セリオでもいいよね! 投稿者:里茄野のわく
 シリーズ完結編
 『愛を唄うソラの風
      あの時とどけなかった君に、もし 遅くなければ 今からでも云うよ』
 

 お? ありゃセリオじゃねーか。
 ここは学校の二階の廊下。
 彼女はどうやら廊下を掃除しているようだ。
 黄色いほわほわの付いたモップで、結構丁寧にごしごししてる。
 オレは何してるのかって?
 いや、べつに。
 ただ本能が「二階を歩けぇ」ってうるさいのだ。
 
 ってより なんでひとりでやってんだ?……趣味なのか?
 
 とか、最近よく会うよな とか思いながらそれを少しの間眺めていたオレ。
 なんだか……かあさん って感じだ。
 まあ、うちの親なんか滅多に帰ってこねぇんだけどな。
 だから息子が家によそ様の大切な娘さん連れ込んでいろいろやって泣かせちゃうんだよ……って
 …………
 い 今、一瞬オレの思考になにかが介入してきたような……
 ま、いっか。そんなことよりセリオは……っと
 どうやらまだこっちには気づいてないみたいだ。
 こんな時はもちろん主人公としてすべき行動……つまりっ!
 
 背後から「わっ!!」と驚かす
 
 ……なんて子供みたいなことはしない。 第一、反応は目に見えてるし。
 成長したな……オレも。
 ちゃんと紳士的に近づいて、ジェントルメン的に声をかけるさ。
「よいっすセリオ!」
 あ、間違った。どうやら今日はオレ、脳味噌おねむのようだ。
 まあいい。許容範囲内。あいさつなんてどうにでもなる。大切なのはピュアぁな心だ。
「――こんにちは 浩之さん」
 ほうらね。
「掃除か」
「――はい」
 セリオは少し嬉しそうに、だが短めに返事をした。
「ひとりで?」
「――はい」
 なんだ? 少しはにかんでるように見えなくもない。
 でもやっぱり無表情。
 ピリピリと張りつめた感じじゃなく、う〜ん、
 言うなれば『ペンペン』のようだ。『無』と『素』をたして『いじわる心』で割ったような。
 セリオっておもいっきし目ぇ合わせてくるからこういう時はなんか緊張しちまうよな。……ってあれっ?
「……そういやセリオ、お前アレは?」
「――はい?」
 アレで解るわけないよな。えっとほらなんだっけか。こう、思い出しそうで思い出せないときって
 イライラするよな。ほらっ! あのっ! そのっ!
「もうっ! ココまで出てんのに……」
 そう言ってオレは手のひらを水平にしておでこのあたりに持ち上げる。
「――いや、それなら十分くち超えてます」
 的確なつっこみ。でも今はボケてる場合じゃない。
 ボケてる場合じゃなくって……
「あぁっ! 思い出したっ!! ほらっ しっぽだよ し・っ・ぽ!」
 そう言ってオレはセリオのおしりを指さす。
 しかしそこに生えているべきソレは見あたらない。
「――しっぽ ですか?」
「ほうら、キツネのしっぽ! ふさふさの可愛いヤツ! あれどうした?」
「――ああ あれでしたら……」
 

 しばらくお待ちください☆
 

「はぁ はぁ……せ セリオ……今日……はぁ はぁ……いい 天気だな……」
「――そう ですね。
 どうしたのですか 浩之さん き 気分でも 悪いのですか」
「い いや……そういうキミこそ はぁ はぁ……口元が ひ 引きつってるじゃないか……」
「――そ そんなことは」
 ……
 ……
「わりぃ…… い 今のは 危なかったな(ぼそり)」
「――他人(ヒト)様の世界です(ぼそっ)」
 

 5分ください☆
 

「ちなみにオレは『あずきバー』が好きだぞ、セリオ」
「――くすくす 良きにはからう」
「このぅ! 笑ったなぁ!? おしおきだぁ!!!」
 こちょこちょこちょこちょ!!!
「――く くぅ……」
 

 この時のセリオの表情がありありと目に浮かぶのもまた ダメ人間☆
 ストーリー無視する作家もダメ人間☆
 

「――最近よくお会いしますね 浩之さん」
「おう。そうだなぁ」
 よく会うってことは ストーリーに乗ったってコトだ……って
 死んだじぃちゃんが言ってた。でもオレには意味はよく解らない。
 じいちゃんの話じゃ、この場が3分も持ちそうにないか。
 …………、
「……手伝うぜ 掃除」
 ちょっと考えた後、壁に立て掛けてあったモップを手にとった。
 世話好きもここまで来ればたいしたもんだ。自分。
 セリオは何も言わず、ただ嬉しそうに こくり、と頷いた。
 

