疾走 投稿者: ルパン
闇の中を1つの影が過ぎ去った。
夜の町並みの、屋根の上を跳ぶように走り抜けてゆく
後ろからはたくさんのヘッドライトが追ってきていた。
その光の一つが、その影を一瞬だけ、照らし出した。
しなやかに体をしならせて、とんでゆくその姿は、異様なまでに艶めかしく映
った。
「子供か?」
ベテラン手腕の七瀬刑事はその一瞬の姿から、犯人の正体を的確に見抜いていた。
しかし、このパトカーの群を自分の脚力のみでかわす力が子供にあるとは考えにくかった。
その、七瀬刑事の横の席で静かに、前を見つめる若い刑事がいた。
その眼はどことなく赤く光っているようにも見えた。血の色だ。
やがて、人影を川岸の工場の屋根の上にまで追いつめようとしたときだった。
その人影が大きく跳躍し、パトカーの群の最先端に降り立った。
「なっ!」
先頭のパトカー数台がそれを避けようとして、横の工場につっこんだ。
「動くなっ!」
後続のパトカーから警官が降り、人影に銃を向けたときだった。
それはヘッドライトの照らす範疇から飛び出し、上から手近なパトカー一台をま
っぷたつに両断した。
周りの警官がもたつきながらもそれから離れ、やがてガソリンに引火して、
派手に燃え上がった。
燃え上がる炎に銃を向けていた刑事は、信じられないものを見た。
ものすごい早さで、影が炎を突っ切って、自分の方に向かってきたのだ。
「ぐあっ」
鳩尾に拳をたたき込まれ意識を失う瞬間。彼が見たのは、まっすぐな瞳をした
女の子の顔だった。
「柏木 楓」
先ほどの新米刑事が出てきて、静かにその影、楓に告げた。
楓は姿を隠そうともせず、まっすぐその刑事に向き直った。
周りの警官は銃を向けているものの、楓が女の子であることに戸惑っている
様子だった。
「君が、世間を騒がす。正体不明の通り魔だったとは・・」
「・・・・」
「子供だからといって、容赦するな。殺されるぞ」
完全にはかられた。 楓はこの刑事にさそわれるまま、先ほどの場所にのこのこと
行ってしまったのだ。
このままでは完全に刑事の思惑どうり、通り魔殺人が自分のせいになってしまう
自分はどうなってもよかったが、このままでは姉さんや妹までも、被害に遭う
だろう。
本当の犯人は目の前にいる刑事だと。罠だと気づいたときにわかったが、
今の状況で、それを証明してみせるすべはなかった。
つかみかかっていっても、半端な攻撃では周りの警官達の銃の餌食になる。
しかし、楓はまっすぐその刑事に躍りかかっていった。
「ばかが・・」
刑事の口がそう動いたように見えた。そして次の瞬間。
じゃっ
刑事の体を横凪にする。まつたくガードもしてなかったが、致命傷にはほど遠か
った。
その次の瞬間には、刑事達の撃った弾が楓の体を狙っていた。
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しかし、弾は楓には当たることはなかった。
楓と銃の間に、なにかが立ちはだかっていのだ。

「?」