セリオでもいいよね! 投稿者:里茄野のわく
 よたよたと……見かけない女の子が……あんな大きな段ボールをふたつも抱えて……
 まるで今にも……
 あっ
 瞬間、意識するより早く体が動いていた。
 ぽすっ
 どん ぼすん ばすん ぼすっぼすっ ぼとっ
 女の子の方は何とかなったが、空中に投げ出された段ボールまでは手が回せなかった。
「――すいません お怪我はありませんか」
 女の子はすでに立ち上がり、オレを心配そうに見つめている。
「お、おお こっちは大丈夫だけど……」
 そう言って見上げるオレ。
 やはり見かけない子だな。可愛い感じ。いや……うちのガッコはレベル高いからなぁ。
 次に目に飛び込んできたのは彼女の耳。
 メカニックで不思議な飾りが彼女の耳を包み込んでいる。
 ――ふわり
 柔らかさと温かさでオレの思考は遮られた。
 彼女はオレの身体に乗り出して ぱたぱたとオレの制服についたほこりを払いだす。
 ぱたぱたぱたぱた……
 一瞬状況を把握できない。 普通、ちがうだろ。
「あ、あのぉ」
「――申し訳ございませんでした」
 しかも何故かオレに敬語。
 本当に申し訳なさそうに服を払う……おいおいおいおい……いつまで続くんだ? コノ体勢は……
「あのってば!」
「――はい」
「まずさぁ……起き上がりたいんだけど?」
 数秒の……間
 そして……
 彼女は「なるほど」といった表情をした。
 実際はあまり表情に変化は見られなかったのだが、なんとなく口元当たりが「なるほど」だ。
「どうも」
 慌てて身を引く彼女に、笑いながらそう言って、やっとオレは立ち上がることが出来た。
 すぐに差し出されるハンカチ。
 なにげに受け取ったあと……迷った。
「これ……どうしろと?」
 彼女はさらりといった。
「――まず、両側を縦に半分に折ってください」
「……はい?」
 今度はジェスチャー付きで
「――まず、両側を縦に半分に折ってください」
 彼女の目が……オレが言われた通りハンカチを折るのを待っている……
 尋ねても仕方無い。
「これでいいのか?」
 オレは片膝をあげて、その上で言われた通りハンカチを折った。
 彼女は少し、満足げにオレの目を見ると……
「――次に、残った方の両側も内側に折り曲げてください」
 うちがわ……と
「こうか?」
「――はい。そうしましたら……裏の袋になった部分を……左右に引っぱり出してください」
 言われるまま、オレは彼女に指さされた部分をつまんで、両手で左右に引っ張った。
 しゅんっ
 ハンカチは 複雑にひねり出され、ふたつのやまを作った。
 ……これで完成のようだ。
 オレは呆れ顔でその物体を彼女の前につまみ上げた。
 「……なにこれ」
 自分でも今、自分が何をしているのか解らなくなってきた。
 完全に彼女の謎ワールド。
 そして、当の彼女は腕をまっすぐ下にのばし、姿勢を正して言った。
「――ブラジャーです」
 
 フリーズ 3秒
 
 静かにオレの目線がハンカチで出来たソレに向けられ……また戻る……
「確かに……」
「――ブラジャーです」
 いたって平坦な彼女の声。しかしまぁ、初めての感じはしない。
 瞳は澄んだ湖のようだが
 その奥に輝くものは……無邪気なこどものそれと似ていた。
「で、これがどうしたってんだ?」
 初対面の彼女に 苦笑いで聞くオレ。
「――あたまにのっけてください」
「オレの?」
「――はい」
 なんでだろ? 苦笑いながらも彼女に付き合ってる自分。
 なんだか……ワクワクする。
 こどもの頃……友達と落とし穴を掘って 誰かが来るのを隠れて待ってる時のように。
 彼女はいたって冷淡なハズなのに、
 オレにはそうは見えない。
 もう最後まで付き合ってやるしかないだろう。
「こうだな」
 オレはハンカチの形を崩さないように注意しながら、ソレを頭にのせた。
 その状態はまるで……
 「解ったぞ! これで『ねこみみ』っていいたいんだろう!」
 何故かはしゃいでいた。オレがはしゃいでいた。
 つまんねぇことなのにな。
 たったそんだけのことなのにな。
 ガキん頃、なぞなぞの答えを誰より早く思いついた時……
 こんな風にはしゃいで言ってたよな。
 いつからあんな風にできなくなったんだろ。
 オレ……いつからこんな気持ち……捨ててたんだろ。
 思い出した……
「――違います」
「はぁ?」
 懐かしい気持ちからオレを引きずり出すのも また彼女。
「じゃぁ何」
 そう。
 絶対合ってると思って言った答えが間違ってた時も……こういう気持ちだったっけか。
 そして、彼女。
「――それは、ブラジャーをかぶった変態下着泥棒です」
 にやり
 彼女が……そう笑ったような気がした。
「おいこらテメェ! 誰が変態だっ だれがっ!!」
 そして自分の姿を見つめる……
「くそぉっ!!」
 慌てて恥ずかしい格好を解除。ハンカチも握りつぶした。
「くすっ」
「誰だっ!! 笑ってやがるのは!!!」
 目の前の彼女ではない。笑い声がしたのは背後だ。振り向きざまに怒鳴ってやった。……が、
「……琴音……ちゃん」
 そう、そこにいたのは
 目に涙をためて笑っているのは……一年生の姫川琴音ちゃん。
 曰く付きの少女。いつも淋しく悲しい瞳をしている彼女が……笑っている。
 初めて……見た。
 「は、恥ずかしいトコ……見られちゃったな」
 苦笑いのオレに 慌てて手で口を押さえ、笑いをこらえようとする琴音ちゃん。
「……笑って……いいって」
 同時に琴音ちゃんが吹き出した。
 彼女のくすくす笑いにつられて……オレも自分を笑ってやった。
 耳に飾りを付けた子は、いぜん静かに立っているだけだったが、
 それが笑っているんだということは……オレにはすぐに分かった。
 3人で……腹が痛くなるくらい笑った……
 
