初音はその日の朝、いつもの倍以上の爽やかさに包まれながら目を覚ました。 意味もなく微笑みながら初音はのびをした、窓から差し込み朝日が妙に心地よい。 ──いや、意味がないわけではない、初音の機嫌がいつにもましていいのにはちゃんと理由がある。 「早く来ないかな、耕一お兄ちゃん」 そう、今日は耕一が来るのだ。 初音は柔らかく微笑みながらベッドから降り──! ──降りる前に驚いた。ベッドの下に、見知った顔の二人が寝ていたのだ。 その二人は── ──やべえやべえ。 俺は時計を見ながら呟いた。 時間は既に十時を回っていた、はっきり言って、寝坊しすぎた。 くそっ!出来るだけ早くに初音ちゃんに会いたいのにっ! 焦っている俺の心は、思わず本音を漏らしていた。 電話をして遅れると言っておこうかとも思ったが、そんなことしてるなら早く行くべきだと思い直 し、俺は急いで着替えを始めた。寝坊してごめんよ、初音ちゃんっ。 ──前に初音が異世界(それは600年後の世界だったわけだが)で出会った耕一と初音の子孫に して生まれ変わりの、ルカとメグであった。 ──どうして二人が居るの?ここに。 天使の微笑みがぎこちない微笑みに変わった。 ──起こすべきかな? 初音がそう心の中で呟いたときだった。 「う…ううん」 小さな呻き声を上げて、ルカが目を開けた。 「──あ、起きた」 初音がそう呟くと、ルカは目を見開いて、 「えっ?あっ?な、初音さんっ?どうして…?ええっ!?」 と、言った。ずいぶんと狼狽している。 ──私もこんな感じだったんだよね。 彼等に初めてであったときのことを思い出しながら、初音は微笑んだ。 「あ…お兄ちゃん、どうしたの?」 ルカの声で目を覚ましたメグが、目を擦りながら言った。 「──僕が聞きたいよ」 頬をつねりながら、ルカが嘆いた。 ──二人とも、一番聞きたいのは私だと思うけど。 初音は、やはりぎこちなく微笑みながら心の中で嘆いた。 「すいません、どうやら今回は僕らが来てしまったようですね」 五分くらいたって、冷静さを取り戻したルカが頭を掻きながら言った。 「ごめんなさい初音さん──あの、寝てるところにいきなり来ちゃって」 まだ少し眠そうな顔をしながら、メグも続けて謝罪した。 そんな二人を見て、初音は、 「別に謝らなくてもいいよ…、それより、どうやってここにきたの?」 と、さっきから一番聞きたかったことを訊いた。 それを聞いたメグは、ちょっと困った顔をしながら、 「ええと、お守りじゃないかなって思うんですけど」 と、言った。 「お守り?」 「はい、この間お兄ちゃんの実家に言って、そこの物置にこれが──」 メグはそう言いながら自分の胸ポケットに手を入れ、 「──入ってたんです」 そこから初音にも見覚えのあるものを取り出した、それは、 「あ──私が叔父ちゃんからもらったお守り──」 鬼の亡霊から耕一と初音を守ったお守りと同じものだった。 ──私と耕一お兄ちゃんの絆…600年も後の世界にも残っていたんだ…。 初音は、嬉しいような、ちょっと悔しいような、そんな気分になった。 「──このお守りが、どうして?」 「どうやら、その二つが共鳴し合ったみたいですね。──はたまた誰かの意思か…」 ルカが、飄々とした調子で言った。最後の「誰かの意思」とは、某タケダテルオのことを言ってい るのだろう。 「──でも、ちょうど良いかもしれないよ、今日は耕一お兄ちゃんも来るし」 そういってから、初音は耕一のことをまた考え出した。 ──耕一お兄ちゃん、何時頃来るのかな。 「初音さん、何だか嬉しそう」 「そりゃそうだよ、耕一さんが遊びに来るんだもの」 二人は少し微笑みながら、嬉しそうに赤くなっている初音を茶化した、が、初音にはその声は届い ていなかった。 「ええと、取り敢えず僕は部屋の外に出ますね」 初音が正気に戻ってからルカは口を開けた。 「「え?どうして?」」 初音とメグが同時にそういうと、ルカは苦笑しながら、 「ずっと寝間着でいる気ですか?」 