……え?どーやって克服したの?)
〈克服、とゆーか、そのぉ……〉

 マルチュウは赤面してもじもじとする。

〈――そ、そんなコトはどうでもいいのですぅ!
今、あなたに必要なのは、水という弱点を克服する私の力ですぅ!〉
(……どーやんのさ)
〈こーです!ゴルディオン・ナックル、発動承認!〉

 マルチュウがそう叫ぶなり、突然水中に黄金色の人影が出現する。
そしてその人影は変形して巨大な右拳となると、マルチュウの右腕とドッキングしたのである。

(待て待て待て!それは、まだ禁断の未公開ネタ……!(笑))
〈問答無用!ナックル・ヘル・アンド・ヘヴンっ!!ゴルディオン・ハリセーン!
光となれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!〉
(うっひゃぁぁあああああああああああっっ(笑))

 一方、水門の上では、千鶴がライチュウのパワーに圧倒されてボロボロになっていた。
狩猟民族の本能に忠実に従う鬼と、人の心という枷(かせ)に縛られている千鶴。
この差は覆しがたい大きな差であった。
 一瞬の隙をついてライチュウが千鶴に電撃を放つ。
千鶴は慌てて大気中の電子運動に干渉して衝撃を低減させたが、全てを押さえられたわけではなく、
はじき飛ばされて水門の上に叩き付けられてしまった。
千鶴の背筋に激痛が走る。脊椎を粉砕してしまったようである。
これ程度なら鬼の血で一晩寝ていれば回復できるが、戦闘中ではこのダメージは致命的であった。

「ライライライライライ!この世の人類全てをアフロヘアに変えていくさまを、
あの世から見ているがいいライ!」
「こ、これまでなのぉ!――はっ!?」

 全身を駆けめぐった絶望感が千鶴の頭頂に達した瞬間、
突然水門の底から巨大な黄金色の柱が闇を撃ち抜いた。
 驚く千鶴とライチュウがその柱を見ると、
その中から黄金色に包まれたピカチュウ=耕一の姿を認めた。

「ピッカァ!『波乗りピカチュウ』、見参!千鶴さん、今助けに行くよぉ!!」

 見よ、究極のピカチュウ『波乗りピカチュウ=すーぱー耕一(爆)』の雄志を!
これが!水に弱いばおーの最強ばおーあーむどふぇのめん
……もとい、水に弱いピカチュウが水を克服した最強ばーぢょんなのである!!

「こ、耕一さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん!」

 千鶴はその雄志に感涙した。

「――ひゃっほう!」

 感涙したはいいが、しかし千鶴はほとんど条件反射でポケットからポケモンボールを取り出し、
あろう事か「波乗りピカチュウ=すーぱー耕一」をゲットしてしまったのである。

「やったわ、波乗りピカチュウ、ゲットだぜ!…………あれ?」

 ぴゅぅぅぅぅぅぅぅ。あまりの出来事ゆえに、千鶴もライチュウも呆気にとられたまま、
真っ白な世界に包まれていった。

(…………千鶴さんの、大ボケぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)

 その後の世界が『アフロヘア』によって補完されたかどうかは、不明である。

                       終わり、終わり(笑)

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