初音の甲斐性っ! 投稿者: ゆき
俺…これを見て憤怒された方、もしくはいきなり目を背けた方です。
初音…前科が数え切れないほどある、二重人格の美少女です。良い娘ですよ?本当は。
楓…初音の親友の美少女です。溌剌とした良い娘ですが、彼氏の前だと無口になってしまうそうな。
千鶴…初音のクラスメイトです。後は秘密。
タケダテルオ…初音を慕っている、薄幸な少年です。
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甲斐性っ!11「両刀使いの千鶴」

 初音の周りは、最近苦労が絶えなかった。
 そもそもの始まりが梓からの電話であったのは言うまでもないのだが、それはそれとして、現在に至るまでかなり
の苦労をしていた。そして更に、最近ではまた新しい悩みの種が増えていた。
 千鶴──それが悩みの種。

 先日のことである、初音の前に、一人の女生徒がやってきた。
 彼女の名前は千鶴と言い、綺麗な黒髪をもった物静かな女性である。──が、今までは初音と会話はおろか、挨拶
すら交わしたことがなかった。初音は、困惑しながらその女性が何かを言うのを待った。
 千鶴は、暫くの間冷たい視線で初音を見つめていたが、やがて、
「…合格」
 と、小さく呟いた。
 初音は、訳が分からずに訊いた。
「…はぁ?」
 いや、どちらかと言うと気が抜けて口許が緩んだと言うべきか。
 そんな初音を見た千鶴は、さっきまでの冷たい視線を『まさに一瞬で』消し、おそらく最上級であろう笑顔を見せた。
 またしても驚きを隠せない初音。
「な…なんだよっ!」
 だが、千鶴は全く動じずに、
「だから、合格ですわ☆」
 と、笑顔のままで言った。
──何なんだよ、こいつ。
 初音はそう思って、助けを求めるように親友の楓を見る、だが、楓は青ざめた顔で初音を見つめているだけだった。そ
の目には、同情の色が浮かんでいる。
 更に困惑する初音だが、そんなうちに千鶴は自分の席に戻り始めていた。そして、席に座る直前、
ぱちん─☆
 と、初音に向かってウィンクをした。初音は、すさまじい寒気を覚えて、次の時間は保健室に行っていた。

「何なんだ、あいつは」
 初音は、見舞いに来た楓にそう訊いてみた。さっきの、楓の同情の瞳が気になったのだ。
 楓はそれを聴くと、驚いて口を開けた。「え?」
「だからさ──」
 初音は、面倒くさそうに言った。何度も同じことを言うのは好みではないようだ。
「あの──千鶴だっけ──あいつは何なんだよ。『合格』って何なんだ?」
 すると楓は、仕方なさそうに頷くと、周りを憚るように見てから、
「…いや、あのね…。あの娘さ、ウワサだけど──本当にウワサだけど──…れ、レズって噂なのよ…」
 と、小さく、本当に小さく囁いた。
 初音は凍った。

 楓が帰った後、初音はまだ保健室にいた。今度はベッドの上である(さっきまではソファーだったのだ)。
 初音は、必死になってこれからのことを考えていた。
──わ、私の始めては、絶対にお兄ちゃんにあげるんだから。
 こらこら、暴走するな。
 …とはいえ、このまま手を打たなければそう言うこともあり得る…だろう。何せ相手は『千鶴(しかも百合版)』なのだ。
 そのときだった。…保健室のドアが開いた。
──先生かな?
 そう初音が思うのも無理はない、なぜなら、今は授業中だからである。…だが──。
「大丈夫かしら?初音さん」
 ──入ってきたのは千鶴だった。
 初音は、全身総毛立った。…いや、髪の毛は除いてね。
──ひぃーん。何でこの人がここに来ているのよぉ。
 初音はそう心の中で嘆くと、ぎこちない笑みを浮かべて、
「ち、千鶴さん。ど、どうしてここに…?」
 と、無駄な抵抗を試みた。
 千鶴は笑って答えた。
「うふふ…。私、何だか調子が優れませんの」
 ひっ。思わず初音の咽が鳴る。
 初音は、精一杯微笑んでいった。
「あ、じゃ、わ、私、もう大丈夫だから戻る──」
 だが、その科白は遮られた。千鶴は、既に初音の目の前まで迫っていたのだ!初音ちゃん貞操の危機!
──あぅぅ。どうしよう…。お兄ちゃん、助けてよぉ…。
 とは言って、無理な願いではある。
「ダメ…ですわよ?まだ少しも遊んでいないじゃないですか」
 自分をもったい付けて遊んでいるかの如く、千鶴はじりじりと迫ってくる。初音は、恐怖に震えるだけで、躰が動かな
かった。
 千鶴の腕が、初音の小さな胸を掴もうとしてぎりぎりまで迫り、初音が悲鳴を上げそうになったとき、漸く助けが来た
──いや、別に助けようとしたわけではないのだろうけど、取り敢えず助けにはなった。
 初音の後輩の、タケダテルオ君である。実は、昔初音といろいろと有って、今では初音を慕って止まない少年である。
「ちぃっ」
 千鶴は露骨に舌をうつと、初音から離れ、保健室から出ていった。
 初音は力が抜けて、へなへなとベッドにねっころがる形になった。
「あの、何かあったんですか?」
 タケダテルオは、訳も分からずにそう言った。しかし彼は知らない、これから、幾度となく千鶴の標的にされることを…。

