東鳩王マルマイマー第3話「奇跡の心(エピローグ)」 投稿者:ARM


【承前】

「――勝った」

 ほくそ笑む長瀬の言葉を証明するように、ハナを抱きかかえたマルマイマーが爆炎の中から
  ゆっくりと歩いて出てきたのである。
  爆発の瞬間にプロテクトシェイドを発動させていたのを、長瀬は見逃していなかった。
 感極まった浩之は思わず長瀬のほうに振り向く。
  にっ、と笑う長瀬が右手を差し出すと浩之はそれを勢い良く平手打ちし、ガッツポーズを取った。
 そして、ほっと安堵の息を吐くあかりの身体を抱きしめて、「やった、やったぞ!」を大騒ぎした。
  口ではああ言ったものの、やはり本音では浩之はあかり以上に心の底からマルチのコトを
  心配していた様子である。涙目になっていたあかりは苦笑しながら浩之の胸に身を埋めた。


「『TH伍号』によるサテライトビューの測定結果でも、EI−02の完全殲滅を確認しました!
  Congratulation!Yeah!」
「……初戦は見事勝利したわね」

 大声で万歳三唱するレミィの後ろで、綾香は、ふぅ、と安堵の息を吐いた。

「だが、今回の目標物があのEI−01でなかった以上、再びこのような『鬼』の――
『えるくぅ』の新たなる侵略は必至ね」
『今度は、逃さない』

 THコネクター内から届いた初音の声に驚いた綾香は、
  発光が収まりつつあるTHコネクターを見た。

『8年前の決着を……お姉ちゃんたちや耕一さんが果たせなかった決着を……今度こそ!』

 その凛とした揺るぎない決心を口にする盟友に、綾香はゆっくりと頷いて見せた。

「そうね。―あたしたちに『りずえるの遺産』がある限り、きっと勝てる。いえ、勝ってみせるわよ!」

『りずえるの遺産』。そう口にした時、
 綾香は正面のモニターに映っているマルマイマーを満足げに見つめていた。


「ハナっ!」

 マルマイマーに救出されたハナに老婆は抱きつき、まったく無傷であったことに心から喜び、
 何度も何度もマルマイマーに頭を下げた。
 ここまで感謝されてしまうと、流石にマルチ自身照れくさいようで、
 頬を指先で掻いてはにかんでいた。やがて、ハナは再起動して両目を開けた。

「――――お、おばあさん!!恐かったですぅぅぅぅ!!」

 再起動したハナは老婆の姿を見るやなんと泣き出し始め、老婆の身体に抱きついたのである。
  老婆はその反応に戸惑うが、やがて目を潤ませ、ハナを愛おしげに抱きしめた。

「プログラムだとは判っていても感動的だな」

 マルマイマーの労をねぎらってその頭を撫でていた浩之は、
  そのほほえましい光景を照れくさいながらに感動した。
  だが、
「いや。あのような擬態行動プログラミングは組んでおらんよ」
「……へ?」

 長瀬は話を続けた。

「マルマイマーの『ヘル・アンド・ヘブン』は、ブラックボックスに組み込まれているTHライドの
  リミッター『心OS』の制御下を離れて暴走したTHライドに対し、暴走反応炉の沈静化を
  可能とする。しかしその事により、『心OS』は無防備となってしまい、
 『ヘル・アンド・ヘブン』発動時にマルマイマーから発せられる超電磁波の強い影響を受け、
  システム的に劇的な変化が生じる――」

 そういって長瀬は、抱き合う老婆とハナのほうへ、促すようにあごをしゃくってみせた。
 長瀬の言わんとするコトを、浩之は即座に理解した。思えばこのハナと呼ばれるメイドロボット、
  浩之はあまりにも親近感が湧くので妙な気分はしていたのだ。

「『心OS』と呼んではいるがソフトウェアではない。
  THライドのコアを構成する心OS』と呼称するサーキット部から、
  臨界点稼働時に発せられる特殊な波形で構成されるパルスが、
  AIに強く干渉するコトを偶然発見してな、それを利用してわたしはマルチのAIを完成させたのだ。
  ただし、『心OS』から発せられるパルスを利用してAIをセットアップするには、
  THライドを臨界点に達するまでの手間と膨大なエネルギーを要する。
  THライドが爆走寸前まで行きながらマルチが完成したことはまさに奇跡だった」
「……『奇跡の心』、か」

 浩之はそうつぶやくとマルマイマーの顔を見つめる。マルマイマーは一瞬顔を合わせるが、
  すぐに照れくさそうに俯いた。

「その事実もあって、上層部は機能面とコスト面を秤にかけ、さらにTHライドが暴走する
  危険性も考慮に入れた結果、『心OS』の任意利用を封印した。
  つまり、メイドロボットに心を与えることを見送ったというわけなのだ」
「では、あれは……?」
「マルマイマーの『ヘル・アンド・ヘブン』発動時に発せられる超電磁竜巻の正体こそ、
  件の特殊波形パルスなのだ。内蔵された5基のTHライドが全力稼働すると、
  単体での臨界点稼働時に得られる特殊波形パルスの量を遙かに凌駕したパルスが
  余剰エネルギーとなってあのように超電磁竜巻となって放出される。
  放出された超電磁竜巻はTHライドとAIを保有する目標物体と接触することで電磁連結する。
  つまり竜巻自体が巨大なサーキットと化し、マルマイマーのAIはその超電磁竜巻サーキットを
  通して相手のAIと一時的にリンクしてしまうのだ。その際、マルチの『こころ』の源たる
 『心OS』が放出している特殊波形パルスが、目標物体に搭載されている封印された『心OS』と
  AIに作用し、特殊な誘発をおこす。それはマルチが発するパルスが一種のパーソナルデータと
  なって目標物体のAIに干渉することで一種の融合を果たし、結果、通常搭載されている
  AIの許容力を越えた情報量が目標物体のAIに一斉に流れ込み、『心OS』は保全のために
  セットしていた閉塞性プロテクトを一時的に自律開放する。
  しかしその際、同時に周囲に張り巡らされた超電磁波が無防備となったプロテクトで封じていた
  サーキットにアクセスしてしまうのだ。すると、全面開放された目標物体体内の
 『心0S』は封じていた未使用の情報領域を起動させ、そこに入り込んできた
  マルチのパーソナルデータをベーシック・モチーフにAIが自律構築を開始し――」
「あー、もう判った、判ったって」