 それから10分弱、ふたりで他愛ない会話を交わしながら掃除を進めた。
 気づけば廊下はおろか天井まですっかりピカピカになっていた。
 無意識ってすげぇゼ!
 同じくこころの中も何故かスカッとした気がする。
 なんかセリオといると落ち着くんだよな。恋愛感情とはまた違うもののような気もする。
 実際のトコ、どうなんだろ。
 
 ――本当のオレは彼女のこと、どう思っているのだろうか?
 ――彼女はオレのこと、本当はどう思っているのだろうか?
 
 だが今はそんなことはどうでもいい。ただ……この幸せをもう少しの間 感じていたい……
 …………。
 しかし、オレの幸せなんて長くは続かないのさ。
 ちゃっかり空の高いところで歯車の軋む音がして、
 何かのギアが切り替わった。


 ――バイバイ、せいしゅん!
 

 セリオがバケツの上で雑巾を絞り、立ち上がったその時だった。
 オレの前にみっつほど選択肢が現れたのは。
 
 1.セリオのおめめはどうなってんの?
 2.セリオに使われてるコンピュータってどんなヤツ?
 3.セリオの電源ってどうなってんの?
 
 は? 電源? コンピュータ!? 何の話だ? それ以前に何故オレの行動範囲が
 選択肢みっつなんだよ!?
 ふん。オレはひねくれ野郎だ! 鬼畜野郎だ!! こんなもん選ぶもんか!!!
 なんとしてでも別の行動をしてやる。
 コレはオレの人生だ。誰の言いなりにもならねぇゼ!!! な気分。
 …………
 …………
 はい ごめんなさい。選ばせて頂きます☆
 無理な抵抗は我が身を滅ぼす。
 なんかの拍子にパラレルンルンってこともあるし、
 命危ないときに 逃げださずに話をしようとして
 ずっと好きだったお姉さんにブッ殺された 暇な大学生もいたと聞く。
 そんなんの二の舞はごめんだ。

 よっし選ぶゼ!
 う〜ん。この際いちばん何も起きなさそうな無難なヤツがいいよな。
 『1』はなんだか――
 
「セリオのおめめはどうなってんの」
「――目 ですか?」
「おう」
 ぱしゅっぱしゅっ かしゃっ ちゅぃーん……かくん カシャカシャカシャカシャカシャッ!
「――このようになっております」
 
 ってな恐いことになりそうだし
 だからって『3』は――
 
「セリオの電源ってどうなってんの?」
「――電源 ですか?」
「おう」
「――詳しいことはお教え出来ないのですが……一応、内燃機関で動いています」
「ほぉ……その身体に内燃機関か。 すごいな」
「――はい。まぁ、あまり危険なものは積めませんが」
「で、お前は?」
「――小型原子炉を少々……」
 
 なんてなりそうだし、やっぱこの際安全圏は『2』か。
 心を決めて……と。
「な、セリオ」
「――なんでしょうか」
 よしっ!
「セリオに使われてるコンピュータってどんなヤツ?」
「――コンピュータ ですか?」
「おう」
「――私もあまり詳しいことは聞かされていないのですが」
「やっぱお前ほどのメイドロボともなれば凄いの積んでんだろ?」
「――はい。超並列……」
「あ、あ、漢字いっぱいの長いのじゃなしに、分かりやすい名前とかついてないの?」
「――開発コードですか? ついてますよ。 確か……『アース』という名前です」
 『アース』!?
 それってまさか某、少年誌中『ス○リガン』のスーパーコンピュータじゃなかったっけか!?
 それがセリオ!?
「――確か 某、少年誌中『ス○リガン』にも登場する……」
 やっぱりっ!!
 
 クルスガワっ! 電脳の超天才を試作機一体に使ってんじゃねー。
 
「――あ、でも処理系全部を全部積み込んでいる訳ではありません」
 おいおいおいっ! 『アース』だけじゃ物足りねぇってか?
「じ、じゃ、残りはどうなってんだ?」
 オレは恐い物見たさに尋ねる。
 それに対し、さすがセリオは まるでその場に資料があるかのように、その資料を朗読するかのように
 流暢にオレに説明してくれる。
「――私は常時支援衛星とのネットワーク接続が存在していますので、
某、世界規模特務機関のスーパーコンピュータ『MAGI』のCPUタイムを56%ほど
借用しております」
 あ、あのヒトのジレンマをシュミレートした人格移植OSの超高速演算システム!?
「それでネルフ本部は大丈夫なのかね……」
「――機密組織の名称が一般ピーポーにモロ流れてますね。
 あ、ちなみに『MAGI』X6です」
「……X6って全世界の支部の全部使ってんのかいっ!!」
「――やっぱり本部のオリジナルがいちばん優秀です」
 
 クススガワぁ! 世界の頭脳を半分以上使うなっての!!
 
