乙女心はあかりの純愛 投稿者: 山岡
 神岸あかりは恋する乙女。
 今日も今日とて恋のお悩み。
「ああ、浩之ちゃんは私のことどう思っているんだろ?
 恋する乙女はとてもシ・ン・パ・イ(はあと)
 『自分の心を正直に言葉にする薬』さえあればなあ」
 俗に言う『自白剤』である。
「……」
「あ、来栖川先輩…ええっ!? こんなこともあろうかと『自分の(
中略)薬』を作っていてくれたんですか!」
 無茶な展開である。
「ありがとうございます先輩! このご恩は一生忘れません!」
「……」
 どういたしましてと去っていく芹香の姿が地平線の彼方に消える
のを確認し、あかりはおもむろにPHSを取り出す。
「……あ、警察ですか? 実は来栖川のお嬢さんが薬物の不法
生成を……ええ、そうです、はい、よろしくお願いします…」


 さようなら、恋敵!


「雅史ちゃん、これ飲んで(はあと)」
「・・・え?」
 目の前に突き出された、腐臭だけではなく妖気すらも漂う、コッ
プになみなみと注がれた液体に、さすがの雅史も一筋の冷や汗
を垂らす。
 あ、たかろうとした蠅が落ちた。
「あ…あのさ、あかりちゃん…これもしかして凄く危ない飲み物…
っていうか…物体…じゃない?」
「うん! でも雅史ちゃんなら飲んでくれるよね!」

 しばし沈黙。

「…ぼ…僕遠慮しとく…」
「お願いじゃなくて命令だから、ね(はあと)」

 泣く泣く一気する雅史の姿は痛ましさを超越し、神々しくもあった
という。
 閑話休題。

「じゃあ質問するよ雅史ちゃん」
 楽しげなあかりとは対照的に雅史には死相すら浮かぶ。
「じゃあね…好きな食べ物は?」
「……お…おとこ……」
「……サッカー部の後輩何人食べたの…?」
「ぜ…ぜんいんつまみぐいした…でもほんめいは…ひろゆき…」
 満足げな笑みを浮かべるあかり。
 薬の効き目は抜群のようである。
「実験完了! 次はいよいよ本番ね!」
 だがあかりは気づいていない。
 薬ビンのラベルに書かれた『危険!100倍に薄めて使うこと』と
いう文字に…


 さようなら、ホモ野郎!


「浩之ちゃん、手作りジュースだよ(はあと)」
 教室内であかりは事を起こした。
 教室内で浩之にジュース(自白剤入り)を渡す→矢島が奪おうと
しゃしゃり出る→「お前にはやれねえ」→浩之ジュース飲み干す、
という恐るべき作戦である。
「あかりさんのジュース!? な…なんてえっちな響きなんだぁ!
!(爆) 藤田ぁぁぁぁぁっ!! よぉこぉせぇっっっ!!!」
予想通りの矢島。そして浩之は!
「あーのめのめ」
「……ええっ!!」
あかりは思わず叫んでしまった。
「ひ…浩之ちゃん…私の作ったジュース…矢島君に渡しちゃって
いいの…?」
 その問には答えず、浩之はあかりの肩に手をおいて言った。
「…もう来栖川先輩に全部聞いたよ…」
「……ええええっっっっ!!!!何で来栖川先輩が!?だってあ
の人今警察のお世話に…まさか…まさか来栖川の魔の手は警察
にまでおよんでたって言うの!?…そうよそうに違いないわ!!
口惜しい!きいいいいっ!!」
「ハンカチを噛みしめるなハンカチを」
「ああ浩之ちゃん!!警察に来栖川先輩を告発したのは私じゃな
いからね!!お願い信じて!!」
「何の話だ何の。…俺が言いたいのは」
「…なんだまだそれしかはばれてないのか…よかったあ…じゃ、そ
れはそれとして…」
「…ん? なんだ?」
「ジュース飲んで(はあと)」
 ぺしっ
「あっ」



「ったく、人の気持ちを無理矢理聞き出そうなんざ最低の行為だ
ぞ」
「…だって…」
「だってじゃねえ!!だいたいお前はだなぁ…っておい、あかり…
?」
 いつの間にか、あかりは泣き出していた。
「だって浩之ちゃんいつも答えてくれないんだもん!! いつも別
の女の人と仲良くして…!! 浩之ちゃんの気持ちがわかんない
んだもん…!! ずっとずっとそばにいて…浩之ちゃんのこと…
何でも知ってるつもりだったけど…わかんないよ…もう………うう
っ…」
「あかり…」
 修羅場である。察した生徒がこそこそと教室から抜けていく。
 ついには下を向いて泣き出したあかりを前に浩之は何かを決意
したような表情を浮かべた。
「…ったくしょうがねえなぁ………おいあかり…」
 呼び声にも反応しない。かまわず浩之は続けた。
「…………」
「…えっ…」
 かすかに聞こえた声に驚いて顔を上げればそこには浩之の真
っ赤な顔。
 「……聞きたかったんだろ…オレの気持ちが……」
 涙目のまま、こくこくうなずく。
「だから…オレは…お前が……神岸あかりが………」
 事態の変化を敏感に察した生徒が教室へと舞い戻る。野次馬根
性旺盛なお年頃。馬に蹴られて死ぬタイプである。
「……」
 誰にも聞き取れないような声。
 でもあかりには口の形だけで分かる。
 ずっとずっとそばにいたから。
 そしてずっとずっと…… 
「浩之ちゃん……」
「………ん?」
「私も『好き』だよ」
 そして真っ赤になった二人を祝福するように一斉にみんなのブ
ーイングが教室中に響いたのでした。
 おいこらそこの委員長、ハンカチを噛むなハンカチを





 ということでとりあえず、ハッピーエンドである。
 だが私たちは忘れてはならない。
 この二人の愛を語るうえで欠かしてはならない男の名を。
 自白剤入りジュースを浩之の代わりに飲み干し、死の淵にたつ
益荒男の名を!


 さらば、永遠の負け犬よ!!



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オッスオラ山岡。
 今回のメインテーマは「矢島救済」。最後の方で救済してます。
 主役は矢島です。悪しからず。
 

 前作の感想ありがとうございました!
 あれで書きたいこと全部書いたんで本編書くことはないかと… 
 期待していた方すみません!!(数えるほどもいないだろうけど
…)
それではまた…