KULLSING 投稿者: 八塚崇乃
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  はじめに断わっておきますが、これは某少年画報社『HELLSING』のぱくり
 であり、著作権の問題などは全くクリアしておりません。
  読む時は細心の注意(特に背後)を払ってお読みください(笑)。
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――ピーーーガッ
『こちらクルシング!! こちらクルシング本部。状況を説明しろ!!』
「ん? ああ、ごめん」
 黒いコート、黒い帽子の少年は、いま気がついたかのように返事をする。やる気のない
返事を。
『どうした?』
「月を見てた」
『はぁ? ……しっかりしてくれユウスケ!! おまえだけが頼りなんだぞ!!』
「判ってるよ。あんまりにいい月だったから」
――ブツッ
 ユウスケと呼ばれた少年は、これ以上小言を聞きたくないのか、通信機の電源を切り、
一人呟く。
「滅多に見られるものじゃないもの。こんなにいい月は……紅い月は」


                 ◇◎◇◆◇◎◇

 6月14日。
 この小さな村の教会に、1人の牧師がやってきた。
 奇妙な牧師だった。
 妙に存在感がないのだその牧師は。
 牧師が道端を歩いていても、誰も彼に気がつかず、声を掛けようとさえしないのだ。
 まるで、存在が無いかのように。

 最初の事件が起きたのは、1週間後の事だった。
 隣村に使いに行っていた青年が、次の日になっても帰ってこなかった。
 その後も事件は続いた。
 10日間の間に次々と、村民10名が消えた。
 村は恐怖のズンドコに……じゃなくて、どん底におとしいれられた。
 そんな中、命からがら近くの家に逃げ込み助かった少年が警官に証言したのだ。

 暗闇の中、そいつは立っていたと。
 最初は暗くて判らなかったが、雲がはれて月が照ると、はっきりと見えたのだと。
 とても虚ろな目をした牧師様を。

 警官と村人達はすぐさま牧師を問いただそうと、教会に押しかけて来た。
 運の悪い事にそれも夕方。それも夜近くに。
 そして……。

                 ◇◎◇◆◇◎◇


「お待ちしておりました『KULLSING』局長クルシング卿」
「報告は受けているわ。司令官は?」
「こちらですクルシング卿。我々ではもはや手に負えません!!」
――ガサッ
 クルシング卿と呼ばれた女は、警官に案内された作戦本部らしきテントの中に入る。そ
の中には腕組みをしながら何やら呟いている背広の男と、ライフルを装備している警官が
3名いた。
「君が……アヤカ・クルシング卿……か!?」
 背広の男がクルシング卿――アヤカ・クルシング――に気がつき、開口一番に、
「一体、何があの村で起きているんだ!?」
 疑問を言う。だがアヤカは男達に対して軽く微笑むだけ。
「ご心配には及びませんわ。ここからは、わたし達の『仕事』ですから」
「な……」
 絶句する男。そのままぼうぜんとアヤカを見つめる。が、何が気に入らなかったのか少
し声に怒気を含める。
「……3時間前、突入した警官隊が連絡を絶った。所持カメラで写した映像、見てもらっ
たと思うが……あれは一体!?」
「『人形』よ」
 即答するアヤカ。そのまま言葉を続ける。
「村の中は『人形』で一杯ですよ」
「一体何の話だ? 話が見えんのだが……」
 警官の1人が言う。その問いに答えるアヤカ。
「あれは『電波使い』に精神を壊されたチョイ役達の末路よ。『電波使い』に操られてい
るゾンビ、そんな所ですか? だからあの村には『電波使い』がいると考えられるわ」
「ちょ……ちょっと待て! 『人形』!? 『電波使い』だと!?」
 背広の男、それを聞き驚いた顔で叫ぶ。慌てず騒がずアヤカは、
「そうよ」
 と、返事をする。
「そ……そんなバカな話があるか!?」
「そんなオカルト話を信じろと!?」
「事実ですよ。でも信じなくても全然結構。あなた方の『仕事』は終わったのですから」
 もう、誰も言葉を発しなかった。
「あなた方の様な木ッ葉役人は知らなかっただろうし知らなくてもいいんですが……」
 そこでアヤカは言葉を切る。そして一呼吸分間を置いて、言う。
「わたし達『王立新葉教騎士団』、通称『KULLSING機関』は、ずいぶんと昔から
彼らと闘ってきたのよ。東鳩帝国と新葉教を犯そうとする『電波使い』達を葬り去る為、
わたし達は組織された特務機関ですから」
「「「「「………………!!」」」」」」
「村の中に人形を操っている『電波使い』がいるわ。相手はキチ○イよ」
「キ、キ○ガイって……」
 そんな呟きは無視してアヤカはさらに喋る。
「普通の軍隊や警官をいくら投入した所で、奴等にエサを与えているにすぎないわ」
「………………」
 沈黙。もう、彼女以外誰も言葉を発しない。
「『電波使い』は脇役達の精神を意識的に改造する事で『電波使い』として『繁殖』する
けど、それ以外の――チョイ役はただのエサにすぎず『人形』となって、『電波使い』の
肉奴隷になってしまう」
 煙草の箱を軽く叩き、数本の煙草が箱から出てくる。そのうち1本を取り、アヤカはそ
れを口に持って行く。
「母体である『電波使い』本体を殺れば『人形』は全滅する。だから『電波使い』はわた
し達が殺るわ」
「………………!!」
「ばか……な……っ!!」
「すでにわたし達の中でも特に、対『電波使い』のエキスパートを村に向かわせているわ。
数時間でケリがつくはずよ」
「………………」
 警官達は顔を見合わせている。けれど背広の男が口を開く。
「……一体どんな奴なのだ? だいじょうぶなのかねそいつは」
――ジャッ
 ジッポライターで煙草に火をつけるアヤカ。
「彼の名前はユウスケ。キチガ○……特に『電波使い』に関してなら……そう、誰よりも
エキスパートよ」