と、答えながら部屋から出た。 「お兄ちゃん、変なところ気を使うんだよね」 苦笑しながらメグが言った。 「──まあ、待たせるのも悪いから早く着替えようか」 「何か、変な感じ」 着替えている最中に、メグがそう呟いた。 「──え?何が?」 「だって、自分の先祖で前世の人とこうやって話をして居るんだもの」 「そうだね、私もそんな気はするよ」 「ああ、懐かしい。私は前世で、善くこうしていたんだ」 メグが悪戯っぽくそういった、初音は一瞬だけ考えて、それがなんなのか理解した。そして、 「それとも、来世でこうするという予感なのかな」 と、メグの後を続けた。 最後に二人は顔を向け合って、 「「京極夏彦、魍魎の匣よりっ!」」 そう同時に言って笑った。 ──全く。 その頃、ルカは天井を見上げながら苦笑していた。 ──母子そろって少し鈍いんだよなあ。 意味もなく、床を爪先で叩いた。 ──しかし、これからどうしたもんかね…。っていうか、他の皆さんにどう説明する?一回で納得し てくれるかな…、それ以上に、どうやったら戻れるかも分からないし。 ぼそぼそとそういった後、ルカは静かに溜息をついた。 ──僕の着替え、この部屋の中だったよ…。 そう呟いたときだった、横から、ドアの開く音が聞こえた。 反射的にそっちを向くと、そこには、 「あ──、ち、千鶴さん」 千鶴がいた。 「あ──なたは…」 一瞬何が何だか分からない、と言った複雑な表情をした後、彼女は呟くようにそういった。 「お久しぶりです──と言っても、「こっち」がどのくらい立ってるかは分からないんですけどね」 やはり苦笑しながらルカは言った、自分が名を名乗っていないことには気がついてない。 「…ええと、どなたでしたっけ?」 相変わらず複雑な表情を作りながら、千鶴は言った。 「…え?前に一度言いませんでしたっけ」 「あの、メグちゃんの隣にいた方ですよね…?」 「そうそれ、──前に言ったと思ったけどなあ。ま、いいか。僕の名前はルカ・アークウェルです」 ──しかし、メグちゃんのことは覚えて置いて…。 「あ、思い出しました。確かに聞いてますね…」 千鶴はそういってチロッと舌を見せた。 ──この人出なきゃ、様にならない仕草だね。 ルカがそう思ったときだった、いきなり体中に悪寒が走った。 「…思い出しました。あの…タケダ何とかが言っていた、耕一さんの×××の相手って誰なんですか?」 悪寒の原因は千鶴だった、顔は笑顔のままだが、目が笑っていない、ルカは、思わずに三歩後ろに下がった。 「あ、あの、それは」 ──何故僕に聞くんだっ、確かに知ってるけど。っていうか、この人僕が耕一さんの生まれ変わりだ ってこと知らないって。…耕一さんが言ったとは思えないから、初音さんかな?何にせよ、言ったら 耕一さんの命はないな。 そして、耕一が死ねば、彼等の命も消えるのである(ここでは敢えて、パラレルワールドの存在は 否定しておく)、さすがのルカも、かなり慌てた。 「知ってるんですか?」 一歩踏み込んでくる千鶴。 ──どうやら、手当たり次第聞いてるだけみたいだな。 だが、そんなことが分かったって、何の解決にもなってない。 「いっ、いえっ、し、知りません。だ、第一僕が知ってるわけ──」 ──ないじゃないですか、というルカの科白を聞かずに、 「──そうですよね」 と、千鶴は言った。 ──あれが出鱈目だとは考えないのか?この人。 ルカは、少し苦笑しながらそう思った。 「ところで、どうやってこられたんですか?」 表情も話題も変えて、千鶴が言った。 「え?ああ、──皆さんが集まったところで説明しますよ」 一刻も早く千鶴の前から立ち退きたいルカは、出任せ気味にそういった。 「──それじゃ、その時は着替えて入らして下さいね」 ある意味特上の笑顔を浮かべながら、千鶴は去っていった、ルカが息を思いっきり吐いたのは、 言うまでもない。 ──早く着替えおわんないかな、二人とも。…でないと、覗くぞ。 