ToHeart if:幻相奇譚(エピローグ) 投稿者:ARM
 浩之は屋上から、校舎の裏にある神社の境内をじっと見つめていた。

 これで二度と、あかりの姿をして現れるコトもないと思うよ。

「……寂しいコトゆうなゆなぁ」
「黄昏ているな、少年」

 呆然としている浩之の背に陽気な声をぶつけたのは、J・Bであった。

「なんだよ、食堂で、念願の美少女たちに囲まれたお別れ会でウハウハじゃないのか?」
「今居るのは『二重存在』のほうさ。どっちにしてもウハウハなのには変わりない」
「変な奴……」
「最高の誉め言葉として受け取っておこう」

 相変わらず何を考えているのか判らないこの外人に、浩之は苦笑してみせた。

「……彼女のコトを想い返していたのか?」

 J・Bに問いに、しかし浩之は何も応えない。

「……ヒロユキ。今もあのコトを引きずっているのは、シホが去るのが哀しかったからか?それと
も、アカリの顔をした彼女が去るのが、辛かったからなのか?」

 そのどちらでもあり、そのどちらでもないコトだけは確かだった。なのに、浩之は今だその答え
を出せずにいた。
 あかりの姿をした生霊。皆と別れることになった志保の哀しみが無意識に生んだ虚像。

 ……浩之ちゃん。…………あたし、このまま居て良いんだよね?

 しかしあれは、本当はあかり自身ではなかったのか、という疑念が、浩之の中に芽生えていた。
 そして、それと同時に浮かんだ、もう一つの可能性。
 ――浩之自身も決して例外ではないのだ。知らず知らずのうちに、自分は手に入れた大切なモノ
を失う怖さを感じていたのではないか。今が幸せと想う分だけ、こころのどこかでもしかしてそれ
を失ってしまうかもしれないという恐怖心が、彼女を造り出したのだと言うコトを、決して否定は
できないのだ。
 確実に言えるコトはただ一つ、誰かの心のなかで芽生えていた哀しみが生んだ、こころの映し身
であるコトだけである。

「……若いうちは、首を傾げ、怯えながら、どんどん悩むが良いさ。死ぬほどさんざん悩み抜き、
自分なりの結論を導き出す。若者にしか許されない問題解決方法だ。間違った道を選んでも、まだ
滔々(とうとう)と流れている永い時が、いづれ解決してくれるからな」
「……そんなモンかね」
「私もそうやって悩みや疑問を解決してきたのだよ」
「だから余計不安なんだよ」
「……キミは悩む前に、もう少し先人を敬うべきだと思うぞ」

 二人は同時に破顔した。

「HaHaHa……。それにしても居心地の良い学校だったよ。今日で去るのが本当、残念だ」
「なら、二度と戻って来るなよな。想い出は幸せなうちが華だからな」
「同感だ」

 浩之はこんなJ・Bが決して嫌いではなかった。

 結局J・Bはセリカの紹介で2週間ほど、2年生相手に英語の講師を務めた後、多くの女子生徒
の嘆きの声を背に、浩之たちの学校を気障に去っていった。後日J・Bは偶然、浩之と再会するこ
とになるが、その際J・Bは、あの時の別れの言葉の中で唯一、智子が放った「あほんだらぁ!!」
という罵声が一番印象に残っていたと語り、二人して苦笑するコトになる。
 また、J・Bが帰国する前に大阪へ立ち寄り、自分と同じ能力をもつ長岡志保の前に現れたのが
きっかけで、志保が国際ジャーナリストへの道が開かれるコトになるのだが、それはまた別の物語
である。

