Ski・Ski・Ski!!!(後編) 投稿者:ゆき


 一月四日
 目を覚ました俺は、ゆっくりと目を開けた。
「あ──」
 目の前に、あかりがいた。…何でおまえが俺の目の前にいるんだ。
「──お、おはよう、浩之ちゃん…」
 少しどもりながらあかりが言った。目線が合う、真っ赤になって俯いてしまった。
「…あかり、何でおまえが俺のところでねてんだよ…」
 俺が鬱陶しそうに言うと、あかりは慌てながら、
「え?ち、違うよ…浩之ちゃんだよ」
 と答えた。さらに顔が赤くなる…ところで俺がどうしたんだ?
「俺がなんなんだよ」
「浩之ちゃんが、私の所に来てるんだよ──」
 そう言われてみると──俺は少し首を浮かせ、周りを見てみた。…確かに、俺があかりの所に来て
いるようだ。しかしどうして──あ、そうか…昨日の晩、この体勢のまま眠っちまったんだっけ…
「──ね?」
「そ…うみてえだなあ」
 俺が頭を掻きながらそう言うと、あかりは少し嬉しそうな顔をしながら、どうかしたの?と言った。
「別に…何でもねえよ。寝相が悪かっただけだろ」
 俺がそう答えると、あかりはやぱり嬉しそうな顔をしながら、
「浩之ちゃんて…寝相悪くなかったよね…?」
 と俺に聞こえるような独り言を言った。──少し勘違いをしているのかもしれないが…大体分かっ
ているのだ、こいつは。俺は赤くなった顔を見られないように顔をそらし、外を見た。
「──ああ、よく…晴てんじゃねえか」
 …かなり露骨に、俺は話を変えた。
「あっ、本当だ。昨日の吹雪が嘘みたいだね」
 まったくである…今日来れば良かったぜ、でも──
「──昨日積もった新雪と、よく晴れて透き通った空か…眺めもいいだろうし、最高のスキー日和だな」
「そうだね」
「今──八時か。もう飯食いに行っても大丈夫だろ。早く着替えていこうぜ」
 俺はそう言ってベッドから降りると、先に届いていた方の荷物を開けた。この中にはスキー用品一
式がそろっているはずである。ただ、親から譲り受けたもののため、少々時代遅れなのは否めない。
「ええと──俺のウェアがこれで──あかりのがこれか──あと靴下と帽子とゴーグルはこの中に─
─…あったあった。おい、おまえの分、投げるぞ」
 俺はそう言いながらあかりにウェアを投げた。しかし、少し説明的すぎないか?この科白。
「あっ…と」
 タイミングこそ付けなかったが、いつものパターンで分かっていたのか、あかりはちゃんとウェア
を受け取った。
「さっさと着替えちまおうぜ…」
 俺はそう言いながら立ち上がり、寝間着の上を脱ぎ始めた。
「う…うん」
「ん?どうしたんだよ。着替えねえのか?」
 見ると、あかりはウェアを持ったまま俯いてもじもじしていた。
「早く着替えろよ」
「で…でも…浩之ちゃんがいるのに…」
「何を今さら言ってるんだか…別にまじまじと見るわけじゃねえだろ?(大嘘)」
「そうかもしれないけど…やっぱり恥ずかしいよ」
 俺は頭を掻きながら、仕方なしに後ろを向いた。
「わーったよ。こうすりゃ良いだろ?だから、早く着替えようぜ」
「…うん。ごめんね、浩之ちゃん」
 そういってから、あかりは着替え始めた。だが、俺は目を細めながら笑っていた。
 甘いぜあかり…
 俺は、あかりが着替えているのを、「鏡越しに」じっくりと見させてもらった。ペンションの部屋
には、普通鏡が置いてあるものさ…(何の伏線もない、たった今決まった事実)