「本当に、いい月だ」
――ザス、ザス……
 ゆっくりと歩きながら小さい声で喋るユウスケ。
「こんな月だ。壊れたくもなる。……そうだよね?」


「ハアッハアッハアッハアッ……」
――タッタッタッタッ……
「はははははは……走ってもムダだぞ」
「くっ……」
――ドン、ドンドンッ!
 音を立てて婦警――と言ってもまだ高校生にも見える青い髪の少女――の手の中にある
銃から3発の弾丸が発射される。しかし――
「当たらんね」
「え?」
 婦警の銃から発射された弾丸は、全部目の前にいる『電波使い』に命中するはずだった。
 しかし弾丸全てが『電波使い』には命中せず、あらぬ方向へと飛んでいく。
「な……なん、で?」
「『命中しないのか』かね? 簡単さ。おまえの脳に命令して当たらないようにしただけ
だ」
 呆然とする婦警。そうしているうちに『電波使い』が近づいてくる。
「……くっ!」
 銃を捨て、殴り掛かろうとする。が、
――チリチリチリ……
「え? な、な、な、な、な、な……」
 身体が動かない。指一本たりとも。
「くっくっくっくっ……」
 口元を歪めながら『電波使い』が笑う。
――ぬらぁ
 『電波使い』の後ろから、精神を破壊されてしまった『人形』が10数体ほど現れる。そ
の中にはかつて婦警の同僚だった者もいた。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……」
 恐怖のためか、婦警の口からはその言葉しか出てこない。ゆっくりと彼女に近づく『電
波使い』。
「おまえは壊してからゆっくりと犯してやろう」
 婦警の胸ぐらを掴む。
「あ、や、や、やぁ……」
 婦警の目に涙が溜まる。
「壊れ――」

「待った」

「なっ!?」
 唐突に、『電波使い』のすぐ後ろからユウスケが現れる。驚く『電波使い』。それを無
視し、彼は口から言葉を紡ぎ出す。
「まったく……最近の若者達は下衆だね。モラルもなにもあったもんじゃない。町のチン
ピラと変わりないよ」
 それを聞き、正気に返る『電波使い』。気を取り直してユウスケに、
「何だおまえは。まぎれ込んだおのぼりさんかい?」
 小悪党ばりのセリフを言う。
――ふっ
 苦笑する。
「僕の名前はユウスケ。特務機関『KULLSING』の手先のゴミ処理係さ。あなた達
専門の殺し屋ですよ」
――ザッ
 一歩前に踏み出すユウスケ。
「はぁ? 殺し屋? 殺し屋だと?」
 『電波使い』が笑う。ユウスケは更に一歩踏み出す。
「本気か? 正気か? おまえ?」
 可笑しそうに笑う『電波使い』。そして、
「殺せ」
 自らの『人形』達に命令した。

――ドン、ドンドンッドンドン、ドンドンドン、ドンドンッドン、ドン、ドンドンッ
――ドンドンッドンッドンドンッ、ドンドンッドンドンドンッドンドンドンッドンッ
――ドンッドンドンッ、ドンドンッドンドンドンッドンッドンッドンドンドンッ……