 俺が帰路に着いている途中、いきなり目の前に黒髪の女の子が現れた。
 そしてその娘は、俺を見て呟いた。
「…合格」
 と。俺はおどろいて言った。
「何がなんなの?」
 人が周りにいないことから、俺に言っていることは確かである。
 すると少女は、俺に近づいてきて、一本のドリンク材を渡した。
「あの、飲んで下さいませんか?」
 そして強引にそれを手渡すと、またじっと俺のことを見つめた。
 俺はその娘から視線をはずし、訝しげに瓶を見る…っておい!
『千鶴ちゃんに絶対惚れちゃう媚薬☆』
 とか書いて有るぞ?これっ!
 俺は、急いでそれを投げ出すと、いわゆる兎のようになって駆け出した。

 俺は、帰ってくるなりそのことを初音ちゃんに話した。…すると、笑うと思っていた初音ちゃんの顔が、みるみると青ざ
めていった。
 そして訊いた、初音ちゃんの本日の体験談…今度は、俺も青ざめた。
──初音ちゃんの始めては俺のものだ、誰にもワタサねえ…。
(↑誰かこいつを止めろ)

 後に二人は、千鶴に対し『両刀使い』という渾名をもうけた。…それはまた別のお話。
                          … 了 …

甲斐性っ!12「あいつを助けろ」

 これは、初音ちゃんがまだ俺と出会う前の話である。だけに、少し性格がまだヤンキーなのを、ご了承いただきたい。

 初音が、悠々と歩道を歩いているときである。横道の方から、どうやら恐喝をしているらしい声が聞こえてきた。
 初音は驚いてそこに向かった。するとそこには、古風なヤンキー兄ちゃんと、虐められているらしい少年がいた。その
光景は、初音の正義感をビンビンに刺激した。
 初音は叫んだ。誰もが見て見ぬ振りをする光景に向かって。
「止めなさいよっ。虐めるのはいけないことだよっ」
 するとヤンキーは、きれて怒鳴った。
「っだこのガキがよぉっ。っめえにゃ関係ねえだろぉっ!?それとも何か?こいつの変わりに痛めつけられてくれるっ
てかぁ〜?」
 しかし、普通女の子(しかも美少女)相手に此処まで本気になるものだろうか。
 初音は、少し怯えたものの、気丈に言い返した。
「…いいわよっ。でも、そうするならその人に謝ってからにしてっ」
 ヤンキーはそれを聴くと嬉しそうに笑い、そして少年を蹴りながら、
「ごめんよぉっ!!!くそがきぃぃぃっっっっ!!!!」
 と、愉快そうにほざいた。少年は少し呻った後、這いずりながら初音の後ろに逃げた。
「ほんじゃまぁ、おぜうちゃんをジユーにさせてもらいまショーかぁっっ!!!!」
(↑漢字つかえねえのか、兄ちゃん)
 ヤンキーはそう言うと、嫌らしそうな目つきで初音に近づいてくる。もはや本来の目的は忘れている。
 …だが、我らが初音ちゃんは、この程度のヤンキーに手込めにされるほど、か弱くはなかった。初音ちゃんは、人気
が少なくなるのを待ってから、突如として自分を変貌させた。そして叫ぶ。
「ちょぉぉぉぉぉぉぉしんのってんじゃねぇぇぇぇぇぞぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!!!!ちんぴら風情がぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!あたいに勝てるとおもってんのかいっっっ!!!!!!!」
「ひいい!!!なんだよこいつぅっ」
 あまりの変わり様に、怯えきってしまうヤンキー。そして、そんなヤンキーの腹に、初音のブローが炸裂する。
「ぶべっ!」
 だらしなく飛ぶヤンキー。
「あめぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!!!そんなので威張っていたのかい!!!!????」
 そして、容赦なくコンボをかます。最終的に、34892Hitになった。
「ぐぼぉ」
 あ、でもまだ生きてるや。
 初音は、ヤンキーがまだ生きているのを確認すると、ヤンキーの懐から財布らしきものをすり取って、
「こいつは貰っておくぜっ!!」
 と、言い放った。