邪なことを考えながらも、結局は出来ないルカである。…とは言え、ぼーっとしているのもなにやら癪らしく、 「まだあ?」 と、部屋の中に向かって小さく叫んでみた。 「「まーだだよ」」 何となく楽しそうな声で、返事が返ってくる。 ──なめとんのか、あの二人…、隠れん坊じゃないんだぞ。 少し頬を膨らましながら小さく呟いた。 ──また、誰か起きてきたら結構厄介だよ。 事実、彼は千鶴に苦労させられている。 ──今、何時なんだろうね。 着替えだけでなく、時計や刀も部屋に置いてきているルカであった。 「もういいよ」 ──やっとかい。 メグの声を聞いて、ルカは呟いた。 「──じゃあ、入るよ」 本当は別に断る必要もないのだが、念のためルカはそう言ってからドアを開けた。 「お兄ちゃんて、何だか時々遠慮してない?」 ルカと視線があうなり、メグは微笑みながら言った。 「と、当然何じゃないの?メグちゃんだけならまだしも、──初音さんだっているのだから」 メグの笑顔に、ルカは肩を竦めながら苦笑で返す。 「ああ、耕一さんに怒られちゃうか」 目を少し細めながら、メグが呟いた。 その二人の様子を見て苦笑する初音、三人の間に、柔らかい雰囲気が流れた。 「ところで、何でこんなにゆっくり着替えてたわけ?」 ──千鶴さんと話していた時間も入れると、ずいぶん時間かかっていたぞ。 「あ、それは──」 メグが口を開き、初音が、 「──京極夏彦さんの話をしていたら、遅れちゃったの」 後を続ける。 「京極さん?どんな話し?確か、まだ鬼に関する話はなかったと思ったけど」 ルカが不思議そうな顔をしながらそう訊くと、 「私のお姉ちゃんは千鶴でしょ?中善寺秋彦さんの奥さんも千鶴さんなんだよ」 初音が、嬉しそうに言った。 「あとね、榎木津礼次郎さんの探偵事務所はね、薔薇十字──」 メグが嬉しそうに言うのをルカは遮って、 「メグちゃん、その言葉をこれ以上口にしちゃいけないよ…お父さん(作者)が疑われる、そして騒 ぎ出しちゃうよ、『僕はロリだっ!薔薇ぢゃないっ!!』ってね」 と、言った。その科白に苦笑する二人。 「ううん、お兄ちゃん、今の科白、すごく失礼かもしれないよ」 「そ、そうだね…」 二人のやりとりに再び初音は苦笑して、 「ルカ君、取り敢えず着替えちゃったら?」 と、言った。 数分後、初音の部屋のドアが静かに開き、中から着替えたルカが出てきた。 「あ、お兄ちゃん早いね」 最初に口を開いたのはメグだった。なんだか嬉しそうに微笑んでいる。 「これが普通なんじゃないのかな?」 初音が(少々自分のことを棚に上げて)苦笑しながら言った。 ルカは少し不機嫌そうな顔で二人を見てから、 「あの、一つ良い?」 と、ようやく嘆くように言った。 なんだか言い辛そうに、頭をかいている。 「「?」」 二人は微笑みながら、無言で訊く姿勢をとった。 そんな二人を見て、ルカは少し躊躇いがちに、 「…中禅寺秋彦さんの奥さんはさ、『千鶴』じゃなくて『千鶴子』だと思うよ」 と、苦笑しながら呟いた。 三人の間に、妙に場違いな雰囲気の風が吹いたような気がした。 ──風が、吹いた。 ──私は、その方向へ流されていく。 ──少し流されて、私は勘違いをしていることに気付いた。 ──風は、吹いているのではない。…何かに吸い込まれている。 ──そして、私は流されているのではなく、そこにいこうとしている。 ──そこについた。そこには、紫の髪、紫の瞳、紫のルージュ、そして、紫の甲冑で身を包んだ男が 居た。 「あなたを助けてあげましょう」 ──男ははっきりした口調で言った。男の科白に、私は過剰なまでの反応を示した。すると、男は悦 んで、 「そうですか、では、私に全てを委ねなさい」 ──目を細めながら言った。私は嬉々として頷いた。 ──男の紫の唇が、艶やかに輝いていた。 ──私は、男に飲み込まれた。 ──怖くはない。それどころか、私はこの上ない悦楽を感じた。 ──ゆっくりと、私は分裂していく。ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと…。 三人は無言で居間にきた。 ルカは俯きながら苦笑し、メグはそんなルカを見て微笑み、初音は二人を羨ましそうに見ていた。 居間には、既に他の三人がきていた。 「あ──、あのぉ」 ルカがかなり躊躇いがちに口を開いた、全員の視線が全てルカに注がれる。 だが、その視線は『怪訝そうな』と形容されるものではなく、まして笑顔であった。 「よっ!いらっしゃいっ!」 梓が元気よく言った。 「へ──?」 「何惚けてるんですか?──ちゃんと着替えてはいるようですけど」 千鶴が気を利かせて説明したことになど全く気付いていないルカは、それから数分間、惚けっぱな しだった。 我が息子ながら情けないぞ(ゆき談)。 「………」 結局、ルカは恥ずかしさのあまり赤くなって俯いてしまっていた。 「おいおい、そんなにあがることかい?」 梓が気を使って気さくに声をかけるが、ルカは結局苦笑してその場を濁してしまう。 ルカは、そんな自分に少し嫌気がさしていた。 「お兄ちゃん、本当は内気なの」 メグがフォローするつもりでそう言ったが、全くフォローになっていない。 ──まあ、事実だけど。 「…それより、どうやってこっちにきたか、説明してくれませんか?」 楓がそう言うと、ルカは少し頭を冷やしてから説明を始めた。 「昨日──僕の世界でのことですが──僕の実家に帰ったら、今メグちゃんが持ってるお守りを見つけ たんです…」 ルカの科白にあわせて、メグがポケットからお守りを取り出す。 「…これは──知っているかもしれませんが──初音さんの持っているものと──比喩ではなく── 同じものです。 おそらくこれが共鳴しあったため、僕らがここに来たのではないでしょうか。もっとも、『前』のよ うに、『誰かの意志』であることも考えられるのですが」 ルカの声の響きには、少し自分自身にも説明しているような響きがあった。 ルカの話が終わってはじめに口を開けたのはメグだった。 「ごめんなさい、いきなり押し掛けちゃって」 少し上目遣いに千鶴たちを見ながら、メグは呟いた。 「そんなことはないですよ。それに、今日は耕一さんが来ますし、ちょうど良いのでは」 なんだか慎重そうに言葉を選びながら、千鶴が答える。 その千鶴の科白を訊き、初音が「あっ」と、声を上げた。 「どうしたんだ?初音」 怪訝そうに、梓は初音に声をかけた。だが、その声は初音に届かなかった。 「…耕一お兄ちゃん…遅いなぁ」 誰にも聞こえないほどの声で、初音は呟いた。 ルカが時計を見ると(何故ある場所を知ってるっ!/教えてやろう、彼の前世は耕一だからだ(ゆき 談))、ちょうど十一時になったところだった。 「しかし、本当に遅いなあ。耕一」 そうぼやいたのは梓だった。 時間は既に十二時になろうとしていた。 「確かに電話もないし…。何かあったのかしら」 梓のぼやきに反応し、千鶴が心配そうに嘆くと、 「耕一のことだから、多分寝坊だとは思うんだけどなあ…」 何となく千鶴の心配をなくそうとするように、梓が言った。 「…この際だから、耕一さんを向かいにいかない?」 楓の呟きに、他の五人は一斉に賛成した。 いざ家を出るときになって、梓が、 「あ──、ちょっと待っててよ、忘れ物」 と、言って有無を言わさずに庭に駆け込んだ。 「どうしたんでしょうね」 ルカの問いに、答えるものは居なかった。 数分後、梓が戻ってくると、彼女は背中にリュックを背負っていた。 「梓…相変わらず子供ね」 千鶴の皮肉を訊いて、梓は一瞬むかっときたが、 「千鶴姉さん、梓姉さん…早くいきましょう」 という楓のつぶやきを訊いて、自分を押さえた。 こういうとき、彼女は初音以上に二人を押さえるのがうまい。 はっきり言っておおやばだ。 隆山の駅に着いた時点で既に十二時、はっきり言ってかなりまずい。 俺は、人気のないホームを大急ぎで出ると、そのまま柏木家に向かって走り出した。 ──ごめんよ、初音ちゃん。 なんだか、いつか言ったことのある科白を呟きながら、俺は走った。 ちょうど、前にいざこざのあった中学校まで来たときだった。 目の前に、『見覚えのある少年』が立っているのを見つけた。 その、憎しみに満ちた表情を見て、俺は冷水をぶっかけられたような気がした。 「た、タケダテルオ…」 俺の声と表情を見たタケダテルオは、嬉しそうに口元を歪め、 「久しぶりじゃのぉっーー!耕一ぃぃぃっっっ!!!!!」 と、俺に幼い声での罵声を浴びせた。 俺は周りを見て、人気のないことを確認しながら、 「おい、何しに来た」 と、叫んだ。 他人から見れば、どう見たって二十歳の兄ちゃんがガキに集っているようにしか見えない。そう言う 誤解は御免だし、それ以上にこいつは危険だ。 ──どうにかして、人気の無いところに行かなければ。 「あんだとぉぉぉぉっ!!??何しにだぁぁぁっ?きまってんじゃねえかぁっ!おまえを殺しに来たん だよぉおぉっ!」 俺の科白に逆上したタケダテルオは、いきなり「鬼」を発動させてきた。 やばい…。どうにか、せめて時間を稼がねば。 「そっ!それより、どうやっておまえ、生き返った?」 俺があわててそう訊くと、タケダテルオは鬼を体の中に押し込むように消して、自慢げに語りだした。 「訊きてえか、そうかそうか。じゃあ、教えてやるぜえええ。俺はあの後な、地獄みたいなところを彷 徨ってたんだぜ え。そしたらどうだい、変な機械やらなにやらが散乱してるじゃねえか。俺はそいつらに近寄ってみた。 そしたらそいつら、自分はこの世に未練がある、お前と同化すればこの世に戻れるって言うじゃねえか。 俺は承諾した。そしたらな、俺の魂がそいつらの中に入っていってな──」 タケダテルオはそう言いながら、自分の右肘をいじりだした、すると肘がはずれ、その断面を俺に見せた。 ──機械だ。 タケダテルオはサイボーグ(古いか?)になったのだ。 そして、俺は気がついた。 ──こいつは、某竜玉ゼットの劇場版の、冷房が逆襲してくるやつのパクリじゃないか。 あの、猿に負けた冷房が、夏豆星人の星を侵略するやつだ。 俺のそんな思考に気付かないタケダテルオは、更に続けた。 「──この通り、俺はサイボーグとなって蘇り、お前に復讐しに来たのだっ!フフフ、名前も変えたん だぜえ、タケダテルオ改、メタルタケダテルオだっっっっっ!!!!!!!」 自信満々で言うタケダテルオ──いや、メタルタケダテルオを見ていた俺は、完全に白く固まった。 ──メタルタケダテルオ…。な、何て語呂が悪いんだ。 その上読みづらい。 俺は頭を抱えて俯いた。 「おいおい、もうお終いかい?それじゃあ、生き返った意味がないじゃねえかあっ!」 俺は返事ができなかった。 だが、それに答えるものがあった。 「黙れえっ!この、メタオがあっ!」 声のした方を見ると、なんと、ルカとメグちゃん──いや、それだけじゃない、千鶴さん、梓、楓 ちゃん…、そして、初音ちゃんが居た。 俺は、大急ぎでみんな──正確には初音ちゃん──に近寄った。 「遅いぞ、耕一」 梓の口調と科白は怒った風にしているが、顔は笑顔だった。 「大丈夫ですか?」 千鶴さんは、心配そうに俺を見ている、俺は、 「まだ何もしてませんから…」 と、(事実だが)心配させないようにいった。 横を見ると、楓ちゃんも安堵感でいっぱいの表情をしていた。──おそらく、途中で強い「エルクゥ」 の反応を感じたのだろう。俺は、優しく落ち着けるように彼女に微笑んだ。 少し間をおいて、初音ちゃんが飛びついてきた。 目には、少し涙がたまっていた。 「…」 俺は、驚いたのとうれしさと恥ずかしさで何も言うことができなかったが、優しく微笑みながら髪を なでてあげた。 「古い言葉だけど…、幸せな人ですねぇ」 少し皮肉げに、ルカは呟いた。 「お久しぶりです、耕一さん」 そんなルカを少し窘めてから、メグちゃんも俺に話しかけてくる。 ──事実、俺は幸せだった。 「俺のこと、わすれんでくれる?」 