メタオの逆襲 投稿者: ゆき
 怒声とともに、メタオ達が突っ込んでくる。全員が全員九歳児なので、かなり気色の悪い光景だ。
「…来るぞ」
 俺は、横に立っているルカに向かって言った。ルカはそれを聴くと、刀をすっと抜いた。
「…どうやら…数が増えた分、一人一人の能力は大幅に落ちているみたいですね…。これなら、数匹同時に相手にし
ても大丈夫そうですよ」
 それから、早口にそういう。俺は頷き、そして、
「取り敢えず、待ちよりも突っ込もうぜ」
 そういうと、地面を思いっきり蹴りつけ、メタオの中に突っ込んでいった。

 俺は、まさに目にも留まらぬ速さでメタオの群の中に入り込んだ。いきなり入り込んだ俺に、驚愕の表情を隠すこと
の出来ないメタオ達、俺は、取り敢えず手近にいたメタオの頭を、拳で粉砕した。
ずがん!
 そんな音とともに砕ける顔、飛び散るメタリックの破片。──まず一匹。
「畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」
 仲間の一人がやられたのを見て、更に切れるメタオ。俺の周りにいる十匹が、一斉に躍りかかってきた。
 正面にいる奴が俺に殴りかかってくる。──だが、遅いっ。
「あまいっ!」
 俺はそう叫びながらしゃがんで拳を避けると、その態勢のままメタオの足首にケリを入れる。体勢を崩すメタオ。その
倒れかかってくるメタオの鳩尾にブローを一発叩き込む。
ばぁんっ!
 俺の右腕が、メタオの胴体を貫いた。そして貫いた手をそのままにして、後ろにいるメタオの顔をひっ掴み、そしてそ
の顔を握りつぶす。此処までやって約一秒半。
 後ろから、三匹ほどメタオが来ているのを感じる。俺は右腕に引っかかっているメタオを振り落としつつ、振り向きざま
に手前のメタオに左腕でパンチを、その後ろにいる奴に右キックを、そして一番後ろの奴にメタオの残骸を投げつけて
足を止め、そのときに出来た隙をついてメタオの腹に膝蹴りをくらわせる。当然のことのように、俺の膝はメタオの腹を
砕いた。──これで六匹。残りは四匹。
「てめぇぇぇぇっぇぇぇぇぇっっっっっっっ!!!!!!よぉぉぉぉぉぉぉくぅぅぅぅぅぅぅもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ
っっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 残りの四匹の絶叫。だが、俺は全く恐れなかった。
──鬼気に差がありすぎている…余裕だ。
「殺してやるぅぅぅぅぅぅ──」
 俺は、メタオ達の叫びを遮るように飛びかかった。四匹はちょうど菱形に並んでいる。都合の良いことこの上ない。
 俺は四匹の真ん中に降り立った。そして正面の敵にケリを入れて破壊すると、その反動を利用して飛び上がり、さっ
きまでは後ろの位置にいたメタオを踏みつけて壊す。これで一秒弱なので、つくづく鬼の力を思い知らされる。
 残ったに引きのうち一匹が、俺に拳をとばしてくる。だが俺はそれをあっさりと受け止めると、逆にその拳を握りつぶ
す。悲鳴とも雄叫びとも着かない叫び。いきり立ってもう片方の手を伸ばすも、それは俺の躰まで届かなかった。
「このっ!」
 俺は掴んでいる腕を引くと、膝を前に突きだした。──クリーンヒット。またしても、俺の膝がメタオを貫く。力無く前の
めりになるメタオの残骸。俺はその残骸を、これ見よがしに最後の一匹に投げつけた。
「ぎひぃぃぃ」
 さっきまでの威勢はとっくに消え失せ、メタオは腰を抜かした。
 俺は冷徹に微笑むと、そいつに近寄っていく。メタオは動かない…動けない。
「…俺達の邪魔をするからだ」
 俺はそう言い放つと、メタオの体中を、ぐちゃぐちゃになるまで殴りつけた。──手加減しながら。

 耕一が飛び立つのを見たルカは、一歩遅れてメタオの群に飛び込んだ。──が、一歩遅れたとはいえ、メタオ達に
は一瞬のこととしか映っていないだろう。ルカは着地するよりも速く、滑らかな動きで二匹のメタオを真っ二つに斬り
裂いた。まさに横一文字である。
「さぁて。人の恋路を邪魔する奴がどうなるか──教えてあげよう」
 ルカは、着地するなりそう言い、そして嗤った。
「うっせぇぇぇぇぇよぉぉぉぉぉっっっっっっ。呆けがぁぁぁぁぁッッッッッッ!」
 メタオの中の一匹がそう叫び、ルカに飛びかかってくる。だがルカは、同時もせずに刀を振った。
びゅんっ!
