東鳩王マルマイマーVOL1(後編) 投稿者:ARM


『 東鳩王マルマイマー:第1話「東鳩王、誕生!(Bパート)』

【承前】(Bパート開始:アイキャッチ、ハート型のステルス戦闘機「ステルス・マルー
(形式ナンバー、MMM−THSF78)」の映像とその仕様が表示される)

「きゃあああああああっっっっっ!!??」

 長瀬の号令とともに、突然クマのリュックサックの両側面から緑色の光が吹き出した。
それを抱えていたマルチは悲鳴を上げるが、やがて光の噴射によってコマのように回転し
始めた我が身をどうすることもできなかった。


「……長官。長瀬のおっさん、勝手にF・F発動しよったわ。セットアップ完了するため
には一度システムを再起動する必要があるのンなぁ……。あのへたれめ、今日は初音が居
らんのをいいコトに好き勝手しとる。このままやと、F・Fの成功率は限りなくゼロに近
いで、ホンマ、わや、や」
「かまわないわ。成功率なんて単なる目安よ、あとは勇気でおぎなえばいい!――F・F
終了までマルーマシン4機の状態、トレースに注意してね!」
「リョーカイね」


 回り続けるマルチの周囲を、噴射された緑色の光が作り出した渦巻きが飲み込んだ。や
がて噴射の停止によってマルチの回転は止まった。
 回転の止まったマルチの瞳には、いつものぼんやりとした日なたのような暖かみが消え
ていた。

「ふぁいなる・ふゅ〜〜〜〜〜ぢょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」

 心の抜けたような貌のマルチが咆吼する。すると、マルチの周囲を包み込んでいた光の
渦を3つの影が突き破るように現れた。
 上空からは、ハートの形をしたステルス戦闘機「ステルスマルー」が。水平方向からは、
「Leaf」のマークが大きく書き込まれた小型気球船「バルンマルー」が。そして地中からは、
先端に2門のドリルを持つ「ドリルマルー」が、マルチ目がけて殺到した。
 最初にマルチと接触したのは「バルンマルー」であった。船体が中央より二つに分かれ、
それぞれマルチの両肩部に接合した。次に、「ドリルマルー」も二つに分かれ、ブーツに
変形してマルチの両足を飲み込んだ。そして、マルチの背めがけて垂直降下する「ステル
スマルー」が彼女の背にドッキングした。やがてステルスマルーの下部にあった2門のブ
ースターがマルチの両腕を吸い込むとアンカー部から離れ、これで殴られたらとても痛そ
うな鋼の拳を突き出した剛腕をマルチに与えた。最後に、ステルスマルーの背部から大型
カメラを内蔵したヘッドギアが現れ、マルチの頭部とドッキングし、額のプロテクター部
に刻まれた「M」の文字を閃かせた。
 まもなく光の渦が消えると、その中からは、物々しい装備に包み込まれたマルチがその
姿を露わにした。

「まぁるぅっ・まぁいっ・まぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!」

 再び咆吼するマルチは胸を張って大見得を切るのだが、しかしこんな物々しい出で立ち
をしても流石(?)はマルチ、迫力があるのか無いのか良く判らない。

「うむ。ファイナルフュージョン、大成功」

 長瀬が満足げに頷くと、大見得を切っていたマルチの目に光が戻った。

「…………はっ!?な、な、な、なんですのぉぉぉぉぉぉををををを!?」

 正気に返ったマルチは、自分の身体に装着された機械群を見て愕然とする。

「き、奇怪な機械がぁ!?」

 まだ少し余裕があるらしい。

「落ち着け、マルチ。それはお前の性能をアップさせるための拡張オプションだ。各マシ
ンの名称と性能はすでにお前の内蔵メモリに書き込まれているぞ」
「え?…………えーと、アクセスしてみますぅ……」