「セリオって……すげぇんだな……」
 オレはもう半分呆れたような声をもらした。大企業のすることはオレのような凡人には分からん。
「――これは 自慢していいのでしょうか」
 セリオは無表情の下に困惑を浮かべながらオレに意見を求める。
「おお……十二分に自慢できると思うぞ……」
 世界に自慢もできるし統一もできちゃうぞ。マジで。

「――あと、」
「まだあるんかいっ!!」
 うぉっ! つい軽快なつっこみを入れてしまった。
「――すいません」
 セリオは叱られたこどものようにちいさくなった。
「い、いや 謝んなくっていいって。 で?」
「――やっぱり いいです」
 何に気を使ってんのか、セリオは急に消極的になってしまった。
 自慢できると言った手前、つっこみ入れたのがまずかったか。
「いいってば 言えよ。気になるだろ」
 とっさのオレに、気の利いたセリフなんか言えない。
 数秒間が空き、セリオはゆっくりと顔を上げる……
 そして申し訳なさそうに上目遣いにオレを見上げて……言った。
「――ただ……某、企業○ネガル所有起動戦艦のメインシステム『オモイカネ』も……」
「借りてんのね」
「――いえ、これは丸々使わせていただいております」
「ナデシコ飛ばねぇじゃねぇか(ぼそっ)」


 だがそんなのよその国の話。
 オレ達は今日も平和にハイスクールライフをエンジョイしているのだった。
 そして、
 葉桜とともに唄う優しい風は、
 そろそろ可愛い女の子と出会っちゃって、家連れ込んでいろいろやって泣かせちゃう季節の到来を――告げていた。
 
  ・
  ・
  ・

 しかし、オレがその時の彼女の涙に気づいたのは、
 あろうことか次の日の学校で、だった。
 もうそこに、彼女はいない。
 そう知ったとき、
 次の瞬間にはもう、オレの身体は全速力で そこへ向かっていた。

 なんでだよ!?
 オレは初めて「もう一生会えない」ということの意味を知った。
 胸が押さえつけられ、きゅっと疼くが、手の届かないところで どうしようもなくて。
 廊下を抜け、階段を駆け下り、
 ふいに溢れだした涙で霞んだ視界、オレの知っている彼女全てが映像の波となって押し寄せた。
 全て網膜に張り付き、だが、そうしている間にも記憶の縁が歪み、
 曖昧になり、泡のように不安定になってゆく。
 その間にも次の映像。
 もう思い出そうとしても間に合わない。全ては「思い出」となり始めていた。
 突然すぎる。
 それは「記憶」なんだよ!! 「思い出」じゃない!! たったそれだけがオレにとっての彼女の記憶だなんて!!!
 そんな!! そんなぁっ!!!
 待ってくれ!! ダメだ!! ホントは言わなくちゃいけねぇことたくさんあったんだ!!!
 セリオに伝えたかったことが!!!
 とにかく走ることで頭がいっぱいで、自分が息をしているかどうかさえも自覚できない。
 そこに行っても 仕方ないことは分かってる……分かってる!?

 じゃぁ、何故走るんだよ。

 何故?
 疾風のように流れてゆく景色の中、その一つだけが鮮明に映った。
 ――中庭。
 脳が揺さぶられるような振動と共に、いくつもの感情が同時に流れ込んできた。
 全身運動で、細胞は悲鳴を上げる。
 目の前にはまた彼女の映像。
 ゆっくりと向けられた深い瞳が……オレを捕らえて
 ――はい。――なんですか。――その他では。――似てます。――ですから。――すいません お怪我はありませんか。
 ――浩之さん。
 ――浩之さん。
 ――それでは
 ちがぅっ!!! 出てくるなぁっ!!!
 オレは頭を激しく振った。下り坂が宙でねじれ、一瞬足が絡み転びそうになった。
 浮かび上がる記憶は鮮明に蘇り、そして薄れ、二度と思い出せない。
 大切な彼女が全て、「思い出」に書き換えられてゆく。
 これで終わりなのか? あと一度彼女の顔も見れないのか? 言えなかった言葉、
 言えないまま、それで終わるのか?
 くそっ!!! なんで忘れるんだよ!?
 大切な人 それなのにっ!!!
 ――もし、
 これが「記憶」じゃなくて「記録」だったら 彼女をただの思い出にせずに済むのに!!!
 そうだろ!? 誰も大切なモン失いたくはねぇだろ!?