 振った──といっても、尋常なスピードではない。目で捕らえることはおろか、それが振られたことも解らないのでは
ないだろうか。現に、今斬りつけられたメタオは、暫くは自分の身に何が起こったのか分からない様子だった。
「は、はひ?」
 ぽかんとしたそのメタオは、そんなことを言いながらルカの横をすり抜けていった。そして地面に躰が着くと同時に、
上半身と下半身が二つに別れる。少しの間だけ、その二つの躰は動いていたが、そのうちに動きを止めた。漸く、躰が
絶命したのに気が付いたのだ。
「…弱い。これならまだ、僕の世界の魔物達の方が手応えがある」
 ルカは後ろを確認するまでもなくそういうと、場違いに首を傾げた。──因みに、ルカはこんな事を言っているが、彼
の世界の魔物達だって大した強さではないのだ…。少なくとも、魔王ルカ・アークウェルにとっては。
 ルカはつまらなそうにメタオ達を見た。おそれよりもまず、驚きが顔に現れていた。…それを見たルカは、少し図に乗
って、魔法を使うことにした。──これなら、多少魔力を使っても良さそうだ。
 ルカは夜空に手をかざし、唱えた。
「──イスっ!」
 イス──すなわち氷の魔法である。ルカが唱えるのと同時に、ルカの周りに氷の粒──否、塊が現れた。それを確
認したルカは少し悦には入ったような笑みを浮かべて、そして呟いた。
「…行け………」
 そして、勢いよく飛び出していく氷の塊。それは自在に動き回り、避けようとするメタオ達を捕らえていく。
ドガッ ドガガガガッッ…
 メタオ達の顔に、胴に、四肢に…確実に命中していく氷の塊達。普通の人間ならば大した数の出ない『イス』の魔法
も、魔王たるルカにかかれば、かなりの破壊力を誇ることになる。
 全ての塊が砕けたときには、十匹ほどいたメタオ達が、既に二匹にまで減っていた。生き残っている者も、かなりの
痛手を受けている。メタオ達は、悔しそうに呻った。
「ぐぅぅぅおおおおぉぉぉーーーーーぉぉぉぉぅぅぅぅぅ」
 だがその呻り声は、もはや辺りの小動物達を恐れさせることすら出来なかった。既に、怨恨しか宿っていないからだ。
それは殺気や威圧とは違い、ただただ哀れなだけだった。
 さすがの『魔王』もそれは哀れに思った。──今まで、行く人もの悪役達が感じた『気分』…それを僕は今、感じてい
るのかな…。ルカは溜息をつき、そして今度はしっかりと刀を構えた(今までは、多少手を抜いていたのだ)。
「…すぐ、終わりにしようか…」
 そしてそう静かに、嘆くように言うと、ルカは翔んだ。そしてそのまま、手前にいたメタオの首を刀で撫で斬った。声を
あげることなく息絶えるメタオ。それを確認し、胸の上で十字を切ったルカは、最後の──まさに最後の──一匹に向
かって駆け出した。
「こう言うときは…悪役らしく決めゼリフだよね…」
 メタオの目の前にまで来てからそう嘆いたルカは、そのコンマ一秒後、刀を上から下に動かした。──すなわち、メタ
オを躰のちょうど真ん中のところで真っ二つに断った。──縦一文字だ。そしてそれから、決めゼリフを吐く。
「…おやすみ」
 言い終わったところで、メタオの躰は左右対称に地面に伏した。

 俺がルカの許に駆けつけると、ルカの方も全て片づいている様子だった。
「終わったみたいだな」
 俺は感慨に耽っているルカに向かって言った。するとルカは、薄く嗤いながら、
「ええまあ…。そっちもみたいですね」
 と、所在なく応えた。
「しかし…」
 俺は、ふと思い当たった疑問を、ルカにぶつけてみることにした。
「おかしくないか?何か…なんかしっくりこないんだが…」
「どういうことですか?」
「…これで本当に終わりなのか?俺達が倒したのは、俺とお前と会わせても二十匹強程度…。その上、前に戦ったと
きよりも遙かに力量は落ちている…これは…余りにもおかしくないか…?」