「浩之ちゃん。着替え終わったよ」
 その声を聴き、俺は後ろを向いた。…本当はそれ以前に分かってたのだが、ここでドジっては元も
子もなくなってしまう。
「相変わらずおせえなあ。俺はとっくに着替え終わってるぜ」
「そ、そんなこと言われても…」
 俺はあかりを無視してまたバッグをあさり始めた。
「どうしたの?まだなにかあるの?」
「…あかり。ちょっとの間、目え瞑ってな」
「え?なんで?」
「いいからいいから」
「う、うん」
 俺は、あかりが目を瞑ったのを確認すると、手に「白いもの」を出し始めた。
「浩之ちゃん…?」
 俺は無言であかりに近づくと、ゆっくりと手をあかりの顔に付けた。あかりのほっぺたは、やっぱ
り温かかった。
「えっ?えっ?」
 ちょっと慌てるあかりを無視し、俺は手に着いているものをあかりの顔につけまわした。むにむに
むにむに………
「よし、もう開けていいぞ」
 あかりの顔にまんべんなく「白いもの」が行き渡ったのを確認して、俺は言った。
 あかりは、不安そうに目を開けてから、
「これ…何だったの?」
と、訊ねてきた。俺は笑いながら、
「日焼け止めクリームだよ」
 と言った。雪焼けした方が格好いいかもしれないが…あかりはそう言う柄じゃないし、俺もあまり
好きじゃないからな。
「浩之ちゃんはもう塗ったの?」
「残念。おまえが着替えてるうちにぬっちまったよ」

 食事を早々にすまし(上手かったのだが)、俺達はスキー場に行くことにした。最初は歩いて行く
つもりだったのだ
が、オーナーが親切で(サービスをしないと、お客が来なくなってしまうんだと、苦笑しながら言っ
ていた)、わざわざ車で送ってくれた。
 オーナーが帰った後、俺は早速スキー板とストックを持った。
「よし、いくぜぇっ!」
 何かどっかで聞いたことのあるかけ声を出して横を向くと、あかりがスキー板を持つのに悪戦苦闘
していた。…やれやれ。
「…しょうがねえなあ」
 俺は苦笑しながらあかりのスキー板を持ってやった。
「あ、浩之ちゃん…ごめん。でも、大丈夫?」
 おまえが大変になるくらいならは、俺が持つんだよ…と心の中でいいながら、
「大丈夫だよ。ただ、俺のストックはおまえが持っていけ」
 と言った。何だかじぶんで照れてしまっている。

 スキー場にはいると、時間が早いせいかまだほとんどの場所に新雪が積もったままだった。
「きれい…」
 あかりが、呟くように言った。
「…まさに一面銀世界ってやつだな…」
 空は青く透き通り、地面は一面まぶしいほど光っている、そして──
「──早くリフトに乗ろうぜ…高いところに行くと、富士山が見えるんだ」
「え?そうなの…早く見てみたいな」
「その前にリフト券を買わなきゃ──」
 ──いけないな、と続けようとしたときだった。後ろから、
「ひょっとして浩之さんですか?」
と聞こえてきた。俺は少し驚いて後ろを向いた。そこには…
「すごいね沙織ちゃん。本当に浩之さんだった」
 デンパマン(すいませんっ!本当にっ!)──じゃなくて、長瀬祐介君がいた。
「…祐介君と沙織ちゃんじゃん。久しぶりだなあ」
 今さら説明は無用だろうが…去年の夏知り合ったいわゆる「超能力者」である。んで、その隣にい
るのがGF(なのかどうかよくわからんが、雰囲気からそうなのだろう)の新庄沙織ちゃんだ。
「久しぶり、祐介君、沙織ちゃん」
 あかりも続けて挨拶をする。
「ふふっ、お二人とも相変わらず熱いですねえっ」
 沙織ちゃんが茶化す。何だか最近公認のカップルになってきてしまってる俺とあかりである。こう
もはっきり言われると、あしらう前にまず照れてしまう…満更でない証拠だろうか。
 俺は照れながらもその発言を無視し、
「そっちも二人できたの?」
 と、訊いた。
「──ええ、まあ。叔父がたまたま──かどうかは怪しいものですけど──スキーの招待券かなんか
を当てて持ってきたんです。で、どうせだから沙織ちゃんと行こうかなって。ところで今『そっちも』
って言いましたよね…あなた達も二人ですか」
 しまったっ!と思ったがもう遅かった。既に沙織ちゃんは目を細めている。
「ところで、君等はこれからどうすんの?」
 俺は無理矢理話を変えた。少し悔しい。
「これから…ですか、そう言えばどうするの?」
 祐介君はそう言って沙織ちゃんの方を向いた。話しに乗ってくれてありがてえっす。
「うーんどうしよっか…最初中級者コースを滑って、それから上級者コースって言うのは?」
「…僕、そんなに滑れないけど…」
「だーいじょぶよ、スキーなんて、ボーゲンができれば後は何とかなっちゃうんだからっ!」
 沙織ちゃんは、胸を張りながら自信たっぷりに言った。祐介君は少し苦笑しながら、
「じゃあ、そういうことにしようか」
 と言った。いいのか…?そんなんで。
「浩之さん達はどうするんですか?」
「そうだなあ…」
 俺はちろっとあかりを見た。少し心配そうな顔をしている。
「…俺もあかりもあんま滑れねえからな。初級者コースで練習かな」
 俺がそう言うと、
「そうですか、それじゃあ頑張ってくださいね」
 と言って、二人とも中級者コース行きのリフトに言ってしまった。ケガするなよ、祐介君。
「びっくりしたね」
「本当だなあ。ま、耕一さんにまでは会わないだろうけどな」

