東鳩王マルマイマー:第2話「こころなきもの」Bパート 投稿者:ARM


【承前】(Bパート開始:アイキャッチ、MMM−THDL54「ドリルマルー」の映像と
その仕様が表示される)

 長瀬はあっさりと首肯した。

「ただの爆発事故ではなさそうだ。
照会したところ、あの爆発の起きた建物を中心に半径200メートル……」

 長瀬がそこまで言いかけたとき、長瀬達がいる居間の灯りが突然消えた。

「……訂正する。半径500メートル以内にわたって、停電およびガスの消失が認められているそうだ。
消失点(バニシング・ポイント)は、」

 長瀬が指した方向こそ、爆煙を上げる建物の方向であった。

「おそらくは、爆発の原因物が、周囲からエネルギーを吸収しているのであろう」
「エネルギーを吸収ぅ?何だよ、そら…………」

 浩之は眉をひそめ、

「……あんたがさっき言った、『鬼』の仕業とでも?」
「非科学的、とでも言いたいか?」

 そう言いたかったが、しかし浩之はそれを口に出来なかった。浩之の持て余した視線は、
あかりのかたわらで心配そうに外を見つめるマルチのほうへ向けられた。
 長瀬は浩之のその行動の意味が分かっていたらしく不敵そうに口元をつり上げた。

「……どうやら、キミも気づいていたようだな」
「…ああ。――しかしどうしてマルチがそんな奴らと闘わなければならないんだよ」
「マルチは、『鬼』の残したオーバーテクノロジーを用いられている」
「なんだと?」
「マルチだけではない。
現在、市場に出回っている来栖川電工のホームメイドロボット全てに内蔵されている
ウルテクジェネレーター『THライド』を始めとする駆動系・OS系のシステムのほとんどは、
『鬼』が設計したものなのだよ」
「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇ?????」
「あっ!?」

 浩之の素っ頓狂な声と重なるように、クマのぬいぐるみを抱きかかえているあかりが悲鳴のよう
な声を上げた。

「見て見て、浩之ちゃん!向こうから何かかやってくるわ!」
「「何っ!?」」

 長瀬と浩之は慌てて窓の方を向いた。
 あかりが指す方向から、確かに何か人間のような大きな影が、建物の屋上を次々と飛びわたって
迫っていた。その進路はあかり達にも判る。

「――こっちに、来る!?」
「あかり、マルチ、窓から離れろっ!」

 浩之は慌てて二人に飛びかかって押し倒す。間一髪、問題の大きな影が窓枠と壁を粉砕して部屋
の中へ侵入し、倒れ込んでいる三人のすぐ上空を抜いた。
 粉塵が舞う室内の中、ただ一人ひょうひょうと立つ長瀬が、粉塵の隙間でほくそ笑んでいた。

「……ほう。これはKHEMM−16型がベースになっているようだな」

 あいたた、と言いながら浩之とあかり、マルチの三人が起きあがると、薄まりつつある粉塵の向こう、
居間の中央にいる大きな人影らしきものを認めた。
 やがてはっきりとした視界の中心に、奇怪な機械の塊が佇んでいた。

「な……なに……これ……?」

 電化製品を寄せ集めして等身大の人形を造ると、こんなふうになるのであろうか。あまりにも
前衛的なデザインはとても醜悪に完成されていた。
あかりの声は震え、まだ抱きしめていたクマのぬいぐるみを、ぎゅっ、とさらに抱きしめた。
突然窓をぶち抜いた無法者が、よもやこんな異形の主とは。姿がはっきりしても暫時、
沈黙を守っていた異形が、まるで灯りのおびえ声に反応したかのように、
かろうじて人型を残していた面らしきものをあかりにいきなり向けた。

