箱入りよ、そして伝説へ……。 投稿者: 八塚崇乃
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  パクっていいと許可をくれたくまさんに、この2つのSSを捧げます。

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 『箱入り千鶴』

 ある晴れた朝、それは起こった。

「いってきま〜す」
 がちゃっ。ゴン。
「なんだ?」
 おそるおそるドアの陰をのぞいてみると、段ボール箱がおかれていた。
 中に入っているのは……俺の従姉である千鶴さん。
「おはようございます、耕一さん」
 正座をして箱の中に収まっている千鶴さんは、俺を見上げてそう言った。
「か、柏木くん!! 誰なの? そのとっても怪しい年増の痴女は!?」
「な、なんですって!!」
「あぁ……なんでこうなるんだよぉ〜!」
 とりあえず俺は、由美子さんに事情を説明した。
「なんだ、そうだったの」
「そうだったのですか……」
 あなたがそんな風に言わないでくださいよ千鶴さん……。
「で、どうするの?」
「とりあえず大学に行こう。遅刻しそうだし」
「うん」

 ………………。
「千鶴さん」
「なんでしょう、耕一さん」
「どうしてこのクラスに居るんですか?」
「だって梓に家、追い出されちゃったから行くところがないんです☆」
「何で俺の膝の上に乗ってるんですか?」
「耕一さんの近くにいたいからです。キャッ♪」
 ………………。
 痛い。由美子さんやクラスのヤツラの視線が、痛いっ!!

 昼休み。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あの……」
「どうしました? 耕一さん」
「お昼食べたいから降りてほしいんですけど……」
「・・・・・・」
 ……座っていたいのか? 千鶴さん……。
 千鶴さんは俺の膝の上から降りて一つ前の席に座った。少し、いや、かなり寂しそうだった。
 パクパク。
 じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。
 モグモグ。
 じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。
「あの、じっと見るの止めてほしいんですけど……」
「・・・・・・」
 いや、そんなことで周囲の気温を3度も下げないでほしいんですけど……。
 結局俺は、エルクゥ化した千鶴さんに見つめられたまま、人生で一番のどを通りにくい食事を終えた。

 放課後。
「すみませ〜ん。レディジョイの相田という者ですが、柏木耕一さんはこちらの教室に――」
 しまった。今日は響子さんの取材を手伝うというアルバイトがあるんだった。
 このままでは響子さんの記事のネタにされてしまう。
 しかし、千鶴さんが膝に乗っているので逃げることもできない。
「あっ……」
 俺の姿を見た響子さんはニヤリ、と笑った。

 俺はその晩、久しぶりに涙で枕を濡らした。
 千鶴さんはそんな俺の隣で寝言を言っている。
「あぁん。耕一さぁん♪」

 次の日の朝。
「お、おはよ、耕一……」
 昨日千鶴さんが居たところに座っていたのは、梓だった。


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 『箱入り弥生』

 ある晴れた朝、それは起こった。

「いってきま〜す」
 がちゃっ。ゴン。
「なんだ?」
 おそるおそるドアの陰をのぞいてみると、段ボール箱がおかれていた。
 中に入っているのは……由綺のマネージャーである弥生さん。
「おはようございます、藤井さん」
 正座をして箱の中に収まっている弥生さんは、俺を見上げてそう言った。
「と、冬弥!! だめだよ、粗大ゴミはちゃんと清掃局に連絡しないと」
「違うんだ!! 俺じゃない!!」
 とりあえず俺は、彰に事情を説明した。
「なんだ、そうだったの」
「・・・・・・」
 なんで冷たい眼差しで俺たちを見てるんだよ、弥生さん。
「どうしよう……」
「とりあえず大学に行こう。遅刻しそうだし」
「うん」

 ………………。
「弥生さん」
「なにか」
「どうしてこのクラスに居るんですか?」
「由綺さんに、あなたの1日の行動を観察してほしいと頼まれておりますから」
「何で俺の膝の上に乗ってるんですか?」
「この方が観察しやすいかと」
 由綺、俺が浮気でもすると思ってるのかよ……。
 俺はちょっぴり泣きたい気持ちになった。

 昼休み。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あの……」
「なにか」
「お昼食べたいから降りてほしいんだけど……」
「・・・・・・」
 ……座っていたいのか?
 弥生さんは俺の膝の上から降りて一つ前の席に座った。少し、寂しそうだった。
 パクパク。
 じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。
 モグモグ。
 じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。
「あの、じっと見るの止めてほしいんですけど……」
「・・・・・・」
 いや、表情くらい変えてほしいんですけど……。
 結局俺は、弥生さんに見つめられたまま、人生で一番のどを通りにくい食事を終えた。

 放課後。
「冬弥、いる?」
 しまった。もっとも危険な幼なじみの存在を忘れていた。
 しかし、弥生さんが膝に乗っているので逃げることもできない。
「あ」
 俺の姿を見たはるかは、きびすを返して歩き去っていった。
「明日は槍が降るかなぁ」
 という、はるかワールド的な台詞を残して。

 俺はその晩、久しぶりに涙で枕を濡らした。
 弥生さんはそんな俺を観察していた。
 あの冷たい眼差しで。
「・・・・・・」

 次の日の朝。
「よお、青年」
 昨日弥生さんが居たところに座っていたのは、英二さんだった。


                                98/10/27
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≪アトガキ≫
 八塚「なんだかなぁ……流行ってるなぁ。箱入り」
 刹那「紫炎さん、八塚に続いてARMさんまでも……」
 姫崎「みんな、憑かれて(疲れて、ではない)るのよ……」