いつか感じた『やすらぎ』 投稿者: 結城
俺は夢を見ていた。
ひどく懐かしい感じのする夢。
その夢の中で、俺は一人の少女と寄り添っていた。
名前は判らない。誰であるかさえ判らない。
けれど、その少女の悲しげな瞳を見ているとひどく切なさを感じる。
ずっと側にいてやりたいと思った。
ずっと抱きしめていたいと思った。
その少女といると・・・やすらぎを感じる事ができた・・・。


俺が柏木家に来てからもう2、3日がたった。
この家に来て、俺は久しぶりに家族のぬくもりを感じていた。
みんな、俺にとって掛け替えの無いものと感じられる従姉妹達だ。
しかし、それも唯一の血縁だからこそ生まれる感情だと思っていた。

どうして・・・お前はいつもそんなに悲しい目をしているんだ・・・?

「待って、楓ちゃん!」
初めは、初音ちゃんにお願いされたからという想いからだった。
けど、楓ちゃんが俺を避けて出て行こうとした時、
楓ちゃんともっと話がしたい。
俺は本心からそう思った。
「俺の事、嫌いかい?」
もし、そうです。と答えられても笑って、明るく返すつもりだった。
だが、どこかでそうであってほしくないと願っていた。

少しずつあの失われた想いが大きくなっていく気がした・・・。


またあの夢だ。
やはりその少女は悲しい目をしている。
何かを訴えているようだった。
けれど俺はその訴えが何なのかはやはり判らない。
ただ一つ判るのは、その少女が自分にとって掛け替えの無いものであり。
その少女のそばにいる事が自分にとって
唯一のやすらぎであるという事だけだった・・・。


「・・・明日帰ってください。」
楓ちゃんにそういわれた時、俺は戸惑いを感じた。
だが、俺はまだ帰りたくはなかった。
もう少しであの想いの答えが見つかるような気がしていた。
その想いを打ち明けないと一生後悔する・・・。
だから俺は楓ちゃんに想いを告白し、その失われていた答えを見つけた・・・。


その心の檻を開けた時、俺は鬼と化していた。
目が醒めたような気分であり、頭は霧が晴れたようにすっきりしていた。
その時俺は殺戮の衝動という快楽に溺れていた。
「耕一さん!・・・鬼に、鬼に負けないでっ!」
そばにいた同族の女がそう叫んだ。
だが俺はもうその言葉の意味が理解することができなかった。


紅い鮮血が飛び散った。
俺をかばったカエデが胸を切り裂かれていた。
チズルの絶叫が響き渡る。
俺はその光景をただ呆然と見ていた。
もう殺戮の衝動も興奮も消え失せ、後には虚しさが残っただけだった。
そして、俺の胸の奥からいつか感じた想いが溢れ出してきて
俺は意識を失っていった・・・。
.
.
判っていたはずだった。エディフェルを失った時に・・・。
俺の欲しかったものは快楽や興奮などでなく、
大切な人とずっとそばにいられるというやすらぎだったということを・・・。
だからこそ、俺は楓ちゃんのずっとそばにいたいと思った・・・。
それなのに・・・俺は快楽に踊らされてまた大切なものを失ってしまった。
もう楓ちゃんはいない。
俺は・・・どうすればいいのだろう?
.
.
夢の中に楓ちゃんが出てきた。
その楓ちゃんはとても優しげで、とても儚く見える。
俺は間違いなく楓ちゃんを愛していた。
そして楓ちゃんも俺をずっと愛していてくれた。
それだけで十分だった。

俺は、優しく楓ちゃんに微笑みかけ、
楓ちゃんも目を細めてにっこりと微笑みかけかけてくれた。
その眩しい笑顔がたまらなく可愛くて、
俺は複雑な気持ちで、涙をこぼした・・・。

『・・・また・・・逢えます・・・きっと・・・』

俺は小さなやすらぎを感じながら、ゆっくりと目を覚ましていった・・・。

二人がやすらぎに包まれ、いつまでも暮らせる日を想い描きながら・・・。