「ひっ!」

 いまのあかりは大蛇に魅入られた哀れな兎であった。竦んでしまったあかりを狙って、
異形は体内から電源コードの束のような奇怪な触手を撃ちはなったのである。

「あかり!?」

 浩之が慌ててあかりをかばおうとしたその時、あかりの正面で何かが閃いた。
 鉄の爪。
 あかりを襲った触手に斬撃を与えて断ったのはなんと、マルチをマルマイマーへバージョンアップ
させたクマのリュックサックと同じ姿かたちをする、あかりが抱きかかえていたクマのぬいぐるみ
であった。
 しかもあろうことか、クマのぬいぐるみはあかりの両腕を払いのけて飛び出し、身体をドリルの
ように回転させながら異形へ体当たりを食らわしたのだ。
その勢いは凄まじく、異形はその衝撃で窓の外へ、そしてベランダからマンションの下へ落ちていった。
 浩之達が唖然とする中、ひとり壁に背もたれして腕を組み満足そうに頷いた長瀬は、
マルチをいきなり指した

「えらいぞ、マルルン。――さぁ、マルチ、マルルンと合体してファイナルフュージョンするんだ!」
「ふぁ、ふぁいなる……ふゅ……ぅぢょん……?」

 マルチはまたもやシステムダウンで意識が遠くなりかけた。相当「あれ」が堪えていた様子である。
 そのマルチを現(うつつ)に引き戻したのは、長瀬の一喝であった。

「マルチ!今またここで現実逃避すれば、お前の大切な人達がみんな傷ついてしまうぞ!
――いや、永遠に失われてしまうかもしれないんだぞ!それでもいいのか!?」

 その声を聞くや、マルチはその貧弱な拳を強く握りしめて気を取り直した。

 ……もう誰も、死なせない。だから、――もう泣かないよ、耕一お兄ちゃん。

「はっ!?」
「マルチ!お前に課せられた運命がいま開かれたのだ!お前の『心OS』が全ての道を切り拓くのだ!
今こそ立て、立ち上がるんだ、東鳩王マルマイマーぁっ!!」
「は、あ、はぁいっ!!」

 マルチは勢いよく立ち上がった。応えてみたものの、しかしその顔はまだ当惑したままであった。

「…ノリだけは相変わらずだな、はは…。しかし何だ、東鳩王マルマイマーって?」
(い……言えないっ!あんな恥ずかしい理由……第一、あの格好だって、ご主人様には見せられなひっ!!)

 マルマイマーのコトをようやく思い出して赤面する、マルチの心の慟哭であった。
 そんなマルチに容赦なく、あのマルルンと呼ばれたクマのぬいぐるみが胴体部を頭部に収納して
リュックサックに変形し、マルチの胸に取り付いたのである。

「ひっ?ひゃっあ!?」
「あら、可愛い。クマさん、そんなコトも出来るんだ」

 ひどい目に遭いかけた直後だとゆうのに、すっかりあかりはペースを取り戻している。
きっとクマが相手ならば、森のど真ん中で一人で出くわしても平然としているコトだろう。
ある意味困ったものである。

「マルルンとのフュージョン完了。マルーマシンはすでに外で待機しているぞ、
早くファイナルフュージョンするんだ――うっ!?」

 突然、長瀬が頭を抱えてうずくまった。いや、長瀬だけではなく、浩之やあかりも一緒に頭を
抱えてうずくまった。
 この部屋ばかりではない。浩之達のいるマンションや周囲の建物、路上にいた人々が全く同じ反応を
示したのである。その範囲は、浩之達のいるマンションを中心に、半径400メートル以内に
わたっていた。
 その範囲の中で全く平気でいたのは、マルチのようなホームメイドロボットと、
一路浩之のマンションを目指す一台のオフロードバイクのライダーだけ。

