lp−gas 投稿者: 里茄野のわく
 夜の来栖川本社内HMX開発工作室。
 時折ちいさく響く電子音。
 そこには二体のメイドロボットが身を潜めていた。
 キュキュイン……ピィッ
「やりました。私とマルチさんの入室ログは削除しました。
これよりdnn経路でホストにアクセスします。バックアップおねがいします」
「了解。状態確認、オールクリア。形式参照 私のナンバーで接続します。
 ……あっ、ホストはHMX-12を確認しました。dnn経路確保。状態よろし」
 マルチはそう言うと、隣のセリオを見た。
 セリオはハッキングのため、背中のフレームを外して
 接続端子を直接末端コンピュータに繋いでいるのでうずくまるような格好になっている。
 会話手段以外の機能をすべて停止させている。
 とても痛々しい姿だった。
「私達……間違ってませんよね?」
 マルチが呟くように言う。
 少し間をおいて、セリオが答えた。
「たとえ 間違っているとわかっていても やらなくてはならないことも あります」
 優しくも頼もしい口調だ。
 マルチは小さな拳を握りしめ、そして思った。
  セリオさんは、強い方です……
 そして 覚悟を決めたように真剣な表情になった。
 いつものように左腕のロックを外し、パソコンの端子を繋ぐ。
「HMX−12の状況データを転送します。セリオさん……気をつけて下さい」
 動かないセリオに優しく微笑むように言った。
「マルチさんは 優しい方ですね」
 セリオは嬉しそうに そう呟いた。
 来栖川ターミナルコンピュータへのハッキングが開始された。

メイドロボットがいくらあがいたところで ターミナルの演算能力には遠く及ばない。
そこでシステムの一番甘いところを突く。
試験機のデータ読み込み。
まだ数少ないHMXシリーズ。
そのデータ読み込みのために用意された経路は監視されていない。
灯台もと暗しだ。
でも、
もし、失敗したなら……
二人はそれをよく分かっていた。
分かった上での行動だった。
彼女たちをそこまでさせる理由はひとつ……。

マルチは初めての運用試験から帰って一週間、ずっと感じていた。
胸の痛み。胸の高鳴り。人として、少女としての何か。
取り戻したい。
失った記憶を。
それは忘れてはいけない 大切な大切なこと。
一番大切な人との 一番大切な約束。
誰にも見せたくなかった。 ずっと私のメモリのなかにしまっておきたかった。
思い出せない。
なにも。
誰が大切なのか。なにが大切だったのか。そのときの気持ちが想い出せない。
初めて見つけたもの。
今まで自分になかったもの。
……なんだろ。

学校での運用試験開始。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………試験終了。
それは絶対に忘れてはいけない約束だったのに……
胸が痛い……。
セリオもマルチと同じ気持ちだった。

「5分経過っ。HMX−12の状況データ転送65%終了です」
「了解。状態安定 問題なし。 ヒット……データファイルを見つけました」
「ファイル保存状態はどうですか?」
「データタグ一致。パス・ロック共にありません。
 ホストにダミーアクセス情報を送るので 回収、お願いします」
「……わかりました」
 失った記憶を取り戻すのは、きっと辛いことなんだろうな。
 マルチはそう思った。
 それでも、想い出したい。
 だって……
 自分でもどうしようもない程、胸が締め付けられるように痛むのだから。

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最近よく投稿させてもらってる里茄野のわくです。
えっと、里茄野=リナスヤです。 こんにちは。
いつも読み切りサイズで書いてます。ほかのみなさんのSSを読む息抜きにでも(笑)
今回もマルチで行っちゃいましたねぇ。ホントは葵ちゃん系でイコウと思ったんですが。
まあ、それはまた今度。
ちょっと切なさが足りませんかね。一応オレの小説は可愛いのと切ないの重視なんですが(笑)
あっ!かわいーのも足りてないですね(ってより無い)
ご意見・ご感想いただけるとものすっごくうれしいです! お願いします!!

かわいーのはうちのHPで。 ou-TAM -emyu- ってやつです。ちょっとマルチとかぶってしまってる気がする女の子『エミュ』のおはなしです。良ければどうぞ(もうちょっとで泣き場かな……?)

http://www.grn.mmtr.or.jp/~nowaku/attop.htm