 うんざり顔の浩之は、自分の頭をかきむしりながら長瀬の雄弁を遮った。

「早い話、『ヘル・アンド・ヘブン』を受けたTHライド内蔵のロボットは皆、
『こころ』を持っちゃうってワケだ」
「えぇ〜〜〜〜〜〜!」

 一番素っ頓狂な声を上げたのはマルチであった。

「だって、マスプロタイプのメイドロボットには、わたしみたいに『こころ』はコストの問題で
  採用していないって、主査が……!?」
「いまおっさんが言っただろう、起動しないだけだ、と。
  ――はじめからTHライドには『こころ』が組み込まれていたんだよ」

 呆れ顔でいう浩之に、マルチのみならず側にいたあかりも瞠った。

「俺も変だとは思っていたんだよ。
  ロボットに心を組み込むコトがコスト的な問題があって見送られた、って言われてのに、
  おっさんから託されたファーストマルチのパーソナルディスクを量産型のボディにセットアップした
  だけであっさり昔のマルチになったもんだから。
  ハード的な問題をまるっきり無視して出来たもんだから、言っていることと違うじゃないか、
  なんでそんな嘘をついたんだろう、ってな。
  ――流石にマルチたちの『こころ』が、人類の存亡に関わるレベルの諸刃だったとは思わなんだが」

「その諸刃を鞘に収めるのが、うちら来栖川グループが結成した『MMM』の仕事なんや、藤田クン」

 智子は右手を腰に当てて不敵にほくそ笑み、

「そして、THライドに最初に組み込まれた『心』を持ったファーストマルチは
  その要(かなめ)でもあるんや。メイドロボットの中で眠る『こころ』の平穏を乱す敵と闘うために、
  どうしてもマルマイマーの力が必要なの。
  藤田クン、あかり。あんたたちには辛い選択を無理強いさせるかもしれへんけどな、――」
「ストップ、だ、保科。みなまでゆうな」

 浩之は、にっ、と笑って見せる。そして阿吽の呼吸であかりが言葉を継いだ。

「マルチちゃんは私たちの大切な『家族』です。
  だからマルチちゃんの自主性を否定するつもりはありません。マルチちゃん――」

 あかりはマルチのほうを向いて、

「……辛くなったら、私たちがいつでもあなたを支えて上げる。
  だから、あなたはあなたの意志で、これからの道を選んでいいのよ」

 そういって微笑むあかりに、マルマイマーは照れくさそうに俯いた。

「え……でも……わたし……」
「おいおい、さっきの意気込みはどうした?自主性にはまだまだほど遠いなぁ」
「ご主人様、す、すみませ〜〜ん!わたし、いつまでたっても愚図で……進歩しなくって……」
「それがダメだといっているだろ」

 苦笑混じりに叱る浩之に、マルマイマーはまたおろおろする。
  そんなさまをみて、一同はどっと笑い出した。


 マルマイマーの闘いは、これより始まる。――

(画面フェードアウト。ED:「あたらしい予感」が流れ出す)

    第3話 了
          第1部:マルマイマー誕生編 完


                ――そして、第2部 勇者結集編! へ 続く

「キミたちに最新情報を公開しよう!

 MMMに所属する事となったマルチの前に現れた、マルチの妹、レフィ。
「ボクはあなたみたいな出来損ないを姉とは認めない!」
 レフィはその高いプライドゆえ、マルチを目の敵にする。
  強敵を前に、マルチの誠意がレフィに通じたとき、兄妹ロボット、
  アルトとの奇跡のシンパレード100%が実現する!
 立ち上がれ、『超竜姫』、うなれ、『イレイザーヘッド』!

 マルチのもう一人の妹、しのぶ。彼女はその存在理由ゆえに哀しみをたたえる。

「……あたしのいのちは、マルチお姉さまを守るためだけにある。……それだけ」

 必死になってマルチはしのぶに命の大切さを説く。死さえ無意味なものと思う、
  しのぶの凍り付いた『心OS』にマルチの奇跡の心が暖かく触れたとき、破邪の閃きが闇を走る。
 三位一体、『霧風丸』!『クサナギ・ブレード』が巨悪を切り裂く!


 ――勇者たちがついに結集する。

 しかしその前に、計り知れない哀しみが、限りない怒りが、彼女たちの前に大きく立ちはだかる。

「――わたしは、決して人間を許さないっ!」

 奇跡の心でさえ届かぬEI−03の怒り。
  そして、背後で全てを嘲笑う黒い影、EI−01の陰謀を、果たして勇者たちは撃ち破れるか?


 東鳩王マルマイマー!ネクスト!
 第2部『勇者結集編!』、第4話「碧と紅」

 次回も、『ふぁいなる・ふゅうぢょん』承認!

 勝利の鍵は、これだ!

 「MMM−SDQ−LR77『超竜姫』」!
 「超空間振動メガトンツールMMM−EH『イレイザーヘッド』」!
 「MMM−SNBF88『霧風丸』」!