どれくらい、ここ──公園──にいるだろうか。 五分か十分か、その程度ならばまだまだだが三十分以上となると── ──もういないか。 いや、もういないだろう。 おそらく。 ………。 どん 半ばやけくそみたく乱暴に、俺はベンチに腰掛けた。 理由もなく、肩を落とし溜息をつく。 ………。 ともかく、俺は。 少し、いや相当に、落胆していた。 別段正式なものでもないのに…。 ただ、まあ。 その場所に今自分もいる、それだけでもそれなりに嬉しくはあったが。 ………しかしそれでもおそらくは希望を捨てられず。 俺はまだ暫くはこのベンチに腰掛け、溜息を煙草代わりに待つのだろう。 ………。 くいくいくい ………。 誰かに服の裾を引っ張られ、俺は俯かせていた顔を上げた。 ──僅かな希望を持ちながら。 ………それだけに、俺はこういう風に言わざるをえない。 そこにいたのは、残念ながら小さな女の子だった。 年は四五歳か、少なくともまだ学校には上がっていまい。 「なんだい」 俺が苦笑しつつ聴くと、彼女は表情をあまり変えずに──でもしっかりと── 「おじさん、なにしてるの?」 と、邪気のない感じで訊ねてきた。……俺に。 俺に、だ。俺に、おれに── 「────……おじさんとは、想像などしたくもないが一応訊くと俺のことだとはまさかぬかすまいな?」 「ん?おじさんじゃ、ないの?」 コロコロと転がるような感じ。そう言う表現の出きる声だと、俺は思ったが── ──頼むから少し待て。 「………確かに多少老けてて見えるのはまあ気にしていることだがいいとして俺はまだ十代だ」 例えば、俺が二十五を超えた年で、そしてこの老け具合ならばそう言われても致し方ないかも知れない。 しかし俺は十代で、未だ雀の涙的自尊心を後生大事に所持しているのである。 「おじさんだよ」 どうやら断定されたらしい。 俺は呆気にとられながら、ただ少し笑ったように表情を動かした彼女の顔を見入っていた。 「ねえ、なにしてるの?」 少女はもう一度、俺に問いかけてきた。 ──例えばの話が続くが、例えばだ。 例えばこの少女があと五歳ほど年を取っていて、俺が矢張り五歳ほど年を取らずにいたのならば。 それならばひょっとして、「君を待っていた」などといってみるのだろうが。 しかし、俺はそんな風にこの娘に言い出すつもりはもてないわけで。 ──ようはこんな言い訳を頭で考えながら、何と言うべきか考えていたのだ。 「──別に、何も」 苦し紛れにそう答えることしかできなかったが。 「じゃあ、遊ぼ」 少女はそう言うと、また俺の裾を引っ張って──どうやらブランコの方に来させようとしているらしい。 果たしてその思考はどうなっているのだろう。 おかしいわけではないが、彼女は何故── 「はやく」 「──はいはい」 ………。 ブランコには、来た。 それは良い、それは良いのだが──しかし彼女は座ったきり、一向に揺らそうとしない。 「どうしたんだ?」 すると彼女は、少し怨めしそうに俺を見上げ(俺は立っているのだ)。 「──揺らしてくれなきゃ、楽しくない」 そして焦れったそうに言った。まあ、可愛いものだが。 ……果たして、俺は自分の物わかりの悪さにいい加減呆れてきていた。 昔からなのだが。 「…わかったよ」 俺は呆れ顔のまま──やや疲れた溜息とともに──そう言うと、ブランコの鎖(今では金属を使用していないのだ が)を握り、ゆっくりと揺らしてやる。 キーコー、キーコー、キーコー どうでも良いんだが、鎖でもないのになんでこんな音がするんだろうか。 キーコー、キーコー、キーコー ゆっくりとゆっくりと。 キーコー、キーコー、キーコー 何度目かにブランコが前に飛び出したとき。 彼女はぱっとブランコから飛び降りた。 「今度は私がおじさんを揺らしてあげる」 そんなことを言う。 「べつに、いいが」 「だめ。ゆらしてあげる」 どうやらそうらしい。 俺は多少羞恥みたいのを感じながら、先まで少女の揺れていたブランコに腰掛けた。 今度は音を立てずに、ゆっくりと。 キ……コー……キ……コー……キ……コー…… 彼女は勇んで横に立つと、頑張ってブランコを揺らそうとする。 しかしまあ当然というか。 俺をそうそう簡単に揺らすことは出来ない。 キ……コー……キ……コー……キ……コー…… 「無理をするなよ」 「いいの」 やめればいいのに、彼女は頑張る。 多分、力一杯に。 ……過小評価であろうか…? キ……コー……キ……コー……キ……コー…… 矢張り何度目か前に飛び出したとき。 面倒になった俺は、自分から降りてやった。 「もういいよ──有り難う」 照れくさい言葉だと、つくづく思う。 少女も、うん。と頷いた。 ………。 そしてそれから。 俺はブランコの柵に。 彼女はまたブランコに腰掛けた。 ………。 暫しぼーーっとした後。 彼女は三度、俺に問うた。 「なにしていたの?」 ……唐突に、何もかもが面倒になった。 いや、事実でないことを述べるのが面倒になった。 「人を待ってる」 「だれ?」 「人。名も知らず顔も知らず、ただただ側面を知っている人を」 俺は、言ってしまってから苦笑した。 「わからないか」 しかし──彼女はクスっ……と、まるで人が変わったように笑むと、ふるふると首を横に振った。 「わかる、よ」 わからないのはその言動だ。 ……しかし何となく── 「ま、さか……」 俺の声は完全に無視され、 彼女はくすくすと本当に笑った。 見ていて悪い気がするものではなく、寧ろ爽やかだが。 …そして、彼女は事実でないものを捨て、何か新しくなったように一回転してから、矢張りクスっ…。と笑いながら、言う。 「初めまして、────です──」 そうくるかおい。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− やっほーーー!!ゆきちゃんだよーーー。 何だか無茶な内容だけど、彰先輩(核爆)、どお? 一応あん時の女の子から金曜日の出来事まで繋げてみたけれど。 無茶? 無茶だもん。