 ――間違ってるのか!?

 商店街を駆け抜け、
 大通りをただひたすら
 足はまるで鉛が絡みついているみたいに重く、いうことを聞かない。
「――それではさようなら 浩之さん」
 それが彼女の涙。
「おお じゃ、また明日な」
 それが最後の言葉。
 なんで気づいてやれなかったんだ。くるりと背を向けたその肩。
 今にも崩れ落ちそうだったその肩を、
 力一杯、ほんとうに強くぎゅっと抱きしめてやりたかった。
 あの時の、乗り込むいっぽ踏み出したあの時の一秒にも満たなかった「間」は、
 彼女の最後のためらいだったのだ。
 その肩
 抱きしめてやれなかった。
 そして全てが終わったのか?
 ――昼間でも派手なネオンが見える
 そして彼女に会うことはもうなくて
 ――そこはいつもの
 オレに残ったのは
 ――ゲームセンターの
 曖昧な彼女の思い出と
 ――表には
 伝えられなかった言葉と
 ――ある。いつもと変わらない バス停
 行き場を無くした 苦しいくらいの彼女への愛しさ
 ――バス停
 会える……よな?
 オレは、両膝に手をついて肩で大きく息をしながら、霞んだ視界でバス停の看板を見上げた。
 すべて、いつもと一緒。
 ただ違うのは
 そこに
 彼女がいないということ。

 喉の奥が焼き付き、唾を飲み込んだ。
 喉が鳴り、風が吹き、体中に噴き出した汗が急に蒸発するのが分かった。
 そこで初めて「涼しい」と思い、オレはそのまま空を見上げた。
 水色を、さらにさらに薄くしたような、白に近い空だった。
 また風が吹く。両肩はまだ上下していて、しばらく止まりそうにない。


 何分、何時間そうしていただろうか?
 そう。最初からココに来ても 仕方ないことは分かっていた。
 もう彼女は戻ってこないということは分かっていて、
 それでもココへ来た。
 バスに乗り込む、その時の彼女の最後のためらい。
 もう会うことはないのだろう。だから彼女は最後にオレを待ったのだろう。
 ほんの少しだけ。
 お別れだと気づいて欲しくないけど、抱きしめて欲しかった。
 それがセリオの、答え。
 オレの言いたかったことは、その時すでに伝わっていたんだ。
 ごめんなセリオ。
 解ってやれなくて。……でも やっぱりさ、オレ、お前のこと好きだ。
 それは変わらないみたいだ。
 優しい、風。
 もう少しだけ、ココに居ることにした。

 ――ココが 彼女にいちばん近い 場所だから。
 
 
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 「途中で流れ180度変えんじゃねぇ!!」な、のわくです。 嗚呼、ダメダメ。
 なんか別に繋がりもなにも考えてなかったシリーズなのに、急にくっつけてるし。
 しかもSSにSSくっつけたから妙に長い(汗)
 そしてシリアス。う〜ん、やっぱオレ、シリアスの方が好きっすね。こっちのほうが書いてて楽しい。
 つまりハリボテ。文章的にダメダメなにょ。
 ……なんかダメダメっていい言葉ですね。もっと使っていいですか?
 ダメダメダメダメダメダメダメダメ
 だめだめだめだめ
 ダぁメダメダメ だめぇっ!!!
 
 はぁ。ダメ人間。なんか強化人間の親戚みたいで素敵です。
 今度から シリアスのみにしようかな……。はぅ〜。
 
 >久々野さま
  >エッヘン。
「ちなみにオレは『あずきバー』が好きだぞ、セリオ」
「――エッヘン 良きにはからう」
「このぅ! えっへんゆったなぁ!? おしおきだぁ!!!」
 ナハナハナハナハ!!!
「――は はむぅ……」
 セリオはナハナハに頬を赤らめ、虚ろな瞳はまるで子猫のように…………
 だ、ダメ人間っ!!!
 なにが起こってんだか(笑)

 あ、あ、レスが間に合ってない……ごめんなさいみなさん……
 
 なんかここんとこ変なテンションに取り憑かれてるのわくでした。
 壊れてるわけじゃありません(笑)
 (変な展開に怒った人、ごめんなさいね(てへっ))

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