エルクゥごっこ 投稿者:遊真

「耕一お兄ちゃん、エルクゥごっこしよ」

  初音ちゃんがそう提案をしてきた。
  エルクゥごっこ? ………なんだそりゃ。
  …………。
  エルクゥ=鬼
  ああっ、鬼ごっこの事ね。
  なかなか、とんちの効いた置換だ、初音ちゃん。
「おっけー、良いよ、エルクゥごっこしよう」
「ほんと?」
  鋭角に尖った寝癖を、ピコピコ跳ねさせながら初音ちゃんがはしゃぐ。
「「「「やった」」」」
  俺の背後でも歓喜の声。
  はっと振り返る。
  千鶴さん、梓、楓ちゃん、柏木四姉妹勢揃い。
「ほんとに、ほんとにエルクゥごっこをするんですねっ、耕一さんっ!」
「は、はあ……」
「後で、止めたっていうのは無しだぞ、耕一」
「どういう事だよ、それ」
「逃がしません」
「何それ、楓ちゃん。……もしかしてみんなもエルクゥごっこするの?」
  三者共に肯く。
  良い大人が何を考えているんだ?
「千鶴さん、仕事はどうするんだ」
「臨時休暇ですっ」
  これでどうする鶴来屋の運命。
「もちろん獲物は、耕一さんですよね」
  キラリンと目を光らせて、楓ちゃんがそう提案をしてくる。
  獲物?
  たぶん、逃げる側の事を言うんだと思うんだが……。
  妙に、怪しい雰囲気が俺を包み出した。
  彼女等の発する、奇怪なエルクゥ信号のせいだ。
「別にいいですけど」
「「「「よしっ」」」」
  これまた息の合ったガッツポーズ。
  梓は、まだしも残りの三人。
  握り拳を突き上げないでくれ、俺のイメージが壊れる。
  というより壊れてきた。
  なんだ、なんだ、一体。
「ちょっと、いい」
「なに? 耕一お兄ちゃん」
「エルクゥごっこって一体、……何?」
  俺がそう聞くと、何を今更と言った感じで初音ちゃんが俺を見る。
「エルクゥごっこは、エルクゥごっこだよ」
  答えになってないって、それ。
  俺は千鶴さんに助けを求めた。
「鬼ごっこの事じゃないの? 千鶴さん」
「全然」
  あっさり否定。
  ……やばいぞ。
  この展開は非常に不味い気がする。
  例えば、千鶴さんの料理フルコースが俺の前に並べられた。
  そんな不味い展開だ。
  お決まりの展開だ。
  なし崩し的に、神の手のように、避ける事のできない展開だ。
「じゃ、じゃあ、エルクゥごっこって一体……」
  俺は勇気を振り絞って、訪ねてみた。
「もちろん、エルクゥが獲物を狩る遊びです」
  と楓ちゃん。
  嗚呼っ。
「か、狩られた獲物はどうなるのかな……」
「やだ、耕一さん。私の口からはいえませぇん」
  それで大体察しがついたよ、千鶴さん。
  ジャラリ
  彼女らの背後で、鎖の擦れる金属音が聞こえたのは…。
  たぶん…気のせいではない(涙)。


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初投稿です。
衝動的所産ですので、考案一瞬、作文十一分の超小作