裏文学 投稿者: 八塚崇乃
 小泉八雲『むじな』より


  『むじな……?』

 ある晩のこと、なんでもだいぶ夜ふけてから、柏木梓が隆山橋をすたすた歩いていると、
橋のたもとで、女が1人しゃがみこんでしくしく泣いているのを見かけた。身でも投げる
んじゃないかと梓は心配になって、もし自分の力に及ぶことなら助けてやろうとし、なん
とか慰めてもやりたい――絶対に深い意味ではなく――と思いながらその女に話しかけた。
「あの……どうしました?」
「シクシク、シクシク……」
「あの……」
「シクシク、シクシク……」
「え〜、あの〜」
「シクシク、シクシク……」
「・・・・・・」
「シクシク、シクシク……」
(ムカッ)
――バキィッ!!
 梓は橋の手すりをコブシで叩きました。なんとも鈍い音がしたと同時に、鉄製の手すり
はその部分だけが凹みました。泣いている女は、その音によってようやく自分の後ろに誰
かがいることに気がついたようです。
「あの……どうしました?」
「・・・・・・」
「ココで会ったのも何かの縁だし……話してくれないかな?」
 じゃないと話が進まないし、と作者が考えている事に気がついたのかどうかは判らない
が女は口を開きました。しかし梓の方には顔を向けずに。
「実は……私、夫を殺してしまったんです」
「…………はい?」
「私が作った料理が原因でした……あの人は私が作った手料理を苦悶の表情で食べ尽くす
と、突然白目をむいて倒れたんです……すぐに救急車を呼んだんですが、もう手後れでし
た……ああ、あの時私が、柏木千鶴著『千鶴さんの手料理・真のレシピ』なんて読まずに
料理を作っていればこんな事には……」
 シクシク、と再び泣き出す女。
 黙って聞いていた梓。はぁ、とため息をつきながら、
(……だから私はやめようって言ったんだ。鶴来屋の特産品コーナーにあんな超危険物を
置くのはやめようって。だいたいなんで殺人料理しか作れない千鶴姉があんな本を書くん
だよ……)
 などと考えていると、ふいに泣いて震えていた女の肩がピクッと止まる。
「・・・・・・」
(自費出版するために鶴来屋の金横領して、バレたからって社長の足立さん以下重役達を
半殺しにして黙認させたし、「隆山の恥だ」って家の中に石投げてきた奴等も捕まえて半
殺しにした挙げ句、手料理を腹一杯食べさせて精神崩壊起こさせたし……)
「あ、ず、さ?」
(他には……)
「あ〜ず〜さ〜ちゃん?」(↑の台詞の4倍の大きさ)
「え?」
 梓の耳に、とても朗らかで殺気の混じった声が聞こえる。梓は女の方に意識を戻した。
「あなたは知らないでしょうけど――」
 梓の思考を中断した女はスクッと立ちあがる。そして梓の方を振り向いた。
「わたし達エルクゥは、精神感応の力を持っているの……つまりはあなたの考えてる事は
みんなつつぬけなのよぉ〜〜〜!!」
「ち、千鶴姉!?」
 仰天する梓。そう、女の正体は、自称「花もトキメク14才」、梓の姉であり鶴来屋会長
である柏木千鶴であった。
「あ、ず、さ? お仕置きが必要みたいね?」
「え、いや、ちょ……」
 明るく楽しげに言う千鶴。狼狽する梓。
「大丈夫。死にはしないと思うわ。ただ……主人と――耕一さんと同じ場所に行ってもら
うだけだし」
 千鶴が一歩足を前に出すと、
「そ、それが死ぬって言う事でしょうが〜〜〜」
 梓は一歩後ずさる。声はもう半泣き状態だ。
「さあ梓……」
 瞬時に周囲の気温が3度下がった。
「お仕置き。よ☆」
「いやぁぁぁ〜〜〜!!」

――ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……
 全力で逃げる梓。陸上部で鍛えた脚力に加え、エルクゥとしての力のおかげか、なんと
か千鶴の追撃から逃れる事ができた。
 今、そんな彼女の目の前に、屋台があった。千鶴から隠れるため、とりあえずそこに入
る。
「いらっしゃい」
 と声をかける店の旦那。だが、
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
 入ると同時に呼吸を整える梓。
「? お客さん?」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……え? ああ……ええと……」
「・・・・・・」
「……とりあえず食べれるものを」
「はい、ソバ一丁」
 梓の注文に答える旦那。ソバを作りながら、
「嬢ちゃん、一体なにがあったんでい」
「え?」
「……いや、なに。あんなに慌ててこんなトコロに入ってくるなんざぁ、ただ事じゃねぇ
と誰だって思うぜぃ」
「・・・・・・」
 手際よく料理しながら世間話を話すように質問してくる旦那。しかし梓は答えない。
「・・・・・・」
「……まぁいいけどよ……はいっ、ソバ一丁あがりっ!」
「……どうも」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
――ズッ、ズズッ
 ソバを啜り、口に入れる梓。それを黙って見る旦那。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「……ところで」
「?」
 いきなり声をかけられ、箸を動かす手を止める梓。視線を旦那の方へ向けるが……
「ソバの味はどう? 梓?」
「!!」
 両目が見開かれる。梓の目の前にいたのはソバ屋の旦那ではなく、なぜか柏木千鶴であ
った。
(と、言うことは……)
 視線をゆっくりと手の中にあるドンブリに向け――


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
 自分の悲鳴で梓は目を覚ました。
 ぱっと目を見開き、一番手近にいた耕一の顔面を殴り倒す。
「あああああああああっ!!」
 悲鳴は耕一ではなく、梓自身があげた。布団から跳ね起きて、畳の上に倒れている耕一
をつかみ上げると、そのまま壁に向かって投げつける――
 投げると同時、梓は飛んでいく耕一を追いかけるように連続バク転を始めた。壁に当た
って跳ね返ってきた耕一を、連続バク転の勢いでフライングキックの体勢に移行した梓の
蹴りが、もののみごとに打ち倒す。
「よっしゃああっ!!」
 畳に倒れて完全に気絶した耕一に対し、止めの技に入ろうとして梓は――コーナーポス
トが見あたらなかったので――、ぴたりと動きを止めた。
 ふと我に返り、あたりを見回す……。
 姉――千鶴――が、呆然とした顔で、こちらを見つめ返していた。
 ………………。

「あ、なんとなく思い出してきた……」
 千鶴の簡単な説明によって、梓は自分が今置かれている状況を再確認した。
 夕方頃から少し気分が悪くなって、居間で寝ていたのだ。
「で、夜になっても梓が起きないから……」
 言いにくそうに千鶴。梓はキョトン、と首を傾げて姉を見る。
「夕食ね、ソバなの。私が作った……」

 その瞬間、居間は静寂に包まれた。





《追記》
 柏木楓 :梓が起きる前に千鶴の作ったソバを食べてしまい、倒れる。
 柏木初音:同上。
 柏木耕一:なんとかソバを食べるのは回避するも、梓の手によって撃沈。

  合掌。


                                98/11/04
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≪アトガキ≫
 刹那「今は亡き文豪、小泉八雲先生ごめんなさい」
 姫崎「八塚くん、無茶過ぎと思うけど……このネタは。しかも某オーフェン……」
 八塚「う〜ん。次は芥川竜之介先生か、菊池寛先生かなぁ」

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 八塚「【突発的な〜〜】で書いていた通り、とりあえず八塚崇乃はこのSSを機にしばらく地下に潜ります」
 刹那「今までこんなお馬鹿な駄作SS書きに感想を書いてくれた皆様方、ありがとうございました」
 姫崎「次に出会う時までには、八塚くんになんとか普通のSSを書かせるので、期待しないで待ってて」
 八塚「では恒例の、レスです。
    10月20日11時31分〜11月3日00時05分までのものです。
    いつもの通り時間順で書きます。

    NTTTさま。わざわざ俺への解答をSSにしてくださって、ありがとうございました。
     そっか、そういう理由だったんだ……。
     あ、某大運動会でもそういう話があった気がします。
     一度見てみるとよいかと。(ちなみに、TV版の最終回です)
     ……あなたはおそらく、若手のSS作家の中で今いちばん活躍してる人ですね。
       どうかあなたの内にあるその力を、輝きを、どうかなくしてしまわないように……がんばってください。

