「千鶴さんはご飯を炊くことができるか?」 某月某日 PM3:00 ここは隆山にある旧家、柏木家。 今、家の中には一組の男女がいる。 男は居間でごろごろしながらTVを見ている。 女も居間で同じようにごろごろしている。 二人はTVの内容が頭に入っていないかのようにぼうっとしていた。 ふと、 「なあ、梓」 男がそばにいた女――柏木梓に声を掛ける。 梓は自分が呼ばれているとは気がついていなく、やはりぼうっとして いたのだが、男の少しだけいらついた気配を感じ取ったのか、すぐに問 い返す。 「なに? 耕一」 男――彼女の従兄である柏木耕一は、たった今思いついた疑問を梓に 聞いてみる。 「千鶴さんさぁ」 「千鶴姉が?」 「料理、ぜんぜん作れないよなぁ」 「何を今更、当然のことを聞いてんのよぉ」 顎を手の甲に乗せ、机に頬杖を立てながら嘆息する梓。言葉を続ける 耕一。 「でも……炊飯器でご飯を炊くことぐらいできるだろ?」 ――ゴトンッ 「いったぁー」 手の甲に乗せていた顎が滑ったのだろうか、思わず頭を机にぶつけて しまう梓。どうやら今ので完全に朦朧とした意識が吹っ飛んだようだ。 頭の中で今聞いた耕一の疑問を読み返しながら、答える。 「当り前じゃない。いくらあの千鶴姉でも、ご飯ぐらいは炊くことがで きるだろ。それにな耕一、イマドキの炊飯器は機械仕掛けなんだぞ!? 千鶴姉だって馬鹿じゃないんだからそれぐらいは――」 耕一は梓のセリフを遮るように、言う。 「じゃあ、試してみるか?」 「えっ?」 思わず従兄の目を見詰める梓。見詰められているその従兄の目は、な ぜか爛々と輝いていた。 某月某日 PM7:30 「ただいまぁー」 と、地元一の大旅館である鶴来屋の会長であり、今の柏木家の家長で もある柏木千鶴はそう言いながら玄関の戸を開けた。いや、開けようと した。 ――ガタッ 「あれっ?」 玄関は開かなかった。当然だろう。鍵がかかっていたのだから。 千鶴はハンドバックから合鍵を取り出し、鍵穴に差し込み、回す。そ してまた戸を開けようと横に引いた。 ――ガラガラガラッ 戸を開けた千鶴は、屋敷の中に誰の気配も無いことに気づく。 (変ねぇ。楓と初音は友達の家に泊まりに行くって聞いていたから、い ないって事はわかるけど、なんで梓と耕一さんもいないの?) とりあえず家の中に上がり、居間の電気を点ける。すると、居間のテ ーブルの上に一人分の食事とメモ用紙があることに千鶴は気づいた。メ モ用紙には何か書かれているようだった。 手に取り、内容を確認する千鶴。思わず口に出してしまう。 「えっと、『ちょっと近くのスーパーまで買い物に出かけます。荷物が 多くなりそうなので、耕一も連れて行きます。あたしと耕一は夕食を食 べたので、千鶴姉一人で食事をしてください。それと、楓と初音がいな かったのでちょっとお米の分量を間違えてしまい、あったかいご飯がな くなってしまいました。お米は洗って炊飯器の中に入れているので、自 分でご飯を炊いてください。15分ぐらいで炊けると思います。8時過ぎ には帰ってきますので。柏木梓。PM7:20』かぁ……」 (仕方ないわよね。私だって今日は残業で少し遅くなるって言っていた んだし……) ため息を吐きながらメモをクシャクシャにしてくずかごに捨てる。そ して千鶴は、台所へ向かった。 某月某日 PM7:35 「やっぱりやめようよぉ、耕一」 「おまえだって乗り気だったじゃないか」 耕一と梓、彼ら二人は台所全体を見渡せる窓から、千鶴が台所に入っ てくるところを覗き見しながら小声で会話していた。 「けどなぁ」 「まあまあ。おっ、そろそろ始まるみたいだぞ」 耕一がそういったが矢先、千鶴が台所に入ってきた。 某月某日 PM7:40 千鶴はまず、炊飯器のふたを開けた。 「……お水が、入ってないわね……」 梓が舌打ちしながら言う。 「しまったー、水を入れるの忘れてた」 炊飯器のお釜をもって流しに向かう千鶴。水を入れるのだろう。 蛇口をひねり、彼女はお釜の中に水を流し始めた。 ――ジャァーーー 「確か、お釜が満タンになる1cm手前ぐらいまで水を入れるんだったわ よねぇ」 などと見当違いのことを呟きながら、流れる水を彼女は見つめていた。 「違うよなぁ、梓……」 「当たり前でしょ……」 止める気も起きなくなったのか、ゲンナリした声で答える梓。 満タン1cm手前で水を止めた千鶴は、炊飯器の所へ戻り、お釜を炊飯 器の中にいれる。 次に、炊飯器に付いているボタンを押そうとするのだが、どれを押そ うかと迷うように手が泳いでいる。 「どれだったかしら……」 迷うことに夢中で、炊飯器の下に置かれている1枚の紙に気づかない。 その紙には、炊飯器の使用上の注意がこと細かく書かれていた。梓の 書いたものだった。 「あー、もう。なにやってんだよ千鶴姉っ」 姉に気づかれないように、小声で騒いでいる梓。 「もう、適当に押しちゃえ♪」 即断し、本当に適当にピポパと押す千鶴。 「あれでいいのか?」 耕一の問いに答える気力も、姉の暴挙を見る気力も無いのか、梓は地 べたに寝転がって子供のように泣いていた。 「いやだぁ。あんな事する千鶴姉なんてキライダァーーー」 呆れたように千鶴を、そして梓を見る耕一。はぁっ、とため息。耕一 は梓を起こし、彼女を背中に背負うと、 「最初に馬鹿な事言い出したオレが悪かったって。ほら、買い物に行く ぞっ」 そのまま耕一はその場を後にし、背中で泣いている従妹と一緒に、買 い物に出かけた。 某月某日 PM7:50 「あれっ? なにかしら、これ」 ボタンを押し終わった後、千鶴が目にしたのは、炊飯器の上部がスラ イドし、そこから出てきた赤いボタンだった。 「これを押せばいいのね?」 かってにそう解釈した千鶴は、迷わず赤いボタンを押した。 ――ピコッ 押した瞬間、 ――カッ 閃光と共に―― 某月某日 PM8:30 「ただいまぁ」 「ただいま」 両手に肉や野菜などの食材を抱えた耕一と梓。それを冷蔵庫に入れる ため、二人は台所へと向かう。 台所には明かりが点いていた。千鶴がいるのだろうと見当をつけ、耕 一は「ただいま、千鶴さん」と、梓は「千鶴姉、ただいま」と言いなが ら、台所へとはいった。が、彼らの目に写ったものは―― 黒コゲになり、もはや原形をとどめていない炊飯器と、 同じように黒コゲになり、床に倒れ伏している千鶴の姿であった。 【END】 98/08/10 ------------------------------------------------------------------------------------------- ≪アトガキ≫ あとがき、あとがかれ、あとがかる、あとがかりましょう・・・・・・ ……おぉうっ!! こんなくだらない盗作ネタを書いたのに、自称アシスタントの刹那久遠のツッコミがこないっ!! けど、虚しい。 と、いうわけでアトガキです。 今回の作品、いかがだったでしょうか? 炊飯器なんかに自爆ボタンつけてしまった俺って……馬鹿ですね。 いくらオチに困ったからって…… まあいいさ。千鶴さんだし。(いや良くない) それに俺は《KingOf駄作》を目指してるんだし。(なんじゃそりゃ) 料理ネタに便乗して言うのもなんですが、 「妹が欲しいっ」と最近周囲で一人、騒いでおります。 『痕』の梓や初音ちゃんのような妹。 『天●無用!』の砂沙●ちゃんのような女の子でもいい。 『ジオ●リー●ーズ』の高●ちゃんや、ま●のような女の子や猫でもっ! ようするに、兄のために料理を作ってくれるカワイイ(ちょっと強気でも)女の子なら誰でもいいんですけど…… ……節操無いなぁ、俺。 そうそう。今回は諸事情により皆さんの作品が見れず、感想が書けませんでした。 最近はちょっと忙しくて……(言い訳は見苦しいか) さて、そろそろ終わりましょうか。 では、次回作『魔術士ヒロユキ・失敗編2のBパート(予定)』でお会いしましょう。 司会は俺、八塚崇乃でした。 SeeYouAgain! P.S. おばQさま。『もしも電波が使えたら』への感想、ありがとうございました。 『闇の咆吼』の続き、期待してます。