 リフト券を買い、リフト乗り場に行く。意外にも、あまり込んでいなかった。
「ちょっと怖い…」
 人が沢山いる中で、あかりが情けないことを言い出した。
「ああ?なーにいってんだよ…こわかねえって。それに──」
「それに…?」
「──おまえが落ちそうになったら、俺が助けるよ」
 何だか、ほとんど無意識にそんなことを口走った。が、柄じゃねえよ、あかりに対してこんな歯の
浮くような科白。
 だが、その「歯が浮くような」科白が功を制したのか、あかりは少し恥ずかしがりながらも頷いた。

 リフトから降りると、俺は思いっきりのびをした。ウェアのこすれる音が何故か心地良い。
「んじゃ、景色眺めながら滑るか」
「う、うん」
 俺の提案に、少し不安そうに答えるあかり。いつもの癖で、少し苛めたくなる。
「んじゃあいっくぜーっ!」
 俺はあかりが用意するのを待たずに滑り出した。
 ばしっ!ばしゅっ!雪を削りながら滑る。眩しく光る雪と、澄んだ空、そしてその向こうに見える
富士──最高だなあ。本当に。
 俺は景色がよく見渡せる場所を選んで、転ばないように気をつけながら止まった。
 ストックを雪に刺し、再びのびをする。心地良い風だ…
 ──あかりは?
 いけねいけね、あかりのことすっかり忘れてたぜ…俺は、自分の滑ってきたコースを見た。上の方
にいるのがあかりだろうか?すっげーのんびり──
「──じゃねえっ!あいつ、まっすぐ滑ってやがる。あのままここに来たら…」
 …俺の予想は当たっていた。あかりは徐々にスピードを上げ、俺の近くに来たときは、既に止まれ
なくなっていた。それどころか、突っ込んできていやがるっ!
「あっ!!ひろゆきちゃんっ!!」
「うっわーーーっ!!!」
 どんっ!ぼふぅっ!
 大きな音こそ立たなかったものの、俺達は盛大に雪に突っ伏した。
「つっぅぅぅ」
「いたたた…あっ、ごめんっ!」
 暫くの間どうなったのか理解できなかったが、あかりが謝ったのでようやく分かった。
「ごめんっ!浩之ちゃん、わたし…」
「ったく…まあ、元はと言えば俺が悪いんだけどな──それより、早くどけ」
「う、うん…あ、あれ?」
「どうした?」
「た…立てないよ。お腹から下に…力が入らない…」
 最初は冗談かと思ったが…あかりの真剣な顔から、そうではないことが分かった。それだけではな
い、俺も何故か立てなかった。
「…しょうがねえから…立てるようになるまでこのままでいるか…」
 幸い、スキー板はさっきの衝撃ではずれていた。この体勢のままでいることに、大した苦はなかっ
た。人も何故か来ないし…
 ………二人とも、ぼぅーっと見つめ合っていた。俺は少し照れてしまい、関係のない話題を持ち出
した。
「な、なあ。あのさ、福引きの「特賞」って何だったんだろうなあ…」
「…それ、訊いたことあるよ、たしかね──」
 あかりは、にっこりと微笑んで、
「──あのおじさんのキスだったみたい」
 と、とんでもないことを言った。しかし、あのオヤジならやりかねん。
「そうか──それじゃあ──」
 俺は、自分の見える範囲で辺りを見回し、誰もいないことを確認してから囁くように、
「──俺からも特賞をあげよう」
 といった。そして、あかりに有無を言わせず、唇を重ねた。
「ん──」
 あまり長くはなく、かといって短くもない──キスだった。
「ふう」
 二人は同時に息をついた。そして、同時に赤くなった。
 ………またも沈黙…今度沈黙を破ったのは、あかりの方だった。
「浩之ちゃん──」
 少し恥ずかしそうに、上目遣いっぽく話しかけてきた。