  ・
  ・
  ・
 
 夕焼けの中の帰宅。
 さっき道を別れた琴音ちゃんに、彼女の能力がホントはサイコキネシスなんじゃないかという話をした。
 琴音ちゃんはあんな風に笑えるんだ……
 力の制御さえ出来れば……普通の女の子だよな。
 しかもきっとそれは遠い未来の話ではないだろう。
 そしてオレは、隣を見る。
 彼女も気づいて、オレを見上げた。
「サンキューな、セリオ」
「――私の名前……どうして」
 オレはポケットからさっきのハンカチを取り出した。
 隅にちいさく……セリオ と刺繍がしてある。彼女がやったのかな?
 セリオは……また「なるほど」の表情をした。
 しかし、すぐに尋ねる。
「――では、「サンキュー」 というのは……」
 彼女を見る。
 彼女は不思議そうにオレを見上げる。
 頭の上に手を組んで、赤く染まった空を見上げて言った。
「おまえ……さっきのわざとだろ? 琴音ちゃんのために」
 セリオは また無表情で前を向いて歩く。
 涼しい風が……その髪を優しく撫でてゆく……
 緩やかなときが流れる。
 空は次第に 闇をまといはじめていた。
 ……坂道の手前、
 彼女は独り言を呟くように 口を開いた。
「――
飛べない天使の、飛んではいけない理由。
――飛べない天使が飛ぶことの意味。
無くしたモノの、みつけてはいけない理由。
――無くしたモノがみつかることの意味。
笑えない人の、笑ってはいけない理由。
――笑えない人が、笑うことの意味」
 
 オレはセリオの言ったことに 静かな同調を感じた。
「……むつかしいな」
「――はい むつかしいです。でも、今日は藤田さんに会えて……少し、みつかりました」
「そうか」
「――はい」
 少し歩き……オレはふいに空を指さした。
「あれ……一番星かな」
 そして立ち止まり、空を見上げる。
「――」
 セリオも立ち止まり、静かに……それを見上げた。
 風が……心地よかった。
 数分間、そのままお互い何も言わず
 ただ一点、
 澄んだ闇に輝く ひとつのひかりを
 見つめていた。
 そして 空を向いたまま、ふいにオレが聞く。
「そういやセリオ……おまえは笑わねぇな」
 少し間が空き、
 セリオは明るい声で答えた。
「――私は……笑えませんから」
 そして彼女は歩き出す。
「……そっか」
 そしてオレも歩き出す。
 
「――言い忘れていましたが……私はメイ……」
「あ、なるほど!」
「――。――どうしたのですか」
「おまえさ、寺女の制服もけっこう似合うかもな」
「――――。そうですか。
 あちらには私の友達が通ってらっしゃいます」
 

 ――笑えない彼女が、笑った理由……

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のわくです。別の連載中ですけどなんとなくセリオ。
なんかちょっとセリオってこんなんじゃない気もするけど(汗)
初めは、浩之のガッコに来たのがセリオだったらってのでギャグものにしようと思ったのですが
琴音ちゃんが笑ってしまったところで もうアウトです(笑)
貴重な土曜日を2時間潰してしまった……「レポートしなくっちゃ! きゃは SSかーこおっと」
といった流れの現実逃避。
にげまくり(はぁと)

あ、
>ざりがに様
  爆弾はしょり込まされたメイドロボのとこ すごいスキでした。
  彼女はプログラムという本能のままに最期を迎えたのでしょうかねぇ。

って何書いてんだ? オレ。
ま、いっか。 それでは!

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