東鳩王マルマイマーVoL1 投稿者:ARM


『 東鳩王マルマイマー:第1話「東鳩王、誕生!(Aパート)」 』

(アヴァンタイトル:エメラルド色のMMM(スリーエム)マークがきらめく。)

(ナレーション:小林清志(RED嘘))
 あの一週間限りのはかなき幸せが再びこの身に許されようとは、マルチは今だに信じら
れなかった。永劫に続くと思われた眠りから目覚めたその目前に、あの愛しき『ご主人さ
ま』が居たのである。機械仕掛けの純粋ではかなげな心は、この世の全てを支配する見え
ざる意志の限りない慈悲にこの上なく感謝した。

 いつ頃からだろうか。念願の『ご主人様』の許で幸せいっぱいに暮らすマルチは、最近、
奇妙な『声』を聞くようになっていた。
 機械が幻聴か?憮然とするマルチはかつての身体(もの)より性能を簡略されたマスプ
ロタイプのボディがいまいち馴染まないためなのか、と思いつつ、そのどこか聞き覚えの
ある妙な『声』のコトは『ご主人様』には言えずじまいであった。またよけいなことを言
って『ご主人様』に心配をかけさせてしまうコトだけはどうしても避けたかった。ただで
さえ、家事に失敗するコトが多いとゆうのに、これ以上の迷惑はかけまいと必死だった。

 リーフの宣伝用小型気球船がのんびりと漂い、その遙か上空では飛行機雲が蒼を分かつ、
そんな秋空に皿が割れる音が届いた午後、彼はいきなり訪れた。

「相変わらずのドジぶりだな」
「――あぁ、長瀬主査!いらっしゃいませ!どうされたのですか今日は?……あ、ご主人
様、もうそろそろあかりさんと一緒に戻って来られる頃です、ぜひ上がってお待ちになっ
て下さい!」

 皿の破片を抱えておろおろしていたエプロン姿のマルチは、浩之が住むマンションの玄
関に現れた、自分を造り上げたあの不敵な貌の主を、満面の笑みをもって迎えた。

「いやいや、用件はすぐ済むから玄関(ここ)で結構だ」
「そんなぁ……。あら、なんですか、そのお持ちになっている可愛らしいクマさんの顔を
したバックは?」

 マルチが視線を注ぐモノは、長瀬の右手が持っていたクマの顔をした大きなリュックサ
ックであった。名前は良く判らないが、さお……なんとかとゆうパソコンのゲームCDに
収録されている「生ハムレース」とかゆうゲームに出てくる、あかりが大切にしているア
ルカイックな目をしたクマのぬいぐるみと同じ顔をしていた。

「あ、もしかしてそれは、あかりさんへのプレゼントですか?ご主人様とあかりさんが先
日ご婚約されたコト、ご存じでしたか?」
「いやいや、これはマルチのものだよ」
「え?」

(OP:「東鳩王誕生!」が流れ、「東鳩王マルマイマー」のタイトルが画面に出る。
マ・マ・マ、マ・マ・マ、マル・マイ・マー……マ・マ・マ、マ・マ・マ・マ、
マルマイマー……)

第1話:「東鳩王、誕生!」

(Aパート開始)

「マルチ。お前、いまのマスプロタイプのボディにうまく馴染めていないだろう?」
「あ……、は、はい、そう……みたいです。それにしても良く……?」

 いぶかるマルチに、長瀬は頭を横に振ってみせる。

「別にお前の心を見透かしたのではない。もともと試作品とゆうことで、ほとんどをテス
トパーツで組んでいた昔のボディと、現在のその廉価版のボディとでは、ギャップが必ず
生じるコトは、既に我々は予想していたのだ。多少の不便を辛抱してもらい、このままマ
スプロボディになれてもらうのが理想なのだが、しかしお前は最初の(ファースト)マル
チであり、そして本来ならば市場には出るハズのないAIがこうしてここにいるコトは、
来栖川エレクトロニクスの威信をかけたコトでもあり、安易に放置は出来ないのだ」
「え、わたしってそんなに期待がかかっていたのですか?う、うれしぃですぅ」