 初音は、気が付くと財布をもって歩道を歩いていた(まだこのころは、自分が二重人格だというのに気が付いていな
いのだ)。
──あれ?私、何していたんだろう…。
 初音は、財布や自分の服の汚れを訝ったが、結局気にしないことにした。
 しばらく歩いていると、後ろから声を掛けられた。振り向くと、さっき虐められていた少年がいた。
「あ、あの、さっきはどうも…」
 そしてその少年は、そう言ってまた駆け出してしまった。
 初音は全く覚えがなかったが、あまり気にしないことにした──。

 以上が、初音ちゃんの昔の一部である。昔は、まだ悪いことをしていたのだ。
 ところで、この虐められていた少年というのが「タケダテルオ」であることは、言うまでもない。
 そして、そのときの初音ちゃんに憧れるあまり、今の「メタオ」が完成したことも…。
                         … 了 …

甲斐性っ!13「あるゲームセンターでのお話」

 これも、初音ちゃんの過去のお話である。

 初音はその日、気が向いたのと持ち合わせがあるのとで、ゲームセンターに来ていた。だが、ゲーセンと言って「ゆ
うあんどみー」を思い浮かべてはいけない。此処には『アイドルじゃんし』等いないのだ。序でに、「かみようが」でもない。
 まあ、何はともあれ初音はゲーセンにいた。…と、目前に見えるのは、対戦台でカモにされている少女。
 何度やっても乱入されてしまい、一向に先に進めないらしい、それもどうやら練習中。相手は数人の野郎で、面白が
ってはやし立てている。…初音は、黙ってゲームを見た。「スト2」
──これなら、あたいの得意分野じゃないか。
 初音はそう考えてつかつかとそこまで向かうと、少女に語りかけた。
「あたいに任せな」
 少女が、訳が分からないような顔をしたが、やがて頷いた。
 初音は、相手に悟られないようにイスに座ると、ゲームを開始した。

初戦
 始まった直後にとびどうぐをつかい、そしてこんぼ。こんぼ。こんぼ。
 相手はこちらを完全に嘗めていたようで、あっさりと終わった。
二戦目
 初音は、今度は最初っから「待ち」で来た。理由は簡単だ。
 ──卑怯者には、徹底的に卑怯に。
 そして、鮮やかすぎる勝利を得た。

「ん、練習がんばれよ、お嬢ちゃん」
 初音は、そう言って少女に席を譲ると、相手の台に向かった。
 腹立たしそうに初音を睨む兄ちゃん達、初音は言った。
「文句あんならよぉ。拳でこいよこらぁっ!!!」

 数時間後、ゲームセンターの裏で、ぼこぼこにされたあげくに金を取られた青年が見つかったという…。

 以上、今回の昔話だが、此処で一つ面白いことが判明したから、語っておこう。
 このとき初音ちゃんが助けた少女だが、実はそれは「俺を『スト3』でぼこぼこにしてくれた」少女だという。
 どうやら彼女も、初音ちゃんに憧れてしまったようだ。そして、
 その少女の名は「M・K」であるという噂が…(大嘘)。
                         … 了 …
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 やっと復活っ!ゆきです。
 今回は、初音ちゃんの苦労と過去のお話を書いてみました。お楽しみ戴けたでしょうか?
 ──え?もっと描写をちゃんとしろって?…ごもっともで…。

 さあ、とうとう「甲斐性っ!」も13話っ!いつまで書いていられるのでしょうか…?

でわでわ・・・