『ファンネル』 「──あの」 いきなりのことで訳の分からなかった僕だが、ともかく口を開いた。 どうにもこうにも訳が分からない。『茶道部』に──というか初音ちゃんに?──遊びに行った僕(ゆき)が、何故か現れた 柳川さんに捕まり、その後ジン先輩も交えてここ、潰れた?筈の科学部にいる。 いる?なんか違う、何かが違う。待遇が違う。いきなり縛られて身体中に配線くっつけられてカプセルに突っ込まれ たという時点で違う。そもそもなんで科学部にこんな非科学的かつ幼稚なカプセルなんぞおいてあるのだ?因みに声は 否応なく届くし透明だけど強度はとんでもない。要するに突き破って逃げることは不可能なわけだ、うん。 ──つまり、相手の思惑は分かんないけど大ピンチって感じ? 冷や汗たらたらでそこまで思いついたとき、ジン先輩が僕の問いに答えた。 「なんだ?何か不思議なことでもあるのか?どっからどう見たって俺の新兵器開発でしかないだろ?」 「当たり前のように答えないで下さいよっっっっっっっ!!!!!!!!」 呆気にとられるよりも早く、ともかく僕は叫んでおいた。反響して耳が痛い。 「そもそもっ!なんでジン先輩のもののために──実験台でもないのに──僕がこんなところにいるんですか?」 続けてそう言うと、二やっと笑いながら柳川さんが少し前に出てきて、 「そうか、まだ何を作るのかいっていなかったな」 と呟く。そしてその後を促すようにジン先輩に目配せをした。 「ああ──。これだよ、これ」 すると、ジン先輩が後ろからなにやら未確認飛行物体を発射する。どことなく例のビットに似ていて、そして何故か表 面に「空くんありがとう」と書いてある。そこから導き出される答えは一つしかない。 ──せ、生体ファンネル? 「その通りっ!!────」 人の心をかってに覗かないで下さいな、柳川さん。 「────今のジンのファンネルだけでは弾数(笑)が足りん。だから、我らが善意の協力者たる『君達』に力を借りて 新たな武装、マップ兵器ファンネルを作ろうと思ってな。ちょうど二発だし。ありがとうロンド=ベルっ!俺は君達を忘れ ないっ!!!!!」 そのまま突っ走る柳川さん。因みにロンド=ベルは善意の協力者ではないような。 「まあ、そう言うわけでよろしく☆」 柳川さんの暴走に気を取られている隙に、ジン先輩がそんなことを入れながらスイッチを── ────────────スイッチを?????????? 「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!抵抗ぐらいさせろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」 「安心しろゆきっ!!使った後はちゃんと元に戻るからな☆」 「安全設計だ」 「どこがだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」 絶叫も虚しく、僕の意識は何処かとおくのお花畑へ飛んでいくのでした。合掌。 気がついたとき、僕は浮いていた。まあ、ファンネルだから仕方がない、仕方がない、仕方がない── ──んなことがあってたまるかっ!! とは言え、どうやら意識はあっても自分では動けない様子である。ともかく辺りを見回してみる。 横には、どうやらジン先輩がいる。相変わらず凶悪な顔だ。 後ろの方には柳川さんがいる。相変わらずマッドだ。 で、僕とは反対側の方には空くんのファンネルが浮いてる。ああ、仲間だ(苦笑)。 そして前方──!!! 「今日こそは決着をつけてやるぜっっっっっっっ!!!!!こいっ!Dセリオっっっっ!!!!!」 ────────待て、待て待て待て待て待て待て!!!! 「さあっ!!やるんだジンッッッ!!新兵器の威力を見せてやれっっ!!」 びしっと指をDセリオさんに向けて、そう言い放つジン先輩と柳川さん。 「おおおっっっっっっ!!!いけっっっっ──」 で、素直にファンネル──というか僕ら?──を放つジン先輩っ!! 「──────ジンファンネルゆきっっっ!!空っっっっ!!!」 ──やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!! そして僕らは、Dセリオさんに向かって飛んでいき、強制的に粒子砲を── 「────回避──」 びしっ!!ばしっっっ!! 放つ前に切り払われてしまいました。再び合掌をよろしく。 ・ ・ ・ 「どうして僕がこんなことに──」 切り払われてぼろぼろになった空くんの叫びが聞こえる。 僕も、何とか服は着ているものの、体中炭だらけでそれ以上に打撲。はっきり言って声出すのもきついんだから君は 幸せなんだよ空くん。 「ゆき君…それ世界が荒んでるよ──」 だから人のモノローグを勝手に読むなっちゅーねん。 つっこみとともに自慢?の『HSD!フィールド』を展開する僕。 「…ぐふ…」 僕の『HSD!フィールド』が空くんに炸裂したとき、彼はお空のお星様になりました(☆)。 ──はあ…虚しい…。 後ろの方ではまだ激烈な戦いが繰り広げられています。 なんとか僕は人間の形を維持しています。 再生にはあと二時間ぐらいかかるでしょう…。ぐーぐー(寝た)。 「ゆきちゃんっ!!??」 (うい?) 僕を呼ぶ初音ちゃんの声で、唐突に目を覚ます僕。どうやらまだまだ再生しきらないようで、体中の痛みは全く取れ ていない。とは言え、どうやら騒動は収まったようだ。静かだし、初音ちゃんが来てる。 「ねえねえ、どうしたのっ?ゆきちゃんっっ??」 慌てたように近づいてきて、心配そうに声をかけてくれる初音ちゃん。 ──それだけで嬉しかったりする。 (ええ、やくざの抗争に巻き込まれまして…) 「え?え?え?」 (まあ、それはいいとして…。時間があったら暫くそのままでいてくれませんか?) 「え?…うん、いいけど…」 (…すいません…。こうでもしていただかないと、生きていく希望が…) が、そのときそんな雰囲気を破壊するものが現れた。 「いいわよこんなやつほっといても。それより、早く帰ろうよ、初音ちゃん」 ああ、にっくき妹のM・Kっちである。 (ま、待て!これが無事に見えるのかっ!) 「うっさいわねえ〜。男なんてそうそう壊れる問じゃないわよ」 「でも、ゆきちゃん苦しそう…」 「甘えさせちゃだめよぉ〜。初音ちゃん、このバカにつけあがられるわよ?」 (な、なんのこっちゃ?) 「ともかく、はやくいこう」 「う、うん、そ、それじゃゆきちゃん、また今度ね…?」 (ま、まってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ) 僕は暴れるようにそう叫んだが、力を使い果たしその場に気絶した…。 次に目を覚ましたとき、予想に反し僕は全治二週間を宣告されていた。 … お し ま い …