 インナーモニタのコマンドリストを開いたマルチは、システムエクスプローラに新しく
追加された「MMM」と表示されたフォルダを開いた。

「ふむふむ、『背中が「MMM−THSF78・ステルスマルー」、両肩のが「MMM−
THBR17・バルンマルー」、両足のが「MMM−THDL54・ドリルマルー」……
そして胸のが「MMM−THGR・マルルン」……以上、これら「KHEMM−12SP
X専用拡張機動ユニット」は「マルーマシン」と呼称され、各機に装備された合計5基の
「THライド」が連動するコトで「KHEMM−12SPX」の機動力を400%アップ
させるのだ」
「……機動力?……『THライド』?」
「……おい。機動力はともかく、来栖川製のホームメイドロボットが自分の動力源を知ら
ないとは本気で呆れたぞ」
「ご、ごめんなさ〜〜い!」
「まあ、マルチらしいといえばマルチらしいが。まあいい、もっとも、追加装着されたT
Hライドは拡張オプション用に開発した簡易版の補助ジェネレーターとして再設計されて
いるから、多少、違和感はあるかもしれない。しかしこの拡張オプションを開発したのは
反対派が指摘する以前に我々開発スタッフが危惧していた問題を解決する為だったのだ」
「問題……ですか?」

 不安げに訊くマルチに、長瀬は頷き、

「量産型の廉価版とはいえ、充分高性能のボディを持つお前が、どういうわけか来栖川電
工が設けたホームメイド性能基準値を下回る事実に呆れ……もとい、不思議に思った我々
開発研究グループ班が、問題のギャップの正体を分析した結論が、AIのパワーに身体が
ついてゆけない、とゆうものであった」
「ボディが……ついてゆけない?」
「限りなく人間に近い感情を表現できる精細なAIを持つがゆえに、ボディがその高度な
指示要求に反応しきれないのだ。平たく言うと、今のお前は普通の乗用車にジェット燃料
を積んだようものなのだ。そこで、今までメンテナンス時に回収したデータを元に、お前
のAIがどれほどのパワーを持っているか計算し、そのパワーが無駄なく発揮できるのは
どれほどか、と再設計し直した結果、今、お前が装備している拡張オプションが完成した
というわけだ」

 ふぅん、ととりあえず納得したマルチは、もう一度自分の身体を見回した。

「再設計……にしては、物々しいですね」
「ああ。本来はこのようなものにするつもりはなかったのだがな、開発途中、
とある事情で、設計の路線変更を行った」
「とある事情?」
「その事はおいおい説明する。以後、マルーマシン全機完全装着状態を、

 『勇者王マルマイマー』

 と認定呼称する」
「えぇ〜〜?そ、そんなぁ……ゆ、勇者王だ、なんて……恥ずかしいですぅ…!」

 赤面して困惑するマルチをみて、長瀬は予想していたような顔で自分の後頭部を掻いた。

「……やはり、か。まぁ当然といえば当然だ。腕っ節には惚れ惚れするのだが、しかしあ
の長官のセンスには俺も今ひとつついていけぬ」
「どうしても、その名前じゃなければいけないのですかぁ?『ご主人様』に笑われてしま
いますぅ……」

 それ以前に、浩之がマルチのこの出で立ちを見たら、笑いすぎて酸欠してしまうのがオ
チであろう。

「……ふむ。どうしたモノか」

 小首を傾げる長瀬は、何気なく持て余した視線で東の空を見た。

 澄んだ青空に、一羽の白い鳩が飛んでいた。

「優雅に鳩が飛んでいるなぁ。鳩は平和の象徴。――よし、

        『東鳩王マルマイマー』

 に呼称変更する。以後、変更は許さん」
「……何故?(……トホホ)」
「この件についてのこれ以上の質問は諸般の事情で、無条件で却下する。――さて、各機
能の説明を行うぞ。まずは右腕を見ろ」

 長瀬に促されたマルチは不承不承、剛腕と化した自分の右腕を上げた。そしてその右腕
をじっと見つめて、システムエクスプローラーにアクセスした。

「……たしかこれは、『ブロゥクン・マグナム』……」
「そうだ。これは右腕に内蔵された8門のウルテクブースターを使い、高速回転しながら
飛んで行くマルマイマーの主砲だ」
「主砲……って、わたしタダのメイドロボットのハズじゃ……?」
「最大射程は1キロ。衛星軌道上にある来栖川グループが所有する機動衛星『TH伍号』
が発射直後から目標をトレースするので、命中率は97%を誇る」
「あーん、ひとのハナシ聞いてないよ、このヒト」
「さぁ、試してみるぞ。ほら、この道の向こうから、サバと思しきお魚くわえて逃げてく
るドラ猫と、それを追いかけている某魚介類の名前を持つご夫人の姿が見えるだろう」
「ベタベタですね(笑)」
「目標はあのサバをくわえているドラ猫だ。マルマイマーよ、ブロゥクンマグナムを使っ
て、あの猫からサバを見事取り返してみせよ!」
「あ、は、はい!」

