神界枯伝《metastoa lost fable》 投稿者:里茄野のわく
 「前回までの・復習予習」
 終止符的武器オーパーツであった葵・浩之は半強制的に神界(メタストア)へと転生させられる。
 そのパーツのユーザーの肩書きを受け生まれし3姉妹ミレイア・カミュ・ルミーは
 パーツを受け取るが(カミュ:アオイ・チャン ルミー:ヒロユキ・チャン)神界は、まったくもって今日も平和。
 速攻で旅を拒否し、帰宅する。
 3人だけの家族。そこには強い姉妹愛と共に眠る、残酷な孤独があった……かも。



第4話『過去の干渉、ふさがらない傷跡』


 今日は 雨だった。
 雨……ふってる。
 ミレイアは そう思った。
 二階にある自分の部屋の はめ込みガラスの縁を
 ソラからおちてきた水の粒が ぺちぺちと叩く。
 ぺちぺちと
 ぺちぺちと
 ぺちぺちと何度も何度も叩く。
 ミレイアは がまんできなくなって
 窓から目を背けると その音も聞きたくなくなって、
 ベットに転がった。
 そして、そこから部屋をみた。
 なにもなかった。
 ベットがあって、そこは自分で、
 ドアがあって、窓があって、
 床があって、カーペットがあって、
 目の前に 小さな子棚が……ひとつあって。
 その子棚には ふたをした、小さな花瓶が……ひとつあって。
 それだけ。
 あとは なにも置かなかった。
 ミレイアは 少し、子棚を眺めると、
 また がまんできなくなって
 ベットに伏せた。
 下で
 カミュがおひるごはんつくってる。
 ルミーがそれをてつだってる。
 そう思った。
 そうして ミレイアは淋しくなって、思い出したくなくなって、
 あまり好きじゃない ひらひらのスカートのポケットに手を入れると、
 ぷにぷにを取り出した。
 ぷにぷには おともだちだ。
 手のうえにのせると、つめたくて、ひやっとしてて、
 はじめは よくわからない動きをしてて、
 そのうち わたしのことを思いだして、
 わたしの手のうえで、びろ〜んって ひろがって、
 つつみこんで、
 また もとのぷにぷにに戻ったり、戻らなかったり。
 それで、ちょっとまってたら、
 うでにはりついて、のぼってきて、
 そでのすきまから
 服のなかに はいってくの。
 ぷにぷにが 私の体をなぞっていくの。
 わたしは ベットにねてるの。
 ぷにぷにが 私のからだをはって、つめたくて、うごいていくけど
 わたしは ずっと上をみて ねてるの。
 自分はなにもおもわないのに 体はぴくって なるの。

 そうしてると わすれられるの。 そうしてないと おもいだしちゃうの。
 私、なにしてんだろ
 ミレイアは そうおもった。

 ミレイアは、そのまま目をつむった。
 あおむけで、両手でシーツの端を にぎりしめて。
 つむったはずなのに 一生懸命 つむってるはずなのに
 涙が伝ってくる。
 どうしても 止められない。
 それが 悲しくて悲しくて よけいに涙があふれてくる。
 このまえの雨の日もおなじだった。
 ミレイアは そうおもった。


「ねえさーん? そろそろごはんにしましょうかぁ」
 一階から カミュの声がした。
 カミュは分かっていた。
 今日、ミレイアが まだ一度も部屋から出てきていないことを。
 ミレイアは分かっていた。
 カミュの声が いつにも増して優しく気遣ってくれていることを。
 だからこそ早く、
 涙を拭いて、
 起きあがると、
 下腹部に張り付き、なおも奥へ進行を続けようとする なまぬるくなったぷにぷにを
 ゆっくりととりだし、
 雨を受けている窓のふちに
 優しく おいて 部屋を出た。
 温もりを得たぷにぷには いずれ 死んでしまうから。

  ・
  ・
  ・

 ……研究所。
 ミレイアは9才だった。
 彼女には家族がいた。
 お父さん。お母さん。妹のカミュ。
 そして、新しい妹 ルミー。
 両親はこの大きな魔法の研究所で働いていた。
 5人はそこに 住んでいた。
 黒い男が現れた。
 雨降る夜のことだった。

 ……気づいたら 全部なくなってた。
 研究所の人 みんな死んでた。
 屋根がなくなってて、頭のうえの鉄の板を、
 雨が ぺちぺちと叩いていた。
 でも
 カミュもいた。 ルミーもいた。 お父さんはずっと私を抱いていてくれた。
 目が覚めて、気がついて 私はお父さんの腕に抱かれていた。
 でも なんでかな。
 見上げると お父さんは まっしろだった。
 今 ココにいてくれてるのに 首からうえは まっしろで なにも見えなかった。
 まっしろのしたには、体があって、 まっしろの向こうには、灰色の空があって。
 ソラからおちてきた水の粒が お父さんの体をぺちぺちと叩くの。
 ぺちぺちと
 ぺちぺちと
 ぺちぺちと何度も何度も叩く。
 まわりをみてみたの。
 カミュは まっかだった。 ルミーは 泥の色だった。
 ふたりとも ずっと泣いてるの。
 仕方ないから お母さんを呼んだの。
 お母さんなら すぐ お父さんをおこせるんだから。
 でもね、お母さんは ちょっと遠くにいたの。
 おそら とんでた。
 ぶらーん ぶらーんって。
 お母さんは まっくろだった。
 まっくろのミノムシが ぶらーんって なってるみたいだった。
 夜が来て 朝が来て また夜が来て。
 何回 夜になったか、朝になったか わかんなくなっちゃった。
 カミュは泣いてばっかりで。
 ルミーも、さいしょはカミュといっしょに泣いてたんだけど、そのうち 静かになっちゃった。
 ルミーのほうがおりこうさんだね。
 よにんでね、斜めになった鉄の板の下にいたの。
 ほんとは お母さんもこっちに来てほしかったんだけど、
 おそらのほうがスキみたい。
 でも 次の日 お母さん いなくなっちゃった。
 あさ 起きたらね、棒だけになってたの。
 お父さんもね、なんか すごくやせてたの。
 やっぱり まっしろのままだった。
 ずっと ごはん食べてなかったのに ぜんぜん おなか すかなかった。
 カミュもルミーも ほとんど寝てた。
 わたしも ねむかった。
 ねちゃお……って おもったら
 きゅうに おめめが おもくなってね、すごく きもちよくなったから
 さんにんでね、お父さんのひざのうえで ねたの。
 すごく きもちよかったから
 なんにちも、なんにちも ねたの。
 どっちがゆめで どっちがほんとうか わかんなくなっちゃった。
 あめ。
 そう。雨がふってたの。
 だから 目が覚めたの。
 起きたらね、カミュも ルミーも まっかだったの。
 だから 私もみたらね、ミレイアも まっかだったの。
 かおも 手も 足も からだも ぜんぶ。
 でも お父さんは違ったよ。
 お父さんは……やっぱりまっしろ。 まっかのまっしろ。
 気づいちゃった。
 あのね、
 お父さんも、死んでたの。

  ・
  ・
  ・

 雨は、一層強く 窓を叩いていた。

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 別に暗くしたかった訳じゃないんですけどね。 

 ろぷ〜ん。

 それではまた来週!

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