十二月二十三日 俺(藤田浩之)が、何の気なしに商店街を歩いているときだった。 「──あ、浩之ちゃん」 後ろからあかりが話しかけてきた。その時俺は、不覚にも少しびっくりした。 「…な、何だよ」 俺がそう言うと、あかりはいつものようににっこりと微笑んで、 「浩之ちゃんは、もう福引きやった?」 と言った。俺は怪訝そうな顔をしながら、 「ああ?…福引き?そんなもん、ここでやってたっけ」 と答える。 「浩之ちゃん…本気で言ってるの?ここで買い物していれば、絶対に貰えるのに」 「そう言えば、補助券が沢山入っているな」 俺は、財布を覗きながら言った。しかも、ちょうど一回分ある。 「今日最終日だし、一回分あるのならやっていけば?」 別に急いでいるわけではないので、俺は福引きをやることにした。 福引きは、商店街のど真ん中でやっていた。 「五等、買い物券(二千円分)。四等、図書券(三千円分)。三等、現金一万円。二等、バッグ (ブランドもの)。一等、スキー旅行二泊三日(お二人様ご招待券)。特賞、とっても良いもの…か。 一、二、特賞以外は、全部出てんのか…はずれか大当たりって事だな」 それにしても、特賞って何なんだろう… (買い物券より図書券の方が高いことは、あえて無視している) 「頑張って、浩之ちゃん」 「何だ、オマエはやんねーのか?」 「うん、さっきもうやっちゃった」 「じゃあ、なんでわざわざついてきたんだ?」 俺は、少し意地悪く言った。本当はその理由を知っているからだ。 「え?それは、その…」 「ま、いいや。大体分かるしな。それよりも早くやろうっと」 赤くなったあかりを無視するように、俺は補助券を差し出す。 「はいはい〜おお?あんちゃん、ちょうど一回だね。おし、早くやんな」 何なんだ、この脂ぎったおっさんは。──それよりも、早くやるか。 なんて言う名前なのかは知らない──俺は愛着を込めて、がらがらと読んでいる──奴の取っ手を 掴み、右に回す…うおらあああああああ(一回転なのに、心の中で叫ぶ俺)あああっ!! じゃらじゃらじゃら…ころんっ!こつ、こつこつこつ… 俺は、恐る恐る転がった玉に目をやった。この緊張がたまらない…玉の色は… 「うっしゃああああっ!一等だああああああああああああっ!!!!やったぜえぇぇぇぇあかりぃっ!」 「やったねっ!浩之ちゃんっ!」 「おめーでとぉーうっ!ございまあーーすっ!いっとおおおおーでえっっすうううっ!」 三人、思い思い叫び声をあげる…そして俺は既に、あかりと一緒に行きたいと思っていた。 一月三日 「おせえぞ、あかり」 一月三日、午前七時。あかりの家の前だ。 「ご、ごめん。にもつが多くなり過ぎちゃって」 そう言えばこいつ、修学旅行の時もそんなこと言ってなかったか? 俺は、しょうがねえなあ、とか言いながらあかりの荷物の片方──それも重い方──を持った。 「あ、浩之ちゃん…」 「いつものことだからな…ま、癖みたいなもんだ」 俺は目を反らしながら言った。何かいかにも〜って感じだなあ。 「しっかし、よく許可してくれたなあ」 空いている静かな電車の中で、少し気になっていたことを口にした。 「え?なにを?」 「いや、ほらさあ、よく…男と二人で旅行するなんて…許可したなあと思ってさ」 「──本当はね、お父さんとお母さん、このこと知らないの──二人が今日たまたま旅行だったから」 黙って出てきたというわけだ。電話なんかされたら一発でばれるだろうに。 「おまえ、最近悪い奴だな」 「え?ど、どうして?」 「どうしても何も…嘘ついて男ん所に泊まったり、無断外泊したり…」 「そ、それは…浩之ちゃんのためだから…」 あかりが泣きそうになったので俺は、 「わーってるよ。ちょっと意地悪したくなっただけだって」 そう言いながらあかりの頭を撫でた。 数時間の長旅の末、俺達は目的地の駅に着いた。 思いっきりのびをして、空気を肺いっぱい吸い込む。体を、冷たい──俺はそれを涼しいと感じた が──空気が駆けめぐる。──心地いい。ここからまずペンションに向かうのだ。 「あかり、大丈夫か?疲れてねえか?」 「正直少し疲れているけど、大丈夫だよ」 「そっか…じゃあ、少し急ぐぜ」 俺がそう言うと、少し不安そうにあかりは頷いた。 ひょっとしたら、あかりの予感は当たっていたのかもしれない。 まず、俺達はバスに乗り遅れた。そのおかげで二時間ほど時間を無駄にする。 そして、ようやく乗ったバスで外を見ていると、雪がちらついてきた。その雪は、俺達が降りる頃 には大雪になっていた。まだ四時だというのに、外は真っ暗だった。 大雪の中を、右も左も分からないまま進んだ。時折会う人に道を聞いたりしていたが、ついたのは 結局八時を回った頃だった。 そのペンションを見つけたとき、俺は本気でほっとした。 ドアを開けて中に入ると、ものすごく暖かく感じた。相当に体が冷えていたのだ。 「すいません、道に迷っちゃって…」 オーナーと思われる人に、招待状を見せつつ俺は謝った。 「いいえ。よくおいでくださいました…こんな吹雪の中を…お風呂が沸いているので、先に暖まって はいかがでしょうか。食事はその後でも良いですし」 「ええ、そうさせてもらいます。──あかり、行くぞ」 「部屋は、突き当たりの102号室です。ストーブは焚いてありますし、鍵も中に置いてあります」 「ええと、ありがとうございます」 あまり広くない部屋に、大きなストーブが一つと、ハンガーが三つ、そしてシングルのベッドが二 つくっつけて置いてあった。部屋の角に、先に送っておいた荷物が届いている。中にはスキー用品が 入っている。 俺達はとりあえずコートを脱ぎ、ベッド腰掛けた。 「すまん、あかり…もう少し俺がちゃんと考えてれば…」 俺は、俯きながら言った。──本気でそう思っていた。 「え?浩之ちゃんは悪くないよ…それにほら、ちゃんとついたし…だから──」 俺は、そんなあかりの言葉を遮っていった。 「──本当にすまない」 「浩之ちゃん──…ね、元気出して。そんなのいつもの浩之ちゃんじゃないよ…」 「──あかり──そ…うだな、こんなの…いつもの俺じゃないよな…よおしっ!」 俺はそう叫んで立ち上がった。 「まずは風呂にはいっちまおうっ!」 「そうだね。どっちが先はいる?」 あかりの言葉を聞いて、俺の「悪意」がむくむくと大きくなった。俺は目を細めながら、 「『どっち』って、一緒に入るんだろう?」 と、意地悪く言った。 「ええええ?」 「あれ?あかりは、俺と一緒に入るのいやなのか?」 さらに意地の悪いことを言う。 「そ、それは…」 「嫌じゃねえなら、一緒に入ろうぜ?」 「うう…」 顔を真っ赤に染めて、泣きそうになったので俺はこの辺で止めることにした。 「冗談だよ…それと、おまえから入ってこいよ。俺は後でいいんだし」 「ひ、浩之ちゃん…」 …あかりが部屋から出ていってから、俺は少しごろごろしていた…だが、あまりの疲れに飲まれ、 俺はそのまま眠ってしまった。 To be continued ------------------------------------------------------------------------------------------ おお、おわんなかったか。 時間がないのでこの辺で、詳しいことはまた明日かきましゅ。 でわでわ・・・