何でもない瞬間 投稿者: ゆき
 優しい日の光があって。
 安らぐような日陰があって。
 やわらかい子犬の寝息があって。
 可愛らしい少女の笑みがあって。
 そしてそこは大きな木の下だった。
 蒼蒼と繁る大きな木。
 その下の木陰に。
 愛する少女と、小さな子犬が。
 安らかな寝顔を見せていた。
 それは何でもない瞬間。
 ただ愛する少女が可愛らしい仕草でそこに寝ているだけ。
 ただ寝ている子犬が少女に似合っているだけ。
 ただ俺がそんな2人を幸福に包まれたような気持ちで眺めているだけ。
 ただそれだけの何でもない瞬間。
 だけどね。
 やっぱりそれは幸せ。
 どうしようもなく幸せ。
 ずっとこんな瞬間があれば、もしくはこんなことが沢山あればと思いたくなるような瞬間。
 世界にとっては何でもない、でも俺にとってはかけがえのない瞬間。
 やわらかい時。
 少女は、眠りながら微笑んだ。
 俺も、答えるように微笑む。
 そしてそっと隣にすわり。
 俺もまた目を瞑る。
 少女が無意識に体を委ねてくる。
 まるで、その手の中で眠る子犬のように。
 俺はまた微笑み。
 そして暖かい少女の体を俺の方から抱き寄せる。
 そんな優しい空気の流れる瞬間。
 やわらかい祝福の風が。
 何でもないはずのこの瞬間に気がついて。
 そっと俺達を撫でる。
 そんな些細な幸せ。
 だけど確かな幸せ。
 ありがとう、ずっと抱きしめ続けるよ。
                        … 了 …