「アルト!『オゾムキャンセラー』を全開に!」
「ラジャ!」

 ナイスバディをレザー製ライダースーツに包み込んだライダーの胸の下の方からその返答は聞こえた。

「あ〜〜!早よぉ……マルマイマーになってぇなぁ、マルチぃっ!」

「あ〜〜〜っ!頭が割れるぅ〜〜〜〜〜!?」
「はぁあああああっっっっっっっっ!助けて、浩之ちゃぁぁんっ!」
「ああっ!どうされたのですか、みなさん!?」

 おろおろするマルチに応えたのは、必死に立ち上がってきた長瀬であった。

「さ、さっきの……奴だ!さっきの奴が、広範囲に『オゾムパルス』を発信しているのだ!」
「おぞむぱるす?」
「人間の脳の中枢神経を乗っ取り……肉体の自由を奪い支配し……欲望を増大させたり……幻覚症状や
激痛をもたらし……受信量次第では命さえも奪われてしまう毒電波だっ!
さっきの奴が……オゾムパルスに侵されたホームメイドロボットが……吸収したエネルギーを使って……
オゾムパルス増幅機(ブースター)と化しているのだ!」
「ええっ!?それじゃ、このままじゃ皆さんの命が……ああっ、どうしましょう!」
「慌てるな……マァルぅチぃ!は、はやく、マルルンに内蔵されている『THライド』を使って
『オゾムキャンセラー』を発動させろっ!」

 のたうち回る長瀬の言葉に、マルチは急いでインナーモニタ内を検索する。
あった。
システムエクスプローラーにそれが登録されていたのだ。

「『オゾムキャンセラー』、全開!」

 途端に、のたうち回っていた浩之達が起きあがる。

「「…………あれ?」」
「激痛はオゾムパルスが与える錯覚にすぎん。毒電波がキャンセルされればたちどころに消える。
――しかしその範囲はマルチを中心に半径50メートル以内だけだ。マルチ、早くマルマイマーに
ファイナルフュージョンするのだ!マルマイマーなら5基の『THライド』が使用できる。
その範囲は半径1キロに及び、オゾムブースターの有効毒電波範囲を余裕で覆える、いそげ!」
「えっ?あ、はい、わかりました!」

 主体性に欠けるマルチは、言われるままに無惨な姿をさらすベランダへ駆け寄る。

「――うわぁっ!」

 マルチの駆け足が慌てて止まる。ベランダから外へ出ようとしたが、ここはマンションの8階。
ホームメイドロボットは多少人間より頑強に出来ているとはいえど、とても飛び降りて無事に済む
高さではない。

「わ、ごめんなさい、あたしったら慌てて……エレベーターで降ります!」
「ムダだ。この辺りの電気やガスが奴に吸収されて稼働していないだろう。
大丈夫、そのまま飛び降りながらファイナルフュージョンするのだ!」
「えええ〜〜〜〜〜〜〜〜っ?そんな無茶なぁ〜〜〜〜〜っ!?」

 あたふたするマルチは、恐る恐る手すりが無くなっているベランダから下を伺う。
 マンションの前にある道路の路上に、あの異形が放電を放っている。
オゾムパルスを周囲に放っているのだろう。
 地面までの距離。またもやマルチは気が遠くなりそうになった。

「そ、そうだ、非常階段で――」

 と振り向こうとした途端、マルチは背筋を這う奇怪な感触に飛び上がってしまう。
 いつの間にか背後に立っていた長瀬の指先が、マルチの背筋をなぞったのだ。

「きゃあっ!――――ひ・や・ぁ・ああああああああああああっ!」

 小さな放物線を描いたマルチの着地点には、頼れるべき地面が無かった。
いや、正確には遙か下にあったとゆうべきか。

「あああああああんんんんんんん!主査の、バカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 マルチの情けない罵倒が長瀬の耳にドップラー効果を与える。どんどん小さくなっている長瀬は、
懐から取り出したハンカチを振ってさえいた。

