柳川くんのクリスマス 投稿者:ゆき


 俺は、何も考えずに闇夜を飛んでいた。
 正確に言うと、何も考えていなかった訳ではない、ただ、それがあまりにも夢に近いことだから、
なんでもないような気がするのだ。
 …貴之に、会いたい。ただ、それだけだ。
 だが、それはかなわないのだ、貴之は、もうこの世にはいない、俺が、殺してしまったから。
 柏木耕一との戦いの最中、貴之は、耕一をかばって死んだ、何が貴之を突き動かしたのかは解
らない、ただ、俺は貴之に会いたかった。会って、守れなかったことを謝りたかった、殺してし
まったことよりも、そっちの方が気になる。
 …何故俺は、生きているのだろう。そう思い、俺は自分の胸の痕を見た、もう、殆ど残ってい
ない痕、耕一が、狩猟者として半端者だからだ、きっちり剔ってくれればよかったものを。その
上、奴はまだ知らないのだ、俺が生きていることを。
 …狩ろう、そうだ、狩ればいい、そうすれば、この切なげな気分も癒されるだろう、耕一も、
気付いてくれるかもしれない。
 時間は、10時を回ったところだ、いくらイヴとはいえ、このくらいの時間になれば、人通り
も少なくなる、それどころか、パーティ帰りの人間を見つけられるかもしれない、基本的に、そ
う言う連中は一人で歩いているものだ…
 そう考えたとき、俺は流石に苦笑した、何を今さら言っているのだろうか、もはや「柳川拓也」
という人間は、この世には存在しないのに…自分が犯人であることを隠す必要など、全くないのに…
 所詮、俺もまだ半端者な訳だ。
 俺は、そんな自分に素直に、人通りの少ない道を歩くことにした、ずんっ!という音と共に着
地する、少し、コンクリートの道がへこんだ。
 体制を立て直し、徐々に鬼の力を押さえていく、赤かった目が、元通りになっていく、殺戮の
衝動はともかく、この程度の抑制なら利くのだ、そういう意味では、耕一が少し羨ましい、人間
として、生きていけるのだから。
 ゆっくりと道を歩いていると、目の前に、一人の女を見つけた、15,6ぐらいで、変な髪型
をしている、今日の獲物は、こいつにすることにした。
 別に息を殺すわけでもなく、俺はごく自然についていった、夜の場合、この方が警戒されずに
済むからだ。
 …暫くついていき、もう、かなり人通りが失せた頃、目前に橋が見えてきた、勢いのよい、水
の流れ、…頃合いだ、
俺は、少しペースをあげて近寄っていった、その時、
「あーーーっ!!!」
 いきなり女の体制が崩れた、と、同時にこの叫び声、躓いたのだ、ただ、躓いた場所が悪かった、
橋の上だ、その上、手摺りに向かって転んでいる、このままでは、流れの強い川に、転落してしまう。
そう思うと、体が全速力で走り出した、獲物を失うわけにはいかないのだろう。
 がしっ!
 間一髪のところで、俺は女の右足をつかんだ、ばさっとスカートがめくれ、下着が丸見えになる、
だが、不思議と性欲は湧かなかった。
「おい、大丈夫か」
 俺は、女を引き上げながらそう聞いた、こう言うとき、鬼の力は役に立つ、俺も案外、上手く生
きられるのかもしれない。
「は、はいっ!大丈夫です、でも…」
「でも?」
「頭に血が…」
 そう、女は逆さ吊りになっているのだ、俺は、急いで引き上げてやった。
                        *
「あ、ありがとうございました」
 ようやく引き上げられた女は、少し埃を払ってからそう言った、よく見ると、服が継ぎ接ぎだら
けだ、よっぽどの貧乏なのだろうか、それとも、最近の流行か?
「気にするな、しかし、何で何もないところで転べるんだ」
 『気にするな』か…それはそうだ、ただ単に、少し命が延びただけなのだから…
「あはは、わたし、すっごいドジなんです」
 女は、苦笑気味にそう言った、だが、ドジにも程があると思う。
「『パーティ帰りの少女、何もないところで躓いて転落死っ!」
って見出しじゃ、笑い話にしかならんぞ」
 俺が苦笑しながらそう言うと、
「あはっ☆そうですよね」
 そう答え、ころころと笑った、それが、とても愛らしく見えた(アイ、ラシイ?)。
「雪でも積もってれば、雪のせいにでもできるのだがな」
「…それでも結局、わたしがドジなことには変わりないですぅ」
 そう言って、今度は頬を膨らませた、その時既に、俺の中から殺意は消えていた、変わりに、
