流れている。あらゆる気持ちが。 暖かく、そして迷いある『やさしさ』が。 冷たくて、そして清々しい『きらい』が。 悩みあふれ、そして不思議とやわらかい『とまどい』が。 流れている。あらゆる想いが。 では、ここに留まっているのは? ──それは『つらさ』 ──私の中にある、『うらやましさ』 ──私の中で蠢く、『ねたみ』 それには、他にあるような『すくい』がない。 それには、他にあるような『きぼう』がない。 それには、他にあるような『ゆるし』がない。 それには── ──足りない。『おもい』に何かが── それはなに? 答えは出ないし。 言葉も出ないし。 涙すら出ずに。 ただ留まるだけ。 それがいけないの? 溜水は流水に憧れ…これは誰の言葉? これは──ああ…これを言ったのは…。 「つきしまさん?」 誰の声かは解らない。 でも、声がした。 誰の声? 解らない。 でも、そのうち出るだろう。 だって、さっきも少し…解ったから…。 かちゃ…っと、今、私の病室のドアが静かに、優しく、少し嫌がりながら、とまどいながら、でも、ゆっくりと開いて…。 <終>