ハムスター達の沈黙 投稿者:里茄野のわく
 ある平和な国に、ある平和な少年がおりました。
 彼の名を佐藤雅史。
 ある平凡な家庭に生まれた、ある平凡な少年でしたが
 彼はそのときすでに、奇妙な世界へと 足を踏み入れてしまっていたのでした。


『ハムスター達の沈黙』     里茄野のわく

 廊下を歩いていると突然、雅史に声をかけられた。
「あ、浩之。今日一緒に帰らない?」
 予定通り。
 オレはすでに頭の中で組み立てられていたセリフを ゆっくり、確実に声に再現した。
「わりい。今日は俺、ちょっと用事があるんだ」
 雅史は残念そうな顔をする。
「そっか。じゃ また明日」
 こいつは昔っから砂漠の砂のような性格だ。
「おお。わりぃな」
 こっちに背を向けたことを確認すると、俺は自分の制服の襟元をつかんで 小声で喋った。
「レミィ、ショット!」
 無線のかすれた声が返ってきた。
「ラジャ!」
 と同時に廊下に張り込んでいたレミィが雅史の背中に向かい、パチンコを放つ。
「いいんちょ。 状況は?」
 すぐ教室に引き返す 俺。
 保科の眼鏡はノートパソコンの光りを反射して青く光っている。
「発信器電波受信。動作確認。マップ再計算……そっち出すで」
 俺は委員長と反対側のを見る
 こっちにはマルチとマルチのパソコンがある。
「浩之さん、オペレーションは私達がやりますぅ。
 浩之さんと神岸さんは移動を開始して下さい」
「わかった。じゃ、あかり行くぞ」
「あ、浩之ちゃん まってぇ」
 あかりは耳にイヤホンを付けながら慌てて俺の後に続いた。
「オペ 頼んだぞ?」
 マルチの頭をぐしぐしと撫でると 教室をあとにした。
 ……。
 保科も、やって欲しそうだったので……少し戻ってぐしぐしとしてやった。

 無線にマルチ、いいんちょ、志保の声が飛び交う。
 マルチと委員長はいいのだが、志保はマイク系を渡すとやたらうるさい。
「こちら移動A班志保ちゃんで〜す。 目標は予定通りルート01を進行中よ」
「どうやら寄り道なしに帰宅するみたいやな……
 A班は辰巳の方角に移動再開。 尾行を続けて下さい ザザッ」
「……ねぇ、たつみ ってどっち?」
「え、えっと 確か南東 だと思いますけど……」
 イヤホンの向こうで志保と琴音ちゃんの珍コンビトークが展開されている。

「ねぇ、浩之ちゃん……」
 あかりが俺の顔を見上げていた。
「こんなことやっちゃ……雅史ちゃんに悪いんじゃないかなぁ?」
 その目が悲しそうだ。
「バーカ。今あいつをほっといたら あいつにとって良くないんだ。
 おまえだって雅史が少し変だって思うだろ?」
「そ、それは……でも雅史ちゃんは昔からあんなだったし……」
「ガキの頃はあれで良かったかもしれないけどなぁ、今は高校生だぞ!?
 ハムスターの体の話には興味示しても女の子の体の話には無関心なんて……
 もしかしたら心の病気なのかもしれないだろ」
「……う、うん……そうだね。友達なら守ってあげなくちゃね」
 犬チックあかりはやっとやる気を出した。 と、その時
「移動B班!? マルチですっ」
「どうしたマルチっ」
「予想だにしなかった状況ですぅ。目標ロストっ ごめんなさいぃぃぃぃぃ」
責任を感じ泣き出すマルチをいいんちょが慰める。
「で、どこで見失ったんだ?」
「ひっくひっく……あ、あのっ ルート03半ばです。突然発信器の反応が無くなりましたぁ」
 ルート03……発信器の反応無し……。 
 まさか雅史、発信器に気づいたんじゃ……。
「あっ!!」
 突然あかりが大声を上げる。
「どうした あかりっ」
「もしかしたら……雅史ちゃん、地下水路通ってんじゃないかな」