    紫炎さま。感想ありがとうございました。
     い〜や、俺は断固として矢島を虐めます。
     SS作家として、それは当然の行為でしょう(笑)。
     ……HPの伝言板には、定期的に顔を出します。また馬鹿な会話をしましょう。

    久々野彰さま。感想ありがとうございました。
     1. >配役分けってどうしてもこちらを立てればあちらが・・・ってなりがちですよね。
      ま、しかたないですよね。
     2. >神岸家で愛用されているのでしょうか?(笑)
      当然!(断言&笑)
     ……投稿二百回、おめでとうございます。
       『締めくくり』と書いてましたけど、もしかしてやめちゃうんですか!?

    vladさま。感想ありがとうございました。
      >とにかく箱に入れて送ってしまうのが流行りか!
     流行なんですよ(ニヤリ)。
      >シリーズ化なんて……そんな大それたことはしません。……もう一回だけです。
     あの内容なら、あと2回くらいは行けるんじゃないですか?(笑)
     ……ひさしぶりに【関東藤田組】読みました。
       もう10作目なんですねぇ……。
       あ、過去に「セバスの話は今のとこ予定なしです」と書いてましたけど……書きましたね?(ニヤリ)

    くまさま。感想ありがとうございました。
     1.葵ちゃんが婦警のワケ、その2。
      間接技使ってるシーンがあったから。ただそれだけ(爆)。
     2. >とはいえ、端々に八塚さんらしさが出てました。
      俺らしさって、どんな感じなんだろうなぁ……。
      自分じゃ判んないか(苦笑)。
     …… >「ネタがなくても感想は書いてくださいね」
       いきなりマリー・アントワネットで攻められても困るのですが、
       SSをしばらく書かないと宣言をした人間が、感想なんか書いてもいいのでしょうか?
       と、最近思う毎日です。(理由1)
       俺なんかの感想って、読んでもあまり面白味が無いんじゃないかとも思っています。(理由2)
       それと、最近の投稿コーナーを見て判ると思いますが、俺は最近、感想を書いていません。
       投稿された小説の数がハンパじゃないので、読むのにも時間がかかるからです。(理由3)
       でも、書いてくださいね、と言われたからには少しづつ書いていくつもりです。

    HMR−28さま。感想ありがとうございました。
     おいでませ、投稿小説コーナーへ。
     あの場面で英二さんを書いた理由。
      弥生さんの場合、次はあの人しか書く人間がいないから(爆)。
     俺的には千鶴さんより梓がほしいなぁ(再爆)。
     ……【破伝−痕− 鬼狩伝】読ませてもらいました。
       『デュルゼル』というキャラクターに一つだけツッコミをいれさせてください。
       もしかして、某英雄伝説3が名前の由来ですか?

    ……レスはここまで! 次はちょっとだけ近況を。
     最近、【I for You】のESP以外の後輩を1人、SS作家にしようと画策しています。
     彼はパソコンを持っていないので、彼から渡された文章をTXTにカキカキしてる毎日が週に1回ほど続いています。
     いずれその作品が完全に完成したら、このコーナーに投稿しようと思います。
     楽しみに待っててくださいね

    近況もここで終わり!」
 刹那「さて、長長と書きましたがそろそろ終わりましょうか」
 姫崎「そうね」
 八塚「……復活にはちょっとだけ時間がかかると思いますが、
    絶対にここには戻ってきます。それまで皆さん、お元気で。」
 刹那「ではこの辺で……このSSは自称アシスタントの刹那久遠と」
 姫崎「自称アシスタントの姫崎りあ、と」
 八塚「八塚崇乃でお送り致しましたっ!」
 刹那「再見!」
 姫崎「ばいばい」
 八塚「SeeYouAgain!」


 P.S.
  皆さんにちゃんとお別れも言っていないのに、いきなり消えるというような失礼な真似だけはしません。
  ぜったいに、絶対に帰ってきます。