やおい投げ 投稿者:遊真

  嵐の到来を予感させるような強風が、遮るものが何もない草原に吹き渡る。
  膝程の丈の草が、ざわざわと音を鳴らした。
  俺はその中で、力無く膝をつく…。
  だ、駄目だ……勝てやしねぇ…。
「畜生……」
  俺は上目遣いで、立ちはだかる、巨体を睨み付けた。
  後ろへと撫で付けた白髪、年齢的衰えを感じさせない頑強な体躯……。
「ふははははっ!! 藤田殿、これでもまだ立てますかな」
  眼鏡の奥の、余裕の瞳に、ちらりと萎えかけた闘争心が立ち上がる。
  気に入らない。
  俺と、先輩との仲を引き離そうとするのも気に入らないが…。
  セバスチャン。
  そのふざけた名前が、俺は嫌いだ。
  いや……ふざけているのはどうでも良い。
  その、インパクトの強烈さが、羨ましすぎる…その上、先輩が名づけただって?
  俺なんざ、プレーヤーが名づけ親だぜ畜生。
  その上、名前の印象が薄いだのなんだのと、ケチをつけられる……こんなのってありか?
  ………。
  って、今はそんな私事に、没入する暇はなかったけ…。
  俺は頭を振って、雑念を振り落とすと、よろよろと立ち上がった。
  そして肩越しに、背後を見る。
  俺の視線が、長い黒髪を風に流しながら立つ先輩の視線とかち合った。
  いつもと変わらないようだが、心なしか瞳には不安の色がある。
「大丈夫だって、俺は絶対に勝つからさ」
「………」
  さすがに、これだけ風が強いと、先輩の声は聞き取れない。
「何?」
  聞返すと、小走りで先輩が近寄ってきた。
「…………」
「これを使ってください?……何を?」
  懐から、先輩は一つの瓶を取り出した。
  俺はそれを受け取る。
  怪しげな色をした液体が、ぐつぐつと煮立っていた…。
  思わず、一歩引く。
「なに…これ」
  そう問い掛ける俺の口元は引きつっていた。
「………………」
「えっ?……格闘潜在能力を上げる特効薬? まるで“足が一本増えた”ような、
“鋭い足技”が使えるようになるだって?」
  先輩のコメントに対して、俺のコメントの方が長いのはこの際許そう。
  それよりも…。
  俺は、改めて、この怪しい薬を観察した。
  これを……飲むのか?
「……………」
「…私を信じてくさいだって?……そりゃ、もちろん信じているさ」
「……………」
「これからも、一緒です…か……」
  ………そうだ、そうなんだ。
  今は、こんな薬如きで、躊躇う時ではなかった。
  俺は今、先輩をかけて、一世一代の大勝負に出ているんだった。
  俺と先輩が付き合うための条件。
  俺は無言で、鬼神の如き、セバスチャンを顧みる。
  この、セバスチャンを、倒すことが出来たら、……来栖川家に認められるのだ。
「解った、ありがとう、先輩。遠慮無く使わせてもらうぜ。……だから下がってな」
  口の端だけを上げて、にっと笑みを象った、そしてすぐに顔を引き締める。
  コクン、先輩が肯いて、元の場所に戻って行った……。
  そうして俺は、再度セバスチャンと対峙した。
「ふむ、芹香お嬢様と、何をお話でしたのかな」
「あんたには、関係ないだろ」
  血反吐を草の上に出した。
  ぎろりと睨む。
  俺のガンつけに、セバスチャンは半眼になって、ため息を一つ吐いた。
「……藤田様の、そのスピリットには敬服致します。しかし、これもすべて旦那様の
下した命令。手抜きは出来ませんぞ」
「解ってらぁ……」
  ……そして、俺はセバスチャンとの間合いを少し離した。
  睨み合う…。
  空白の時だけが流れていく……やがて…。
  俺とセバスチャンの、目に見えない攻めぎあいに触発されたのか……。
  とうとう空が泣き出した。
  一度、降り始めたら、決壊したダムのような大雨になる。
  水飛沫で、前もろくに見えない…。
  セバスチャンがふっと、目線を俺の背後に滑らせた。
  さすがに芹香お嬢様が、気になるらしい…。
  俺は、その隙を逃さなかった。
「勝負だっ!セバスチャン!!」
「ぬっ!?」
  叫ぶと同時に、俺は先輩から渡された瓶の中身を一気に呷った。
  リ〇ビタンCの味がした。
  そして……かっと体内の血液が沸騰したかのように燃えてくる。
  マグマのような力の訪れを俺は感じた。
  いけるっ、と意味もなく思った。
「おっ!?………おおっ!?」
  思わず声が漏れる。
  とにかく、熱い。
  やたらと熱い。
  無茶苦茶熱い。
  こんな感覚は、産まれて……。
  産まれて…。
  …………。

