神界枯伝《metastoa lost fable》 投稿者:里茄野のわく
 「前回までの・復習予習」
 食は、いのちのみなもと。
 失った彼女の心は止まった。
 居場所のない我が家に、今、心の鍵をかけよう。
 自分を守るためにはそうした方がいい。。
 自分から守るためには、会いに行った方がいい。
 会いに……行く。


第12話『耐えうるだけの、幸せを』


 乾燥したかたまりが……近づいてくる。
 目で追うまでもなく……それは大きくなり
 足元で最大になると……収縮し、視界から消えてゆく。
 ……足元? 誰の?
 そうか……わたしの……あしもと。
 それに気づいたとき、既に前方からは また あたらしいかたまりが……近づいてくる。


 今朝早く、部屋を抜け出した。
 大好きなひとに……会いたくなかったから、二階の窓から 抜け出した。
 ――かたまり。
 そして、歩き出した
 ――何処へ?
 みかえる様の……ところへ
 ――どうして?
 それは、……それは…………分からない。忘れた
 でも、みかえる様に 呼ばれた。
 ――かたまり。
 来て欲しいって 言われた
 ――かたまり。――かたまり。
 だから久しぶりに部屋を出て、久しぶりに会いに行く
 ――かたまり。
 今、大好きなひとの中で会えるのは そのひとだけだから
 ――かたまり。――かたまり。――かたまり。
 ――かたまり。


 身体の指揮権が、自分の意思に戻る。
 今まで誰かがやってくれていた足の動き、瞳の動き、脳内計算を オートから手動に切り替える。
 急に視界がハッキリしてきた。
 色も認識できる。疲労も感じる。
 さっきから近づいては離れていった かたまりが、
 ふいに、道に転がる石だと気づく。
 目に映っていた『かたまり』に、”石”という名前があったことを思い出した。
 クロスワードのひとマスが埋まったときのように、関連した答えが現れる。
 ――そうだ。私は……歩いているんだ。
 1つ知った一瞬の満足感が……新たな疑問を呼び起こす。
 ――私は歩いている……私……わたし……誰?
 あまり面白くもない、解く意味のない問題に思えた。
 まるで真っ白の紙に、自分の名前を何百回も書くことに意味が無いのと同じように……
 ――名前?
 そして彼女は じわり、と口元の筋肉をちぢめた。
 なまぬるい笑みを浮かべた自分に気づき、よけい、可笑しくなった。
 ――おもいだした
 その、興味のない問題の答えが あまりに簡単だったので、
 つい、笑んでしまったのだ。
 ――わたしは……”ルミー”…………
 クロスワードのマスが また ひとつ埋まった。
 またいっぽ、足を踏み出した。

 そして、「少し急がないと」 と思った。
 あまりみかえる様を待たせちゃいけない とそう思ったのだ。
 彼女の脳裏、すべてに意味を、興味を失った今も今でさえも
 その人との思い出だけは
 何一つ余すことなく完全に、はっきりと 思い出すことが出来た。

  ・
  ・
  ・

 ルミーは、部屋の扉を開く。
 恐ろしく大きなその扉は、ルミーの力でも 滑るように開く。
 そしてそこに 見慣れた人影を見る。
「……ルミーです」
 ミカエルの背に それだけ言うと、彼女は黙り込む。
 幼心は敏感に、その場の空気を読みとった。

 カツリ。

 振り返るミカエル、それ以上視線を移動できなくなるルミー。
 彼女の瞳は、ミカエル一点で収縮された。
 痛々しいほどのその表情。ルミーは目を背けたかったが、体は言うことを聞かなかった。
 今までミカエルのそんな淋しい顔を見たことがなかった。
 いや、そんな顔をするなんて おもってもみなかった。
 体に釘打たれるような 悲痛な表情、
 目の前のその表情が
 軋む音を立てて
 自分に微笑んだ。
 無理をして、悲鳴を上げて、
 微笑んだ。そして、
 喉の奥から絞り出し、やっと音に出来た言葉、
「……よく来たね」

 ――なにかが 終わるんだね。
 ルミーはこころの中の自分に問いかけた。
 そして、その奥でなにかが割れる音を聞いた。
 あまり深く考える必要はなかった。
 考えたところで、この状況を自分がなんとか出来るとは 到底思えない。
 それに、これ以上悪くはなれない。なりようがない。
 自分の体が、熱く包まれる。
 ミカエルに抱きしめられ、肩の関節が狭まり、
 ルミーは抵抗無く、包容を受けた。
 強い力に体が痛むのが、まるで他人事のようだった。
 そのまま、少し視線をずらし、部屋の天井の隅を見つめる。
 抱かれる理由はよく分からなかったが、とにかく良いことではないのだろう。
 とにかくなにかが終わるのだろう。
 ――それなら
 ――いいかな……。
 ――大好きなひとと一緒なら、
 ――これが最期になるのも……悪くない……か。

 ――最後まで大好きなひとに抱いていてもらえるのなら……
 大好きなひとと一緒なら。
 大好きなひとと一緒なら。
 大好きなひとと一緒なら。一緒なら。一緒なら。一緒なら。

   ・・・・
 ――いっしょ、なら。

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かなりのすろぉーペースでやっとこさ12話です。
もうグンヤさまのあなたにあえてにも追いつかれちゃいますね。ってそういう問題じゃないですな。
レスも感想もまともに出来ないような教養のない人間ですいません(汗)
もらうと嬉しいのに自分じゃ出来ない……ホント、感想書きしてる方は尊敬もんです。
いやマジで。

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