 マルチは喜ぶが、長瀬はわざとらしく咳払いしてみせ、

「いや、そうではない。いまでも、せっかく廃棄した試作品を何故登用するのか?とか、
高性能のマスプロ機にわざわざお前をインストールしてシステムをダウングレードする必
然性があるのか?と嫌みをゆう重役もいるくらいでな、むしろお前が市場にいるコトに危
惧を抱いているのだよ」
「(SE:ガーン!)ひ、ひ〜〜ん。せ、せめて、マイナーチェンジぐらいに……しくし
く」
「無論、オリジンを開発した我々は、オリジンの方が遙かに高性能だと主張している。
『こころ』を重要視するかしないかで意見が分かれてしまうのが現状だ。もっともオリジ
ンの解放は会長のお嬢様直々の嘆願でもあったため、今のお前がここにこうしていられる
のだが、反対派を妥協させるために、彼らから提出されたいくつかの案を受け入れる必要
があったのだ。それが、これだ」
「……クマさんのバックをあたしが受け取るコトが、ですか?」
「これは反対派が提出した『ファースト・マルチ補完計画』の第一条件なのだよ」

 長瀬がそう言った途端、マルチの顔が険しくなった。

「……補完……計画……?まさか最終的にあたしと妹たちを溶鉱炉で溶かして一つにする
とかゆうんじゃ……」
「ばかもの。そんなベタネタ、お父さんは許しません(笑)。だいたい、そんなことで全てが
ひとつになる、などというのは子供の屁理屈も同然だ。個を喪失させて全てを補完などと、
寝言もたいがいにせいってーの」
「長瀬主査、なにかへんなヒトが取り憑いていません?(苦笑)」

 閑話休題。

 マンションの外へ行く長瀬の後を不承不承ついてきたマルチは、そこで長瀬から手渡さ
れたクマの顔をしたリュックサックを背負って見せた。

「違う違う。それは胸の方に着けるのだ」
「え?だってこれは背負うモノでしょう?」
「不断はそうだが、いまはお前のギャップを補完する追加システムの起動を優先とする。
胸で抱えてみせろ」

 背負いかけたリュックを脱いだマルチは、不承不承それを胸に回して抱えてみせる。マ
ルチの胸に大きなクマの顔がくっついたようなその姿を見て、長瀬は満足げに頷いた。

「やっぱり……なんか……ヘンですぅ」
「いやいや、なかなか似合うぞマルチ。その状態を我々は『ロボコンモード』と呼んでい
る。以後、そう呼称するように」
「判りました。……で、なぜ『ロボコンモード』ってゆうのですか?」

「伝説の紅き乳母(ナニィ)ロボットの名にならってつけられたものだ。詳細は30代以
上の人に聞きたまえ(笑)。さて、インナーモニタ上のツールリストに、追加されたコマン
ドがあるハズだろう」

 長瀬が指すインナーモニタとは、マルチの視界にうっすらと浮かんでいる小さなコマン
ド制御用ウィンドゥのコトである。試作段階では専用アナライズコンピュータでしか表示
できなかった、グラフ化された各機能の現在の状態がインナーモニター内に単体で表示出
来るようになり、視覚的イメージでAIに認識させている(人間に近い感覚をAIに維持
させる為)ばかりでなく、延髄部に内蔵されているコンポジット出力端子から家庭用TV
にもその映像データを出力し、オーナーのメンテナンス作業にも利用出来るようになって
いる。
 そのインナーモニタの左下に、『システムエクスプローラー』と呼ばれる常駐する機能
制御コマンドリストがある。主にオーナーがメンテナンス時に利用するのだが、AI自身
が機体を保全するために選択できるようにもなっている。そのリストの一番最後、ナンバ
ー88に新しいコマンドが追加されていた。

「エフ……エフ……FF?なんでしょうか、この妙なコマンドは?」
「新規コマンドのドライバとシステムファイルが内蔵RAMに書き込まれた証拠だ。マル
チよ、これでお前はかつてのプロトタイプボディ以上の性能を利用できる拡張オプション
群を得たことになったのだ」
「拡張……オプション?」
「うむ。あの、セリオが使用しているサテライトシステムの最新バージョンが利用できる
ようになったのは言うまでもないが、そればかりか、来栖川エレクトロニクスのホームメ
イドシリーズの主力であるセリオにすら装備されていない『光学感知機』や開発されたば
かりの『量子制御装置』が使用できるのだ!」
「りょう……し……?」
「……釣りをするポーズ……?それは漁師」
「じゃあ」
「……鉄砲を構えて……?それは猟師。ええぃ、まどろっこしい!実際に問題の新コマン
ドの正体をその身に教えてくれる!」

 大きく振りかぶる長瀬は、マルチの鼻先を指した。
 そしてその次に長瀬が怒鳴ったその言葉こそ、最近聞こえ始めたあの奇妙な幻聴に他な
らなかった。

「ファイナル・フュージョン、承認!!」

(Aパート終了:アイキャッチ、クマのリュックサック(正式名称:MMM−THGR0
8「マルルン」。KHEMM−12SPX専用拡張機動ユニット)の映像とその仕様が表
示される)

                    Bパートへ続く