  産まれて初めてじゃねえじゃんかぁっっ!!!

「馬鹿野郎ぉぉーーっ!!」
  俺はノリツッコミをしながら愕然とした。
  この、たぎるような熱さは、以前にも覚えがある。
  こ、これはもしかして……
「惚れ薬じゃないかあぁぁぁぁぁ!!!!」
  絶叫。
  それじゃあ、このマグマのような力の訪れは……。
  俺は、ゆっくりと視線を、下へとずらしていく。
  ……在った。
  確かに、そこには在った。
  先輩の言うとおり…。
  猛々しい…。

  ドーピングされた、鋭い三本目の足が(涙)。

「覚悟ですぞっ!」
  呆然と股間を見詰める俺の前に、突如、セバスチャンが雨のカーテンを抜けて出現した。
「げげげっ!!ちょ、ちょっと待…」
「問答無用っ!」
  セバスチャンが、俺の右腕、更に胸座をつかむ。
  そうしてクルリと軸足を起点に回転して、俺の懐に飛び込んだ。
  俺を担ぐつもりだ。
  この技はまずいっ、不味すぎるっ!
  滂沱の涙で頬を濡らしながら、必死で技に堪えようとしたが…。
「うおりゃっ!!背負い投げっ!!」
  呆気なく…。
  俺は、セバスチャンの背中に担がれた。
  嗚呼っ!!
  接触。
  そして、有無を言わさず…。

  合体。

「ぬおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!!!!」
  この世の者とは思えない、断末魔の声を発っしてセバスチャンは俺を担いだまま失神した。
  口から沫を吹いている。
  俺も失神した。
  これが夢であったら、と思いながら……。

  意識どころか、身体まで塵と化しそうだ……。



  ダブルノックアウト、勝負持ち越し!!





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

…………。
…………はっ!
…一体、自分は何を書いているんだろう…。
名誉のために言っておきますが、私は薔薇部ではありません(笑)



 beaker さん 「懺悔」 痕編

千鶴懺悔、柳川懺悔、笑わせてもらいました。
いいですよねぇ、全裸で風を感じながら走れたら(笑)


 久々野 彰 さん  『僕だけの太田さん』

ギャグ落ちかと思ったら、サイコ落ち? 
この手順の踏み方は結構好きです。
後、毎度毎度感想、有り難うございます。


 takataka さん   修学旅行の夜は更けて

不思議な表現技法がいいです、Jバストやら虚数空間、接触感染・・・。
世界感が弾けてるようで、実際問題、こんな感じなんだろうかやっぱり、と
思わせてくれます。
 
                さすらいの女賭博師 初音

なんかなぁ・・・、梓ってこういう使い方が一番生きるんですよね(笑)。


 貸借天 さん   LF98 (17)

感想有り難うございます。
LF98って十七話目になるんですか、ならば一話目から見なければ。
英二さんが、出張ってますねぇ、あの人は良いです。


 vlad さん     鬼狼伝 (30)

よいよ、エクストリーム開催ですかっ。一体どんな結果が待ち構えているんだろう・・。
楽しみです。