いまだかつて感じたことのない感情が、沸き上がってくる、それは、とても心地いい感じがした
(ココチ、イイ?)。不意に、口が動く。
「俺は柳川拓也、君は?」
「わたしですか?わたし、雛山理緒っていいます、よろしく」
「よろしく」(ヨロシク?)
 俺もつられて挨拶する、…とはいえ、もう一度この娘に会えるとは思えない。あれ、今少し、
切ないような感じがしたな(セツ、ナイ?)、どうしたというのだろう。
「ほんと、気おつけろよ、俺がいなかったら、今頃は冷たい水の底だぞ」
「お、脅かさないでくださいよう」
「すまんすまん、…そうだ、これも何かの縁だろうから、君の家まで送ろう」
「そ、そんな…悪いです」
 どっかで聞いたことのある台詞(白い・聖夜)を、彼女は言った、が、顔は満更でもなさそうだ。
「その台詞、OKとして受け取らせてもらおう」
 俺は強引にそう締めくくった、俺も、満更ではないようだな(マンザラジャ、ナイ?)。
                      *
 それから少し歩いた、その間に、彼女からいろいろなことを聞いた、いつもなら一笑してしま
うであろう事柄も、今日は真剣に聞くことができた、いつもとは明らかに違う自分が、ここには
いた(アキラカニ、チガウ?)。
「あ、ここです」
 話の途中で、彼女が唐突にそう言った、彼女の顔が見ている方には、ぼろアパートがあった、
ここ、ここに済んでるのか?この娘。
「ふぅ、ん」
 俺は気のなさそうな返事をした、驚きは、何とか隠せたようだ。
「可笑しいですよね、こんなトコに住んでるなんて」
 と、彼女は自嘲気味に言った、俺は、
「正直驚いたが、可笑しくはないと思うぞ」
と、正直に答えた、そうだ、可笑しくはない。
「無理しなくても、いいです」
「嘘じゃない、ほんとだ、ひょっとして、貶すとでも思ったか?」
「…少し」
「俺は、そう言う男ではない」
 自分で言って、俺は少し苦笑した、別に、言葉の内容に苦笑したわけではない、そうではなくて、
「そう言う男でなかったら、俺はなんなのだ」と、思ったのだ(オニ、ダ)。
 …さっきから、鬼が煩い、確かに、俺はいつもと違うが…!?
 その時、俺はある事に気がついた、…それは…俺が、この娘に恋愛感情を抱いていることだ。
「本当に、ありがとうございました」
 気がつくと、彼女は門の中(アパートの)に入って、こちらを見ていた、俺が、ああ、
と、気のない返事をすると、
「あっ!そうだ、何か、お礼しなきゃ」
 と、慌てたように言ってきた。
「…別に、そんなものは良い」
「でも、助けていただいたんだし」
「今日はイヴだ、プレゼントでも貰ったと思っておけ」
「でも…」
 その時、俺の頭の中に、ある考えが浮かんできた、いつもの俺ならば、自分がイカれたと
思ったであろう。
「どうしても、というのなら…」
 そう言って、俺は顔を近づけた、そしてそのまま、額に口づけをする、止めどなく溢れて
くる感情、これが「愛情」なのか。
「や、柳川さん?」
 流石に驚いて、俺のことを呼ぶ、安心しろ、これ以上は何もしない。
 俺はゆっくりと口を離すと、
「また、会えるか?」
 と、聞いた、もちろん、無茶なことは承知で。だが、彼女はこう答えてくれた。
「はいっ!こんなわたしで良ければッ!」
 俺は、表現しようのない喜びの中、今年は最高のクリスマスだ、と、感じた。
 鬼の力を克服していたのは、言うまでもない。
                        … 了 …
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 一日遅れの、イヴネタでした、またしても駄文だったと思いますが、いかがでしたか?
 何か、無理矢理H・Eになってしまいました。でもいいよね、H・Eなら。

 UMAさん、メール、ちゃんと届いたでしょうか、ひょっとしたら、貰ったのそのままいってるかも…
そうでしたら、ごめんなさい。

 久々野さん
 さ、さよならですか?

 無口の人さん
 大変だったでしょう、僕のお話を広告するの。

 白い・聖夜に、誤字がたくさんあったのを見て、絶句してるゆきちゃんです、
これにも、たくさんありそうだ。
 はぅ、もっとちゃんとかけたらなぁ。   

でわでわ・・・(このあと、戸籍はどうするんだい?柳川君)