神界枯伝《metastoa lost fable》 投稿者:里茄野のわく
 「前回までの・復習予習」
 わたしはひとりが恐かった。
 なんで?
 …………解んない。
 それよりひとりになるってことの意味が解らない。
 だから本当は自分が何に怯えているのか、解んない。
 
 
 第13話『定め、と言うか』
 
 
「みかえる様……なにがあったの?」
 ルミーは上目遣いにミカエルを見上げた。
 別に意識してそうしたわけではない。
 抱きしめられた状態でミカエルの顔を見ようとしたので必然的にそうなったのだ。
 ミカエルは我に返り、ルミーを解く。
「ご、ごめん」
「いいよ……別に……」
 部屋の壁が太陽の反射光でちかちかと光り、分厚いカーテンを通って部屋全体を
 薄く、赤茶色に染めていた。
 ひとつ息を吸ったミカエルに 部屋の空気は余談の余地を与えない。ルミーもお喋りをする気はないだろう。
 彼は、手短く こう言った。
「私は……ここ最近の君達の変化がどうしても気になって 枯文書を調べ続けた。
そして、ひとつ 重大なことに気づいた。
伝説の戦士は――
ふたりしかいないんだ」
 
 ルミーは、ここに来たときからすでに解っていた。
 なにかよくないことを伝えられるということ。
 それは自分に関係するということ。
 だからつまり戦士はふたりしかいないということは3人のうちのひとりは戦士じゃないということで
 それじゃぁその戦士じゃないのはつまり、
 
 ――つ ま り
 
「確かに枯文書にも命を受けこの世に現れるのは三姉妹だと書かれている。
しかし、実際に戦ったのは二人だったんだ。
戦ったのは二人なのに表された絵には、三人描かれている」
 ここで 話が途切れた。
 ルミーは少しの間足元を見つめ、ミカエルの声を待った。数秒、無音の時が流れた。
 そしてルミーは顔を上げ、ミカエルは唇を噛み締めていた。また下げ、…………、もう一度上げて 呟いた。
 
「言って」
 
 大きな影が、少し 揺らいだ。
 唇が、うごく。
「理由は分からないが、ひとり、いなくなる」
 感情が死んだ音がした。
 
 ――終わるのは わたし。
 自分の中の、もうひとりの自分が楽しそうに話しかけてきた。
 自分の口元も、笑っていた。
 ――「私、平気だよ? だってみんな一緒にいてくれるもん。そう。ずっとずっと」
 ずっとずっとずっとずっと……ずっとずっとずっとずっとっ!!!
 ――「ね、ねえ、みかえる様は抱いていてくれるんでしょ?」
 カリッ。
 ――「そ、それは無理でも……おねえちゃん、そう! お姉ちゃん達はずっと一緒だよね」
   カリッ。
 ――「……それって だれもいないってこと?」
  カリッ。
 ――「じゃあ、ひとり ってこと?」
 カリッ。
 ――「ひとり って……淋しいかな?」
 それは自分が
 一番よく知ってるんじゃない?
 ――「…………、」
 ――「アレを また、繰り返す?」
 
 カリッ。
 
 ――「くすっ。 ……ウソね」
 
 
 なにかを嘲け笑うかのように床に笑みをこぼす少女。
 髪は垂れ、その視線を覆う。
 足が動き、腰が動き、肩が動き、まるで揃えられたような同心円を描いて振り返るそれに、
 ワンテンポ遅れて 栗色の髪がなびき、広がり、滑るように一本一本 定位置へと戻ってゆく。
 優しく細めた瞳。柔らかな口調で、最後に言った。
 
「みかえる様?
わたし、そろそろ帰んなくっちゃ。おねえちゃん達 心配するし。
あ、今度また 3人で来ますね?
じゃ、
ばいばい」
 
 遠く霞んだ瞳。
 抑揚の無い口調で、最後に言った。
 
 ・
 ・
 ・
 
 下りの丘に、ひとつの影。ひとつの小さな少女の影。
 ルミーは、来た道を ゆっくりと引き返す。
 右足を……引き上げては……ぐしゃり。
 振動に体が揺れ、また、安定すると、
 こんどは左足を……引き上げて……ぐしゃり。
 踏み出すごとに 足元の砂利が崩れてゆく。
 彼女は 取り憑かれたように口元に冷たい笑みを浮かべたまま、ゆっくりと
 家へ帰る。
 普段なら一時間ほどの道のり。
 それを彼女は何時間もかけて 歩く。 昼前にあそこを出たのに、もうすでに日はとっぷりと暮れている。
 しかし、その間一度も足を止めてはいない。
 ゆっくりと、いっぽずつ 前へ出る、前へ出る。
 
 
 もう違うよ。
 あの時とは、違う。
 ふふっ みじめだよね。ちっちゃい頃から一緒にいてさ、その人のことなら全部知ってる自信あった。
 その人の優しいとこなら全部言える自信あった。
 ずっとずっと前から、あなたが居て。
 あなたのとなりには私だけが特別に居させてもらえるんだと 思ってた。
 これまでずっとそうで、
 これから先もずっとそうだと思ってた。
 だから、言えなくてもいいと思ってた。
 ずっととなりに居れるなら、わたし、そのままでもよかった。それで満足だった。
 みじめ。惨めだよ。
 遅過ぎ。気づくの。
 あれ、そうなの。ココ、私のための席じゃなかったんだ。
 ふぅん。その子にも、そんな風に笑うんだ。私に笑うときと おなじ笑顔で。
 ――そして、あの日のあなた見て、”ちっちゃい頃から”が
 ずっと昔に終わってた……って気づいた。
 あなたのとなりはいつもの”あのコ”
 それでね、
 あなた、初めて見た切ない顔でそのコ抱きしめて 何の違和感もなく長いキス。
 私じゃないそのコの手が、あなたの腕に絡んで、
 あなたがそのコに呟いた。初めて聞いた、いままでで一番やさしい声で。
 遠くにいたのに、酷いよね 聞こえちゃった。
 『可愛いよ……    ……』
 聞いたのに、酷いよね まだ浩之ちゃんのこと好きだよ。
 
 でも、もう違う。
 今度は 大切な人は消えない。
 わたしが 消さない。
 おねえちゃん達は知らない人になったりはしないよ?
 ルミーも 消えない。
 いままでと一緒。何も変わってないでしょ?
 変わったのは、
 おねえちゃん達のルミーを見る その目だけ。
 いいよ? 待ってて。
 ルミー、構わない。
 カミュおねえちゃんは 今日も優しく笑ってくれるし、
 ミレイアおねえちゃんは いつも通りに私とおはなししてくれる。
 いつもと一緒よ……
 何も 変わってない。
 だったら、
 おねえちゃん達がそうしたいんなら、
 ルミーも全然イヤじゃないよ?
 それって、スキってコトなんだもんね
 ――(浩之ちゃんとあのコが そうだったように)
 
 これまで続いてきたことが……これからも続いてゆく。
 そうだよ。きっと――いや、ぜったいそうだよ。
 待たせてごめんね?
 いま行くよ?
 すぐにおねえちゃん達のスキにさせてあげる。
 「待ってて」
 
 
 ――ぐしゃり。
 彼女が足を踏み出す度、
 確実に、彼女の姉たちの待つ家との距離は 狭まっていった。
 
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 どうものわくです。
 ルミーの存在はかなり不安定かも。なんか3人混ざってるし。
 

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