「んも――ぅっ、自棄!『ファイナルフュージョーン』しまーす!」


「マルチより入電!ファイナルフュージョン承認要請でス!」
「よろしい!ファイナル、フュージョン承認!」
「了解!」

 首肯するレミィはコンソールパネルの一点を睨む。マルチかFF要請が入ったときから、
アクリル製の巨大なスイッチが紅く点滅していた。
 レミィは右腕を振り上げて大きく振りかぶり、

「セットアップフラグ、チェックOK!ファイナル・フュージョン、プログラムドライブ!」

 レミィの正確な発音は絶叫でもあった。点滅するスイッチめがけて振り下ろされた右拳は表面の
アクリル板を粉砕し、紅いシグナルをエメラルド色に変えて見せた。

 FFの体制に入り緑色の竜巻を巻き起こすマルチめがけて、
「ステルスマルー」、「バルンマルー」、「ドリルマルー」が殺到する。

 ついにFFが始まる。ドッキングシーンは第1話Bパート冒頭のバンクフイルムが使用された。

「マルッ・マイッ・マァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

 今回もFFは成功した。
落下の衝撃を中和したのは背後のブースターとFF時に放出した緑色の竜巻である。
それでもある程度の衝撃は残っていたらしく、道路に着地したマルマイマーの両足が
道路を粉砕しながらめり込んだ。

「じぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!」

 三角塔から着地した某未来少年を彷彿させるしびれぶりをみせつつ、
マルマイマーは気を取り直して異形オゾムブースターへ向いた。

「そこの悪者さん!これ以上の「ろうそく」は、このマルマイマーがゆるしませんよ!」
「それを言うなら狼藉だろうが」

 無論、遙か上空の長瀬のツッコミがマルチに聞こえるハズもない。
それは逆でもいえるコトなのだが、何となく長瀬には、異形オゾムブースターを指すマルマイマーが
何を言っているのか想像できていたからである。
かたわらで思わず苦笑する浩之とあかりも同様であったらしい。
 しかし、異形オゾムブースターにはマルマイマーの言っているコトを理解する気はなさそうだ。
いきり立つ異形オゾムブースターは、マルマイマーめがけて無数のあの触手を撃ち放ってきたので
ある。

「うわぁっ!」

 すかさずマルマイマーは背部バーニアを使って飛び逃げる。
だが着地を狙って第2波が襲いかかってきた。

「ええぃっ!」

 触手を右腕でなぎ払うマルマイマー。不断のマルチからは想像もできないパワーで
触手は全て粉砕され、マルマイマーを捕捉出来なかった。
 触手攻撃をあきらめた異形オゾムブースターは、右腕を向けた。するとベキベキ、と引きちぎる
ような音を立てて右腕が花のように開く。これはレーザー砲に相違あるまい。
 マルマイマーはそれが発射される前に殲滅せんと、右拳を突き出した。

「いきます!ブロウクン・マグナム!!」

 その途端、マルマイマーの身体が凍り付いた。

「Oh!マルマイマーを制御する『心OS』にノイズがっ!」

 突如身体が全く動かなくなったマルマイマーめがけて、
異形オゾムブースターの右腕から発射された閃光が殺到する…………!

                       #2 了

【次回予告】

「キミたちに最新情報を公開しよう!

 突如、稼働不能となったマルマイマー。闘うことを拒絶するマルチに勇気を囁きかけるあの美女
は一体誰なのか?
 愛するものへの救いを叫ぶ老婆の悲しみに、マルチは果たしてどう応えるのか?
 うなれ、空間湾曲発生機器「デバイジングクリーナー」!
 そして奇跡を呼ぶか、必殺必生「ヘル・アンド・ヘヴン」!!

 東鳩王マルマイマー!ネクスト!『奇跡の心』。2時間のスペシャル版(謎)でお送りする!
 次回も、この伝言板で『ふぁいなる・ふゅうぢょん』承認!

 勝利の鍵は、これだ!

 『空間湾曲発生機器 MMM−DVC88 デバイジングクリーナー』」