黒き閃光・・・・・・第壱話 投稿者: ラーキア2490











……暗い…
……眠い…
……寒い…
……辛い…
……………此処は………何処だ……
……………俺は………誰だ……
何故俺は此処に居る?……
……何故俺は生きている………
どうして俺は死ねない………
ど・う・し・て……






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がばっ!
「俺」は突然跳ね起きた。すぐさま隣に置いてあった目覚まし時計を見る。時計の針は丁度4時30分を指していた。
「よし、間に合うな」
俺は独り言をつぶやき、いそいそと準備を始めた。…・・
10分後…俺はすっかり準備を整え、家を後にしていた。
たったったったっ…・・目的地まで走りながら考えていた…今朝も見たあの夢…。
昔から薄ぼんやりとは把握していたのだが、この頃やけにはっきりと見えるようになってきた。いつ見てもろくでもない夢。あの夢に出てくる「俺」は一体何を表しているのだろうか。前世?それとも未来?何にせよ、俺にそっくりな誰かが夢の中に居た。その男はとても苦しんでいた。何かに怒りをぶつける様に自分を責めていた。
「まっ、いいか」
訳の分からぬ夢の内容で悩む、というのはかなり滑稽である。そうでなくとも俺は周りから変人扱いされているのに。俺はどうでもよいが、「母さん」を困らせるのはとても悲しい。
たったったったったったったっ………着いた。
もう始まっている。流石は皆朝が早い。
「おはようございます」 俺は可能な限りの爽やかな挨拶をした
「おう、おはようさん」
「今日も早いねぇ」
俺はにっこりと微笑むと、バッグの中から専用のスティックを取り出し、皆の輪の中に入っていった…………。
「2番ゲート通過」
よし、OK。
「あんちゃんようやるねえ…」
「何の何の」
俺の周りに居るのは全て俺の5,6倍生きている人達だ。今、皆でゲートボールをやっている。俺にとって、ゲートボールをプレイするという事よりも、老人方と話をしたりするのがとても楽しみなのだ。彼等の話はとても楽しい。俺と同世代の連中の話は何の脈絡も無く、意味すら覚束無い事ばかり言っている。
「しかし、あんちゃん、学校とかはどうしているんだね?」
突然、俺とよく話をするおじいさんが尋ねてきた
「家庭学習で勉強をやってますから」
「へー、そんな事が出来るんだ」
「はい」
そんな会話をしながら、俺は何気なく右手に有る腕時計を見た。針は6時20分を指していた。
「いけない、もう帰らないと」
「そうかい、それじゃまた来なさい」
「はい」
俺はその場に居た老人全員に挨拶をし、そして駆け足で家に向かい走っていった。




「あいつか……・・・」
物陰から一組の男女が現れた。
「はい、彼から微量ながら波動が出ていました。隠そうとしているのか、単にそれだけの能力なのかは分かりませんが…・」
「彼に関する情報は?」
「いえ、まだ正確には…けど、背後には来栖川がついているようにも思えます」
「来栖川ってあの来栖川か?」
「はい、そうです。尤も、来栖川が彼の能力について感づいている様には思えません。彼は来栖川のHMシリーズの実験場となっている孤児院に住んでいますから…」
「楓ちゃん、彼の身元をもう少し洗ってみようか」
「そうですね、耕一さん」
そう言うと二人は男の運転するバイクに乗ってその場を離れた。



「ただいまぁ」
俺は家の戸を開け、入るなりそう言った。すると、
「おかえりなさ――い、」
と奥の台所から声が聞こえてきた。そして、
ぱたぱたぱたぱたぱた……・・とスリッパの音と共に声の主が現れた。
「ただいま、母さん」
「うん、おかえり、義章」
そう言って俺の頭をなでる。母さんは昔から俺の頭を何かにつけよくなでる。怒られている時も、喜んでいる時も。そして、俺も母さんに頭をなでられている時が一番幸せだったりする。
なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで………
「うふふっ、義章ったらいつまでたっても甘えん坊さんなんだねぇ。」
「母さんこそ」





もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……
ごっくん
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……
ごっくん
「義章ぃ、ちゃんと20回噛んでいますかぁ?」
台所の流し場でカチャカチャやっている母さんが聞いてきた。
「ああ、ちゃんと噛んでいるよ」
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……
ごっくん
俺はテーブルに乗っていた麦茶の瓶に手を伸ばし、それをコップに注いだ。そして、二人で暮らすには広すぎる部屋を見渡した。
俺がこの孤児院に来た頃、同じ様な境遇の孤児が同時に10人ちょっと居た。しかし、それらの子供は俺が小学校に入学する頃には全員いなくなっていた。或る者は精神的に虚弱になっていき、或る者は自ら此所を出て行った。原因は分かっている。俺達を育ててくれた人…・母さんに有るのだ。
母さんは普通の「人」ではない。さらに言えば、生き物ですらない。来栖川が造ったHMシリーズの試作実験機なのだ。(正式名称はHMTP−03と言うのだが、俺はその名より、「ファイン」というほうが好きだ)。その現実に俺と同期の「心弱き者達」は耐えられなかったのだ。俺は違う。俺から見れば、母さんは誰よりも人間らしい。悲しい時は悲しみ、嬉しい時は喜び、怒った時は怒る、俺の知るどんな人間より人間らしいのだ。こんな事を言う俺を他の者は「奇人」、「変人」、「気狂い」と呼んだ。俺がそう言われるのは一向に構わないのだが、母さんを悪く言う者に対しては容赦しなかった。気が狂う迄追いつめてやったり、心身ともに再起不能にしてやった奴もいる。
俺が変人扱いされた理由は他にも有る。俺に他の人間には無い能力が有る。他人を意志と無関係に操る事ができたり、感情の起伏によっては超人的な身体機能を発揮したり出来る。その能力を隠す為に自然と人付き合いは悪くなり、ますます変人扱いされるようになった。
俺はふと、テレビの内容に興味をひかれた。プラズマビジョンの大型ディスプレイの中で、ワイドショーのリポーターが何か言っている。
「また……凄惨な殺人事件が起きました…・。被害者のA子さんとBさんは暴行を受けた後…・・、頭部を大きな鈍器の様な物で殴打した模様です…・・」
一見して、抑揚の無い、無気力なリポート。同情するような素振りをして被害者の家族にマイクとカメラのフラッシュ、そして失礼極まる言動を浴びせまくる。こんな発言をする連中を公共の電波に出すような連中こそ、この世界には要らないのではないのだろうか?
しかし、最近この手の事件が多い。特徴として、被害者の共通点が殆ど無い。強いて言えば、女性が多い事くらいだ。又、普通の人間の力では到底不可能な力で殴打されたり、身体を捻じ切られたりしているという事、一部の女性被害者は性的暴行を受けた後、殺されている事。そして、目撃者が全くいない事…・これはその場にいた者を全て殺している為らしい…………
これらはテレビで言っていた事なので或程度の着色が有るのだろうが、それを差し引いても、犯人は「普通の人間」とは思えない。テレビでは、何処其処で怪しい男を見た、だの怪しい車を見た、だの挙げ句の果てには事件前夜UFOを見た、なんて話まで出てきた。
「馬鹿馬鹿しい…・なぁ母さ…・・」
そう言った時、突然視界が反転し、俺は床に叩き付けられた。
「がはっ…・」
いったい…・・何が………







つづく






どうも、おひさです。新シリーズの第壱話はどうですか?。殆どオリジナルキャラ(笑)。
怒っている方もおられるかもしれませんが、そういうのも全て感想にして下さい。
第弐話をお楽しみに!(次からちゃんと柏木家の面々を出します)




PS>まさた(あっていますか?)さん。りーふ図書館素晴らしいですぅ。これも、上に有る第零話改もよろしくお願いします。