『誰もが生きる事の痛みを抱きしめて 生きてゆくなら 教えてくれ 俺はこれから何を 失ってゆくのか…』(GLAY 「Together」より) ガシュッ! カエデとチヅルから離れた俺は、空に向かって飛翔した。 背中にカエデの声が刺さるように響くが、俺はその痛みを無視した。無視せず戻れば、おそらく俺 は気が狂ってしまうだろう。せっかく自由を手にしたのだ──この自由に比べれば、今の痛みなど気 にならない。 俺はそう自分に言い聞かせて、そこから少し離れた山の中に着地した。 ぐおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! おそらく無意識に、俺は雄叫びをあげた。振動が木々を揺らし、動物達を縮みあがらせる。 この上ない開放感に、俺は躰を震わせた。 俺はゆっくりと歩き出した、狩りを始めるのは明日からでよい、今は自分の力を使いこなせるよう になるまで休むことだ──俺は自分を焦らすようにそう考えた。 山の中を徘徊しているうち、辺りに都合のいい大きさの岩があることに気付いた。俺はそれに腰掛 けた。 …息を付きながら上を見上げる。夏でありながら、星が綺麗だった。 バタッと、俺は上半身を倒した。石の冷たさが心地よく、全身の筋肉が弛緩していくのがわかる。 俺は、ゆっくりと瞳を閉じた。 夢を見た。耕一の──恋と呼ぶにはあまりにも短い夏の夢だ。 何故、俺達は出会ったのだろう。 無限に広がるこの宇宙で、偶然出会った俺達は──何のために出会ったのだろう。 傷ついて、舐め合って──また傷つくため? そして、傷つけ、傷ついたまま別れるため? それじゃ──それじゃ悲しすぎる。 何度約束しても、誓い合っても、愛し合っても── 報われないまま、痕を深めて別れるなんて── ──悲しすぎる。 君の初めて見せてくれた笑顔も、ただ夜が明けることを祈っていただけの俺を救ってくれた君も、 愛し合った瞬間の記憶も、時を越えた誓いも──ただ傷つけ合うことの歯車に過ぎなかったの? そうなのかもしれない。 でも、だとすればそれも歯車のはずだ── ──幸せに、静かに愛し合える日々のための歯車の筈だ。 そう思わなければ──俺は潰れてしまう。 だから、答えてくれ。 いつか、愛し合える日々が来ると、言ってくれ。 俺は絶対に忘れないから。 たとえ今の俺が俺でなくとも、君の近くにいられなくとも── ──俺は絶対に忘れない。君のことを、君と過ごせた短い日々を、君との愛を、そして──君との 誓いを。 また会える日まで、俺は忘れない。 だから、君の口から聞かせてくれ。 「いつか必ず愛し合える」──と。 目を覚ました。 いまだ強く残る、耕一の「心」だ。 夢の内容を思い出していくうち、俺の中に虚無感が生まれた。 何だ?この感じは。 俺は──俺は何故こんなにまで、 切ないんだ? 切なさが心の全てを被ったとき、俺の躰が、急激な変化を始めた。 鬼の姿から──人の姿に戻っていくのだ。 ちょうど人間の姿に戻った時… …耕一の心、いや── ──俺は、涙を流した。 そして、俺の「心」は鬼を越えた。 「耕一さん」 自分の名を呼ばれ、俺は後ろを振り向いた。 そこには、泣いている楓ちゃんがいた。 俺はよろよろと立ち上がり、ふらついた足取りで楓ちゃんに近づき、そして── 「かえでちゃん──」 ──無理矢理微笑みながら抱きしめた。 「──俺、忘れなかったよ、楓ちゃんのこと。思い出したよ、昔した約束。だから、だから…」 「耕一さんっ、こういちさんっ」 「もう、泣かないで…一緒に、微笑み合っていようよ──」 … 了 … ------------------------------------------------------------------------------------------ とりあえず終わりました。楓ちゃんバッド後のお話です。 前の初音ちゃんのやつほど辛くはなかったのですが、部屋が暖かいので眠いです。 所要時間一時間半っ!いままでの最速記録だったりします。 ところで、引用に使った「Together」ですが、何となく「痕」とシンクロしてるので、聞いてなか ったら聞くことをおすすめします。(BE LOVEDの二面に入ってるやつです) 「Together」を聞きながら、このお話を読んでいただければ幸いです。 あと、「欲望の続き」「また──会える日まで」の二つとも感想待ってます。 時間に余裕があったら感想ください。 ARMさん あの…セガカラはあまり使わない(セガカラのあるカラオケを知らない)から知らなくて… それで聞くんですけど、本当に「Brand New Heart」が配信されるんですか? 冗談抜きで…? 次回予告っ!(千葉繁さんの声だと思いねぇ) もう一本楓ちゃんのシリアスです。 「欲望〜」とは別の意味で、表現やばくなりそう。 今回一度も名前のでなかったエディフェルが出ます。 でわでわ・・・