俺は立ち上がったオリジナルを見ると、思わず息をのんだ。 ぼろぼろの躰、焦げた配線、ちぎれた左腕、溶けたコーティング…等々。そして、そんな躰でしっかりと立ち、俺を睨 み付ける瞳…。俺は無意識に、初音ちゃんをかばうように後ろにやった。 「まだ…生きているのかよ」 俺は皮肉とも呆れともつかない感じで声をあげた。 「まだっ!まだ俺は生きている!」 オリジナルはそう叫ぶと、呆然としていた俺にいきなり飛び込んできた。俺は慌てて初音ちゃんを抱えると、それを 避けるために横に飛ぶ。そして初音ちゃんを降ろしてそこにおくと、俺は猛然とオリジナルに向かっていった。 「ウオォォォォォォォォーーーーーーーっ!!」 吼えるオリジナル、俺はあいつの右腕を掴むと、思いっきり引っ張って地面に叩きつけた。そして間髪入れずに拳を 腹に叩き込む。一発、二発、三発──だがまだ壊れない。 ──正直、俺は焦っていた。何故なら、俺は既に鬼になっているが、あいつはまだ鬼の姿になっていないからだ。 つまり、オリジナルにはまだ切り札が残っている…。俺はそう思うと、恐怖と焦りとでいっぱいになった。 四発目の拳を叩き込もうとしたとき、オリジナルはいきなり右足を繰り出してきた。──それもやはり不自然な動き で。あいつは、膝を逆に折って俺に蹴りを仕掛けてきたのだ。そしてそれは俺の首筋をヒットする。俺は蹴りの勢いに 耐えきれずに横にすっ飛んだ。何とかそれ以上の体制は崩れずにすぐ立ち上がることが出来たが、そのときには既に オリジナルも立ち上がっていた。左足と、折れた右足を支えに。 ──だが、その躰なら俺でも勝てる! 俺はそう自分に言い聞かせ、再び突っ込んでいった。するとオリジナルは折れた左腕を前に出す、俺は怪訝そうに 眉を顰めながらも、とまらずにそれに向かっていく──。 ばじゅぅぅぅぅ!!!!! 俺がその左腕の先にわずかに触れたときだった。激しい電流が俺の躰を襲う。俺は訳が分からないままその電流に 身悶え、激痛を覆おうとするように地面に躰をこすりつける。それほどまでの電流が俺の躰を痛めつけていた。 「くっ……機械の躰がこんな事で役に立つとはな………」 身悶えている俺の耳に、悔しそうなオリジナルの声が聞こえてきた。──そうか…。俺はそれを聴いて、漸く事態を 飲み込めた。……傷口からの漏電…か。 オリジナルは、憎々しげに言った。 「…俺ももう限界に近いからな…此処で一気に決めさせてもらうぞ…」 それを聴いた俺は、さっきの電流と同等の刺激が躰を走るのを感じた。──こいつも…俺と同じように鬼になるつも りだ…。それは、絶望的な状況だった。 俺はどうにかそれを止めようと立ち上がるが電流が躰にまだ残っていて上手く動かない、俺は叫んだ。 「や…ヤメロォォっ!」 だが、その叫びはあいつには届いていない。届いていたとしてもあいつがやめるとは思えないが。俺が悔しさのあま り歯ぎしりをしていると、あいつは天を仰ぎ、吼えた。 「う…ぐ、ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」 すると、あいつの躰がものすごい摩擦を引き起こしながら膨らみ始めた。 「ウォォォッ!ウォォォッ!グルゥゥゥオオオオオオオオオオオッッッっっっっっっっ!!!!!!!!」 バキン!バキン! 摩擦や、膨張に耐えきれなくなったパーツ達がはじけ飛んでいく。──否、それだけでなくて胸板や筋肉部分も徐々 に弾けていく…。そしてそれは…もう止まることはなかった……。 「ぐるぅぅぅぅ!ぐわぁぁぁぁぁ!うおおおおおおっっっっっっっ!!!!」 吼え方に、徐々に「疑問」と「痛み」が混ざっていく。 