 あかり……おまえは雅史をナンだとおもってるんだ。

 確かにあそこの商店街の真下には大きな下水道が通ってるけども……
 いや、ありうるっ!!!
 下校に下水道を使うなんて尋常じゃないが あいつならありうるっ!!!
 地下を通ってるから受信機の電波もとぎれたんだ!!!
「マルチ、いいんちょ 地下だっ。ルート03地下にある水路で計算してくれっ」
「了解っ」「了解ですっ」
 あいつ……やっぱり精神病に……。
 俺の頭の中に昔の雅史の記憶が蘇っては 消えていった。
 ザザッピッ
「こちらA班。私のカンだけど……雅史、いよいよ本当にやぱいんじゃないかしら……」
 志保の声は いつになく真剣だった。
 俺は自分の心を最悪の事態に備えさせた。

「あ、あかんっ。情報が少なすぎて割り出せへん。仕方ない……今から……だっ誰やっ!?」
「どうしたっ!? いいんちょ!?」
 俺は襟のマイクを取り外して呼びかけた。
「あ、あの……来栖川さんですぅ。来栖川さんが来てるんですぅ
 え、なんですか?…………はい、はい、
 あの、雅史さんはもうお部屋の中だって 来栖川さんがおっしゃってますぅ」
 なにっ!?
 下水道直通で帰宅したというのか!?
 ってことは……出口はぁ……(恐ろしい想像)
 ぶるぶるぶるっ
 こうなったら……仕方ない。

「あかり、お前はココにいろ」
「え、浩之ちゃんはっ!?」
「直接、あいつの部屋に侵入する。今のあいつは……オレの助けを待ってる気がするんだ」
 あかりは俺に泣きついてきた。
「ダメだよ!! 今行ったら帰ってこれないかもしれないんだよ!?
 死んじゃうかもしれないんだよ!?
 雅史ちゃんも人間捨てちゃって……それに浩之ちゃんまでいなくなったら……
 私っ……そんなの そんなの絶対イヤだよぉ……」
 俺は苦笑いであかりのその綺麗な髪を撫でると、しゃがんで 瞳を見つめた。
 あかりもなみだをふいて俺を見上げる。
「絶対おまえを独りなんかにはしない。必ずヤツを倒して帰ってくる。
 だって……、俺は お前のことが……好きだから」
 そして ぐりぐりとその頭を押さえつけると、
 俺は戦場へと 旅立った。

 もちろん、その告白の台詞が無線によりメンバー全員にリアルタイムで送信されていたことを
 彼と彼女は すーっかり忘れていた。


=おまけ=

 壁をよじ登り、二階の部屋の窓に近づく
 部屋の中からは雅史の声が……
「今日は約束通り早く帰ってきたよ? え? うん。僕も会えなくて淋しかった」
 ……?。 誰かと話をしている。
「あっ……。ははっ。そんなにせかさなくても今日は姉さんも帰ってこないから
 今から? ふふっ。仕方ないなぁ。 じゃ、服脱いで……」
 まさか……あいつにそんな……ウソだろ!?
「もうこんなになってる……じゃ、いくよ……?」
 俺は持ちうるだけの勇気を振り絞り、部屋の中を 覗いた。

ところでみなさん、グローブ式ねこ手ではない ねこみみの女の子は容易に想像できますか?
はい。それではそのまま はむすたーみみの女の子を想像してみて下さい。

 雅史は、ソレとヤっていた。

 遠のいてゆく意識の中
 俺はマルチエンディングシステムの真の恐ろしさを垣間見たような気がした……

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のわくです。
学校始まったんで ピッチもやたら遅くなってるんですが……。
とっても読み切りです。でもけっこう好き。
え? 葵ちゃんがいない? ぐふっ(忘れてたとは口が裂けても言えませんねぇの意)
ごめんなさいです。
次回は……喋ります。 来週持ってきます。

というわけで、小動物好きの雅史にはある意味最高の恋人かな(笑)
(ねこみみの耳がちっちゃくなっただけ。あ、ねこみみの子よりひとまわり小柄っ(にやり))
でもねこみみはやっぱりぐろーぶですよねぇ。
でもって絶対とってみせてくれない(笑)
で、抱きかかえながら背中を大きなモーションでなでなでと……(爆)
(爆してよかったんでしょうか?)

あ、それと感想ありがとうございます。

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