消えていく『ぬくもり』 投稿者: 結城
そのとき俺は完全に心の鬼を支配し、
同族の狩猟者を圧倒的な力で沈黙させた・・・。
だが、俺は大切なものを守ることができなかった。
今、俺の腕のなかで千鶴さんの命が果てようとしている・・・。


俺はぎゅっと千鶴さんを抱きしめる。
昨日までは早く朝が来るのを心待ちにしていたけど
今日だけはこのまま夜が終わらない事を願った。

だが、夜は確実に明けていく。千鶴さんのぬくもりはゆっくりと消えていく・・・。
朝になれば俺はいやでも、もう千鶴さんがいないという現実を思い知るだろう。
だから・・・今だけは・・・。


千鶴さんを抱きしめたまま、俺の意識はまどろんでいった・・・。



遠い昔にもこんな気持ちを感じた気がする・・・。
俺はこの時もやはり愛しいものを失い、泣いた。
そして・・・俺は再び会える事を願った。



今、俺にとって千鶴さんは掛け替えのない愛しい人だ。
ずっとそばにいたい・・・。
けれど、それはもうかなわない・・・。
だから、俺は強い願いをこめて千鶴さんに話しかけた。
「また・・・逢えるよね・・・千鶴さん・・・。」
千鶴さんは・・ゆっくりとうなずいてくれた。
俺にはもうそれだけで十分だった。

明るい朝日が二人を包み込む。
その光は暖かかったけど、
今の俺には少し眩しかった・・・。