ベキ!バコ!バキン! 崩壊は止まらない。歯止めを知らない膨張はオリジナルの躰を少しずつ浸食し、破壊していく。とうとう右腕が破裂し た。激しい激痛を感じたオリジナルは、更に吼える。 「グワォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッっっっっっっっ!!!!!」 そしてバランスを崩し、頭から地面に伏す。そして今度は、折れかけた右足が破裂する。すると更に歯止めが利かな くなり、調子に乗ったように破裂する回数が増える。右腕と左足が同時に壊れ、すぐ後に腰部が砕ける。 「……………!!!!」 俺は言葉を失ってそれを見つめていた。苦しむオリジナルの瞳が未だぎらついている。俺は少し後ずさった。 ばぐん!! とうとう、胸部が破裂する。飛び散る配線と紫電。そして──。 「グォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」 ──オリジナルの首は断末魔の悲鳴を上げながら、爆発した。 「終わった…のか?」 俺は、ふらついた足取りでオリジナルの残骸に近づいた。もはや見る影もなく、所々煙を吐いている。俺は溜息をつ きながら、事態を整理しようとした。 ──つまり──だ。あいつの躰……機械の躰では、鬼への変化に耐えられなかったと言うことだろうか…? そのために爆装してしまい、こうなった……と。 俺はもう一度溜息をつき、そして鬼の姿から人間の姿に戻った。 からだがあつい。そしてそれ以上にものすごい疲労を感じる……。そのとき、俺の背中に手を当ててくれた人がいた ──初音ちゃんだ……。俺はゆっくりと振り返り、気怠く笑った。 「……終わった…みたいだね」 そしてそう初音ちゃんに言う。初音ちゃんも小さくと頷いた。俺は少し躊躇った後、その初音ちゃんをそっと抱きしめた。 ……特に意味はないが、守りきった「幸せ」を感じておきたかったのだ。 「これで本当に…終わりだよね?」 俺は懐疑的なまま、抱きしめている初音ちゃんに語りかけた。 「うん…きっと、もう大丈夫だよ……」 初音ちゃんは、子供をあやすかのように応えた。そして、初音ちゃんも俺を抱きしめてくれる。少しだけ冷めてきてい た躰に、初音ちゃんのぬくもりが心地よかった。 ──やばい。 俺はあることに気が付き、冷や汗をかいた。やばい、やばすぎる。 ……それもその筈…俺の溢れ出んばかりの初音ちゃんへの愛情のおかげで…その、なんだ…元気になってしまっ たのだ。あれが。 その上、今俺は裸も同然である…どう頑張ってもこれはすぐにばれる。何とか落ち着いて──くれる前に、初音ち ゃんが声をあげた。 「あっ……」 し、しまった…。どうやら気が付いちゃったらしい──。 初音ちゃんは声をあげると、下を見つめながら躰を少し離した…おいおい、これじゃあ丸見え…。 「……お、お兄ちゃん…?」 初音ちゃんは、真っ赤になって呟いた。そしてそれから、 「……あっ!あの、その…」 そう叫んで目を瞑る。 俺は、必死になって自分を鎮めようとした。……だってさ…いま夜で…俺裸で…周りに誰もいない二人っきりだし… その…いろいろと考えちゃうじゃないか……。 結局静まらなかった俺は、自分を押さえるのを半ば放棄してかぶりを振りながら冗談混じりに言った。 「その…初音ちゃんと今しちゃいたいのはやまやまなんだけど…(何を言っているのだ?俺は)ほら、家にはまだ怪我 しているみんながいるじゃない、だから…」 そしてそう言いながら、また初音ちゃんを抱きしめて、 「…今はこれだけ…」 少し強く、唇を押し付けた。 … Eパートに続く …