              了


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 えー、ARMです。
 今回の話は、バレンタインデーネタ+「初音のないしょ!!」に所収されている「ToHear
t」おまけ版の後日談的SSとして書きました。しかし読み返してみると、別にバレンタインを絡
める必要はなかったような……(苦笑)しかも同人で時々書いている、(西新宿の怖いせんべい屋
が元ネタだけど)持ちキャラを登場させてしまったとゆう掟破り(苦笑)しているし。まぁ、三日逃
げ切れば大丈夫か(爆)さらに客観的に見てみると、自分にとってマルチが物語に絡んでこない東鳩
SSだったコトに気づく(苦笑)うわ、マルチュウ第3話以来だよ、こんなコト。(^_^;ちなみに
これ描いている間は、マママの前日談的気分で描いていました。だからといってマママにあのロリ
コンが出てくるとは限りませんが、あれ以上余計なオリジナルキャラを出すと収拾つかなくなりそ
うだから、絶対登場させません(笑)また、マママでは志保の出番がほとんどないので、このSSで
彼女もやっと成仏してくれることでしょう(をぃをぃ)。

 本当言うと、このSS書いているヒマ、無かったりするんだが。(汗)よく正味2日で描き上げ
たと我ながら感心。マママ第9話Bパートも平行してやって書いていましたが……Kさん、大丈夫。
ちゃんと仕事していますよ、ええ。ちゃんとアレ、プレイしながらラフ切って、画面もキャプチャ
ーしてますし(謎笑)。本当は「ナチュラル」のほうを選びたかったんですが、とても時間なさそう
でしたから、後ろ髪引かれながら泣く泣く断念したのですよ(謎爆)って言い訳したってきっとこ
こは読んでいないでしよう(爆)とゆうような謎また謎はそれはそれとして。メールで各作家さんへ
感想を送りたかったのですが、色々と怪しい仕事を抱えていて、のんびり感想をメール出来ましぇ
ん(汗)てなわけで、この場で本当に一部限定になってしまいますが、感想をば(^_^;

【久々野彰さん】……まずは遅ればせながら、デンパマン完結おめでとうございます。それとここ
数日の書き込みを読んでいて、てっきり失意のまま引退されちゃうのかと気が気でならなかったの
ですが、どうやら奮起されているようでよかったよかった。自宅でのインターネット環境確立、陰
ながら応援いたします。早く落ち着いて、このコーナーに帰還して下さいね。

【カレルレンさん】……今回のSSを描く気になった一番の理由は、あなたの「イリュージョン」
を読んで触発され、たまにはフツーのSS描くべ、と奮起したからです(って、これをフツーとゆ
う悪い口はこれかー?(^^;痛ててて(笑))。勝手ながら本作品、恐らく最後に魅せたであろうマル
チの恥じらう笑顔に捧げたいと思います(今回の拙作にはマルチは登場していないけど(汗))

【OLHさん】…………うぅっ、メールでもっと早く感想を述べたかったのが「お赤飯」。あのオ
チのシュールさが最高っす(爆)何かラストシーン、空気枕獏先生(仮名)特有の擬音が耳につく。
ぼり、ばり、べき、とかゆーやつ(笑)終いには初音ちゃん、「喰う、喰う、喰う、さらに喰う」の
後、血塗れの口を拭いながら、不良モード全開で「るうぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜らぁっ!」とか咆
吼したりして(笑)キマイラ最新刊、3月に出るといいな。

【最近のマルチバットエンドSS】……ダーク全開な一連の作品を読んでいるうち、バットEDは
実はトゥルーエンドで、あかりトゥルーEDと理緒トゥルーEDをクリアしてフラグを立てないと
マルチとのハッピーEDシナリオフラグが立たない……なんて妄想がちりちりと(笑)いやーん(笑)

【おわび】
この期に及んで……前に上げたマママの総集編で、大ボケかましていました。(汗)
柏木家がEI−01との抗争で初音を除いて惨殺されたのは「八年前」です(汗)つい、浩之たち
と初音が同い年という没にした初期設定を間違って見返しちゃって(激汗)初音は浩之たちの二つ
歳上という設定であることを改めて後悔もとい公開いたします(^_^;

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