喉の渇きは藤田の限界 投稿者: 山岡
「喉が渇いたな・・・」

悪夢の一日はその一言から始まったのであった。

「おい雅史、なんか適当に飲む物買ってきてくれねえか?」
「うん、いいよ。牛乳でいい?」
「別になんでもいいよ・・・ほれっ」
オレはそういうと五百円硬貨を雅史に放った・・・瞬間だった。
横から目にも止まらぬ超速度でその硬貨をもぎとる黒い影!
一体何者だ!?
「佐藤くん・・・悪いけど、これだけは譲る訳にはいかんのや・・・」
委員長・・・?・・・なんだ委員長じゃねえか。
「おいおい委員長。一体何の話だよ?」
オレの問いに委員長は遠い目をして答えだす。
「藤田くんの牛乳は・・・私の管轄や・・・」
「はあ?」
「約束したやないか・・・いつか・・・乳飲ませるって・・・」
・・・・・・おい。
「そうや!私はまだ乳なんて出せへんわっ!でもな!私が乳出せるようになるまで別の女の乳飲ませるわけにはいかへんのやっ!!」
そこで委員長はいったん言葉を切ると、窓の方へと移動して抜けるような青空を仰ぎ、つぶやいた。
「たとえそれが牛でもな・・・」
「保科さん、そういうことは教室内で叫ばない方がいいと思うけど」
雅史・・・この状況で平然とツッコむお前の神経・・・ちょっとうらやましいぜ・・・。
「うっさいわ!このホモ野朗!!」
ぴくん。
雅史のこめかみのあたりが小さく震える。
「どうせあんたのことやから藤田くんの飲み終えた牛乳のパックを「僕が捨ててきてあげるよ」とか言いつつ自分の懐におさめてそのまま家にもって帰って「僕の浩之コレクションたち・・・新しい仲間だよ・・・」とか言って一人ほくそえむ気やったんやろ!」
ぴくぴくぴく。
雅史のこめかみの痙攣が活発になっていく。・・・やばい。
「まっ・・・雅史!!おっ・・・落ち着けよ!!委員長さっきからなんかおかしいだろ!?何かあったんだよ!!だから今の話も本気で言ってんじゃねえって!!」
慌てて取り繕うオレ。
「大丈夫だよ浩之。僕は何も気にしてないよ」
震えながらもそう言う雅史。さすが雅史!器が大きい!!
「「牛乳でいい?」って言ってたのものも「牛乳・・・白いからわかんないよね・・・へへへ・・・」って何か変なモノ入れようとしてたんとちゃうか!?この変態!!」
「一度東京湾沈めた方がいいよねあの神戸牛。」
・・・雅史?・・・おい雅史!?雅史ぃぃぃぃぃっ!!!
「誰が神戸牛やねん!!この妖怪男色魔人!!・・・まあ図星刺されて焦る気持ちもわからんでもないけどな・・・」
「やだなぁこれだから栄養全部乳にいってる人は。・・・まあ友人二人がくっついて苛立つ気持ちも全ッ然わかんないけどね・・・」
おいこら雅史!なんでそんな事知ってんだお前っ!?
「・・・吐いたツバ飲まんとけやコラァァァァァァァァァッ!!!!!」
うわぁぁぁぁぁっ!!委員長がキレたぁぁぁっ!!
「うわっこっち向かないでよ。まぶしいよそのおでこ。」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