遠くで、タケダテルオの呟きを訊いたような気がしたが、俺はそれを無視した。 五分後、俺はメタルタケダテルオのことを少し説明し、ルカたちは自分たちが来た経緯を語った。 「じゃあ、今度はこのメタオを始末しなければいけませんね」 ルカのその呟きに、メタルタケダテルオは過剰に反応した。 「俺はメタオじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!メタルタケダテルオじゃあああああああっっっっっ!!!!」 「語呂が悪いっ!お前はメタオで十分だっ!」 「せ、せめてメタルテルオにしろぉぉぉぉぉっ!!!」 「駄目だっ!お前はメタオだっ!」 「ググググググ、もうきれたぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!まとめて闇に葬ってやるっ!」 ルカとの口げんかに負けた(?)メタオは、俺たちに突っ込んでくる。 だが、鬼の力を解放していないメタオは、ただの九歳児だった。 「ていっ」 ルカが刀を抜き、峰のところでぶっ飛ばす。 「ぐあっ!」 まともに入ったメタオは、そのまま五メートルほど転がり、家の塀に当たって止まった。 「ど、どうします?千鶴さん、前みたいに行けますか?」 俺が後ろを振り向いていった。 メタオが鬼を呼び出せば、おそらく束でかかっても勝ち目はないだろう。 「む、無理ですよ、あのときは無我夢中でしたし」 俺と千鶴さんで悩んでいると、横から梓が「ぶつ」を取り出した。 「これで、勝てる」 梓が少し壊れていることに、俺はようやく気付いた。 「ルカっ!下がれ」 俺がそう叫ぶと、ルカは少し意外そうな顔をしながら戻ってきた。 「どうしたんですか…?あ?何です?それ」 ルカが、梓が持っているものを見て不思議そうな顔をした。 「ああ、これか。これは…セイカクハンテンダケだ」 俺は、この後の展開が読めた。 「初音…、あ、それとメグちゃんも、ちょっときて」 二人が、何も知らずにやってくると、梓は二人の口に無理矢理「ぶつ」をたたき込んだ。 最初苦しがっていた二人だが、徐々に表情が凶悪になってくる。 「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!」 「んだおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」 ルカと俺は、白く固まった。 特にルカは初めての経験だから、ひょっとしてショックで死んでしまうかもしれない。 凶悪なものと化した二人は、倒れているメタオに飛びかかっていった…。 ごずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!! いきなりだった。家の塀の前で倒れ込んでいたメタオに、まずは初音ちゃんの強烈なボディーブローが襲うっ! ぼかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんん!!!!!! 衝撃に耐えられず穴の開く塀っ!メタオはそこにめり込んでいた。──が、暴走した2人は止まらない、すぐ にメグちゃんがメタオを引きずり出し、そこでメテオスラッシュを炸裂させるっ! 上空に蹴り飛ばされるメタオっ!更に、メグちゃんと初音ちゃんは2人同時に飛び上がり── ──ざしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!! そして、2人の拳がメタオの腹を同時に貫いた。 ──あ、あんなにあっさりと……。 俺は思わず戦慄する。 ルカは白く固まっている。 そんな俺達を完全に無視した2人は、しゅたっと着地をし──上空のメタオは、その頃漸く爆発をしていた。 ──で、俺はそうなって漸く気がついた。 ──これからどうやって2人をとめれば良いんだ? … 「第一部 メタオ復活」了 「第二部 メタオの逆襲」に続く …