神界枯伝《metastoa lost fable》 投稿者:里茄野のわく
第9話『終結の、始まり』


 あたたかい感触で目が覚めた。
 唇に何か触れる……そんな感じ…………く、くちびるぅ!?
 さっきまで重かったまぶたが、ぱっちりと開く。
 は、はわわわわわ!! カミュおねぇちゃん!?
 ルミーはベットの上で飛びのいた。声にはならなかった。
 唇をふさいでいたのは カミュの唇だった。
 ルミーの頭は それ以上の思考を拒んだ。
 真っ白になってゆく。
 しかし、カミュの瞳はルミーを捕らえたまま、なおも迫ってくる。
 ――ココはイヤ!!
 本能がそうしたのか まずその場から離れようとしたのだが、体を押さえつけられた。
 ――コレはちがうの!!
 カミュが手を伸ばし、体をするりと撫でる。
 姉に触れられることが……こんなに怖いなんて。
 ルミーは目に涙があふれそうなのを悟った。
 ――崩れる!!
 ――イヤ!! 私はココがいいの!! ココを離れたくないの!! このままでいたいの!!!
 恐怖と不安が一度に襲ってくる。
 ……こんなの……こんなのカミュおねえちゃんじゃない!!!!
 
「嫌ぁ――っ!! カミュおねぇちゃぁん!! やめてぇぇぇぇぇ!!!!!!」
 
 叫び声、というよりそれは悲鳴だった。
 本当に怖かった。夢であって欲しかった。
 ルミーの知ってるカミュおねえちゃんは……綺麗で優しくて……絶対こんなコトするわけない
 信じたくない。
 しかし、現実は残酷に突きつけられる。
 目の前には 我に返って呆然としているカミュがいた。
 カミュは少しの間、自分でも解らないような顔でルミーを見たあと、
 全てを理解し、慌てて起きあがり、ルミーの乱れた服を直し、
 「あの 私……私…… ごごごめんね、ルミー……」
 パジャマのままで部屋を飛び出ていった。

 ルミーは残された部屋の中、
 ひとり 動揺する心で、自分へのつじつま合わせを考えていた。
 ……おねえちゃん、いろいろ大変だから……だからきっと疲れてて、
 それでちょっと寝ぼけてたんだよ……そうだよ。
 そうでもなきゃカミュおねえちゃんがあんなことするわけ無いじゃない。
 おねえちゃんが……消えちゃうわけ……ないじゃない……。
 
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 朝の食卓、カミュはもとよりミレイアまでもがぎこちなかった。
 ルミーに、一層の不安感がつのる。
「……? ミレイアおねぇちゃん、なに?」
 ルミーはミレイアの視線を感じ、食事の手が止まる。
「え? あ、ううん。 なんでもないの あ、みミレイアごちそうさまにゃ」
 ミレイアが慌てて席を立つ。
 だが、食事にはほとんど手がつけられていない。
「ごちそうさまって……おねえちゃん、ほとんど食べて無いじゃない……体の調子でも悪いの?」
「ち違うの……あのっ、カミュ、残してゴメンね……」
「え、あ はい。 分かりました……」
 とてとてと二階へ駆け上がってゆくミレイア。
 どこか上の空のカミュ。
 ルミーは、居心地の悪さを感じずにはいられなかった。
 
 ――なにかが……変わる……
  それは……彼女の最大の恐怖の対象だった。
 
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 びしゃびしゃと手にかかる水を眺め続けながら、カミュは考えていた。
 考えても仕方ないことは分かっていた。
 もう自分では抑えられない。
 ちいさくため息をつくと、水を止めてふいに振り返った。
 部屋の向かいの出窓から、晴れた空が見える。
 何故でしょうか?
 とても懐かしく思えました。
 そして、
 空を見るのが、それで最後のように感じました。
 今日の私……
 自分の中で動き回る、自分とは別の感情。
 ルミーに会いたい、少し会えないことがこんなに淋しいなんて 今まで全然気づかなかった。
 それは わたしのこころ?
 そしてまた、苦しいほどに高鳴る胸をおさえる。
 カミュは思った。
 自分を失うまでに、あといくらもない……
 
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 ミレイアは部屋で、もう一度オーパーツを抱いた。
 きのうから何度かやってみたが、
 オーパーツをクミタテることは出来なかった。
 でも……理由は解ってた。だから オーパーツを抱いた。
 ……自分と一緒。
 自分を知るのが……怖いから。
 少しは分かってるけど……全部は 見たくないんだよね。
 いっしょだよ……。
 自分の方から逃げてるのに……でも、会いたい。
 会って話しかけて欲しい。
 口では 関わらないで って言ってるのに、
 その顔を見ると、私……安心してる。
 なんで……
 なんで 好きなんだろ……。
 私……ルミーのことが好き。
 自分では もう、どうしようもないぐらい好き。
 この気持ちは、
 いままでのとは違う。
 違う気がする。
 身体が熱い。どきどきしてる。
 妹だよ?
 これまでも、これからも。
 でも、もうダメかもしれない。
 伝えちゃ……だめなのかな……?
 
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 三人は、それぞれの想いを胸に、
 だが決してそれを表に出さないよう 気をつけながら、ミカエルの元へと向かった。
 そこへ行けば、
 このやりどころのない気持ちを
 解決できるかもしれないと 思ったから。
 バラバラな気持ち。
 こんなの……初めてだった。
 
 ――続く丘々は、困惑への階段。
 ――穏やかな雲の流れは、狂い出す歯車の糸口。
 ――やるせない瞳は、まどろみの予告。
 
 ――行き違ってゆく感情は、
 終結の 始まり。

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こんにちは。のわくです。
もういっこSS持ってきたんですが、なんかマルチものは最近多いようで
また今度にしよっかな……とか思ったんですが(汗)
さぁて、カミュにはもっといろいろやらせちゃおうかと考えたんですけど、
そりゃ駄目ですよね(笑) はい、しぃません。

http://www.grn.mmtr.or.jp/~nowaku/attop.htm