「ば、馬鹿なっ!!」
 今度こそ本当に『電波使い』は驚いていた。
 『人形』に撃たせた弾丸。全て、ユウスケには当たらなかったから。
 今、『人形』達を、身動きできないようにしているから。
「何故!! 何故だっ!!」
「判っているんだろ? 本当は」
 ユウスケが狼狽する『電波使い』に語りかける。
「『電波使い』は銃じゃ殺せないんだよ」
「そ、そうかっ! 貴様っ!」
 ユウスケの言葉を聞き、やっと気づく『電波使い』。その声は震えている。
「何故貴様、『同族』が俺を殺そうとするっ!!」
 つまらなそうな声で、その一言にユウスケは答える。
「色々とね。……じゃあ、そろそろ壊れてよ」
 再び一歩踏み出し、瞬時に膨大な『電波の粒』を集めるユウスケ。
 だが、その動作に集中していたため、『電波使い』の行動には注意を向けていなかった。
「待てっ!」
 その声に反応し、行動を中断するユウスケ。
 声のした方向を向いてみると、『電波使い』が婦警を後ろから羽交い締めにしていた。
「う、動くな殺し屋!! そこまでだ!!」
「あ、あ、あ……」
 怯える婦警を盾にして、『電波使い』は叫ぶ。
「たった一人の生存者だぜ! 生かしておきたくないのか!?」
 けれどユウスケはそれを一瞥しただけで、再び『粒』を集め出す。
「こ、こいつの心を壊してもいいって言うのか!?」
「ねえ。そこの青い人」
 ユウスケは婦警に声をかける。
「え? わ、私ですか?」
「そう」
「貴様……何を」
 『電波使い』を無視し、婦警に、
「君、脇役?」
 と質問する。
「え? え?」
「何を言ってやがる!」
 もう一度質問する。
「君は脇役? それともチョイ役?」
「野郎! ふざけるな!!」
「答えて!!」
 婦警に叫ぶユウスケ。
「はっ、はっ、はいっ! 脇役です!!」

「ふぅん……じゃあ、一緒に壊れて」
「な……」
「え?」

 そしてユウスケは、彼女ごと、『電波使い』の精神を壊した……。

                    ・
                    ・
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                    ・
                    ・
                    ・

 倒れ、壊れた『電波使い』には気にも止めず、ユウスケはまだ少しだけ意識が残ってい
るはずである婦警に話しかける。
「この『電波使い』の心を壊すために、邪魔な位置にいた君ごと『電波』で心を壊した。
君はこのまま壊れた人間として生きることしかできないけど、君が望むのなら――」


「帰ってきたぞ!」
「クルシングの……!?」
 警官達の声の中、ユウスケは後ろに婦警を引き連れてアヤカの元へと辿り着く。
「良くやったわユウスケ。首尾は?」
 そのアヤカの質問に対し、ユウスケはどこか遠い目をしながら答える。
「母体の『電波使い』は倒したんだけど……」
「だけど、って……その娘は?」
――ガヤガヤ、ガヤガヤ……
 彼ら2人のやり取りに耳をすませていた警官達が、ざわめく。
「おい、彼女……」
「婦警の生き残りじゃないか?」
 それを聞き、アヤカ。
「どういうこと?」
「え……っと、『電波使い』にしちゃった……」
「「「「「………………」」」」」」
 死よりも冷たい静寂。そして、
「あの……ごめんなさい」
 婦警の謝る声。

「「「「「なにぃぃぃいいぃぃいいぃぃぃいぃぃぃぃいいいいぃいぃいっ!!!!」」」」」

「何やってんのよバカーーーーーーっ!!」
「しかたなかったんだー!!」
「すみません〜っ、すみませんっ」
「プラマイゼロじゃないのーーーーーー、姉さんに怒られるじゃないのーーーーーーっ!!」
「うぁああああああっ!」


  めでたしめでたくもなし


                                     ギャフン!
                                     END


「――君が望むのなら、君が生きたいと望むのなら、心を直してあげる。でも二度と『脇
役』には戻れないよ……」


                                98/12/14
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≪アトガキ≫
 八塚「実は初期設定ではアーカード役は浩之だったんだよね」
 刹那「じゃあ、なんで祐介にしたの?」
 八塚「だって、浩之じゃ弱いじゃん」
 姫崎「はぁ……(嘆息)」