 思わずマルチは緊張する。人の役に立つことが何より大好きなマルチの性癖を利用した
長瀬の悪辣さが良く判る光景である。

「目標、ドラ猫、ロックオン!――うおぉぉぉぉぉぉっ!」

 咆吼とともにマルチは右腕を振りかぶる。すると右腕の側面に内蔵された4門のブース
ターに火が点り、肘から先が時計回りに勢いよく高速回転し始めた。
 やがて高速回転によって右腕の輪郭は失われ、灼熱のろくろと化すと、マルチはそれを
ドラ猫がやってくる方向へ突き出した。

「――ぶ、ブロゥクン・マグナムっ!!――きゃぁっ?!」

 かけ声とともに、肘の内側に内蔵された4門の推進用ブースターが火を噴き、マルチの
右腕から灼熱のろくろが外れて発射された。その勢いはすさまじく、発射の反動でマルチ
がのけぞり倒れてしまったほどである。
 発射されたブロゥクンマグナムはドラ猫めがけて一直線に飛ぶ。その名の由来たる弾丸
に負けず劣らぬの勢いで。
 倒れたマルチがなんとか起きあがった瞬間、遠くで、何かが弾けた。縁日などで売って
いる水風船ヨーヨーが地面に落ちて割れ破れた時の、あの、

 ぺしゃ

 という他愛ない音を、強化されたマルチの聴覚センサーはキャッチしていた。
 高速回転で飛ぶのは、威力を増すためだけではない。目標に命中後、ブロゥクンマグナ
ムは回転を利用して上昇を開始する。そして最頂点に達すると、回転軸が水平から垂直に
なることにより、その遠心力を利用して本体へ帰投する。ブーメランが手元に戻ってくる
原理を応用しているのだ。理論通り、回転を続けるブロゥクンマグナムはマルチの頭上へ、
拳を仰げたまま戻って来て、ゆっくりと下へ落ちてきた。それを感知したマルチは右腕を
上げ、回転が収まって落ちてきた剛腕の中へそれを滑り込ませた。
 びっ。
 マルチの頬に、朱色が散った。鼻の頭に、サバのしっぽと猫の毛が落ちた。猫の毛には
なま暖かそうな皮膚と肉が、ちょっぴり付いていた。

「…………目標物、完全沈黙…………」

 沈黙も何も、ブロゥクンマグナムが命中した地点には、おびただしい朱色が飛び散り、
かつてそれが必死に生に務めていた頃の姿はどこにもなかった。それを追いかけていた某
夫人は、その場にへたり込み、泡を吹いて気絶していた。

「お見事。……ん?」

 プシュ〜〜〜〜。マルチは右腕を上げたまま、システムダウンしていた。

「……甘いなマルマイマー。こんな調子では『えるくぅ』の侵略からメイドロボットを守
りきるコトが出来ぬぞ。――いいか、マルマイマー、我々『MMM(スリーエム)』の目
的は――――」

 システムダウンしているマルマイマーに向かって長瀬は熱弁を振るうが、当然ながら今
のマルマイマーには何も聞こえてはいない。長瀬はそんなことお構いなしに熱弁を振るい
続けていた。アジるのが好きなタチなのであろう。

 果たしてマルマイマーの明日や、いかに?

                        #1 了

(フェードアウトとともに、ED「あたらしい予感」が流れ出す)

【予告】

パーパパーパー、パッパラッパパーパー、パーパーラッパッハパー!

 キミたちに最新情報を公開しよう!

 マルチに装備されたTHライドを設計した『鬼』とは何者か?
 そして長瀬らMMM(スリーエム)が危惧する『オゾムパルス』による災禍とはいったい?
 浩之とあかりの二人に迫る意外な敵の正体に、果たしてマルマイマーは勝利できるのか?

 東鳩王マルマイマー!ネクスト!『こころなきもの』

 次回も、『ふぁいなる・ふゅうぢょん』承認!