 俺が、自分でも纏まらないことを言うと、ルカは困惑しながらも応えた。
「…つまり、もう一裏あると…?──!そうか!こいつらを作った張本人がどこかにいるはずなのか!少なくともこいつ
らのオリジナルとなる奴が──」
 そして、途中から重大なことに気が付いてきた。それは、さっき俺が自問していたことでもある──オリジナルの存在。
俺は、頷きながら言った。
「──ああ。どうにかそいつを始末死ねえと、こいつら映画みたいにわらわら出て来るぞ。──問題はそいつが何処に
いるかだが──」
 …だが、俺の科白は遮られた。ルカに遮られたのではない──俺の科白を遮ったのは──。
「──その必要は、無い」
 …その、大人びた男の声だった。
 俺とルカは、慌てて振り返った。聞こえてきたのは後ろからだ。そしてそこには──。
「な…メタオ…?」
 ──さっきの倍近い数のメタオと、その中央に機械を剥き出しにしながらも精悍な顔つきをした青年…察するに、メタ
オのオリジナル…がいた。いや、この青年に至っては、もはやメタオなる名称は相応しくなかった。そして、彼は言った。
「茶番は終わった。耕一にルカよ…『死』よりも辛いことを知らしめてやる」
 決して、周りにいるメタオ達のような「怒声」や「罵声」ではなかった。だがその科白、言葉の一つ一つに言い難い威
圧感があった。そしてそれ以上に、こいつの力は半端じゃなかった。
「どういう意味だ」
 俺の横で、ルカが言った。その声は、多少なりとも緊迫している。
 ルカの声を聴いたメタオは、軽く笑むと、
「言葉通りの意味だ…。地獄を見せてやるよ」
 と、言い放った。そしてそれから取り巻きのメタオ達に何かを指示し、また顔を上げ、嗤うと、
「俺は今から、お前らの家に行ってきてやるよ。残った連中は退屈しているだろうからな…。ただ、俺は邪魔をされるの
がだいっキライでね、お前らにはこいつらを相手にしていて貰うよ。頃合いになったらおいで」
 そういい、そして後ろを向いた。
 俺は慌てた。そしてルカも。
「てめえっ!まてよっ!」
 俺はそう叫ぶと、オリジナルに向かって飛び出した。が、三十匹ほどいるメタオに道を阻まれる。俺は焦れったい思
いに駆られながら、手当たり次第にメタオ達を投げ出し始めた。だが、次から次へとまとわりついてくる。
 ──と、俺とメタオ達の上を過ぎ去る者がいた。…ルカだ。
「耕一さんの言う通りだ…。あんたを行かせるわけには行かない」
 ルカは、また「魔王」の顔に戻ってそう言った。そして、刀を構える。
「威勢はいい…」
 オリジナルは、振り向こうとせずにそういった。
「だが、まだお前らには遊んでいて貰わなければいけないな…」
 オリジナルがそういうと、俺の周りにいた連中の一部がルカに飛びついた。──速いっ!
 さっきまでのメタオとは、スピードが段違いだった。それにはルカも驚いたようで、あっさりとメタオ達に捕らえられる。
「な…!く…そぉっ!離せぇっ!」
 体をじたばたと動かすルカ、だが、効果はない。俺は叫んだ。
「てめえっ!みんなに手を出したら…そのときはっ!!」
 そこで、漸くオリジナルが振り向いた。そしてこう言った。
「言い忘れていたが…お前達が此処で遊んでいる間にも、残りのコピーどもは柏木家に遊びに行っているぞ…。もしか
して、気が付かなかったのか…?罠に」
 そう言い放ってから、オリジナルは声をあげて嗤った。──俺達は驚愕していた。おかしいとは思っていたものの、ま
さか、まさか本当に罠だったとは!そして俺は、もう一つ気が付く。
──初音ちゃんは?
 他のみんなもそうだが、それ以上に初音ちゃんを思った。このままでは…!
 俺の──そしておそらくルカもそうだろう──心の葛藤をよそに、オリジナルはとんだ。何も言わず、夜空に、柏木家
に向かって──。
           … 「メタオの逆襲 第二部」了 「第三部 魔王降臨」に続く …