ふう・・・。屋上はいいなぁ・・・。静かで・・・。
・・・そうさ!オレは逃げたさ!!元はといえばオレが原因なのにな!!ああ確かに乳飲ませてくれって言ったさ!!いいじゃねえかよ!男としてあの時は飲みたかったんだよ!!オレは一人のおとこなんだよぉぉぉ・・・
・・・よそう自分で自分を追いつめるのは・・・
「喉、渇いたな・・・」
まあ、喉渇いてる時に屋上まで全力で走ってきたんだから無理もないが・・・。
考え出すと無性に喉が渇く。かといって水道まで水を飲みに下へ戻るのも恐ろしい。
どうしようかと途方にくれたその時だった。
「浩之ちゃん、人命救助あかりだよ」
「うわぁっ!!」
突如として誰もいなかったはずの背後から声がかかる。
そこにいたのはエスキモー犬の着ぐるみを着て首に小さなワイン樽をぶらさげたあかりだった。
「お・・・おまえなんだよその格好・・・っていうかそれよりおまえどっから入ってきた!?」
オレは間違いなく誰もいないのを確認して入り口に鍵をかけたはずだ。なのにどうしてあかりはここにいる!?
「人命救助あかりは主に雪山で遭難した人を助けるのが仕事なの。」
「会話しろ。」
あかりも何か変だ。いつもとキャラが違う。
・・・でもまあ喉も渇いてるし・・・ちょうどいいか。
「じゃそのワインくれ」
「うん」
どこからとりだしたのかワイングラスにワインをとぽとぽつぎだすあかり。
そしてなみなみつがれたワインをぐいっと一口で飲み干したのは・・・矢島だった。
「おいコラ。お前どこからわいてでたぁぁぁぁっ!!」
「失礼だな藤田。人をぎょう虫のように」
「ぎょう虫の方がまだましじゃぁぁぁっ!!人の問いに答えんかい!!」
「ふっ、強いて言うなら・・・愛ゆえに」
狂ってやがる。
「わかった・・・わかったからオレのワイン返せ!!」
「イ・ヤ・だよォォォォォォォォン。誰が神岸さんのついでくれた神聖なるイエス・キリストの血に貴様のような汚らわしい蛆虫野朗の唇を這わせてたまるかよォォォォォォォォォッ!」
ぶちぶちぶちぶち。
頭の血管が十本ほどまとめて切れるのがわかった。溶岩のような怒りの中どこか冷めたもう一人の自分が目の前のゴミの死を悼んでいる。殺気があたりにみなぎった。
みるみるうちに引いていく矢島の血の気。
「いや・・・藤田・・・?そ・・・その・・・そんなに怒るなよ・・・そう・・・そうだよ・・・俺はお前のためにワインの毒味を・・・」
「それが遺言か・・・?」
「い・・・いや、だから全部お前のために・・・ひょええええええええええええええええっ!?」
突然矢島が悲鳴を上げその場に崩れ落ちる。
オレはまだ何もやっちゃいねえぞ!?一体何が!?
「ま・・・まさかっ!あかりお前!?」
振り返るとあかりも泣きそうな表情でこちらを見ている。
「わたし・・・毒なんてワインに入れてない・・・」
聞く前からそういう事を言うな。
「ちがう・・・ちがうもん・・・」
・・・やべ。泣いちまった。
「お・・・おいあかり・・・泣くなよ・・・。誰もお前がワインに毒入れたなんて思ってないって」
「本当・・・?」
「ああ本当だって。なあ矢島。」
何も答えず、小刻みに痙攣を続ける矢島。・・・まあ「便りの無いのは良い便り」っていうし、同意と受け取って問題あるまい。
「良かった・・・そうだよね、わたし、筋弛緩剤しか入れた覚えないもん」
おいコラ。なめんな。
「んな物オレに飲ませてどうするつもりだったんだよ、おい・・・。」
「・・・そんな・・・どうするつもりって・・・そんなこと・・・言える訳無いよ!浩之ちゃんの変態セクハラエロ学生!!!!」
そしてあかりは真っ赤な顔のまま屋上から逃げ出していった。
人の顔面に樽をぶつけて。

しばし時が流れて。
オレは矢島とともに炎天下の中、屋上に放置されていた。
どうやら樽をぶつけられた時、例のワインをちょっと飲んでいたらしい。
このままでは間違いなく干からびて死ぬ。そう思ったのが二時間前。矢島はすでにぴくりとも動かない。オレもそろそろ走馬灯が見えてきた。
オレは死を覚悟した。
しかしどうやらこの世に本気で神様は存在するらしい。
神の遣わされた天使の名は、
「わっわわわっ!どうしたんですかぁご主人様ぁ!」
マルチだった。
「ま・・・マルチ・・・う・・・うぉーたー・・・水を・・・・」
痺れた口でやっとそれだけ話す。下手に「み・・・みず」と言ってしまうと、マルチのことだ、ミミズを本気で持ってきかねない。
「お水ですか!?えっとえっと・・・」
急に言われておろおろしてしまうのはわかるが、頼むマルチ、急いでくれ!命に関わるんだ・・・。
「そうですぅ!こんなときこそ長瀬主任につけてもらったあれの役立つ時ですぅ!」
・・・長瀬主任・・・なんかめちゃくちゃ嫌な予感がする。
「ご主人様ぁ!まっていてくださぁい!いまオレンジジュースを用意しまぁす!!」
と言うと何故かスカートを脱ぎ出すマルチ。
・・・まさか。・・・おいまさか!?まさかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

                            おしまい

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いろいろありました、山岡です。ごめんなさいごめんなさいもうしません。・・・できるだけ。いや、本当に反省してます。
・・・次は続き物で頑張りたいと思いますっ!!!!
ではこのへんで・・・・
<蛇足>
倒れたままの矢島を見下ろす浩之。
「お前はあかりに告白した時、チョイ役であることもやめた」
「主人公でもチョイ役でもない・・・」
「お前はそこで渇いてゆけ」   

まだわかる人いるのかこのネタ!?