「──また…来年もこようね」
「ああそうだな…また来年も、二人でこようよな…」
 それから暫く、俺達は無邪気に見つめ合った。
                          Fin...
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 一方その頃、こちらは長瀬アンド新庄組(ちょっと怖い)。
「どう?祐君。二人の調子」
 電波を放ちつつ双眼鏡を覗いている祐介に、沙織が話しかけた。
「まあまあ、良いんじゃないかなあ…」
「ふーん。どれどれみせて」
 そう言って祐介から双眼鏡を奪った沙織は、浩之とあかりを見つけ、ピョンッ!と飛び跳ねる素振
りを見せた。
「うっわー、ホント、あの二人熱いよねー」
「とはいえ…こんな事に力を使わせないでよ…」
 そう言う祐介も、実は楽しんでいたりする。これから先少し心配だ。
「いいじゃんいいじゃん。そういえば、誰も滑ってこないねえ」
 と、沙織が不思議そうに尋ねると、祐介は少し嬉しそうに、
「誰もあそこに行かないように、電波で命令したんだ」
 と説明した。少し怖い。
「へえええ、べんりーっ!」
「確かに便利だけど、沙織ちゃん自分のこと考えてないでしょ」
 双眼鏡から顔を離し、少しきょとんとしながら、
「自分のこと?」
と沙織は言った。
「だって、やろうと思えば沙織ちゃんを僕の好きにだってできるわけだし…」
 すると沙織は、ああそんなこと、といった。
「そ、そんな事って…」
「だって…あんまりひどくするんじゃないなら…それで、相手が祐君なら…あたし…別に…」
 二人して火がついたかのように赤くなった。
「さ…おりちゃん」
「…」
 俯いてしまった沙織を、祐介は慰めるように、
「大丈夫、言ってみただけだから…それに、どうせするのなら…同意の上でが…いいかな…」
 と言った。ちっとも慰めになってないと思うのは僕だけか。
「祐君…」
 沙織は、スキーが滑り出さない程度の勢いで、祐介に身を委ねた。
                              <終>
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 何とか終わりました。「Ski・Ski・Ski!!!」当初の予定では、二話完結だったのに…(泣き)
 その上スキーやってるシーンなんてほとんど無いし…題名に三つもあるのに。 
 ま、ちゃんと終わったから良いか。とりあえず。
 
 ところで今、僕の住んでいるところには雪が降ってます。明日の授業は、少し潰れるのだとか。
 どうせだから休校しろーっ!(何にせよ、雪はよい)

 Runeさん
 メール、有り難うございましたぁっ!
 メールを扱い馴れてないんでこっちに書かせていただきましゅ。
 それと、かなり参考になりました。確かに一本道過ぎましたね…もっとのんびり(表現が間違って
いるが)書かなくてはいけないな…
 ちなみにオリキャラ二人には、書くネタがつきたときにでもでばってもらうことにしてます。
 ──あ、ネタがなきゃ書かなきゃ良いのか。
 あと、雫のじょーほーどうもです。頑張ってみます。時間があったら。

 久々野さん
 お久しぶりです。
 いまだに駄文かかさせてもらってます。
 今年もよろしく(今年からかな?)。

 アルルさん
 ネタバレの方にいってみたら…
 思わず書き込みたくなってしまった。
 ところでそのシリーズに僕、メロメロ(死語)です。
 でも、何でまた楓ちゃんなんですか?

でわでわ・・・